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『スヘルデの戦い』感想(ネタバレ)…Netflix;オランダ映画史に刻まれる戦争映画

スヘルデの戦い

オランダ映画史に刻まれる戦争映画を見届ける…Netflix映画『スヘルデの戦い』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:De slag om de Schelde(The Forgotten Battle)
製作国:オランダ・リトアニア・ベルギー(2020年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:マシーズ・ヴァン・ヘイニンゲン・Jr

スヘルデの戦い

すへるでのたたかい
スヘルデの戦い

『スヘルデの戦い』あらすじ

第二次世界大戦。連合国軍はヨーロッパの多くの地を占領したドイツ・ナチスに反撃するべく、猛攻を仕掛けた。その勢いは凄まじく、このまま領地を取り返すのは時間の問題だと思われた。しかし、戦略上重要な港であるオランダのスヘルデ川付近ではドイツ軍はしぶとく抵抗。結果、激しい戦場と化す。イギリスのパイロット、ドイツ兵に従うオランダ人、地元のレジスタンスに関与した女性。それぞれの物語が交錯する。

『スヘルデの戦い』感想(ネタバレなし)

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5月5日はオランダにとって大切な日

オランダにとって「5月5日」は特別な日です。

第二次世界大戦にてオランダがドイツ軍の占領から解放されたのが1945年5月5日。なのでこの日は「解放記念日」になっています。

申し訳ない話ですが、オランダの戦争の歴史を私はそれほど知りません。オランダがドイツ・ナチスに占領されたというのはわかるにしても、どんな経緯で解放されたのか。第二次世界大戦の前半はドイツ優勢で進んでいたものの、1944年6月6日のノルマンディー上陸作戦に始まる連合国軍の反撃によってヨーロッパ戦線の転機がもたらされ、そのまま一気に形勢逆転した…というわけではなく、その過程では激しいドラマがありました。その最も凄惨な戦場となったのは実はオランダだったのです。

今回紹介する映画はそのオランダの戦争史を生々しく描いた大作です。それが本作『スヘルデの戦い』

その名のとおり、第二次世界大戦中の1944年10月2日から11月8日までの間に、ベルギー北部及びオランダ南西部で、連合国軍とドイツ軍との間で行われた大規模な戦闘「スヘルデの戦い」を題材にしています。舞台となったのは「スヘルデ川」という河川周辺地域です。こうした港のある場所は戦争においては重要拠点。物資供給の要です。当然、守りは堅く、絶対に相手に奪われたくないところですし、逆に奪ってやりたい場所でもあります。スヘルデ川のとくにオランダ領の河口域は、連合国軍が反撃を強めていた1944年秋も依然としてドイツ軍が健在。まさに最後の砦になっていました。そして激戦が起きたのです。大量の犠牲者をだして…。

本作『スヘルデの戦い』はその戦場の様子を、イギリスの新米パイロット、ドイツ軍に従うオランダ人兵士、地元のレジスタンスに関与してしまった市民の女性…この3人の視点で描いています。

オランダ映画なのですが、オランダ映画としては歴代2番目となる多額の資金を投入して作られた大作になったそうです(ちなみに1番カネがかかっているオランダ映画はポール・バーホーベン監督の『ブラックブック』)。といっても撮影地はオランダではなく、リトアニアです。現地で撮ろうとすると、自然環境への影響が避けられず、しかもオランダ名物の風車がデンと建っていますからそのままだと雰囲気台無し。かといってVFXで消すとおカネがかかりすぎる。そこでリトアニア撮影になったようです。

ともあれ予算たっぷりなので戦争映画としての迫力は申し分ないです。凄まじい臨場感のある映像が繰り広げられ、凄惨な描写も多数あります。できれば映画館の大スクリーンで観たかったくらいに。

本作『スヘルデの戦い』を監督したのは、2011年に『遊星からの物体X ファーストコンタクト』を監督もしたオランダ人の“マティス・ヴァン・ヘイニンゲン・Jr”

俳優陣は、ドラマ『王への手紙』の“ヘイス・ブロム”、ドラマ『Liar』の“ジェイミー・フラッターズ”、ドラマ『Keizersvrouwen』の“スーザン・ラデル”、『お名前はアドルフ?』の“ユストゥス・フォン・ドホナーニ”など。また、『ハリー・ポッター』シリーズのマルフォイ役でおなじみの“トム・フェルトン”も短い出番ながら印象的に登場します。

