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『FALL フォール』感想(ネタバレ)…高さ600mの上でもシスターフッドはある

FALL フォール

高さ600mの上でもシスターフッドはある…映画『FALL フォール』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Fall
製作国:イギリス・アメリカ(2022年)
日本公開日:2023年2月3日
監督:スコット・マン

FALL フォール

ふぉーる
FALL フォール

『FALL フォール』あらすじ

山でのフリークライミングが趣味のベッキーは大切な人を亡くし、その活力は消失してしまった。約1年が経った現在も悲しみから立ち直れずにおり、親友のハンターはそんな彼女を元気づけようと新たなクライミング計画を立て、現在は使用されていない超高層テレビ塔に登ることになる。2人は老朽化して不安定になった梯子を登り、地上600メートルの頂上へ到達することに成功するが、予期せぬ事態に直面してしまい…。

『FALL フォール』感想(ネタバレなし)

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どうしてそんなところに!と文句も言いたくなる

私は高いところは苦手です。いや、というかたいていの人は高いところは怖いはず。高所でパニックなどを引き起こすほどに極端な反応を生じさせてしまう人は「高所恐怖症」と呼んだりしますが、そこまででないにせよ、大半の人は高所に恐怖を抱きます。高所を恐怖するのは人間に生まれ持って備わっている本能だとも言われています。

逆に全く高所に恐怖を一切感じない人は英語で「head for heights」と言いますが、かなり特異な体質です。生まれた時からずっと高所に恐怖を感じた経験が微塵もない人も稀にいますし、高いところで主に仕事するような職業の人や高所をフィールドとする趣味を楽しむ人は、慣れによって恐怖を克服することができたりします。

でも慣れるには高所に行かないといけない。私はそんなの嫌なので、いつまでも高所の恐怖とお付き合いしないといけないんだろうな…。

それにしても高いところを舞台にした映画とかならよく見るのに、やっぱりそんなのでは高所の恐怖は克服できないのか…残念だ…。

まあ、そりゃそうですよね。水中を泳いでる主人公をずっと見ていれば、自分もいつの間にか泳げるようになったりはしないし、格闘技の卓越した主人公をずっと眺めていても、私の運動能力はヘッポコのままであるのと同じ。そんな都合のいいことはありません。

つまり、今回紹介する映画も、私みたいな高所が苦手な人にはただただ疑似的な地獄を体感させるだけになる…! なんてこった!

その映画とは本作『FALL フォール』です。

もうタイトルが「fall(落ちる)」ですからね。恐怖を煽るのに躊躇いが無さすぎる。

しかし、映画の内容はもっと凄いのです。『FALL フォール』の物語は、フリークライミング経験のある主人公が友人と一緒に高い塔を登る…ただそれだけです。でもその塔の高さが尋常じゃないんですよ。数十m? いいえ。なんと2000フィート(約610m)です。東京スカイツリーの高さは634mなので、それにほぼ匹敵すると考えてください。

本作のポスターにその塔が映し出されていますけど、なんか「Photoshopで加工しましたか?」ってくらいのコラ画像に見えますよね。こんなアホな塔、あるわけないと…。

残念。あるんです。現実に。本作の塔のモデルになったのは、カリフォルニアにある「KXTV/KOVRタワー」で、その高さは2049フィート(625m)。何の味気もない棒のように突っ立っているだけですが、一応は通信タワーの役割を果たしているそうで…。 2020年代に突入しても人類の通信技術は「とにかくバカみたい高い塔を建てる」という戦法に頼っているんだなぁ…。

『FALL フォール』に話を戻すと、主人公はこの600mを超える塔をせっせと登っていくわけですが、でもなぜ登るのか。その行動の理由は、大切な人を失って落ち込んでしまっていたので、その負の感情を打破し、大切な人の遺灰を頂上でばらまいて供養するため…。

いや、もうちょっと無難なリハビリ、あるじゃないですか…。アミューズメント施設のクライミングウォールとかでもいいんじゃないか。供養するならもっと落ち着いたところでやらないか…。

こんな感じでツッコミの嵐になるのですけど、これも私が高所が苦手だからですかね。本作、高所恐怖症の人には、完全にクレイジーな主人公をずっと眺めるだけになるので、悪態つきたくなるのも無理はないんですよ。

ところがこの『FALL フォール』、極限シチュエーションのサバイバル・スリラーとしては非常によくできていて、高所が苦手な私も恐怖はさておき、悔しいかな、とてもエキサイティングに満喫してしまいました。演出とか、キャラクターの扱い方とか、細かい部分も上手いです。

『FALL フォール』を監督したのは、『タイム・トゥ・ラン』や『ファイナル・スコア』を手がけた“スコット・マン”

俳優陣は、『シャザム!』の“グレイス・キャロライン・カリー”(グレイス・フルトン)、2018年版の『ハロウィン』の“ヴァージニア・ガードナー”。ほぼこの2人の演技でドラマが進みます。

