百合は国に虹をかける…アニメシリーズ『転生王女と天才令嬢の魔法革命』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2023年)
シーズン1:2023年に各サービスで放送・配信
監督:玉木慎吾
恋愛描写
転生王女と天才令嬢の魔法革命
てんせいおうじょとてんさいれいじょうのまほうかくめい
『転生王女と天才令嬢の魔法革命』あらすじ
『転生王女と天才令嬢の魔法革命』感想(ネタバレなし)
「魔法革命」ならぬ「百合革命」
私利私欲や既得権益の温存にばかり執心し、自分に都合のいい構造を伝統と表現し、社会の歪みに苦しむ者たちの声を嘲笑って踏みにじり、権力者としての責任を放棄する…。
そんな世界に失望し、幻滅する…。そういうことはこの人類の歴史で幾度となくみられました。そのたびにやがて起きるのが「革命」です。「革命」というのはそうした権力体制を抜本的に社会変革しようと立ち上がることで勃発します。
権力側にしてみれば「革命」は反逆であり反乱であり規範からの逸脱です。鎮圧しようと躍起になります。一方で「革命」を起こす側にしてみればそれは生存のための最終戦略であり、ここに一縷の望みを託すしかない状況です。
ともかく「革命」とは本来そういうもので、そのため「革命」という言葉に対して抱く感情は、あなたがどの立場に立っているかでも変わるでしょう。権力側か? 虐げられる側か? はたまた虐げられているけど権力に従属する道を選んだ側か? 徹底抗戦を選んだ側か? 中立を決め込んで漁夫の利を得ようとする側か?
今回紹介するアニメシリーズも「革命」を主題にしたものですが、主人公たちは「虐げられたので抗うことにした側」の者たち。そしてその者たちは「百合」です。
それが本作『転生王女と天才令嬢の魔法革命』。
本作は、“鴉ぴえろ”による日本のライトノベルが原作で、漫画にもなっています。内容は、西洋風のファンタジーな世界観で、主人公は王族や貴族に属します。そんな主人公がこの社会を変えようとする姿を描いていく物語です。
そしてこれが重要ですが、本作はかなり直球な「百合」作品です。一応、公式では「王宮百合ファンタジー」と称されているようですが…。
しかも、いわゆる「女の子同士がイチャイチャする」みたいなフワっとしたものでもなく、結構ハッキリと同性愛を描いており、加えて社会が同性愛を差別しているという構造も内包する物語になっています。要するに異性愛規範(ヘテロノーマティビティ)を寓話のアプローチで批判し、そういう保守的な社会を変えようと戦う御伽噺なのです。だから「魔法革命」ならぬ「百合革命」ですね。
日本はどうしても政治的に波風立てないようにするクィアな物語が多く、小さなコミュニティでクィアな人たちがひっそりと生き抜いている姿を通して、それを見た視聴者がささやかに元気を貰っている…みたいな状況が多いです(例えば『作りたい女と食べたい女』とか、『恋せぬふたり』とか)。
そんな中で『転生王女と天才令嬢の魔法革命』が同性愛を描くだけでなく、社会規範への政治的な訴えまで明確に踏み込めているのは特筆に値しますが、それはやはりファンタジーという枠に当てはめて表現しているからできる、ある種の奥の手なのかなとも思います。
別に現実世界を舞台にそれをやってもいいと私は思うのですけど、日本は作品内で「現政権打倒!」とか「天皇制解体!」とか叫ぶことに躊躇してしまう世相ですからね。革命はファンタジーの中でしか起こせないのも寂しくはあるのですが、でもこれもまた表現による闘い方でしょう。
アニメとなった『転生王女と天才令嬢の魔法革命』は絵柄が可愛らしいので、ビジュアルではわからないと思いますが、しっかり社会に革命を訴えるクィアなストーリーになっていますので、そういうのが見たい人にもオススメです。とくにそこまで未成年のキャラクターがフェティッシュになりすぎて描かれていることもありません。ただ、ほのぼの系かと思いきや、社会改革モノになりますし、血反吐はきながら戦うバトル系にもなるので、ジャンルが落ち着きないですけどね。
物語としてはまだプロット上に捻りがあるのですが、それはネタバレしてもあれなので、観てのお楽しみ。
アニメ『転生王女と天才令嬢の魔法革命』は全12話です。
『転生王女と天才令嬢の魔法革命』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :クィアな作品が好みなら |
友人 | :興味ある人を誘って |
恋人 | :同性ロマンスを一緒に |
キッズ | :やや出血ありの凄惨描写 |
『転生王女と天才令嬢の魔法革命』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):私がさらってあげる
