現代戦争版の西部劇…映画『ホース・ソルジャー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年5月4日
監督:ニコライ・フルシー
ホース・ソルジャー
ほーすそるじゃー
『ホース・ソルジャー』あらすじ
米同時多発テロ翌日の2001年9月12日、対テロ戦争の最前線部隊に志願したミッチ・ネルソン大尉は、わずか12人でアフガニスタンへ乗り込み、テロ集団の拠点マザーリシャリーフを制圧する任務に就く。反タリバンの地元勢力を率いるドスタム将軍の協力が得られるものの、12人の部隊に対して敵勢力は5万人。加えて戦場のほとんどが険しい山岳地帯のため、馬に乗って厳しい戦いを強いられる。
『ホース・ソルジャー』感想(ネタバレなし)
戦火の馬(攻撃スタイル)
アメリカの現代戦争映画といえば、もっぱら活躍するのはアメリカ海軍の特殊部隊である「ネイビーシールズ」です。アイツら、派手ですから。
でも、アメリカ陸軍の特殊部隊「グリーンベレー」だって派手なことはできるぜ!と言わんばかりに、グリーンベレーが馬に乗って暴れまわる映画が本作『ホース・ソルジャー』です。
なんてわかりやすい邦題なんだと思いますが、原題は参戦した部隊の構成人数に由来した「12 Strong」。邦題は原作のノンフィクション「ホース・ソルジャー 米特殊騎馬隊、アフガンの死闘」からとっているようです。全然関係ないですけど、昔、スティーヴン・スピルバーグ監督の『戦火の馬』っていう映画があったよね…。
この『ホース・ソルジャー』は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件に対して、事件の裏にはタリバンが関与していると判断したアメリカ政府が、その翌日にすでに特殊部隊をアフガニスタンに送り込んでいたという実話を基にしたものです。一応、911以降のアフガニスタン紛争は、集団自衛権に従ってアメリカやイギリスが空爆を開始した10月7日からというのがオフィシャルな記録ですが、もう9月12日時点で戦力を現地に投入していたんですね。
監督は“ニコライ・フルシー”という人で、聞いたことがありません。それもそのはず、デンマーク出身のこの人物は元はフォトジャーナリストとして数々の受賞歴を持つキャリアを持ち、戦場や紛争地帯にも行っている方。その経験を買われたのか、本作で長編映画監督デビューを果たすに至りました。つまり、映画監督としての実力は未知数。
監督の無名さを補うためなのか、本作は製作の“ジェリー・ブラッカイマー”の名前が宣伝に大々的に使われています。彼はハリウッドにて堂々とその名を輝かせている名プロデューサー。本作では戦争映画の名作『ブラックホーク・ダウン』が代表作のように宣伝では利用されています。他にも『バッドボーイズ』、『トップガン』、『アルマゲドン』、『パール・ハーバー』、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなど、関わった作品は挙げだすとキリがないほどあるんですけどね。
主演は、アメコミ映画界では雷野郎を演じて日本でも名を定着させつつある、マッスル俳優の中ではイケメン担当“クリス・ヘムズワース”です。今作ではハンマーは持っていませんが、相変わらず強そうです。
他にも『シェイプ・オブ・ウォーター』で強烈な悪役を演じた“マイケル・シャノン”や、なんか名前が可愛いメキシコ系俳優“マイケル・ペーニャ”が脇を揃えます。
宣伝のキャッチコピーにある「12人vs5万人」というのは明らかに誇大表現なのですが(12人に加えて現地の反タリバン勢力と協力して戦うので)、あんまり気にしないでください。
『ホース・ソルジャー』感想(ネタバレあり)
西部劇的な要素
『ホース・ソルジャー』は完全に西部劇のフォーマットに合わせた戦争映画になっていました。もちろん、“馬に乗る”というのも重要な西部劇的要素ですが、それ以外にもたくさんあります。
例えば、主人公のネルソン率いる部隊が異国であるアフガニスタンの地で戦うという土台自体が、かつてアメリカという荒廃した知らぬ土地にやってきて戦うことになったアメリカ建国の始期を連想します。しかも、そこで本作ではドスタム将軍率いる反タリバン勢力と言葉や文化の違いに苦労しながらも交流・共闘していく流れが、西部劇における先住民との関係性を思わせるものです。