今作ではスタジオ撮影ではなく、さすがに600mの塔では無理ですが、30mくらいの塔を山の頂上に作って撮影したそうで、俳優の人たちもいろいろ大変だったろうな…。そのぶん臨場感はMAXに仕上がっています。

あと、実はシスターフッド映画としても結構良質な関係性を描けていると思ったりもしました。その観点で気になる人も注目の作品です。

何度も忠告しておきますけど、終始ずっと高所で展開する映画です。高所映画と言えば『ザ・ウォーク』などもありましたが、あれよりもはるかに怖いんじゃないかな。

友達や恋人と一緒にわいわいがやがやと恐怖をエンターテインメントで楽しむならピッタリの映画ですので、ぜひどうぞ。マネはしないでね。

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『FALL フォール』を観る前のQ&A

✔『FALL フォール』の見どころ
★ジャンルとしてのスリル演出が巧み。
✔『FALL フォール』の欠点
☆ジャンル特有の思い切った話運びは人を選ぶ。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:スリルが好きなら
友人 3.5:高所が苦手でない友達と
恋人 3.5:一緒に恐怖を体感
キッズ 3.0:やや残酷な描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『FALL フォール』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):降りられない!

巨大な岩壁を登る2人の男女。命綱は無し。落ちたら一巻の終わりです。岩のくぼみに手と足をかけ、己の体力だけで登っていきます。ベッキーは岩の隙間を思い切って飛び越えて、横にいた夫のダンにキャッチしてもらい、なんとか難所を切り抜けました。その少し上で友人のハンターという女性が2人を囃し立てながら登っていました。

しかし、ダンは岩穴から鳥が飛び出してきたのに驚いて落下。ロープで引っかかるも宙吊り状態になります。ベッキーは必死に助けようとしますが、岩壁に固定されたロープは体重を支えられず、ダンは抵抗虚しく落下していき…

51週間後、ベッキーはまだ悲しみを引きずっていました。亡きダンの留守電音声を聞いては気持ちを慰めるだけの日々。酔いつぶれ夜道を歩いていると父がやってきて心配しますが、「前に進みたくない、彼が恋しい」とぼやき、父を罵倒します。「ひとりにして」と歩いて立ち去るベッキー。

そんな沈痛な空気が漂う家にハンターが久しぶりに戻ってきて訪ねてきます。彼女はYouTuberをやっており、今も登ることを継続中。ハンターはB67のテレビ塔の写真を見せ、昔のように冒険をしないかと誘ってきます。

ベッキーは「あれ以来登ってないし…できない」と泣き崩れ、抱きとめるハンター。でもダンの遺灰をこのまま箱詰めにしておくのはよくない、この塔の頂上で遺灰をばらまかないかと提案。

翌朝、気持ちを切り替えたベッキーは「塔に登りましょう」とハンターに宣言します。

車で出発。近くのダイナーに寄ると、窓から例の塔の先端が赤く光っているのが見えます。ハンターはダイナーの備え付けのライトでスマホの充電をする小技を披露してくれます。

モーテルを出て、いよいよ塔へ。立ち入り禁止のフェンスで封鎖されていたので、乗り越えて歩きます。

近くまで来ると、想像以上に高くそびえたっているのがわかります。ベッキーは怖気づき、「やっぱり無理だ」と震える手を見せるも、ハンターは励まします。

2人は互いをロープで繋ぎ、錆びついた梯子をハンターが先に登っていきます。ベッキーは意を決して一歩を踏み出します。

周囲の枠もない場所まで登り、手すりも何もない風が吹きすさぶ足場に立ち、ここからは剥き出しの梯子を登っていくしかありません。

大きいパラボラアンテナが途中にあり、その隙間に体をねじ込んで登り続けます。ハンターはわざと梯子を揺らして挑発したりと余裕そうで、ベッキーは自分を鼓舞。

そしてついに頂上。やり遂げたベッキーはハンターと立ち、ここに辿り着いたものしか味わえない光景を満喫。2人で歓声をあげて自撮りし、持ってきたドローンも飛ばします。

興奮が少し収まった後、ダンの遺灰をばらまくことになり、リュックから箱を取り出して、ダンへの感謝と愛の言葉を口にし、遺灰を風にのせます。ハンターも涙していました。

帰ろうということになり、ハーネスをまたつけてベッキーから降りていきます。しかし、梯子に足を乗せ、降り始めた瞬間、梯子は外れ、一気に梯子全部が落ちてしまいました。落下するベッキーはロープで宙吊りになり、かろうじてハンターに支えられます。

なんとか上によじ登るベッキー。助かりましたが、梯子はもう無いです。

ここは電波も無し。リュックはパラボラアンテナに引っかかっており、食料も無し。

2人は鉄塔の先端で座り込むしかできず…。

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梯子さん、あんたは必要な存在だよ…

こういうジャンルは演出が全てと言っていいくらいに重要だと思いますが、『FALL フォール』は緊張や恐怖を煽る演出がどれも巧妙で、まんまと飲み込まれてしまいました。

