死んでるけど一件落着!…「Netflix」ドラマシリーズ『デッドボーイ探偵社』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にNetflixで配信
原案:スティーブ・ヨッキー
自死・自傷描写 児童虐待描写 恋愛描写
でっどぼーいたんていしゃ
『デッドボーイ探偵社』物語 簡単紹介
『デッドボーイ探偵社』感想(ネタバレなし)
「死人に口なし」は間違いです
「死人に口なし」ということわざがありますが、これは「死んだ人はもう喋れないことから、亡くなった人は反論もできず、真相がわからなくなるので、死人は利用できてしまう」というニュアンスの意味で用いられます。
確かにそのとおりです。死者は喋りません。生きている人だけが物事を語れます。なので死人の意見や考えは無視されてしまうか、勝手に決めつけられがちです。こういうのも文字どおりの「生存者バイアス」って言うのかな…。
実際にもし死人が喋ったら、それはもう殺人事件の捜査もラクになりそうです。聞けばいいだけですからね。「あなたを殺したのは誰?」と。本人の証言で一発解決できます。こんなに簡単なことはない…。
ただ、もっと突き詰めて考えるとそう上手くいかないかもしれません。死人が全てを把握しているとも限らないですし、死人が常に真実を喋るとも限りません。それどころか嘘をついたり、偏見に歪んだ主張をするかもしれない…。または他の大勢の死人があれこれ喋りだして、何が真相なのかその全体像を余計に曖昧にさせることだってありえそうです。
やっぱり死人は喋らないほうがいいのか、際どい難題だな…。
今回紹介するドラマシリーズは、死人と会話しまくって事件を解決する幽霊探偵の作品です。
それが本作『デッドボーイ探偵社』。
本作はDCコミックが原作の実写ドラマなのですけども、その製作に至る過程がやや複雑で、まず「デッド・ボーイ・ディテクティブズ」というキャラクターがいます。1991年に『The Sandman』というコミックで初登場し、創作したのは“ニール・ゲイマン”らです。
それで実写においてはドラマ『ドゥーム・パトロール』のシーズンの途中からゲスト枠的な感じで登場し、スピンオフとして「デッド・ボーイ・ディテクティブズ」を主役にしたドラマシリーズの企画が立ち上がります。
ところが映像化における大本のワーナー・ブラザースがDC関連の実写企画をリセットし、再始動する大きな決定をしたため、この「デッド・ボーイ・ディテクティブズ」のドラマ企画は一旦中止に。
しかし、一部の企画が今度は「Netflix」に居場所を移して稼働し、“ニール・ゲイマン”製作で『サンドマン』というドラマが2022年に配信開始します。
そして「デッド・ボーイ・ディテクティブズ」のドラマ企画もまた再検討され、このドラマ『サンドマン』の世界観をベースに作られることになった…という紆余曲折です。
というわけで、本作『デッドボーイ探偵社』は同じく“ニール・ゲイマン”製作総指揮のもと、ドラマ『サンドマン』のスピンオフ的な立ち位置に立ち直しましたが(でも『ドゥーム・パトロール』の“スティーブ・ヨッキー”がショーランナーなので作風はそちら寄り)、基本的に『デッドボーイ探偵社』単体で独立しているのでそんなに横の繋がりは気にしなくていいです。ちょっとだけ『サンドマン』にでてきたキャラがゲスト出演する程度ですから。
主演となる俳優は完全に本作から新キャスティングされており、主役の探偵バディを演じるのは、本作で本格デビューの“ジョージ・レクストリュー”、そしてドラマ『The Lodge』にでていた“ジェイデン・レヴリ”。このキャリアの浅い若い2人が引っ張ってくれます。2人ともこの撮影ですっかり仲良しになったようで、プライベートやメディア向けの写真でも仲睦まじい姿をみせています。
共演は、ドラマ『ホワイトライン』の“カシウス・ネルソン”、ドラマ『Expats』の“ユユ・キタムラ”、ドラマ『フライト・アテンダント』の“ブリアナ・クオコ”、『ドゥーム・パトロール』から同じ役柄で登場する“ルース・コネル”、ドラマ『Claws』の“ジェン・ライオン”、ドラマ『Love, ヴィクター』の“ジョシュア・コリー”など。
『デッドボーイ探偵社』は、ミステリー風な超自然現象ホラーファンタジーで、殺人や自死など凄惨な暗いテーマを扱っているものの、作品全体はティーン向けの軽いノリでコーディネートされているので、わりと見やすいほうだと思います。
同性愛ラブストーリーを含むクィアな要素もあるので、そこも楽しみたい人もぜひ。
シーズン1は全8話。1話あたり約50~55分です。
