ロバート・ダウニー・Jrは獣医でも無責任…映画『ドクター・ドリトル(2020)』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年6月19日
監督:スティーヴン・ギャガン
ドクター・ドリトル
どくたーどりとる
『ドクター・ドリトル』あらすじ
動物と話せる変わり者の名医ドリトル先生は、世間から遠ざかり、さまざまな動物たちとひっそり暮らしていた。しかし、若き女王が重い病に倒れたことを耳にしたドリトル先生は女王を救うことができる唯一の治療法を求めて伝説の島へと出発する。頑固なオウム、臆病なゴリラなど個性的な仲間たちと旅する珍道中はいつもトラブルばかりで…。
『ドクター・ドリトル』感想(ネタバレなし)
動物は喋るとそれはそれで大変
「動物は政治的なことも権利も訴えないから良い友達だよね…」的なことをどこかの誰かが呟いていましたけど、それはあなたが動物の言葉を理解していないからというだけなんじゃないですか…という真面目なツッコミをしてもいいですか(もうしてる)。
いや、でも正直な話、動物は人間以上にうるさいと思います。だいたい「動物は文句を言わないから」云々を抜かしている人は動物を“人間より下等な存在”として見ているだけですよ。実際の動物の言葉をもし理解できたら、それはもう「ちょっと黙っててくれ!」と言いたくなるウザさでしょう。
直情的な要求だっていっぱいしてきますよ。餌をくれだの、遊んでくれだの、暑いから涼しくしろだの、恋人が欲しいだの…。子育て経験のある人なら嫌でも体験しているあのストレスです。
それに動物の言葉を理解できてしまったら、私たちは動物を食する気持ちも失せますからね(なんかそういうネタがドラマ『ザ・ボーイズ』にあったよね…)。
つまり、動物の言葉は理解できないのがちょうどいいのです。コミュニケーションに全能性はいらない。そんなのあるだけ不自由になります。
でも、動物と話せたらな…とメルヘンな夢を抱いてしまうのも人間の心情。そう、考えるだけは自由。脳内で広がる妄想ワールドには現実的な不都合は発生しないのです。
そんな動物と話せる夢世界を映画で実現してくれるのが本作『ドクター・ドリトル』です。
このタイトルを聞いたことがある人は多いでしょう。1998年にエディ・マーフィ主演で『ドクター・ドリトル』として映画になっています。この作品は大ヒットしたため、その後も続編が連発しており、なんと『ドクター・ドリトル2』『ドクター・ドリトル3』『ドクター・ドリトル4』『ドクター・ドリトル ザ・ファイナル』まで作られています。たぶんさすがに全部観た人は少数かな。
実はこの作品は原作があって、映像化もこのエディ・マーフィ版が初めてではないのです。原作は1920年刊行のヒュー・ロフティングによる児童文学作品のシリーズ。この原作も当時は絶大な人気を集めたようです。それが1967年に『ドリトル先生不思議な旅』として初めて映画化されます。この作品はミュージカル映画になっており、この頃から相当にコメディ色が強いです。この映画の主役は『マイ・フェア・レディ』のレックス・ハリソンでした。
そのような歴史が長い作品ですが、このたび配給を20世紀フォックスからユニバーサルに変えてまたもリブートして映画化されることに。
しかも主演はアイアンマンも卒業し終えたばかりの“ロバート・ダウニー・Jr”。なんだ、今度は動物とチームを組んで戦うのか…。
