私が決める…「Disney+」ドラマシリーズ『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2025年)
シーズン1:2025年にDisney+で配信
監督:キム・ジョンヒョン
はいぱーないふ やみのてんさいげかい
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』物語 簡単紹介
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』感想(ネタバレなし)
医療ドラマは見せかけです
なんか中二病臭いタイトルだな…というのが最初の印象でした。
本作『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』のことです。
「ハイパーナイフ」というだけで仰々しいのに、邦題はそこに「闇の天才外科医」ってつけてしまいましたからね。まあ、さすがに副題は余計かなと思いますけど、実際に観てみると、そうタイトルにしたくなるのも頷ける作品ではありました。
この『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』は2025年の韓国のドラマシリーズで、タイトルからも察しがつくように、外科医を主人公にした医療ドラマです。
しかし、そんじゃそこらの医療ドラマではありません。
主人公の外科医は「脳手術」が専門で、一流の腕前なのですが、倫理的に危うい行為に手を染めていきます。
これだけだと『ブラック・ジャック』みたいですし、私も鑑賞前はそういう感じなのかなと予想していましたが、もっとえげつないほどにヤバかった…。
詳細をネタバレしないように言うと、医療ドラマという枠で本作を捉えないほうがいいかもしれません。クライム・スリラーのジャンルだと思ってください。とりあえず2話まで観ればどういうことなのかすぐにわかります。
主人公は若い女性の外科医なのですが、その主人公の大学時代の指導者であった、こちらも天才外科医と世間で評される年配の男性。この2人の師弟関係がこのドラマの主軸になっています。2人はある出来事をきっかけに激しく対立し、徹底的に決別したかに思えましたが、そうやすやすと縁が切れるような師弟ではなかったのです。
かなりフィクションに振り切った作品ですけども、一応は韓国の時勢を反映している部分もあります。2024年から2025年にかけて韓国は医療危機が社会問題化しています。これは医師不足や医療誤診などの諸々の問題を受けての政府対応に端を発するのですが、政府が医療業界と対決する姿勢を鮮明にしたことで、医療改革における信頼と協力が失われ、先行き不透明に陥っている…という状態のことです。
まあ、肝心のその医療改革を主導していた尹錫悦大統領が非常戒厳の宣布による暴走で自滅し、内乱容疑により現職韓国大統領として拘束・逮捕・起訴された史上初の韓国大統領となって、2025年4月4日に大統領弾劾成立により罷免されたばかりなので、今後の韓国の医療への政策がどうなるかもあやふやになってしまいましたけど…。
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』はそんな医療に対する不安定さを投影するかのように、ある意味で既存の医療業界に交じり合えない2人の異様な師弟を映し出し、全く予想のつかない展開の連続で視聴者の目を釘付けにしてくれます。
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』で主演する2人は、まずひとりは、自閉スペクトラムの弁護士を魅力たっぷりに演じて世界でも話題になったドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の”パク・ウンビン”。今回はまたキャラクターがガラっと変わりますが、それでも”パク・ウンビン”の器用な演技力が輝きまくっています。
もうひとりの主演は、ベテランの“ソル・ギョング”。『殺人者の記憶法』や『キングメーカー 大統領を作った男』など複雑な内面性を持ったキャラクターを演じさせれば右に出る者はいない名優ですが、今作も見事としか言いようがないです。
”パク・ウンビン”と“ソル・ギョング”を上手く組み合わせることに成功した時点で、このドラマの勝ちは決まったようなものでしたね。
共演は、ドラマ『今、私たちの学校は…』の“ユン・チャンヨン”、『デシベル』の“パク・ビョンウン”など。
監督はドラマ『クレイジーラブ』の“キム・ジョンヒョン”、脚本はドラマ『神のクイズ:リブート』の“キム・ソニ”が手がけています。
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中で、全8話(1話あたり約60分)です。