このドスタム将軍も実在の人物で(詳しくはWikipediaとかで調べてください)、本作における物語上重要なキーパーソンになっています。私は、彼は戦争という無限の負の連鎖を知り尽くしている存在として、アメリカの未来の姿を見通しているような雰囲気を、映画では醸し出しているようにも感じました。この戦闘はお前らアメリカにとって重すぎる歴史の始まりだ…そんなことを言うかのような目線。
その存在に導かれるように、ネルソンたちの部隊はさまざまな戦場の犠牲や不条理を誰よりも一番先に体験し、自らの手も汚していきます。それと同じことを、この先にアフガニスタンに投入される13万以上の兵士も繰り返す。
ネルソンたちは、まるでアメリカ大陸を発見したコロンブスのようじゃないですか。
主人公の馬は無敵
前半はわりと抑えめな映像で、ドスタム将軍との交流を重ねながら少しずつ敵を攻略していくという、いかにも西部劇的なロードムービーが展開されていくので、地味です。最初にいきなりインパクトのあるシーンを持ってきて、観客の目を奪う昨今のありがちな戦争映画とは異なるので、正直飽きる気持ちもわかります。やっぱりこれは西部劇なんだというスタンスで観るのが一番無難ですね。
しかし、後半からは怒涛の大迫力戦闘が勃発。ここは完全に製作の“ジェリー・ブラッカイマー”節が雄たけびをあげていました。何が何をどうやってそうなったのかわからない爆発が連発する激しい戦場の描写。これぞ現代版マカロニウエスタンの見せ場武器だ!と言わんばかりに登場したのは「BM-21 グラート」という自走多連装ロケット砲。ほんとにこんな使い方するのかな…。
たぶん大方の観客が期待していた映像的な迫力はここで満たされるのですけど、ここが一番のツッコミどころでもあって。ロケット攻撃がビュンビュンと飛び交う爆発地帯を華麗に疾走するネルソンは、無敵スターを手に入れたスーパーマリオ状態。カッコいいのですけどね。ネルソンの馬は絶対に死なないマシーンなのか、倒れてもムクッと起き上がるシーンはもはや怖い。
本作は登場人物の防御力にムラがありすぎて、死ぬなと思った攻撃を受けたキャラが割と平気だったり、大丈夫だろうと思ったら結構重傷だったり、よく基準がわかりません。ネルソンの桁外れの耐久力を、“マイケル・シャノン”演じたスペンサーに分けてあげてほしかったくらい。
このへんも良くも悪くも西部劇っぽいですけど。
監督は健闘した
ところで『ホース・ソルジャー』で監督デビュー…というか映画デビューとなった“ニコライ・フルシー”。その実力についての印象は、もともとCMを手がけていたこともあって、映像の撮り方は一枚絵としてはクールで綺麗でした。
劇中に幾度となく登場する空爆シーンも、クレーンやドローンを活用して、横からもしくは前からの俯瞰的な視点で見せるなど、ゴチャゴチャしていません。実際の撮影ではこのジャンルでは今や当然ですが、VFXを多用しており、ニューメキシコ州で行われたという撮影映像に爆発や人物・モノなどあらゆる存在が後に付け足されているわけであり、そのへんを考えたうえでの撮影もCMで培った経験があればさほど苦ではなかったのかもしれません。
現地の人との交流も含めて戦場のリアリティもそつなく描かれており、決して下手な人ではないと思いました。ただ、似たようなカットも多く、例えば馬ごと転倒するカットとか全く同じ画角のものがあるのは気になったし、若干の手数の少なさは目立ちはしましたが…。
それにやっぱり今の戦争映画というジャンルは、クリストファー・ノーランの『ダンケルク』や、メル・ギブソンの『ハクソー・リッジ』など映画的な作家性を爆発させている濃い人たちがたくさんいますから、それと比べるとどうしたって分が悪いですよね。
まさに劇中のネルソンのように馬という素朴な武器で戦場を駆け巡ったという意味では、“ニコライ・フルシー”監督は健闘したのではないでしょうか。個人的には、デンマーク出身の人がアメリカの戦争映画を撮っていることに時代の変化を感じます。アフガニスタン戦争もすっかり過去の歴史の1ページになったのですね…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 50% Audience 62%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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以上、『ホース・ソルジャー』の感想でした。
12 Strong (2018) [Japanese Review] 『ホース・ソルジャー』考察・評価レビュー