ひとりの少女が牙を剥き出しにする魔物の群れに囲まれます。しかし、助けは要りません。奇妙な箒にまたがり、颯爽と低空を高速で飛行し、刃物で魔物の体を一刀両断。鮮血を浴びながら倒した魔物から得られた素材に満足げな顔。
王族でありつつ、狩猟の略奪姫(マローダー・プリンセス)の異名を持つこの少女は「win-winだよ」と冒険者ギルドに語ります。彼らはその表現の意味がわからなかったようでキョトンとし、少女はわかりやすい表現に言い換えます。
「魔法使いは誰かを笑顔にするためにその魔法を使う。それが私の目指す魔法使い…だからね!」
そう言って少女は去っていくのでした。
少女が辿り着いた家は王宮です。少女の名はアニスフィア・ウィン・パレッティア。ウキウキで歩いていたところ、国王である父オルファンス・イル・パレッティアと弟アルガルド・ボナ・パレッティアと出くわし、「おつおつ~」と気楽に挨拶します。父は朝からそんな恰好をするアニスを王女の自覚がないと怒るものの、アニスは「DVだ」と調子よく怒鳴ってその場をずらかります。
アニスは魔法が使えません。その代わり、魔法科学(魔学)というものを独自に生み出し、キテレツ王女と周囲に名指しされようとも自己流を貫いていました。アニスは5歳の時に魔法で空を飛びたいと急に言い出し、それからというものずっとこうです。そんなアニスを支えるのは侍女のイリア・コーラルだけ。
アニスは、侯爵令嬢であるものの呪いなどの研究をするティルティ・クラーレットのところに魔石を持っていきます。魔石で魔法が使えるのではと考えているのです。
アニスは年長でしたが、弟のアルガルドに王位継承を譲っています。弟はマゼンタ公爵令嬢ユフィリアと婚約を予定していました。しかし、貴族学院でユフィリアはアルガルドがレイニ・シアンと仲良くしているところを目にします。政略結婚なのはわかっているものの、これは体裁が悪いです。
今日もアニスは呑気に箒の夜間飛行テストを実施。ところが箒はコントロールを失い、学院の夜会の場に突っ込んでしまいました。
しかし、それ以前からこの場は騒然としていました。なんとアルガルドはレイニと現れ、ユフィリアとの婚約破棄を宣言したのです。ユフィリアは「なぜ?」と困惑しますが、アルガルドは「ふさわしくない」とその一点張り。おまけにレイニへの暗殺の企てもあると、身に覚えのない容疑を突きつけます。
その状況の真っただ中に立ってしまったアニスは、場を察して孤立していたユフィリアに手を差し伸べ、「私がさらってあげる」と声をかけ、一緒に箒で去っていきます。
そして「ユフィリアを私にください」と父に直談判し、助手としてそばに置くことにしました。ユフィリアの父親であるマゼンタ公爵家の当主のグランツも許可し、こうして2人は共同生活となります。
ユフィリアはそんなアニスの心遣いに救われますが…。
既存のジャンルを百合で反転させる
ここから『転生王女と天才令嬢の魔法革命』のネタバレありの感想本文です。
アニメ『転生王女と天才令嬢の魔法革命』は、第1話から示唆されますが、主人公のアニスは前世の記憶があり、私たちの知る現実社会から転生した存在であることがわかります。
つまり、この本作はいわゆる「異世界転生モノ」の土台の上にあります。多くの日本の異世界モノは、主人公が転生した後に、その以前の知識や経験を駆使して新しい世界で優位に立ったりすることが定番なのですが、そういう意味ではアニスも同じで、魔法科学(魔学)を通して独自の存在感を放ちます。
ただ、本作が面白いのは、そうやって主人公が異世界で好き勝手に無双する…とはちょっと違って、社会を真っ当にしようという極めて健全で正当な政治的目標を見い出し始めることです。まさに革命の旗頭になります。
なので異世界モノにありがちな「植民地主義的な構造の内包」という弱点はあまり目立ちません。そういう悪い構造を変えてみせようと奮闘するアクティビストなわけですから、このアニスは。
そしてその主人公の行動の動機として深く関与するのが「百合」要素…もっと言えば同性愛であり、百合が目の保養的な消費に終わらず、しっかり革命のエネルギーになるのが本作の清々しさでした。
アニスも序盤で「男性との結婚はごめんです、愛でるなら女性がいいです」と昔に発言したと語られるとおり、かなり明示的なレズビアンとなっています。父親も納得しているかは別ですが、このアニスが「男性と関係を持つ気が無い」ことは認識しており、少なくとも家庭では放し飼い状態でオープンリーに生きてます。
