続編もモフモフです…映画『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年6月25日
監督:ウィル・グラック
ピーターラビット2 バーナバスの誘惑
ぴーたーらびっと2 ばーなばすのゆうわく
『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』あらすじ
湖水地方の自然豊かな場所。ウサギのピーターは大好きだった人間のビアが、マグレガーという冴えない男と結婚した姿を祝福していた。しかし、内心では不安もある。父親面をして何かと叱ってくるマグレガーに嫌気が差してもいた。そこでピーターは、生まれ育った湖水地方を飛び出して都会にたどり着く。さらに亡き父の親友だったというバーナバスというウサギと出会い、都会で生き延びるための刺激的な知恵を学ぶことに…。
『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』感想(ネタバレなし)
続編もモフモフです
2021年6月半ば、一時は日本ワーストだった新型コロナウイルスの感染者数もだいぶ収まってきた札幌市を襲った次なる災難。それはクマでした。札幌の住宅地に突如として1頭のヒグマが出現。住民数名が襲われて怪我する事態に発展し、かなりの大騒ぎになりました。
北海道では札幌の都市部でもすぐ近くにはクマの生息する森が隣接するため、クマが侵入してくるリスクは常にあります。だから専門家は前々から備えるように警告はしていたのですが、人間というのはいざ危険に直面しないと行動しようとしないもので…。結局は対応は後手後手にまわりがち。感染症も野生動物もそこは同じなんですね。
人と動物の共存というのは言葉にするのは簡単ですが、実現するとなればそう容易くはできません。本当に大変です。
今回紹介する映画も「人と動物の共生」がテーマですが、こんなに理想的に成立できたらいいんですけど…。その映画が本作『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』です。
本作は2017年に公開された実写映画『ピーターラビット』の続編です。
みんな絵を見たことはあるであろうビアトリクス・ポターの児童書「ピーターラビット」を実写映画化した作品でしたが、そのあまりにも原作を度外視したハチャメチャな映像化に賛否吹き荒れました。ウサギ含む動物たちと人間の農作物をめぐる熾烈な争いが、オーバー演出すぎるドタバタギャグで展開されまくり。
でも主演の“ドーナル・グリーソン”のウサギにボコボコにされてもめげない愛嬌もあって私は嫌いじゃない一作です。当時は“ドーナル・グリーソン”と言えば『スター・ウォーズ』でカイロ・レンと漫才を披露していましたから、そういう立ち位置なんだと勝手に思っていたし…。
そんな『ピーターラビット』の続編である『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』。なんかスゴイ仰々しい邦題がつきましたね。いっそのこと「ウサギ・ウォーズ 動物帝国の逆襲」とかでもいいのに…。
この2作目でも基本は前回と同じ。動物と人間の過剰なドタバタコメディのテイストは一切変わっていません。動物たちも変わらずVFXでモフモフに表現されています(実際の野生動物は臭いし、痛いし、汚いしであんなにお人形感覚でモフっとできないんですけどね…)。今回は動物たちがさらに人間の生活空間に繰り出します。いいのか、あの世界の人間たちはそれで…!
