シリーズ第3弾は2020年に公開されて本当に良かった一作に!…映画『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年12月18日
監督:ディーン・パリソット
ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!
びるとてっどのじかんりょこう おんがくでせかいをすくえ
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』あらすじ
自分たちの音楽が将来世界を救うと予言されたビルとテッドは、曲作りに励み、その時を待ち続けて早30年。しかし、人気も年月とともに落ち込み、いまや応援してくれるのは家族だけだった。そんな彼らのもとに未来からの使者が現れ、時空の歪みによって人類滅亡まであと77分25秒しかないという驚きべき事実を伝える。もはや一刻の猶予もない。アホなことをしている時間はない!
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』感想(ネタバレなし)
この2人が念願のワクチンです!
2019年以前は世界の分断の危機が問題になっていました。疑心暗鬼が不協和音を生じさせ、憎悪がこもった言葉が耳を貫く…そんな恐怖がじわじわ拡大する時代でした。
しかし、2020年になると本当に世界が分断してしまいました。まさかそれが疫病が引き金でもたらされるとは思ってもみませんでしたが…。国や地域を越えた往来ができなくなり、気軽に人に会えなくなり、家に籠ることを余儀なくされます。顔はマスクで覆われ、いつも以上に他人がよそよそしく感じるようにもなります。
インターネットは確かにこんな不自由になった私たちを繋ぐツールになりました。でもそこには悪質な誤情報や陰謀論が渦巻くようになり、酷いノイズだらけです。
そうです、私たちはもっと純粋な想いを共有するための架け橋を求めています。某利権まみれのスポーツ大会ではなく、経済を口実に誰か弱者に犠牲を強いるようなものでもなく…。
それは身近にありました。人類が有史以前から持っていたもの。「音楽」です。2020年には音楽を題材に世
界を繋げる姿を描いた映画が偶然なのか運命なのか、いくつも登場しています。『トロールズ ミュージック★パワー』、『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』など、いずれも2020年に観たからこそ心に余計に響くものでした。これが2019年だったらこんな感想にならなかったかもしれません。このパンデミックは映画業界を滅茶苦茶にしましたけど、こんな予期せぬ棚から牡丹餅な魅力開花もあるんですね。不思議なものです。
そしてその2020年の大切にしたい音楽ムービーのフィナーレを飾る最高の一本が満を持してステージにあがってきました。それが本作『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』です。
まず「ビルとテッド」シリーズを知っているかというのが大前提になりますね。いかんせん少し古い映画なので最近映画にハマった人は知らないのも無理ありません。でも知っている人の中には「え?ビルとテッドは私の人生ベストだけど?」くらいに熱狂的なファンがたくさんいる、そんなアツい愛されムービーなのです(かくいう私も大好きです)。
1989年に『ビルとテッドの大冒険』という1作目が公開されます。本作はビルとテッドという2人のあまりにアホな高校生がひたすらにバカ全開でバカをするという完全無欠のおバカ映画です。そして本作はあの“キアヌ・リーブス”がまだ若かりし頃のキャリア初期作であり、彼のブレイクするきっかけとなった大事な映画でもありました。その2年後の1991年に続編となる2作目の『ビルとテッドの地獄旅行』が公開、こちらもハチャメチャの極みであり、多くのカルト的ファンを生みだします。
当然、ここまで愛される作品になれば3作目も期待するというものです。しかし、“キアヌ・リーブス”が『スピード』(1994年)、『マトリックス』(1999年)、『コンスタンティン』(2005年)など大作映画で大活躍する人気っぷりとなり、あのチープさが売りの「ビルとテッド」は過去の思い出になってしまった感じもありました。
けれども実は00年代から3作目の企画は練られていたようです。なかなか軌道に乗らず、ファンも首を長くして待ち続けつつ、でも来ないんだろうなぁ…と半ばノスタルジーに浸るしかないと諦めかけたそのとき、奴らは帰ってきたのです。しかも、この世界的パンデミックの最中に…。
これだけでもオールド・ファンは飛びあがるほどに嬉しいものです。29年ぶりですよ。昔の友達に会うような気分です。
でも私は「あの以前のノリはもうさすがにないだろうな…」と少し冷めた思いでいたのも正直に吐露しておきましょう。
しかし、実際に本作『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』を観た感想は…同じだった…あのノリが全くそのまま継続されていた…! なんだろう、29年の経過を感じさせない、というか2作目から2年後に公開された映画ですと嘘つかれても信じる…それくらいの変わらない姿がありました。
これはなかなかないことです。例えば「スター・ウォーズ」は新作が久しぶりに作られるとなればそこに現代的な新しい要素を加えるものです。たいていの映画はそうです。でもこの「ビルとテッド」は違う。常に同じ。この安心感。もう新規ファン開拓のために媚びることもしない清々しさ。
それもそのはず、脚本を手がけるのは1作目と2作目を生み出した“クリス・マシスン”と“エド・ソロモン”。そして監督は『ギャラクシー・クエスト』の“ディーン・パリソット”。撮影は『ジュラシック・パークIII』の“シェリー・ジョンソン”。音楽は多数の映画を手がける“マーク・アイシャム”。製作総指揮はおなじみの“スティーブン・ソダーバーグ”。言ってしまえば近年では珍しいくらいのオールドなメンバーだけで構成されているのです。
もちろん主役は“キアヌ・リーブス”と“アレックス・ウィンター”。さらに愛されすぎている死神を演じる“ウィリアム・サドラー”もカムバック。この3人がいればだいたいなんとかなる。
とくに過去作を絶対に観ろというタイプの作品ではないですが、独特のクセがありすぎるシリーズではありますし、波長を合わせるためにも過去作を事前に鑑賞するのもいいと思います。
世界が必要としている特効薬。どこぞの誰かは「トランプ・ワクチン」と豪語しているけど、何を言っているんですか。本当に人を元気にできるのは「ビル&テッド・ワクチン」です!