他の出演陣も賑やかです(といっても半分以上は動物なのですけど)。人間勢(すごい言い方)は『ペイン・アンド・グローリー』の“アントニオ・バンデラス”、『フロスト×ニクソン』の“マイケル・シーン”、『ジュディ 虹の彼方に』の“ジェシー・バックリー”、若手に“ハリー・コレット”や“カーメル・ラニアード”など新鮮な顔ぶれも。
そして肝心(?)の動物勢の声を担当するのは、オウムが“エマ・トンプソン”、ゴリラが“ラミ・マレック”、ホッキョクグマが“ジョン・シナ”、ダチョウが“クメイル・ナンジアニ”、アヒルが“オクタヴィア・スペンサー”、イヌが“トム・ホランド”、リスが“クレイグ・ロビンソン”、トラが“レイフ・ファインズ”、キリンが“セレーナ・ゴメス”、キツネが“マリオン・コティヤール”などなどです。どんだけ豪華なんだ…。こんな人たちの声で動物が話しだしたら圧倒されるよ…。
監督は『ゴールド 金塊の行方』の“スティーヴン・ギャガン”です。
エディ・マーフィ版とはかなりガラッと変わっていますが、動物いっぱいのファミリー映画なのは同じですし、動物好きの子どもは大満足できるのは間違いなし。映画を観終わった後は子どもの動物トークに付き合ってあげてください。
オススメ度のチェック
ひとり | △(小さな子を連れて家族で見たい) |
友人 | △(ファミリー作品の要素強め) |
恋人 | ◯(動物好きでエンタメを観るなら) |
キッズ | ◎(動物好きは最高に大満足) |
『ドクター・ドリトル』感想(ネタバレあり)
ドリトル、また旅へ出る
昔、ある風変わりな医者がいました。その人の名前はジョン・ドリトル。彼は名医であり、卓越したスキルを持っていたのですが、ひとつ他の誰にもマネできない特別な力がありました。それは「動物と話せる」ということ。哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、虫、魚…どんな動物とでも会話ができ、意思疎通もラクラク。そのためドリトルの周りにはいつも動物たちでいっぱいです。
そんなドリトルはひとりの女性に夢中になりました。あ、人間の女性です。その名はリリーといい、彼女の聡明さに惹かれ、二人は世界各地を巡る素晴らしい冒険をし、動物を救いました。
ドリトルとリリーは結婚し、幸せな生活を始めますが、それは突然終わりを迎えます。リリーは単身で冒険に出かけ、その途中の旅路で彼女の乗る船は嵐に遭い、リリーは帰らぬ人になってしまいました。
大切な人を失った悲しみに沈むドリトルは世間とは縁を切ってしまいます。そして女王からもらったお屋敷に閉じこもり、表の世界から姿を消しました。
それから年月が経ち…。
ある日、トミー・スタビンズという少年が父と森へ狩猟に来ていました。彼は近くのリスに興味を惹かれていましたが、今まさに狙い目のカモを見つけた父は、トミーに銃を持たせて、撃てと指示します。動物を撃つことにあまり気乗りしないトミーは、雑な発砲をしてしまい、結果、木の上にいたリスに命中。リスは半死半生で地面で苦しそうにしていました。苦しませないように殺せと父にナイフを渡されるトミー。
ひとり置いていかれたトミーは途方に暮れていると、どこからかオウムが「ついておいで」と案内してくれます。
そしてたどり着いたのはドリトルの屋敷でした。門は固く閉ざされ、まるでずっと開いていないかのように荒れ放題です。しかし、塀に穴があり、そこを這って進むことができます。
中に入るとトミーは目を奪われます。そこは広大な花畑で、ゾウやキリンが伸び伸びと歩いていました。トミーは草むらから出てきた帽子をかぶったシロクマに驚き、網のトラップに捕まってしまいます。何かシロクマが話している気がする…。