群像劇構成なのでやや状況がわかりにくいですが、後半の感想では歴史的背景も含めて少し説明を加えています。

第二次世界大戦のオランダの歴史の1ページを知りたい人は、映画『スヘルデの戦い』をぜひ鑑賞してみてください。Netflixで配信中です。

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『スヘルデの戦い』を観る前のQ&A

Q:『スヘルデの戦い』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年10月15日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:戦争映画愛好家なら
友人 3.5:戦争史に詳しい人と
恋人 3.0:ロマンス要素薄め
キッズ 3.0:残酷描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スヘルデの戦い』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):忘れられた戦い

1944年6月6日、連合軍がノルマンディーに上陸。2カ月にわたる攻防戦の末、ドイツ軍は後退。連合軍は物資供給のために早急に港を押さえる必要がありました。連合軍は急ぎ直進するようにアントワープ港を解放。しかし、スヘルデ川河口をドイツ軍が支配しているため、肝心の港まで到達できません。後にドイツ軍の一部がスヘルデ川の南岸、ゼーランド州フリッシンゲンから退却。オランダの人々は解放は目前であると考えていましたが…。

1944年9月5日。街を軍隊が歩いている中、市役所では忙しく書類を処分する人たち。そこで働くトゥンという女性も業務に追われます。ドイツ兵は戦況が厳しくなってきたのでここフリッシンゲンからの撤退を進めていました。自分たちの情報に関する資料は当然全てが破棄の対象です。

街では今でもファシストの裏切り者を始末するべく、怪しい人間をドイツ兵が街中で堂々と尋問しています。不審者がいれば処刑されることもあります。

トゥンはそんな街を歩き、パン屋で別の女性・ヤンナと落ち合います。「やっとあいつらが出ていく」とヤンナは笑みがこぼしながら、手を繋いで歩く2人。そのとき、ひとりのカメラを持った若者がドイツ軍の車両に石を投げたことをきっかけに車が暴走してしまい、兵士が轢かれてしまいました。思わぬ大惨事にドイツ兵はその若者へ銃を発砲。若者は逃げ出します。

その光景を見たトゥンは家へ。父で医者でもあるヴィッサー「ディルクは戻ってきていないか」を聞きます。そのディルクとはまさにあの石を投げた若者です。

一方、それより少し前の1944年8月11日。ソ連軍前線のナルヴァにて、ファン・スタベレンはドイツ軍の一員としてソ連と対峙していました。敵の戦車が迫り、歩兵は塹壕で応戦。けれども敵うはずもなく撤退しつつ、なんとか戦車を撃退するも、目の前で兵士を失います。おびただしい犠牲者を目にしてきました。何度も何度も…。

スタベレンが目を覚ますと、野戦病院でした。傷だらけの自分の身体。そこに足のない車椅子兵に話しかけられます。「オランダ人か?」…そいつは中尉らしく、ナチズムな考えを肯定するもすでに戦える状態ではない自分の立場に諦めがつき、自嘲気味な態度をとります。そしてスタベレンに事務職の仕事を口利きしてくれました。派遣先はベルクホーフ大佐の秘書。場所はゼーランド州のフリッシンゲン。

1944年9月16日。イギリスのドーセット州から飛び立つ機体。上官に怒られるパイロットのウィリアム・シンクレア。彼は父親が政治上層部と繋がりが深く、そのため危険のある前線に送られることはなく、それが不満でした。ウィリアムは戦果をあげたいと考えており、上官を説得したと嘘をついてアーネム奪還作戦に独断で参加することに。

しかし、イギリス軍は判断を誤っていました。アーネムにたどり着く前に位置するゼーランド州一帯。そこのドイツ軍は完全撤退せずに戻ってきていたのです。

そしてこの場所は凄惨な戦場と化すことに…。

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当時の戦況をおさらい

まず第二次世界大戦の前半をざっくりとおさらい。

戦争の始まりはいいとして、前半の時期は連合軍側は劣勢で、最終的にはドイツ・ナチス軍は圧倒的な軍事力でヨーロッパの多くを占領していきました。1940年5月10日、ドイツ軍はベルギー、オランダ、ルクセンブルクのベネルクス三国に侵攻し、オランダは5月15日に降伏します。電撃戦で瞬く間にフランスも制圧されてしまい、あの『ダンケルク』で描かれた大規模な撤退劇が展開されるわけです。

しかし、このままやられ放題ということにはいきません。1944年、連合国軍はついに反撃に出ます。

6月6日、北フランスのノルマンディー地方にアメリカ軍、イギリス軍、カナダ軍、そして自由フランス軍など大軍を揃えてオーヴァーロード作戦(ノルマンディー上陸作戦)を開始。一気に形勢逆転を狙います。これは『プライベート・ライアン』で描かれました。

