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『シャドウ・イン・クラウド』感想(ネタバレ)…戦争は女の顔をしていないかもしれないけれど

シャドウ・イン・クラウド

それでも私はお前を殴る…映画『シャドウ・イン・クラウド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Shadow in the Cloud
製作国:ニュージーランド・アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年4月1日
監督:ロザンヌ・リャン
性暴力描写(セクハラ) LGBTQ差別描写

シャドウ・イン・クラウド

シャドウ・イン・クラウド

『シャドウ・イン・クラウド』あらすじ

1943年。ニュージーランドからサモアへ最高機密を運ぶ密命を受けたというひとりの女性航空士官のモード・ギャレットは、B-17爆撃機に乗って空へ飛び立つ。モードは男性乗組員たちから心無い言葉を浴びせられながらも、ひたむきに任務を遂行しようとする。やがて彼女は高度2500mの上空で、何かを目撃する。次から次へと試練に見舞われる中、大切な荷物を守りながら決死の戦いを繰り広げるモードだったが…。

『シャドウ・イン・クラウド』感想(ネタバレなし)

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アグレッシブにぶん殴る!

暴虐と妄想に憑りつかれているプーチンの始めたウクライナ侵攻をきっかけに少し再注目されていたことがありました。それが女性の兵士です。侵攻が進むウクライナでは住民総出で防衛のための戦闘準備が進み、女性も火炎瓶を作ったり、はたまた銃を手にする映像が報道されたりもしました。

戦争に駆り出されるのは男性だけというイメージがいまだに強いですが、女性もごく普通に戦場で軍として仕事をしています。それは最近の話ではなく、昔からそうで、皮肉なことですけど、女性兵士と言えば真っ先に挙げられるのはソ連です(500人以上の従軍女性にインタビューした“スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ”の著した「戦争は女の顔をしていない」などか参考になります)。

ただ、女性の兵士はソ連の専売特許というわけでもなく、大戦時では連合国側も女性が戦場で活躍していました。例えば、第二次世界大戦中にイギリスやアメリカで活躍した「婦人補助空軍(Women’s Auxiliary Air Force; WAAF)」「婦人陸軍部隊(Women’s Army Corps; WAC)」。戦争では常に人手不足ですから性別なんて気にしてられません。

しかし、もっぱら戦争において女性は兵士であろうと民間人であろうとプロパガンダに利用され、都合のいい象徴的な姿ばかりが拡散されてきました(『戦時下 女性たちは動いた』を参照)。

結局、女性は戦時下において敵国と戦っていただけではない、やっぱり女性差別と戦うことを強いられていたわけで…。

今回紹介する映画は、そんな戦時下の女性兵士の苦悩を題材にして、それを上手くジャンル映画に落とし込んでいる作品です。

それが本作『シャドウ・イン・クラウド』

で、『シャドウ・イン・クラウド』の概要を紹介しようと思うのですが…どこまで書こうか…。というのも本作はネタバレが問題で…。なんか日本の宣伝はわりとがっつりネタバレしているし、重要なシーンも予告で映像を流しまくっていて、気にしている気配はゼロなんですが…。私はこの事前のネタバレ無し感想の前半部ではあえて伏せておこうと思います。

本作はアメリカの1機の爆撃機に女性のパイロットが乗ってくるところから始まります。彼女は極秘任務で荷物を運ぶらしく、しかしその機内の男性クルーはそんなことは聞いてないので信用せず、この女性を狭い場所に閉じ込めます。そして爆撃機が別の基地へ飛行している間に日本の戦闘機が襲ってきて…というのが、ネタバレを避けた序盤のあらすじです。

まあ、たぶん一応の敵国が日本なので、日本配給会社はその言及をしないためにメインの要素をネタバレして宣伝に使っちゃっているんだろうなぁとは思いますが…。

もちろんそれでは終わりません。ここからいろいろな要素がミックスされる。その…あれです…『オーヴァーロード』なんかと同じ、戦争を土台にしたジャンル映画ですよ。

実は『シャドウ・イン・クラウド』は脚本を担当していた“マックス・ランディス”が女性差別発言や女性への性的暴行で告発されており、製作を降板しています(クレジットには規則のため名前が残っている)。これだけで見る気が失せた人もいると思いますが(日本の公式サイトで名前を紹介するのくらい辞めろよと確かに思うけど)、もう少し続きを聞いてほしい。

その後、脚本がリライトされ、その作業に関わったのが本作で監督も務める“ロザンヌ・リャン”。香港系ニュージーランド人で、『My Wedding and Other Secrets』など監督作は高く評価されています。

結果、おそらくこの脚本家騒動があったせいなのか、この『シャドウ・イン・クラウド』は女性の女性による女性のための物語にブラッシュアップされました。映画を観ればわかるのですが、そういう女性を蔑視する男社会を一発ぶん殴るような、そんなインパクトを持っています。