『デッドボーイ探偵社』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :手軽なエンタメ |
友人 | :気楽に眺められる |
恋人 | :異性&同性ロマンスあり |
キッズ | :やや怖いシーンあるけど |
『デッドボーイ探偵社』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
イギリスのロンドン。深夜、エドウィンとチャールズは慌てていました。無限に入るリュックにしまっていたと思った役に立つ魔導書は置いてきてしまったようです。オロオロしているとどこからともなくナイフを持ったガスマスクの人間が降りてきて、敵意を向けてきます。2人は逃げます。ガラスに飛び込み、事務所に退避したと思いましたが、場所は違います。あのガスマスクも追いかけてきました。第1次世界大戦の幽霊はしぶとい…。
こうなったのは昨日に遡ります。2人は探偵です。2人とも幽霊であり、心霊絡みの依頼を請け負っていました。幽霊にしかできない依頼もたくさんあります。
なんとか事務所まで駆け込み、「小アルカナ」の魔導書を開いて唱えます。炎を見たガスマスク人間は我を取り戻し、出現した死を司る「デス」によってあの世へ送られました。
2人はデスを避けるように隠れます。まだ自分たちは転生する気もないのです。やることがありました。困っている幽霊を助けるという目的が…。
デッドボーイ探偵社にまた依頼人が訪問してきました。1800年代に死んだと思われる上品そうなエマという子どもです。「友人のクリスタルを助けたい」とのこと。霊能者らしく幽霊が見えるのですが行動が明らかに奇妙で憑りつかれているようだというのです。
さっそくそのクリスタル・パレスを観察。同時に悪魔祓いの準備をします。電車内で捕獲に成功したかに見えましたが、急に上にポータルが開き、危うく失敗しそうでした。デイヴィッドという悪魔に憑りつかれていたようで、まだこの悪魔は影響力を残しているようです。
正気を取り戻すもまだ記憶があやふやなクリスタルをしばらく保護することにします。クリスタルは自分が何者で、どんな過去があったのか思い出せません。
チャールズはクリスタルをここに住まわせることにノリノリです。クリスタルには霊能者としてわずかな資料から相手の状況を読み取れる有用な才能がありました。それでもエドウィンは頑なに反対します。
とりあえず3人は行動を共にし、アメリカのポートタウンゼントにて行方不明のベッキーという子ども探しをすることに。ジェニーの精肉店の上の部屋を借り、捜査開始です。
エドウィンは猫と話し、魔女エスターの家に核心があると睨みます。魔女絡みの案件であるならば、慎重に動かないといけません。一方で、クリスタルは向かいの部屋のニコ・ササキに出会い、何かおかしい異変を抱えている可能性を感知します。
その頃、転生せずに生者の世界を彷徨う未成年を見つけて保護している迷子捜索室は、エドウィンとチャールズの存在を検知し、その部署の責任者のナイトナースはさっそく行動にでることに…。
シーズン1:見た目は若いけど…
ここから『デッドボーイ探偵社』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『デッドボーイ探偵社』は、探偵バディもので、エドウィンは1916年に旧友のいたずらで生贄になってしまい、地獄から脱出した波乱の死後を経験し、対するチャールズは1989年に低体温症と内出血で亡くなっています。2人の出会いは作中で描かれますが、探偵業はもう30年くらいやっているようで、見た目は若いですけど熟練のコンビネーションです。
2人とも幽霊で、特殊なアイテムも取り揃えていますし、心霊界隈の摩訶不思議なコネもあったりして、かなり有利に仕事を進められそうです。
でも実際はそうは上手くいかないのが本作の面白いところ。
第1話の冒頭でも、なかなかに大忙しな鬼ごっこを繰り広げていますし、そもそもエドウィンとチャールズは案外と天然なのかミスも起こしがちで危なっかしいです。
未熟さもあって、例えば、第5話。謎の死を遂げた若者男子2人の依頼でなぜ死んだのかを探っていくのですが、真相はこの男2人が実はセクスティングなど交際した女子たちを酷く扱う常習犯だったというオチ。当初、エドウィンとチャールズの男2人はヴィクティム・ブレーミングに足をかけるような言動もあったり、軽率なのですが、しっかり女性のクリスタルの指摘もあって、正しく考えを改めるのでした。
まあ、エドウィンもチャールズも、見た目は若くとも古い世代の人間男性なので、クリスタルのような現役世代で若者な思考と触れ合うのはよい刺激でしょうね。
