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『グッド・ボーイズ Good Boys』感想(ネタバレ)…キスってどうやるの?

グッド・ボーイズ

キスってどうやるの?…映画『グッド・ボーイズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Good Boys
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年6月12日
監督:ジーン・スタプニツキー
性描写

グッド・ボーイズ

ぐっどぼーいず
グッド・ボーイズ

『グッド・ボーイズ』あらすじ

小学6年生のマックス、ルーカス、ソーの3人組は女子たちから「初キス・パーティ」に誘われるが、キスの仕方がわからないので焦る。いろいろ頑張ってみた結果、マックスの父親の大事なドローンを壊してしまうという事件を起こし、なんとか父親にバレないように隠蔽しようとする。そして学校を抜け出して少し大人な世界を覗く、小さな冒険の旅に出ることに…。

『グッド・ボーイズ』感想(ネタバレなし)

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少年たちはどうやって性を知る?

思春期前の子どもが性の情報に触れる機会は、ひと昔前のと比べて劇的に変化しています。それこそ十数年前は紙媒体での性ですらも貴重。インターネットが登場した初期も、まだまだ子どもが触れるような身近さではなかったですし、そもそも情報量もアクセシビリティも極めて劣っていました。

ところが今はどうです。スマホでサクッと、動画サイトでポチっと、性の情報がオンパレードで洪水のように流れ込んできます。フィルタリングなんてあまり意味はなし。Googleさんも遠慮なくアダルトな情報を表示してきますからね。

これが子どもの性の教育にはよろしくない影響を与えるのは大人たちが当然憂慮することなのですが、当の子どもたちはどう思っているのでしょうかね。性に旺盛になり始めた思春期青少年は喜んでいるかもしれないですけど、本当に性の正しい情報を知りたいと思ったときは困惑するだけなのではないかなとも思います。ほとんどが嘘・デマ・誇張の情報ばかりですから。

そんな性にあられもなく翻弄される未熟な子どもたちを面白おかしく描いたちょっとセクシャルなコメディがやってきました。それが本作『グッド・ボーイズ』です。

本作は青春学園モノの下ネタコメディであり、よくありがちなジャンルの王道なのですが、ひとつだけ特徴があるとすればティーンではなくそれより下の年齢、いわゆる「tween(8~12歳の子ども)」を主人公にしているということ。

つまり、思春期になり始めたか、なっていないか、その境界あたりを行ったり来たりしている少年たちの物語であり、性に対しても中途半端な立ち位置です。作中では「キス」には興味があるけど「セックス」とかは全然わからないし、関心もないという、とても大人からすればピュアな少年たちの微笑ましいモヤモヤを眺めることができます。もう1~2年年齢が増えれば一気にセックス脳になりますからね。このわずか1~3年くらいの時期しか見られない、貴重な少年たちの姿です。

とはいっても映画は性のネタに関して一切の躊躇がなく、アメリカではR指定作品になったほどです。でも大ヒット。いたいけな少年たちが意味もわからずアダルトグッズを手にして「なんだこれ?」とパントマイム状態な様を大人たちは爆笑したのでした。ほんと、大人って悪趣味ですね(人のこと言えない)。

日本の宣伝では『ソーセージ・パーティ』の製作陣が贈る!と堂々と書かれているのですが、確かに製作には“セス・ローゲン”“エヴァン・ゴールドバーグ”がクレジットされているので嘘は言っていないのですけど、制作会社としては「Good Universe」「Point Grey Pictures」です。『ネイバーズ』シリーズとか、『ブロッカーズ』、『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』を手がけた会社ですね。本作『グッド・ボーイズ』も完全にその系統のノリですので、わかる人にはわかるはず。

監督はキャメロン・ディアスとジャスティン・ティンバーレイクの共演が話題になった『バッド・ティーチャー』という作品で製作総指揮と脚本を手がけた“ジーン・スタプニツキー”。その作品も遠慮なしのぶっとんだ内容でしたが、今回は監督として子ども相手にやっぱり遠慮していません。

肝心の子どもたちを演じる子役勢も要注目。とくに主演の“ジェイコブ・トレンブレイ”。『ルーム』『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』『ワンダー 君は太陽』『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』と、主役で出る映画全部で大人を感服させる名演を見せ、只者じゃなさを立証している、今絶好調の天才子役。今回はおふざけコメディでだいぶ気が緩みますけど、でもやっぱり普通に上手いです。

その“ジェイコブ・トレンブレイ”と並ぶのは、“キース・L・ウィリアムズ”“ブレイディ・ヌーン”でこの二人の子たちも仲良く演技で楽しませてくれます。他にも『ライフ・オブ・ザ・パーティー』の“モリー・ゴードン”、『ゲット・アウト』の“リル・レル・ハウリー”などが少年たちを見守り中。なお、初長編監督作『ファイティング・ファミリー』が高評価を受けた“スティーヴン・マーチャント”もなかなかに酷い役で登場するのでお楽しみに。