主演は“クロエ・グレース・モレッツ”。キャリアはあるのになぜかB級臭の漂うジャンル作品(最近だと『マザー/アンドロイド』とか)によく出演していて心配されることもあった“クロエ・グレース・モレッツ”でしたが、正直、私も『シャドウ・イン・クラウド』にそんなに期待していなかったのですけど、観たらこれは意外と良かった。なんか観る前からバカにしていてごめんなさい…。

久々に“クロエ・グレース・モレッツ”主演のジャンル映画としてビビっときた一作です。現在における“クロエ・グレース・モレッツ”らしさが詰まっているし、『キック・アス』から20年経過したうえでのカウンターになる到達点とも言っていいような…。

腐った男社会をぶん殴るアグレッシブな“クロエ・グレース・モレッツ”が見られますよ。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:ジャンル映画好きに
友人4.0:エンタメとしても
恋人3.5:ロマンス要素はほぼ無し
キッズ3.5:人が死ぬ描写あり
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『シャドウ・イン・クラウド』予告動画

ネタバレが一切嫌な人はこの予告動画も観ない方がいいです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『シャドウ・イン・クラウド』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):秘密の任務がある

1943年8月。を携えるひとりの若い女性がニュージーランドのオークランドの空軍基地の滑走路に立っていました。片腕をつっているその女性、モード・ギャレットは、悪天候の中、うろうろ。すると上空を飛行機が着陸。機体にセクシーな女性の絵が描かれたそれは、B-17大型爆撃機「フールズ・エランド号」です。

モードはその機体に乗り込みます。しかし、機内にいた男性クルーたちはそのモードを見るなり、「なぜここに女がいるんだ。降りろ!」と冷たい態度。そんな男たちの揶揄にも屈せず、モードは婦人補助空軍の飛行士官であり、これは任務なのだと頑なに主張して、機内に居座ります。

この爆撃機はここからサモアまで飛行する予定で、モードはこの鞄(パッケージ)を届けないといけないのでした。

やむを得ず乗ることには承諾した男たちでしたが、鞄は預けろと言われます。自分で鞄を持つことに強くこだわるモード。しかし、唯一親切なクエイド軍曹にしぶしぶ渡します。

そしてモードは狭い球状の下部銃塔(油圧式ボールターレット)に押し込められ、ここにいるように命じられます。かなり窮屈でベルトをするのもやっとです。

飛行機は悪天候の中を離陸。ガタガタ揺れる中、ふーと息を整えるモード。物音がしますが、これは飛行機の通常の音のなのかわかりません。眼下に飛行機らしき影が見えた気がして動転しますが、それも気のせいかも…。

ヘッドホンをつけると、上で男たちが好き勝手に卑猥な話題などを喋っていました。ドーン、ベッケル、フィンチ、タガート、キャプテンはリーヴス、副パイロットはウィリアムズ

モードの足元のガラスはひびで穴が開いており、靴でおさえますが、心配なので布で塞ぐことに。

激しい揺れを感じ、稲光の空を覗き込むと、翼の下に何かいるのがチラっと見えます。すぐに報告。右翼の下に何かを見た…。影のような…生き物? けれども自信が無くなり、曖昧なことしか言えず、クルーたちから信用されません。

ようやく機内に上がる許可を得ましたが、ボロボロな銃塔のハッチが故障し開かなくなり、部品がすっぽぬけてドンドン体当たりしても意味なし。あげくに手を怪我します。

銃塔を立て直し、また下に確認すると今度は確かに日本の戦闘機を視認。すぐさま通信しようと動いた瞬間、謎の怪物が背後から襲って来ました。パニックになりながら応戦しようとしますが指が挟まり、身動きがとれなくなります。相手は鉤づめで装甲に穴を開け、モードは隠し持っていた拳銃で怪物を撃ち、相手はどこかへ消え去りました。

こんなところで死んでたまるか。モードにできる術はあるのか…。

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閉所ホラーで大パニック!

はい、『シャドウ・イン・クラウド』はグレムリンが襲ってくる、モンスターパニックのジャンルでした。

でもなぜグレムリンなのか?