共演は前作と同じく“ローズ・バーン”。最近は「Apple TV+」で『フィジカル』というドラマシリーズで主演を務めています。さらに今作で初参加となるのは『グリンゴ 最強の悪運男』の“デヴィッド・オイェロウォ”。
動物たちの声をあてるのは、“ジェームズ・コーデン”、“エリザベス・デビッキ”、“マーゴット・ロビー”など意外に豪華。なお、前作で声で参加していた“デイジー・リドリー”は降板しており、“エイミー・ホーン”に交代しています。
監督は前作と同じ“ウィル・グラック”。過去には『俺たちチアリーダー』(2009年)とか『小悪魔はなぜモテる?! 』(2010年)とかを手がけた人ですけど、すっかりウサギ専門になっている…。
当初は2020年2月7日に全米公開される予定だったのですが、コロナ禍もあって1年以上の出遅れでやっと公開。とりあえず劇場公開されて良かったです。
可愛い動物キャラクターたちを眺めていたいという需要だけに特化した本シリーズ。これを観ても現実社会で動物と共存する手助けにはなりませんが、とりあえず癒されることはできるでしょう。
『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』を観る前のQ&A
A:ストーリーは1作目の続きですが、そんなに複雑な物語でもないので、2作目からでも気楽に鑑賞して楽しめると思います。
オススメ度のチェック
ひとり | :癒されたい人に |
友人 | :動物好き同士で |
恋人 | :可愛い映画を観るなら |
キッズ | :動物が好きな子に |
『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ウサギ、人生の岐路に立つ
昔々あるところに…はい、結婚式です。結婚するのはトーマス・マクレガーとビアという名の男女。この湖水地方でめぐり逢い、打ち解け合い、晴れて夫婦となりました。
花嫁衣裳のビアがウサギの先導で自然の中に設営された野外会場に現れます。ウサギ…そうです、ウサギです。この2人の出会いはウサギたちのおかげのようなものです。
会場の参加者の中には人間に混じって動物もいます。みんなこのときを祝福しています。ただ1匹だけは心穏やかではなく…。
ウサギのピーターラビットは動物に優しく大好きだったビアの幸せを喜んでいました。でも今はもう和解したとはいえかつて闘いに闘い合ったトーマスが一緒になるのは複雑な気持ち。もしかしたコイツが今度は父親面してくるのでは…そう頭によぎると野生的攻撃衝動を抑えられなくなるかも…。
トーマスとビアは近くの町でおもちゃ屋を開店。画家であるビアの描いた絵も売っており、それはピーターラビットたち動物が描かれているもので、ピーターラビットも自慢です。そんな中、ビアのもとにその絵を本として出版したいという出版社からの手紙が来ていました。
軽トラックで家に帰宅。以前は庭の農作物をめぐってトーマスとピーターラビットたちは果てしなく争いを続けていましたが、今は共有ガーデンがあり、ここの農作物を動物たちは好きに食べることができます。ウサギ以外の動物たちも大満足。
ビアの出版の件を話し合うべく、トーマスとピーターラビットたちウサギ勢も一緒に街へ列車で向かうことになります。
街で迎えてくれたのは出版社のナイジェル。さっそくナイジェルはプレゼンをしだします。ウサギたちはワルにアレンジし、とくにピーターラビットは「The BAD SEED」ととことん悪に描こうという提案。他にも映画化も企画中らしく、「Coming soon」とデカデカと看板も建っています。
その扱いにどうも納得いかないピーターラビットは町を歩いているとウサギを発見。店の果物を盗んでいるようで、一緒に逃げるハメに。そのウサギ、バーナバスはピーターラビットを旧友の息子として知っているようです。「お前はピーターラビットか?」
しかし、2匹は捕まってしまい、子どもの家に連れていかれて散々弄ばれた後、またケージに戻されます。それでも慣れた手つきでケージを開け、外へ逃げるバーナバス。冷蔵庫を開けて食べ物を失敬していき、仲間を紹介。住人に見つかってしまったので総出でボッコボコに翻弄し、まんまと食べ物を奪取して隠れ家へ。バーナバスと仲間たちはこのようにしてこの都会で生き抜いているようです。
こうして実力を認められたピーターラビット。そこには湖水地方では得られないような解放感がありました。自分はこっちの方が性に合っているのではないか…。少なくともトーマスに小言を言われながら生きる生活とはおさらばできる。悩みながら夜の街を歩くピーターラビットの決断は…。
シカならまだ許せる
『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』もハチャメチャっぷりは健在。ただ、まあ一応前作でウサギとトーマスは和解したので今作ではどうなるんだろうと思っていたら、確かにトーマスが動物によってボコボコになる展開は冒頭の結婚式でのピーターラビットの脳内想像だけでした。
しかし、本作は動物抜きでも独りでにボコボコにされていくトーマスを描くという荒業を実現。坂道をもはや即死級レベルで転げ落ちていくトーマスといい、勝手に逆走してしまった車を追いかけて止めようともがくトーマスといい、映画の作り手が完全にわざとやっている。“ドーナル・グリーソン”、頑張っているな…。
そんな不死身のトーマスはさておき、前作にあった『ホーム・アローン』的な撃退パートも都会の知らぬ家で展開されるなど、しっかりお約束は守ってくれているのも嬉しいところ。