8月25日にはパリが解放され、9月3日にはベルギーの首都ブリュッセルを解放。よし、順調だぞ!…と思っていたらそうはいかない事態が…。

それが『スヘルデの戦い』で描かれるゼーランド州一帯の問題です。ここは港なので戦略的に重要。しかし、とにかく地形が厄介でした。オランダはそもそも低い土地で、とくにこのゼーランド州はほとんどが海抜以下の地域。地図で見るとわかりますが、3つに水域で分断されるような地形になっており、いわゆる三角州になっているので、湿地帯も多く、攻めにくいです。当然、住民も外に逃げづらいのですが…。

要するに戦争が起きればどうしたって戦闘が長引くような場所であり…。

イギリス軍は拠点のアーネムを占領すべく、マーケット・ガーデン作戦を実行します。オランダ国内の複数の河川を歩いて越えるのは大変なので、空から空挺部隊で攻めていこう!という魂胆です。しかし、ドイツ軍が残っていたゆえに攻撃を受け、かなりの大失敗をしてしまいます。それは作中でもウィリアム・シンクレアが経験するあれですね…。

そうこうしているうちにドイツ軍は再度準備を整え、防衛体制を確保。かくして連合軍とドイツ軍の本格的な大激戦になってしまったのです。絨毯爆撃と艦砲射撃でフリッシンゲンの街も焦土に…。

こうやって振り返ってみると、オランダの地形環境(それとイギリスのヘマ)が大部分の悲劇の理由になっていると思うのですけど、やっぱりそういう要素は大事なんですね…。水陸両用車が活躍したのも納得です…。

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3人の視点がワルヘレン島に集結する

本作『スヘルデの戦い』はその戦場のシーンはもちろん見せ場になっています。

土地が低いので遮蔽物はなく、銃弾が水平にガンガンと連射されてくる戦地。兵士たちはなんとか身をかがめて必死に前に進み、隙をついて攻撃をする。ひたすらにその繰り返し。誰もが二度とこんな地形で戦いたくないと思ったであろう地獄です。

ちょっと場所を離れれば家の中だって簡単に水没する環境。ちなみにこのゼーランド州は1953年に「北海大洪水」と呼ばれる高潮災害が発生しており、被災者は7万人以上、死者1836人の大被害となっています。これがきっかけで今は治水計画によって整備が進んでいますが、もしこのレベルの水害があの戦時中に起きていたら連合軍もドイツ軍も双方もろとも壊滅していたでしょうね。

これだけ泥沼化するほどに過酷だと、どんな軍事技術革新があろうとも第一次世界大戦を描いた『1917 命をかけた伝令』とさして変わらず、やっぱり戦争は戦争なんだなと痛感させられます。

本作『スヘルデの戦い』では戦場だけでなく、フリッシンゲンの住民たちの姿も記憶に刻まれます。やっとドイツ軍から解放されると安堵してホっとしたのもつかの間、それがぬか喜びに終わり、またもやドイツ軍による恐怖の支配が始まってしまう絶望。作中ではレジスタンスも見られましたが、もはや状況を変えてやるぞという覇気はなく、どうにかして好転してくれと願うばかりになっているのがまた痛々しい…。

トゥンはそんな中で意図的ではなく結果的にレジスタンス活動組織を知ってしまい、関与してしまうことになります。弟は助けることはできず、逃走するのさえも失敗し、この世の終わりのような状況で息をひそめるしかないのですが…。それでもあの場所に終盤は拘束されていたゆえに戦乱に巻き込まれずに助かったかたちにはなっていますけど。

映画の作りとしては史実にかなり忠実で、3人の視点の物語も最初は「これはどう関係してくるのかな?」と思うほどにバラバラなのですが、それでも終盤のワルヘレン島での激戦に集約されていく構成も綺麗に決まっており、オーソドックスな戦争映画としての仕上がりだったと思います。あんまりエモくない程度のリアルさで淡々と描いているのも良かったですし。

もしこれがハリウッド大作だったら、ラストのワルヘレン島での激戦はもっと陸海空の大盤振る舞いで映像が激震するほどの迫力満点になったでしょうけど、そこはさすがに予算は足りませんね。

それでも『スヘルデの戦い』は当時の現地の戦争を知るうえではじゅうぶんに役割を果たす作品でした。

なお、歴史を振り返るとこの後は今度はドイツ軍が反撃に出る「バルジの戦い」へと舞台が変わります。それは『バルジ大作戦』(1965年)とか『大反撃』(1969年)とかで映画になっているのでそっちを観てください。

『スヘルデの戦い』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『スヘルデの戦い』の感想でした。

De slag om de Schelde (2020) [Japanese Review] 『スヘルデの戦い』考察・評価レビュー