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 生々しい外科手術の描写があります。 |
キッズ | 残酷な描写があります。 |
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
雨降りしきる真夜中、物々しい数の黒服の者たちが傘を差して周囲に目を光らせる中、1台の救急車がやってきます。その中から担架で寝て現れたのは全身に刺青のある裏社会の大物の男キム・ドゥボンです。ひと気のない廃寺の奥まった場所に運ばれ、そこには臨時の手術スペースが設営されていました。
さらにそこにやってきたのは、チョン・セオクという若い女性。彼女は医師です。表では手術を受けられない人物でも対処する外科医でした。脳から腫瘍を取り除く非常に困難な手術を開始し、途中で患者が覚醒し始めるも、冷静さを保ち、見事に成功させます。
一方、別の場所。大病院の最新の手術室では大勢の重鎮が神経外科のチェ・ドッキ教授という年配の男性外科医の行う手術を見学していました。ドッキも圧倒的な実力の持ち主であり、医療業界ではその名は知れ渡っています。今回も難なく成功させます。
手術終了後、訪問してきた警察が話があるとのこと。何でも捕まえた犯罪者の持っていたデータの中に違法手術とみられる様子をおさめた動画があったのです。この最難易度の脳手術ができるのはドッキ教授くらいのはず。
しかし、警察には言いませんでしたが、もうひとりだけ可能性がある人物がいました。セオクです。実は昔の教え子でした。何か思い立ったドッキはラ女史に電話し、ミンという名の違法な手術ブローカーを探すように頼みます。
セオクは手術を終え、ひと眠りした後、疲れた体を起こしていました。傍にはソ・ヨンジュという若い男がいて、彼は以前にセオクに手術で救われた経験があり、今は彼女のサポートをしています。手術したキムの容態も良好のようです。
手術に参加した看護師の女がセオクに近づいてきて、ドッキとのある噂を知っていると匂わせます。かつての師であるドッキと揉め、医療免許を剥奪された件です。セオクにとっては屈辱的な過去であり、看護師はカネ目当てで揺さぶりをかけているようですが、今は無視します。
セオクはキムをこちらもよく一緒に仕事をする麻酔科医ハン・ヒョンホに任せて見送ります。そして独りになった後、何の躊躇もなく自分にたてついた看護師を締め殺すのでした。
遺体を近くに埋めて隠し、今回の仕事は終わります。
そんなセオクの前にドッキが現れます。久しぶりの再会。ドッキはおもむろに口を開き、自分が病気で、脳幹神経膠腫を患っていることを認めます。セオクに手術してほしいとのことです。突然のことに困惑しますが、すっかり弱り切ったドッキを見ていると、かつての屈辱の感情が蘇ります。
復讐心が疼き、セオクはドッキの薬を高笑いしながら踏みつぶし…。
常軌を逸した2人だけの世界

ここから『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』のネタバレありの感想本文です。
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』で中心となるセオクとドッキ。立場上、教え子と指導者という年齢も男女もハッキリ分かれているので、善と悪の対立が明示されるのかと当初は思わせますが、全くそんな単純な話ではありません。
善悪のグレーゾーンとか、そんな次元ですらないです。本作はその常軌を逸したパーソナリティーを1話1話で明かしていく展開がスリリングで上手かったですね。
医師免許を剥奪されて大学病院を追い出されたセオクは薬局で働きつつ闇医者として裏社会で表向きの正規医療を受けられない人向けに手術を提供しているのですが、一応は「人を救いたい」という倫理観があるのかなと思いきや…。このセオク、本当に利己的で、あくまで「自分の手術の才能を証明したい」というその一心しかないんですね。患者はその道具です。「手術しながら死ぬのが夢」と言い切るくらいに自分に陶酔しています。
そのうえ、自分の手術の妨害となる者は結構躊躇いなく殺害するという性質の持ち主で…。第2話の看護師殺しは初犯ではなく、学生時代から以前にも人を殺しており、もはやシリアルキラーです。殺すこと自体が目的ではないにせよ、倫理的には壊滅的です。
犬だけは可愛がってましたが…(生きていて良かったね)。
この素顔が判明すると、ドッキがセオクをビンタで追い出したのは正解だったのではと思ってしまうのですが、第3話から第5話にかけてドッキにも裏の顔があることが明らかに…。