あと、今作では人間に見つからないようにしようという前作でかろうじてあった野生動物としての“わきまえ”は吹き飛んでおり、あまりにも堂々と知り合いであろうと他人であろうと人間生活空間にズカズカと入ってきていますよね。列車にウサギ連れで乗れるし、会社の建物も自由自在に入れるし。さすがにファーマーズマーケットでのパートは多少は隠れているのですけど、いや、あれは隠れているとは言えない。というかあんなデカいシカが歩いていたらそれだけで大騒ぎだろうに(札幌も大変だったんだよ)。
あのフェリックス・ディアというシカはこの映画版のオリジナルキャラクターですけど、ライトに憑りつかれるアホっぽさといい、完全に本作のノリに最初から適応済みでデザインされているためか、使いやすいキャラになってましたね。パラシュートでどこまでいくのかな…。
シカなら許せるのでしょうね。ファーマーズマーケットに出没したのがクマだったら、途端にアニマルパニック映画のバイオレンスなやつになるし…。
オリジナルキャラクターと言えば、今作の邦題にもなっているバーナバス。2作目の本作はこのバーナバスとトーマスをめぐる「どっちが父親らしさを発揮できるか」という父親バトルであり、その構成はとても良いと思います。ただ個人的にはだったらラストは「トーマスvsバーナバス」のガチンコ乱闘決戦を用意してほしかったですけどね。やっぱりトーマスはウサギにボコられないと存在感として完成しないから(酷い物言い)。
さすがに動物たちを本気で殺そうとしていたトーマスのあの殺意満載の対抗策はクレームがついたのかな…。
各所の動物たちを回収していくスパイアクション風味の終盤とかは絵としては面白いです。この映画、基本は絵の一発ネタで勝負してばっかりだもんね…。
今作も絶対にメイキングが面白いだろうから(役者は動物を模した人形や人間相手に演技してます)、撮影現場映像をエンドクレジットで流すべきでしたよ。間違いなく一番の笑いを起こせると思います。
自然保護版のホワイトセイバー?
1作目とフォーマットは同じとはいえ『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』は続編らしい展開の仕方があります。それはビアの絵の出版をめぐる話。
ナイジェルはビアの描く「ピーターラビット」をコテコテの悪としてアレンジしてフランチャイズ展開する気でおり、つまりこれはこの映画がやっていることとほぼ同じ。本シリーズも原作を改変しすぎだと叩かれたわけですから、それを逆手にとった2作目らしいカウンターです。
ビアというキャラクターは原作者の「ビアトリクス・ポター」をモデルにしており、実際の本人はこんなやりとりを出版社としたのかはわかりませんが、少なくとも彼女が生きている時代はこんなぶっとんだアレンジはされていませんでした(天国でこの映画をどう見ているやら)。
こういうクリエイティブにおけるメタな構成は個人的には好きですし、『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』だからできる風刺ギャグだったと思います。
しかし、ちょっと引っかかるのはオチのつけかた。本作では結局はビアがナイジェルの出版フランチャイズ展開を断るという道を選びます。ただ、どうなのでしょうか。なんというか自分たちでフランチャイズ展開しておいて映画内では綺麗事で終わるというのは…。
それに本作では出版側のナイジェルは黒人で、加えてウサギ側の悪い奴であるバーナバスも声を演じるのは“レニー・ジェームズ”という黒人。これらを踏まえると本作は新手のホワイトセイバーの構図なんじゃないかと思わなくはない。白人が自然と動物を救う…みたいな。
とくに本作の舞台がイギリスということを鑑みれば、あのバーナバスの扱い方は労働者階級層に対する描き方と捉えると結構酷い感じもします。それなりに特権のある白人の豊かさを讃える物語になってしまうし…。
ビアだって自然を愛するならバーナバスのような都会の動物に対しても何らかのアクションを起こすでしょう。終盤でもう一段階のストーリーの展開があれば良かったのですけどね。
あと原作者のビアトリクス・ポターは「第2のチャールズ・ダーウィン」と称されるほどにアカデミックの世界では後に評価される研究者でもあったわけで(でも現実では女性という理由で学術界から排除された)、もっと彼女のアカデミックな部分を全面に出したキャラクター像も見たいなと私は思っています。今の映画内だとあくまで自然好きの絵描きですからね。
私としては人間と野生動物をめぐるあれこれをコミカルに描いた名作と言えば『平成狸合戦ぽんぽこ』だと思いますし、あれは動物生態学的にもしっかり描けているので、『ピーターラビット』シリーズもそこを目指してほしいです。
3作目も企画中とのことで今度はどうなるのか。“ドーナル・グリーソン”が不死身すぎることに疑問を持つキャラクターは現れるのか、乞うご期待。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 68% Audience 90%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Columbia Pictures
以上、『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』の感想でした。
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