一方、屋敷の中では髭モジャモジャのみすぼらしい男がゴリラとチェス(ネズミ)に興じていました。そこへオウムがやってきて来訪者の存在を知らせます。
そして屋敷に入ってきたのはトミーと、網で身動きが取れないところを助けてくれた少女、レディー・ローズです。ローズは、ヴィクトリア女王様が重病で助けてほしいのでバッキンガム宮殿に来てくださいと伝える役目でここに足を運んだようです。トミーはリスを治療してほしいと頼みます。
とりあえず久々のオペでしたがリスの治療は動物たちの協力で完了し、女王の一件について悩むドリトル。けれどももし女王が亡くなればこの屋敷も没収されると聞いて、やむを得ず宮殿へ行ってみることになりました。
身だしなみを整え、ダチョウに乗っていざ出発。そこで毒に苦しむ女王を助けるには珍しい解毒効果のあるアイテムが必要だと判明。それは予想を超える大冒険の始まりで…。
メイキングも面白い
エディ・マーフィ版しか知らない人にしてみれば、2020年のロバート・ダウニー・Jr版『ドクター・ドリトル』は世界をめぐって大冒険しているし、ドラゴンまで出てくるので、すっかりファンタジーになったなと思うかもしれません。でもヒュー・ロフティングによる原作の時点で、2つの頭を持つ動物や、ドリトルが月に行ったり、もはや何でもありの冒険を繰り広げていました。なので本作は雰囲気としては原点回帰しているんですね。時代もヴィクトリア朝です。
1967年の映画『ドリトル先生不思議な旅』も原作寄りではあるのですが(海から出現する巨大カタツムリとか出てくる)、この2020年の本作はミュージカル要素というテクニカルなことを排除し、よりファミリー映画として素直に親しみやすくしたオーソドックスな一作だと思います。
特徴は何と言っても動物たち。もはや数多くの映画で目にしていることですが、昨今のCGの発達によってフォトリアルな動物を映像化することは定番化しました。本作ではそんなCGで表現された多種多様な動物たちがところせましと暴れまわっています。
CGアニマル表現の進化によって生き生きとした表情や動きをつけられるようになり、作品によってどの程度リアルとのバランスをとるかが違ってきます。超実写版『ライオン・キング』などは比較的リアル重視で極力本物の野生動物そのままに存在させていました。一方でこの『ドクター・ドリトル』はかなりアニメキャラ風といいますか、デフォルメされた仕草をすることが多く、割とリアルは考えていません。そのため見た目はものすごくリアルなのに、動きはコミカルという、なんとも言えない存在感になっています。
ゴリラのチーチーやホッキョクグマのヨシなんかはそれが顕著です。ちょっと過剰すぎるくらいコミカル度強めだったりしますが、まあ、子ども向けと考えるとこれでいいのかな…。
犬のジップはドックフードを食べればいいとして、あのドリトルの動物たちの中で唯一の完全肉食獣であるホッキョクグマのヨシは何を普段は食べているのだろうか…(考えちゃいけない)。
そんな動物たちですが、これも映画通はご存知のとおり、撮影時は人形などをベースにして撮っています。メイキングを見るとわかりますが、ドリトルがダチョウのプリンプトンに乗って宮殿に着くシーンでは、“ロバート・ダウニー・Jr”はゴーカートの上に設置されたダチョウの背の構造物に乗って演技。キリンのベッツィが船に間に合うべく橋を疾走するシーンでは、車の上部に長い棒をつけてその先端にキリンの頭部だけを固定して爆走しています。すごいシュールです…。
なぜその喋り方?