塔に上りだす前からの不吉なフラグの畳みかけも秀逸です。ハンターが車を運転しているとトラックと衝突しそうになるとか、塔の真下でハゲワシに食われる動物の死体を目撃するとか。そのどれもが終盤で少し変化球を加えるかたちで直面することになるというのも捻ってあってよいです。

そしていざ塔の梯子に上りだすと、ボロボロで錆びついて一部が欠損してしまう梯子、塔と梯子を固定するにしてはあまりにユルユルなボルト…。もう全てが不安の前兆でしかない。

私なんか「なんで梯子があるんだよ!」って映画を観ている間ずっと内心は不満タラタラでしたよ。梯子がそもそもなければ登る気も起きないのに…。旗をあげるときみたいに、通信機器も地上から頂上まで上げられる構造とかにはできないのかよ、と…。

そんなことを毒づいても何の意味もないのですが、ようやく頂上につき、ほっとひと安心…じゃない。ここからがこの映画の本番です。今までは準備段階。

梯子崩落からの「終わった…」って感じの絶望感が尋常ではありません。あの頼りない梯子の存在をバカにしてごめん…。梯子さん、あんたは必要な存在だった…戻ってきて…。

ここでちょっと生々しいなと思うのは、最悪のシチュエーションに陥ったにもかかわらず、ベッキーもハンターも笑ってしまったり、呑気に動画撮影とかしているということ。この正常な倫理観を失って認知拒否してハイテンションになってしまうあたりはリアルですよね。私もこうなりそうだ…。

ここからいかにして自分たちに気づいてもらうかという試行錯誤が始まるのですが、そのどれもが上手くいきそうでやっぱり上手くいかないというギリギリの駆け引きで、ここも緊張感が抜けません。

そして塔の最先端の光で充電できるのではと思いつき、梯子すらない細い棒を登るベッキー。まだ登らせる気なのか!とこの映画のいたぶり方に戦慄する…。

しかも鳥が襲来するというアニマルパニックまでトッピングするんですから…。鳥が襲ってくるのはさすがに強引ですけどね。脚本を考えた人、鬼畜だな…。

終盤には主人公に最悪の真実が突きつけられるのですが…。

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極限下で女同士は絆を再構築する

『FALL フォール』はシスターフッド映画としても良質でした。

本作は基本的に女2人のドラマであり、極限シチュエーションの中で再構築される女同士の絆の物語でもあります。

とくにハンターのキャラクター性がいいですよね。そもそもの発端はこのハンターで、モラルにも欠けており、お調子者という感じで危ない人間です。でもなんだかんだで憎めません。

ベッキーに対して元気を与えてくれるような、まさにどん底にいるときに傍にいてくれると嬉しい女友達というタイプです。

しかし、実はそのハンターにも葛藤がありました。ハンターは一時期だけダンと浮気しており、そのことを後悔しながらも、ダンの喪失に苦しんでいる気持ちを打ち明けられずにいました。今回のハンターの行動もある種の希死念慮的な暗示であり(明るく振舞う人ほど裏では…という)、そう考えるとあのハンターの顛末も示唆的です。

でもベッキーは最初はハンターの告白に動揺しますが、ハンターを拒絶しません。浮気程度では崩れたりしない、はるかに強固なシスターフッドの塔が2人の間には立っているのでした。

こんなふうに「女の敵は女」みたいな安易な着地にせず、極限下では仲間割れは定番のジャンル展開ながらもそこにベタに陥ることもしない。本作のベッキーとハンターの関係は、女同士のリレーションシップとしてステレオタイプを打ち破るパワーがあるなと思います。

結局、ハンターはリュックを取りにロープでパラボラアンテナに降りていった際に、パラボラアンテナに落下してしまい、そこで死亡。以降のハンターはベッキーの幻覚でした。幻覚オチという、これまた極限シチュエーションのサバイバル・スリラーではありがちな要素をストレートに投入してきており、このあたりは観客の反応も割れるでしょうけど(幻覚オチはそもそも嫌がられやすい)、ここまで潔く突っ切る本作はむしろ清々しいかもしれない…。

その後の覚醒したベッキーは、ハゲワシを掴み殺して食べるわ、ハンターの遺体を保護クッションにしてスマホを落とすわ、「生きてやる!」というバイタリティ全開に。これほどまでぶっ飛ばすなら、私もとことんやってやれと応援したくなりました。塔を解体しだすのかと思ったよ…。

まあ、もちろん実際はこんな経験したら余計にトラウマが酷くなるでしょうけどね。

『FALL フォール』を観て私が学んだのは、600mくらいの長さのロープを常に持ち歩こうってことです。やっぱり600mはないとダメだな…。あと高いところにはそもそも登らない。登らないぞ、私は。

『FALL フォール』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 79%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

高所を描く作品の感想記事です。

・『フリーソロ』

作品ポスター・画像 (C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『FALL フォール』の感想でした。

Fall (2022) [Japanese Review] 『FALL フォール』考察・評価レビュー