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』を観る前のQ&A
A:普通の人間です。ちょっとバカです。
A:1作目『ビルとテッドの大冒険』と2作目『ビルとテッドの地獄旅行』を観てテンションを高めていくと良いです。
オススメ度のチェック
ひとり | ◎(映画が独りにはさせない!) |
友人 | ◎(みんなで盛り上がろう) |
恋人 | ◯(音楽で絆を深める) |
キッズ | ◯(子どもに見せても問題なし) |
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』感想(ネタバレあり)
世界は救える…え?時間がない?
ビルとテッドといういつもつるんでいる2人の高校生はロック音楽で世界を救えると夢見ていました。何から救うのかまではよく考えていなかったですが、とにかく凄いことができると思っていました。そう思っているうちに過去にタイムスリップしたり、一度殺されて地獄や天国に行ったりしたのですが、2人の気持ちが揺らぐことはありません。
そして月日は経過…。
2人はロックバンド「ワイルド・スタリオンズ」のメンバーとして音楽界で有名になり、曲は大ヒット。世界をアッと言わせます。しかし、約30年が過ぎてさすがにその人気に陰りがさしていました。
それでも相変わらず一緒の2人。もちろん自分たちの音楽が世界を救えるとなおも信じています。
とりあえず今は親族のお祝いの席で音楽を披露しなければ…。歌い始める2人は、謎のやたらと楽器を多用していくカオスな音楽を繰り出し、観客の絶妙な空気を生みだします。
やれることはやった。次は妻を一緒に連れて、やっぱり2人でカウンセリング。どうやら妻たちは自分たちの才能を信じ切れていないようで、なんとなく溝があるのですが、2人にはその真意がさっぱりわかりません。世界を救えるに決まっているのに…。
家に帰るとビルとテッドそれぞれの娘、ティアとビリーが迎えてくれます。この2人が父の音楽の可能性を誰よりも支えてくれています。
そんなある日、2人の前に謎の白いカプセルのようなものが突如として出現。中から白い服を着た女性が出てきます。彼女は未来からの使者・ケリー。何やら2人に用事があるようで、2人はとくに警戒もなくテクテクと乗り込みました。
2720年。そこは全くの別世界。その光景を見たビルとテッドの感想は「未来だ…」。
案内されたのは、7人の女性たちが並んでいる場所。グレートリーダーは告げます。あと77分25秒後に時空が歪み、人類が滅亡する…と。ギターがずらっと出現し、午後7時17分まで曲を書く必要があるとも説明されます。思っている以上に世界を救わないといけないタイムリミットが迫っていました。
プレッシャーを感じる2人。しかし曲のアイディアは感じません。そこで将来の自分から曲を盗めばいいと発案。さっそくタイムトラベルができるおなじみの電話ボックスに乗り込みます。
一方、グレートリーダーはある危険性を問題視していました。あのビルとテッドがタイムトラベルすればするほど他の人まで巻き添えで時間移動してしまっているのです。このままでは世界の秩序は乱れる。そこでデニスという名前のタイムトラベル可能な人型ロボットを送りこみ彼らを殺す作戦を決行します。
そんな中、ティアとビリーは父親が楽曲作りに苦戦していると知り、手伝ってあげようとします。ケリーに頼んでタイムマシーンを拝借。助けてもらうなら最高の音楽家を過去から連れてこよう…そういう考えです。
未来に向かったビルとテッドは未来の自分たちが全くのダメダメであることに失望。これでは音楽を生みだせない。万事休す。
世界の終わりが近づく中、ビルとテッドに残された奇策はあるのか…。
“変わらない”…それがいい
世の中のものは変わるべきときに変わろうとしないのでイライラしますが、『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』は変わるべきときこそ変わらないことに幸せを感じさせる、そんな映画でした。
まず主人公のビルとテッドがそのまんまなんですね。あのイチイチ大仰な驚き方といい、ヘンテコな空気の読めない会話センスといい、全てが1ミリも変化していない。コールドスリープで眠っていたんじゃないかなと思うくらいです。
普通、音楽の世界でキャリアが大成功をおさめたら“人が変わっていた”っていうのはよくありがちなこと。これまで無数の映画がそういうミュージシャンの人生の変貌を描いてきたわけじゃないですか。
なのに、なのにこのビルとテッドはどうですか。こいつら、変わらなさすぎでしょう。
そしていまだに自分たちの音楽で世界が救えると妄信しています。たぶん彼らは金持ちになりたいとか有名になりたいとかではなく、この世界を救いたいというよくわからない漠然とした欲求しかないので、他に脱線することなくここまで変わらないんでしょうね。
また、映画のノリ自体も一切ブレていないのも素晴らしいところ。展開としては非常に単純というか、捻りも全くないようなタイムトラベルものをしているだけです。そもそも「音楽が思いつかない→未来の自分に聞こう!」という思いつきは根本から破綻しているのですけど…。『アベンジャーズ エンドゲーム』もこんなノリだったら大変でしたね(サノスの倒し方がわからない→未来の自分に聞こう!)。