その個性豊かでお喋りな動物たちに囲まれているドリトル。
今回の“ロバート・ダウニー・Jr”版のドリトルは、エディ・マーフィ版と比べるとそこまでフレッシュさはないです。ちなみにエディ・マーフィによって黒人のドリトルが誕生した1998年の『ドクター・ドリトル』は今思うと革新的だったなと思います。というのも、原作の時点で実は内容に黒人差別的な部分があると批判されていたのです。そうした経緯を意識したのかしていないのか、映画であえてドリトルをアフリカ系アメリカ人にしてしまうという大胆さは思い切りがいいですよね。
しかし、“ロバート・ダウニー・Jr”版のドリトルも過去作に負けてられないと張り切ったのか、謎のキャラ付けが加えられています。それは字幕で鑑賞するとわかるのですが、ドリトルがウェールズ語のアクセントで喋りまくっているのです。結果、今回の“ロバート・ダウニー・Jr”はいつもと違う、妙にクセのある口調のキャラになってます。
正直言ってなぜウェールズ語訛りにしたのかはよくわかりませんし、作中でとくにそれが意味をなすわけでもないです。まあ、昔からメソッド演技法でキャラクターにシンクロすることに定評のある“ロバート・ダウニー・Jr”ですから、今回はウェールズでいく!と決めた、つまり“やってみたかっただけ”なのかもですけど…。
なお、“ロバート・ダウニー・Jr”の吹き替えを専属で務めていた声優“藤原啓治”が2020年4月12日に亡くなったので本作が遺作となりました。この俳優の声はこの人!という定番だっただけにとても悲しいですが、映画ファンとして今後生まれる新規映画好きの若者たちに「“ロバート・ダウニー・Jr”の声は“藤原啓治”という人が昔はピッタリだったんだ」と語り継いでいきたいと思います。
本当に名医なのか怪しい…
ファミリー映画として王道ストレートで満喫できる『ドクター・ドリトル』ですが、小うるさいことを言えばいろいろと文句がないわけでもありません。
まず動物たちのキャラクターが画一的というか、確かに個性はありますけど、お喋りしている以上の存在感があまりないのが残念。とくにこれだけ多くの動物が登場しているならもっとその動物種の生態に則した活躍を見せてほしかったです。例えば、ナナフシを登場させておきながら、絵の額縁に潜ませるだけというのはないだろう、と。せめて植木とかに隠れさせて人にじっと見つめられるけど擬態のおかげで気づかれない…という演出を入れないとナナフシの意味ないでしょう。ただ、ホッキョクグマのヨシが冷たい水が苦手で暖かい火を好むように、明らかに本来の動物の生態に反したキャラづけになっていることもあるのでどうしようもない部分もあるのですが…(そこでヨシが意を決して水中を泳ぐシーンとかあると盛り上がるのだけど)。犬の嗅覚を利用して毒物をあてるなど全くゼロではないのですけどね。
それに関連して、今回のドリトルは医者としてスキルがあるのないのかよくわからないのも不満点。そもそも今作は動物の生態を重視していないこともあって、何を基準に動物と接して治療しているのか曖昧です。終盤のドラゴンだって「あれで良かったのか?」というとても治療とは呼べない代物でしたし…。本当に名医なのか…。
『ファンタスティック・ビースト』シリーズという「ハリー・ポッター」のスピンオフ的な作品があり、それは魔法動物の専門家の人間と様々な魔法動物が織りなす物語で、ちょっと魔法版『ドクター・ドリトル』なのですが、こちらは動物の生態を強く意識した作りになっているので納得があります。
本作のドリトルももう少し専門家としてのノウハウを見せてくれると、単純なファミリーコメディ映画以上の深みもあったのではないでしょうか。
あとは「動物と喋れる!」ということに関してとくに何のカタルシスもないのは寂しいですね。エディ・マーフィ版は動物との会話がなんらかの超能力的パワーで発言しているらしい設定になっており、そのコミュニケーションの成立に一定の感動があったのですが、今回のドリトルはイマイチあやふやです。結局あれは動物語を技術的に身につけたのかな? だとした他の動物同士はどうやって会話しているのか…とか疑問も出てきてしまいますし…。
今回の『ドクター・ドリトル』は結局は批評家評価は散々になってしまい、ユニバーサルは『キャッツ』に続いてまたしても動物映画で敗北を喫したのですが、私は動物映画は嫌いではないので懲りずにまた作ってほしいです(でもうるさく観るよ!)。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 14% Audience 76%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Universal Pictures. All Rights Reserved. ドクタードリトル
以上、『ドクター・ドリトル』の感想でした。
Dolittle (2020) [Japanese Review] 『ドクター・ドリトル』考察・評価レビュー