グレムリンと言えばイタズラをしてくる悪そうな妖精風の生き物というイメージですが(ジョー・ダンテ監督の『グレムリン』は私も大好き)、実は戦争と関係があります。機械に悪さをする妖精ということになっており、第一次世界大戦時の英国空軍で報告されたのを皮切りに、第二次世界大戦中のアメリカ空軍兵士の間でも目撃談が相次ぎました。飛行機が急に壊れたりするのはグレムリンのせいなのだ、と。

もちろん真実はわかりません。戦争の恐怖でパニックになって幻覚を見ただけかもしれません。でもそれ以来、グレムリンというのは機械を破壊する存在と認識され、そういう原因不明の故障を「グレムリン効果」と呼んだりするようにもなりました。

『シャドウ・イン・クラウド』の冒頭ではプロパガンダのアニメーションが映し出されます。そこではパイロットとしての心構えと注意事項が説明されており、グレムリンもユーモラスに登場します。

本作はそのグレムリンがガチで本当に出現した!という内容です。もともと『エイリアン』の脚本で有名なあの“ダン・オバノン”の考案した設定が基になっているそうです。確かに乗り物内で謎の怪物に襲われ、ひとりの女性が撃退するべく立ち上がるというのは、『エイリアン』のプロットにそっくりですね。

しかし、この『シャドウ・イン・クラウド』は最小限の舞台で上手く恐怖を演出しており、とてもスマートな一作でした。

いわゆる閉所ホラーであり、閉所恐怖症の人は直視できなかったかもしれない…。ボールターレットという快適度で言えば最悪の環境(そもそもああいう飛行機では一番危険な場所)。そこでただでさえ敵機の影に怯えないといけないのに、さらに正体不明の怪物に不意打ちで攻撃されるんですよ。

カメラワークも含めてこのじわじわと得体のしれない恐怖がまとわりついてきてチクチクと攻撃してくる演出が良かったです。“ロザンヌ・リャン”監督はこういうジャンル映画的なセンスも上手な人なのか…。

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女が女のために戦って何が悪い?

一方で『シャドウ・イン・クラウド』は単なるモンスターパニックだけではありません。モードを襲うのは日本戦闘機やグレムリンだけではない、男性社会圧力も圧し掛かってくることになります。

作中の中盤で明らかにされるとおり、モードが大事にしていたあの鞄の中には赤ん坊が…。モードは夫からの暴力に逃げるべく、この機に必死に乗り込んで逃避行を図ろうとしていたのでした。赤ん坊の父であるクエイドも知らずに…。

そういう設定がある以上、モードは男性に強いトラウマがあるのが察せられます(そんなに視覚的に描写しないのでトラウマを刺激する危険性はあまりない作品だとは思う)。そんなモードはあんな男社会の具現化のような爆撃機の中で男たちに囲まれ、卑猥で蔑視な言葉や同性愛差別やらあれこれ耳にしながら、なおかつ狭い場所に押し込められる。このシチュエーションがもうひとつの女性差別の暗示になっていますね。

で、そのモードがついにグレムリンを倒すことを決意する。あのおぞましく醜悪なグレムリンはそれこそ女性差別の化身ですよ。

モードはボールターレットから無謀にも飛び出して単身で戦闘開始。ここからの映画の解放感が気持ちいです。機内にあがるとここでカナダのパンクバンド「Duchess Says」の「Tenen non neu」という曲が軽快にノリノリでかかり、ちょっとエンタメ度が増すのもいい演出。パニックになっている男たちに的確に指示をだし、日本戦闘機とグレムリンを同時に相手してぶっ倒し、不時着にも成功させます。

そして陸地で最後の悪あがきでグレムリンがまたも襲来。でももうモードは戦士。「お前なんてなんとも怖くない!」と言わんばかりの超肉弾戦でギッタンギタンに打ちのめすパワーファイトが勇ましいです。

こうしてモードは内なる恐怖(男性社会の抑圧)を克服したのでした。セクシュアル・オブジェクティフィケーションの象徴である機体のセクシー女性絵が燃え上がり、モードが倒した存在があらためて強調されます。

戦争を土台にしたジャンル映画ではありますが、『シャドウ・イン・クラウド』のモードは国のために戦っているわけでもなければ、保守的な家族観のために戦っているわけでもない。完全に女性の尊厳のために戦っている。この一貫した姿勢が本作にあるのがカタルシスなんだと思います。

あのクエイドとの関係もベッタベタな恋愛にしないのがいい。あそこでロマンスを前面に出すと台無しですしね…。

今回のあのラストの痛快なバイオレンスは“クロエ・グレース・モレッツ”ならば『キック・アス』を連想するところですが、その『キック・アス』は“少女”性をやや搾取的に利用していた側面もあったわけで、それに対する『シャドウ・イン・クラウド』はカウンターパンチがガンガン刺さります

現実の戦争は女の顔をしていないかもしれないけれど、フィクションでくらいは女が女のために感情全開で戦ったっていいんじゃないですか。

『シャドウ・イン・クラウド』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 77% Audience 32%
IMDb
4.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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作品ポスター・画像 (C)Atarangi Kiriata Limited 2020 シャドウインクラウド シャドー・イン・クラウド シャドウ・イン・ザ・クラウド

以上、『シャドウ・イン・クラウド』の感想でした。

Shadow in the Cloud (2021) [Japanese Review] 『シャドウ・イン・クラウド』考察・評価レビュー