子どもが見てはいけないわけではないですが、本作はあくまで大人の大人による大人のためのお子様鑑賞会。12歳以下の子どもはティーンになってから鑑賞してください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(子ども映画好きは必見)
友人 ◎(ゲラゲラと笑い飛ばそう)
恋人 ◎(微笑ましく気分スッキリ)
キッズ △(ティーンになってから!)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『グッド・ボーイズ』感想(ネタバレあり)

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キスのやりかたを知りたいだけ

自分の部屋でベッドに寝そべりながらノートパソコンでゲームをする12歳の少年、マックス。画面上のアバターをいじり、どことなく女体っぽさをお楽しみしていると、部屋に父が入ってきます。最速の瞬発力でノートパソコンを閉じ、何食わぬ顔をして取り繕いますが、父は 息子の成長を実感(いろいろな意味で)。父親は息子と“大人の話”をするのを楽しみにしているのです。しかし、当のマックスは父とセクシャルな話はしたくない、でも内心では気になる…。複雑な心中…。

マックスはいつもの友達、ルーカスソーの合わせて3人で自転車で住宅地を疾走。今の一番の気になる話題は「性」です。とはいっても本人たちはよくわかっていません。よくわからないけどどこかで仕入れてきたセクシャルだと思われる用語についてなんとなく議論していますが、解答を持っている人間はいないので、3人の会話にオチはなし。

近所でいちゃつくハンナとそのカレシっぽい男を発見、遠慮なく傍観。自分たちもあんな感じになるのだろうか…。

3人は常に一緒、悩みも共有します。マックスの関心ごとは、気になっているあの子、ブリクスリーでした。ソーは、サングラス集団のイジメっ子グループにビールを飲めと強要されて(sippy cup!)、つい弱気になってしまった自分がやや恥ずかしい。ルーカスは実は両親が離婚の危機にあり、自分はどうなるのかと不安になっています。

歌の授業では、美声を響かせるソーの横で、マックスはブリクスリーとアイコンタクトできたことでテンションがアップ。しかも、昼食中、ソレンに呼ばれ、なんとパーティに招待されます。余裕な態度で返事をしていると、そもパーティーは初キス・パーティー(kissing party)だと言うではないですか。これは、つまり、あの子とも…キス…できる…かも?

ルーカスとソーの元に戻り、「キスの仕方知っている?」と真っ先に質問。答えは「いいや」。そうです、知るわけもないのです。

しかし、世の中には何でも教えてくれる文明の利器がある。そう、インターネットです。どんなふうに検索すればいいか、もちろん知っています。魔法の言葉があるのです。それは「PORN」

検索してたどりついたサイトに「18歳以上ですか?」と聞かれ、とりあえず「はい」にして進むと流れだす動画。キスの仕方を期待して視聴する3人。けれどもその内容に絶叫&幻滅。肝心のキスに関してはさっぱりわからず…。

等身大ドール(医療用マネキンです;強調)を相手にキスを試みるも、なんか違う。やっぱり本物を生で見ないとわからないという、謎の結論に行き着いた3人。

そこでマックスたちにしてみればはるかに大人に見えるお隣のハンナを父のドローンで覗く作戦を立案。マックスは最初は乗り気がしないのですが、友人に背中を押され、意を決して実行することに。これも大人になるためのステップ!

ドローン、撃沈! あっけなかった…。

ハンナとその友人リリーのもとにいき、自分たちの目的(下心)を口にしてしまう一同。「“how to kiss”で検索すればいいのに」「Oh…」とさすが大人の階段を上った女性は違うなと実感しながら退却。

しかし、何気なく盗んできたバックの中に謎のクスリの瓶(開かない)があるのを発見。それを血相を変えて返してくれと訴えるハンナたち。どうやらこれはセックスドラッグ(MDMA)とかいう奴らしい。チャンスじゃないかと考えた3人は悪知恵を働かせ、交渉に出ます。

公園で待ち合わせし、隙を見てドローンを操作、まんまと取り返したと思ったら、スクールバスにドローンが激突。「fuck~~~~~!!!」

さあ、もはや当初の目的を忘れてきましたが、マックスは無事にキスができるのでしょうか…。

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大人は子どもを笑っている

『グッド・ボーイズ』は別に直接的な性描写があるわけでもなく、あくまで12歳相手の子どもに実写映画でできるギリギリのことをしているだけなのですが、その悪趣味さが大人のエンタメになっています。

アダルトグッズを使用方法もわからずにあれこれといじくりまわし、好きな子にネックレスと勘違いしてアナルビーズをプレゼントして首からかけてあげるなど、表面的な映像はもう本当に酷いありさまです(それが楽しい)。

あのマックスたちの絶妙に何もわかっていない性知識の乏しさがある一方で、性に関する言葉だけはインターネット時代のせいか入ってきやすく、ゆえに「あれの意味は何なのだろう?」という疑問だけが沸く。しかも検索してもわかりやすい解説らしいものもない(それを理解する知識もない)という、どん詰まり。ハンド・ジョブ? フェミニスト? なんだろう?状態。だからとりあえず“わかっているふりをしようとする”…そこがまた可愛かったり。