そんなふうに思っていたら、クリスタルが記憶を取り戻すと実は相当に酷い奴だったということが明らかになり、クリスタル本人が一番ダメージを受けるのですが…。
本作は探偵社を引っ張る面々も自身のトラウマに向き合います。エドウィンは友人の裏切りで人生を台無しにされたことへの絶望。チャールズは父からの虐待、そして自分も父と同じになってしまうのではないかという恐怖。クリスタルは悪魔デイヴィッドによるストーカー被害と自己嫌悪との対峙。タンポポの妖精に寄生されていたニコは父を失った悲しみから母と距離をとってしまった喪失感による引きこもり。
もともとのコミックの「デッド・ボーイ・ディテクティブズ」はDCの「Vertigo」ブランドのキャラクターとクロスオーバーをしながらその世界観を繋げていく楽しさがあったわけですが、今回のドラマ化にあたってそれは権利的な都合でやりづらいので、ちゃんと主役たちの各ストーリーを充実させる方向に舵を切っているのがわかりますね。
シーズン1:複雑な恋愛模様
ドラマ『デッドボーイ探偵社』のもうひとつの見どころは、探偵業とはやや逸れますが、恋愛模様。今作のキャラクターたちは、恋愛の矢印があちらこちらへと一方通行で入り乱れる、なんともややこしい関係図になっています。
チャールズはクリスタルと交際を始めるも、クリスタルは過去の男(?)である悪魔デイヴィッドとの後腐れのせいで集中できなかったり…。
でも一番に大変そうなのはエドウィンです。やけにセクシーな猫の王(演じているのは”ルーカス・ゲイジ”でゲイ当事者です)に支配的にコントロールされかけ、その最中に、実は魔女エスターの差し向けたカラスが正体であるモンティがアプローチしてきて、当のモンティは本当にエドウィンに恋していきます。けれどもエドウィンはどうやらチャールズに気があるようで、自分の想いをついに告白するも「最高の友達だから」という本人には最も苦しい返事が返ってきてしょんぼり…。
勇気をもって告白した第7話に「絶望(ディスペア)」が登場するのはフラグだったのか…。
探偵社としてこの三角関係で事業を続けるのはメンタル的に大変そうだぞ…。最小で三角関係なのであって、実質現時点でも五角関係くらいには簡単に膨らんでいきそうだし…。
ニコは精肉店を営むジェニーの密かな文通相手だった女性との関係をアシストしようと張り切るも、その相手のマキシーンが面倒なストーカーだったものだから気まずくなり…。マキシーンは事故死しましたけども、本作の場合は「死んで終わり」にならない世界観なので、今後も心配だ…。
ということで今作のクィアも交えた恋愛模様はハラハラします。一体落ち着くことはあるのだろうか。ドラマ『グッド・オーメンズ』くらいじっくり腰を据えて描いてほしいけど、どうなるかな。
シーズン1のラストは、ロンドンに戻って探偵業の本場再開です。ナイトナースがお目付け役となり、お墨付きを得た事業も忙しくなりそうです。
問題はニコですね。ニコはエスターとの対決の最中に死んでしまいましたが、この世界観は何度も言うけど「死んで終わり」にならないですし、案の定、ラストで意味深にチラっと登場していました。全てはシーズン2に続かないとわからない…。
個人的にはこのニコ。オタク系で髪を染めていて不思議な空気を放っている存在感など、ちょっとアジア系女子のステレオタイプを引きずっている感じは多少あるので、次回があるならもっとガラっとキャラクター・チェンジしてもいいくらいに思ってます。
そしてシーズン2が控えるドラマ『サンドマン』とも積極的にコラボレーションしていってほしいですね。この世界観はただでさえかなり奥が見えないほどに広く、現れるキャラクターもやけに個性が際立った神出鬼没な奴らばかりなので、ドラマ2本がかりで整理していくくらいしないと追いつけそうにないし…。
『デッドボーイ探偵社』の良いところは、幽霊なのでロケーションは自由自在で動けるということです。もちろん予算の都合はありますが、その気になれば世界各地を舞台にしながら、超常現象ミステリーを展開できます。このポテンシャルを活かしてシリーズを大事にしていってほしいです。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 92% Audience 84%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix デッドボーイディテクティブス
以上、『デッドボーイ探偵社』の感想でした。
Dead Boy Detectives (2024) [Japanese Review] 『デッドボーイ探偵社』考察・評価レビュー
#死後 #ゲイ