加えてここも既存のジャンルを上手くメタ的に拝借しているところでもありますが、本作はいわゆる「ハーレム系」の構造も持ち合わせています。これまた一般的には男性のキャラが異世界で多くの女性キャラを囲ってハーレムを作ることが多いですが、『転生王女と天才令嬢の魔法革命』は逆転しています。しかし、逆転といっても女性キャラが複数の男性キャラを集めるのではなく、女性キャラが複数の女性キャラを集めていくという、百合ハーレムです。
アニスもわりとぐいぐいと積極的なタイプなので、略奪愛的なユフィの誘拐に始まり、サクっとユフィの心を射止めますし、こっちの攻略も早かった…。
女性を保護し、そして肯定されて…
一方で、アニスは単に女の子たちを手中に収めていく欲望ありきに行動しているわけではなく、ここがアニスの良識的な人柄が滲むところですが、王族としての特権を生かしつつ、言わば社会規範の中で居場所を失った女性を保護するという支援の役割も果たしています。
ユフィはもちろん、あの専属侍女のイリアも過去には型通りの女性的な生き方を強いられていたようで、今は「実家にざまあみろ」と言えるくらいに気楽なようです。
実はヴァンパイアの血縁で体内に魔石を宿しているレイニに対しては、彼女の尊厳を守るために事情説明の際は人払いするなど配慮が行き届いています。レイニのエピソードは、自分の意図しないところで好意を持たれてしまう(それに嫌悪感がある)という点においてはちょっとアセクシュアル感がでているのですけど、作中ではイリアとのカップリングみたいになっていくのかな。
ティルティは自分で独立して生きていますが、同じ社会規範から外れて生きる女性同士、どことなく気が合うのでしょう。
そんな包容力のあるアニスですが、弟アルガルドの失脚後、自分が王位を継ぐという役割を受け止めようとします。未成年のアニスを「世継ぎを産む母体」としか見ていない、精霊信仰派などの権力側の男たちの気持ち悪さなど、このあたりの描写は辛いものがありますが、それを今度は救うのはユフィで…。
序盤で「虹」を意味する「アルカンシェル」という武器を貰ったユフィは、まさしくレインボー・プライドを手にしたわけですが、今度はそのユフィがアニスを肯定してあげて、「自分のことも愛して」と支える。しっかり相互作用する連帯が築かれていました。
「好きになった相手としかキスはダメでしょ」のアニスの照れた発言に、「好きですよ」と返すユフィといい、百合の上下関係がひっくり返るお約束もきっちり回収。このへんはさすが本家の百合。抜かりないです。
保守的な国での劇薬となる魔学を上手くプレゼンテーションして、未来へと希望を提示して見せた2人。革命の始まりの描き方としては、非常に誠実でした。
革命の原動力としての百合というアプローチはとても良かった『転生王女と天才令嬢の魔法革命』ですが、全体的に話が急ぎ足で展開が雑に過ぎていったあたりは少し残念です。姉アニスへの劣等感に沈み、病んでいる階級社会は変えられないと絶対的な力で支配することを唯一の手段と考えるアルガルドとの対峙とかも、もっとたっぷりドラマを重ねてほしかったですけど…。
あと、やっぱりこれは「異世界モノ」ゆえなのか、若干の中二病臭い設定や演出はなんとかならなかったのか…。ドラゴン・パワーとか、終始説明放置だったけど、あの魔薬の設定はとくに粗雑だったかな、と。
すごくポテンシャルの高い世界観なので、現実におけるクィアな人たちの歴史の要素をガンガン物語に取り込んで、どんどんエンパワーメント溢れるかたちに変身していくといいんじゃないかなと思いました。
私たちも百合をもっと社会を改革させるパワーとして活用していけるといいですね。ファンタジーを飛び越えて、現実社会でも…。
ROTTEN TOMATOES
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IMDb
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シネマンドレイクの個人的評価
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・『デリシャスパーティ プリキュア』
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作品ポスター・画像 (C)2023 鴉ぴえろ・きさらぎゆり/KADOKAWA/転天製作委員会
以上、『転生王女と天才令嬢の魔法革命』の感想でした。
The Magical Revolution of the Reincarnated Princess and the Genius Young Lady (2023) [Japanese Review] 『転生王女と天才令嬢の魔法革命』考察・評価レビュー