最初はドッキはセオクの殺人傾向を黙認していたという同情的共犯の一面をみせますが、衝撃的な自身の行為が暴露されていくと評価は一変します。ドッキはキム・ミョンジンという医療界のこちらも大物をその手で殺めて、死を隠蔽していました。「手術室では誰も殺さない」というドッキの一見すると善良な職業信念は、そのまま「手術室“外”だったら、まあ、殺してもいいか」という考え方ともとれるわけで…。
つまり、セオクもドッキも相当に外科手術狂いのサイコパスなのでした。第5話にてセオクとドッキの同質的な殺人衝動を映像でみせていく演出が良かったですね。
あえて違いを見つけるとすれば、ドッキのほうが冷静かつ計画的で、セオクはまだ殺人に関しては未熟で衝動的だということです。このセオクの殺人者としての危なっかしさがまた物語にスリルを生んでいて絶妙なんですよね(ドッキもハラハラしている)。
ドッキは演じているのがなにせあの“ソル・ギョング”ですから、殺人者としての貫禄というか凄みもたっぷりで、イ・ワンイル刑事を殺すのもそりゃあ楽勝だなと納得です。田舎から努力で成り上がったという人生の過去も、この殺人者の側面を知ってしまった後だと、「その過程で数人くらい誰か殺したんじゃないだろうか…」と疑ってしまうのも無理ないレベル…。
なんだこのツンデレ師弟…
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』が面白いのは、このサイコパスな殺人者でもあるセオクとドッキが互いに殺し合うわけでもないということ。むしろこの2人は相思相愛なのです(恋愛感情ではないですが…)。
第6話のカルト教団のキム・ウンテの手術を2人のタッグでやることになる展開からは、セオクとドッキが急にツンデレのモードへの移行をし始めるので、ちょっと一周回って笑ってしまいますよ。
ドッキが「感謝している、誰かに教えることがこんなに楽しいものとは思わなかった」と不器用に褒めちぎり、セオクも律儀に頭を下げ、この2人は急接近で関係修復。
さらにドッキがセオクを追い出した理由が「手塩にかけた愛弟子が腐った医療界に奪われるのが嫌だったから」という庇護欲であったことが明らかになり、そのうえ、病に侵されて余命わずかの自分について、可能な限り手術が難しい状況まで容態を悪化させて、セオクに挫折を経験させたいという最終目標まで明るみになります。「私が飛べなかった次の段階に行かせてあげたい、救いたい誰かを殺してしまったときこそ限界を超えられる」と自論を語るドッキに対して、「絶対に手術を成功してやる」と俄然闘志を燃やすセオク…。
なんでしょうね。完全に一般人は蚊帳の外のサイコパスにしか共鳴できない空間が出来上がってます。凡人枠のソ・ヨンジュとハン・ヒョンホが「何言ってるんだこのバカ師弟は…。でも止められる次元でもないしな…」と半ば呆れ半ば畏敬で傍観するしかないのがなんとも…。
殺人さえしなければ、2人で勝手にやっていてくれよ…と言いたくもなる。
今度はセオクがヤン・ドンヨン刑事を殺してしまい、ドッキが駆けつけて、以前と違ってセオクが素直に「手伝ってください」と言って、思わずその言葉に2人で笑い合うという場面。可愛らしいシーンとして振る舞いつつ、ゾっとする非倫理的なことが起きている現実を無かったことにするその異常さ。あの2人を象徴する構図でした。
年配のサイコパスが若いサイコパスをサイコパスらしい歪んだ愛を注いで育てるという、それを学問的な「指導者&教え子」の構造の中で表現する…このありそうでなかったジャンル的な見せ方。ここを一点突破でじっくり見せてくれただけでも本作は大発明だったと思います。
医者のサイコパスは別に珍しくもない(むしろよくある)ですし、「ハーレイ・クイン」と「ジョーカー」みたいに医者と患者の関係でサイコパスが共鳴する事例もありましたけど、『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』は医療の本分は果たしつつ、有害な関係一辺倒に染まらずに絶妙な愛嬌をともなって2人だけの世界を構築してみせますからね。
『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』は医療&クライム・スリラーの新たな代表作になったと思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2025 Disney
以上、『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』の感想でした。
Hyper Knife (2025) [Japanese Review] 『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』考察・評価レビュー
#韓国ドラマ #医療 #殺人 #シリアルキラー #サイコパス