そんな少年たちに対して、同じ同級生の女の子たちは一足先に性の成長を遂げているものなので、若干の優位に立っています。つまり、私たちの大人社会(少なくともティーン以上)は残念なことに男尊女卑の差別が蔓延っているわけですが、この「tween」の社会では女性の方がちょっと上にいるんですね。その何だか知らないけど自分より大人になっている気がする同年代女子に多少の怯えを感じながらも、なんか“見栄を張ってみる”…そこもまた可愛かったり。

要するに全部可愛いで包み込める本作。

もちろんその可愛さを生み出しているのは「Bean Bag Boys for life」な子役たちです。やはりマックスを演じた“ジェイコブ・トレンブレイ”は別格級ですね。だいたい主人公と同じ年に近いですけど、顔が明らかにあどけないので余計にアダルトな世界とは無縁な存在感(というか他の二人も顔があどけなく、きっとあえてそういう子をキャスティングしているのだろうな、と)。そのギャップが笑いを作るのですが、“ジェイコブ・トレンブレイ”がどんなときもイチイチ全力の熱演を見せてくれるのでそこも笑ってしまいます。

あのショッピングモールを前にして交通量の多い道路を横切らなくてはいけないことになるシーンの謎のハイテンションが個人的には好きですね。シーンとしてはリアルに考えたら危ないのも当然な言語道断な行為なのですが、それもああもバカっぽく振り切って、しかも当の子どもたちが「いけた!」「死んでない!」と大はしゃぎしているとなんだかどうでも良くなってくる。で、ドールが飛び出しての悲惨な最期を遂げて…本作で一番頑張ったアクションをしたのはあのドールだったなぁ…。

“キース・L・ウィリアムズ”は負傷したりと体を張っていますが普通にピンピンしているのが笑いになるし、“ブレイディ・ヌーン”の予想外の歌唱能力も一周回って痛快だし(なぜ「ロック・オブ・エイジズ」?というチョイスもいい)…。

それにしてもあの子役たちの親はどういう気持ちでこの映画に自分の子を出演させたのだろうか…。

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逆に子どもも大人を笑っている

“子どもを笑う”という大人の嗜好品になっている『グッド・ボーイズ』ですが、表向きはそうであっても映画自体は逆に大人のおかしさを映し出すものにもなっていると思います。つまり、子どもの目を通して、大人のこういうところ(主にアダルト方面)って変だよね…と批評している感じです。

なんでこんなアダルトグッズがふんだんにあるんだよという至極まともなツッコミにもなっているでしょうし、アダルト動画を見るくだりの「キスしていなかったな…」の感想といい、大人は性の何が楽しいの?という子どもの素朴な意見。ドラッグにばっかりはしゃいでバカじゃないの?という冷めた目。

私も本作を観てあらためてそういえば「キスの仕方」でネット検索したらどうなるのかと思ってやってみたのですけど、正直、なんだかな…という情報ばかりというか、そもそもキスという行為に適切な方法をマニュアル的に解説している時点で滑稽なんですよね。キスに正しいも正しくないもあるのか、それだったらもっと気にすべき性の正しい知識があるだろうっていう話なわけで…。あのネット上に転がる「キスの仕方」の解説文章を書いている大人の顔が見てみたい…。

やっぱり性のことになると子どもも大人も関係なくどこか珍妙でアホらしくなるものです。ドラマ『セックス・エデュケーション』でもたっぷり描かれていましたが、そういう荒唐無稽さは全員が抱えているものですから、等しく笑い飛ばせますね。

それだけでなく、“スティーヴン・マーチャント”演じるクロードという男が訪ねてくる際にマックスたちが「小児性愛者?」と投げかけるシーンは、考えようによってはこの映画を観ている観客への問いかけなわけです。子どもが出ている性的な下ネタ映画でニヤニヤしているあんたらは気持ち悪いよ…という。

『グッド・ボーイズ』はそういうシニカルさも持ち合わせているからこそのただのネタ映画になっていないのかなと思います。

社会派スタイルに切り込むような重さはないですし、『ブロッカーズ』のようにジェンダーやセクシュアリティーを内包した新しいお下品コメディの活路を切り開いたわけでもないのですが、『グッド・ボーイズ』らしさの存在感があって嫌な気分になりません。

もしかしたらこの「tween」という時期がいいのかもしれないのかなと思ったり。ちょっと触れましたけどこれより上の年齢になると必然的にジェンダーやセクシュアリティの問題が避けられなくなります。でもこの年齢ならそこを考えないで良いというセーフゾーンになっている。現代社会の私たちは少しジェンダーやセクシュアリティの問題に疲れている節もあり、そういう意味では息抜きになる作品だったのではないでしょうか。

ということでキスのやり方を学びたいなら映画を観ましょう。ノーマルなものから魂を吸い尽くす特殊すぎるものまで全部揃ってますよ!

『グッド・ボーイズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 86%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures グッドボーイズ

以上、『グッド・ボーイズ』の感想でした。

Good Boys (2019) [Japanese Review] 『グッド・ボーイズ』考察・評価レビュー