あの娘たちの音楽家集めも意味不明で「そんな飛躍ある!?」というチョイスです。ジミ・ヘンドリックスからのルイ・アームストロングは、まあ、まだわかるにしても、そこからモーツァルトにはいかないだろうとか…。さらには伶倫ですからね。伶倫って中国古代の黄帝の伝説上の人物ですよ。そりゃあモーツァルトもびっくりです…。あげくに原始時代のやたら音楽センスのある原始人もヘッドハンティングするし…。
ちなみに作中で残り時間は77分しかないと言われますが、それは実際の映画の時間と一致しています。要するにただのメタなギャグです。
『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』も単純バカと音楽の相性の良さを土台にしていましたが、『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』のそれはやっぱり次元がワンランク違いましたね。
さりげない“新しさ”
というわけで、『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』は“変わらなさ”が最大の武器になっているのですが、その一方で、じゃあ、本作は旧来ファンに向けた接待ムービーなだけなのかと言うと、そういうわけでもないと私は思います。
確かに大部分が過去作からの“変わらないもの”で構成されています。しかし、よく見るとそこにほんのちょっぴりな“新しいもの”を追加しており、それが「現代的アップデート」なんて仰々しく指摘されることもない程度の目立たなさで薄っすらと作品のクオリティアップに貢献しています。
一番は立役者はあの娘たちでしょう。あの2人のひとめ見た瞬間から「あ、ビルとテッドを継承しているな」と感じる空気感が最高です。
ビルの娘、ティア・プレストン。オーバーオールがファッション・トレードマーク。飾らないスタイルが逆にクールに見えてくる(でもやっぱりそこはビルの娘なので…)。
演じているのは“サマラ・ウィーヴィング”。『ザ・ベビーシッター』『レディ・オア・ノット』など過去の出演作では割と人を殺しまくりな女性でしたが、今回は雰囲気を変えてきています。この“サマラ・ウィーヴィング”、叔父があの“ヒューゴ・ウィーヴィング”っていうところで『マトリックス』繋がりで“キアヌ・リーヴス”とも縁がある。なんともそうくるかというキャスティングです。
そしてテッドの娘、ウィルへルミナ “ビリー”・ローガン。彼女はなぜか全身ピタッとしたスタイルで、やたらと場違い感のある佇まい。
演じているのは“ブリジット・ランディ=ペイン”で、ドラマ『ユニークライフ』でも活躍している若手俳優。“ブリジット・ランディ=ペイン”はノンバイナリーと自認しており、つまり本作でしれっと出てくるこの娘ビリーも非常にクィアな立ち位置での存在感なのだろうと察せます。
一般的に既存の男性キャラクターの反転として女性キャラクターを用意することはあります。父たちと対応させて娘たちとか。しかし、この『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』はそのいつものパターンにしてはありきたりな女性像に一切頼らない。この姿勢をさりげなくも実現できているのは、他の近年の映画でもなかなかにないことじゃないでしょうか。
音楽はみんなで作るもの
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』の最終局面。
私はこの終盤でいいなと思うのは、これまでなんだかんだでビルとテッドだけが悪目立ちしまくるのがこの映画の定番だったのに、本作では「みんな」を主人公にしているということ。それはエンドクレジットでのみんなの投稿映像でも伝わってくる、本作のスタンス。
つまり、音楽はみんなで作るものだから…という共通理解です。
音楽は一部のカリスマのものでも、歴史的な偉人のものでも、大企業の特権でもない。みんなで奏でることに意味がある。そんな音楽の普遍性。
それがここまで今の繋がりを失った時代に響いてしまうのも必然だったのか、それはわからないですけど、無性に多幸感で満たしてくれるラストです。
別の見方をすれば、ここまでこのシリーズを愛してくれた人に支えられてきた証左として、あの展開はまた意味を持つのかもとも思います。
ほんと、2020年に観られて良かった映画ナンバーワンですよ。
みんながビルとテッドなんです。どんな過酷な時代になっても、これからもビルとテッドでいこう。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 82% Audience 71%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2020 Bill & Ted FTM, LLC.All rights reserved. ビルとテッド3
以上、『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』の感想でした。
Bill & Ted Face the Music (2020) [Japanese Review] 『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』考察・評価レビュー