ドラキュラのハラスメントが辛いです…映画『レンフィールド』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年に配信スルー
監督:クリス・マッケイ
ゴア描写
レンフィールド
れんふぃーるど
『レンフィールド』あらすじ
『レンフィールド』感想(ネタバレなし)
虐待する奴に日の光を!
統計によれば、アメリカの女性と男性のほぼ半数(女:48.4%、男:48.8%)が、生涯で親密なパートナーからの心理的虐待(精神的虐待)を経験しています(The Hotline)。
虐待というと、どうしても「大人から子どもへ」というようなわかりやすい体格差の関係性で、暴力をともなうものという印象が強いです。しかし、大人でも虐待の被害者になりますし、性別も関係ありません。直接的な接触がなくても虐待は成立し、それはとくに心理的虐待と言われています。
例えば、「無視する」「除外する」「威圧する」「否定する」「軽視する」「苦痛を与える言葉を浴びせる」「苦痛な状況に追い込む」「思いどおりにマインドコントロールする」…さまざまなかたちの心理的虐待があり、その多くで加害者は被害者を服従させてしまいます。
服従というのは当人にはその状態が自覚しづらいこともあり、「この人(加害者)がいないと私はダメなんだ」と思わされてしまう場合もあって、そうなってくるとむしろ被害者は加害者との依存関係を深めてしまいます。そうやって自分が傷ついている状態を継続させ、状況は悪化の一途をたどります。
この心理的虐待を題材にした映画はこれまでいくつもありましたが(最近だと『アシスタント』など)、ちょっと題材が題材なだけに重すぎて、なおかつ実際の被害経験者にとってはフラッシュバックをともないかねないので、良作であってもオススメしづらい難点もありました。
でも今回紹介する映画はわりと見やすいと思います。
それが本作『レンフィールド』です。
本作は心理的虐待を一風変わったアプローチで扱っているのが何よりの特徴。主人公はそんな心理的虐待に長年苦しんでいるのですが、その虐待をしてくる存在というのが「ドラキュラ」なのです。はい、あのドラキュラ。“ブラム・ストーカー”の恐怖小説『吸血鬼ドラキュラ』でおなじみのアイツです。
本作の主人公はドラキュラの手下です。名前はレンフィールド。『吸血鬼ドラキュラ』にでてくるキャラクターの名前です。
つまり、この映画『レンフィールド』は、現代社会の問題である心理的虐待の怖さを「ドラキュラ」というレンズを通して、あえて戯画化し、コミカルでジャンルっぽく見た目を変えつつ表現してみよう…そんなコンセプトで成り立っています。
なので基本的にコメディ映画のノリになっており、めちゃくちゃアクションも盛沢山で、遊びまくりな作品です。けれども心理的虐待のグループセラピーを受けながら懸命にこの服従から抜け出そうとする主人公の苦悩はしっかり描かれており、笑えながらも大事な要点は押さえつつ、最後はスカっとする…そういう立ち位置になっています。「真面目な専門解説書」というよりは「ストレスを解消する道具」って感じの映画ですね。
ゴア描写もありますが、生々しい残酷さというよりは、作り物感をわざとだしまくった派手な血しぶきがメインです。
これ以外にも似たコンセプトとして『スラムドッグス』(こっちは犬が飼い主の虐待を自覚して反逆する)があったりと、最近はバリエーション豊かですね。
この映画『レンフィールド』で、主人公を演じるのは“ニコラス・ホルト”。『ザ・メニュー』やドラマ『THE GREAT エカチェリーナの時々真実の物語』など、クソ野郎の演技にも定評がある彼ですが、今回は可哀想な役。でもどちらでもほっとけない愛嬌がありますね。
その“ニコラス・ホルト”演じる主人公を振り回すドラキュラを演じるのが、まさかの“ニコラス・ケイジ”。『マッシブ・タレント』に象徴されるように俳優自体が愛されキャラな“ニコラス・ケイジ”ですが、今作では徹底して最低な主人を熱演。なんでも“ニコラス・ケイジ”はドラキュラを一度はやってみたかったらしく、この仕事にも飛びついたのだとか(大手スタジオの映画にでるのは2012年の『ゴーストライダー2』以来らしいのでよほどやりたかったんでしょう)。だからなのか今回はすっごくノリノリです。
その他の共演は、『フェアウェル』『シャン・チー/テン・リングスの伝説』の“オークワフィナ”、ドラマ『スペース・フォース』の“ベン・シュワルツ”、ドラマ『エクスパンス -巨獣めざめる-』の“ショーレ・アグダシュルー”など。
映画『レンフィールド』の監督は、『レゴバットマン ザ・ムービー』で長編単独監督デビューした“クリス・マッケイ”です。
『レンフィールド』は日本では残念ながら劇場未公開で配信スルーになってしまったのですけど(ハロウィン映画としてもぴったりなのだから映画館で観たかった…)、とりあえずムシャクシャしたときに鑑賞すると良いでしょう。
嫌な相手の顔を思い浮かべて、そいつは陽の光にあたると焼け死ぬと想像しながらね…。
『レンフィールド』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ストレス解消に |
友人 | :気持ちよく鑑賞 |
恋人 | :信頼できる人と |
キッズ | :血はいっぱいだけど |
『レンフィールド』予告動画
『レンフィールド』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):モンスターみたいな主人
アメリカのニューオーリンズ。ここの一角で虐待被害者支援のグループセッションが行われていました。「あの人はモンスターで…」と参加者は自身のトラウマとなった経験を赤裸々に語っています。夫、恋人、上司…加害者はいろいろ。
その参加者の椅子が輪を作る中に、レンフィールドも座っていました。彼にとっての虐待をしてくる相手…それは自分が仕えているドラキュラ伯爵でした。
レンフィールドはドラキュラのサーヴァントです。かれこれかなりの年数をこのドラキュラに捧げてきました。しかし、こき使われるだけで、いつの間にかそれが当たり前になっていました。
虫を食べると驚異的なパワーとスピードを獲得できるレンフィールドは主人のピンチには絶対に駆け付けるように命じられています。ある日のときもそうでした。吸血鬼ハンターに囲まれて封印されてしまったドラキュラのもとに行きましたが、そこで一瞬「ドラキュラが倒されれば自由になれる」と考えてしまいます。
しかし、「お前も殺されるぞ」と言われて、結局助けてしまうのがいつものオチ。この日はたまたまうっかり窓が開いてしまい、日光をもろに浴びてドラキュラは瀕死の重傷を負ってしまいました。そこで今はニューオーリンズに隠れ住んでおり、レンフィールドは悩んでいるというわけです。
疲れ切っている状態で、このグループセラピーに流れで参加してしまったレンフィールド。「自分の物語を語ってごらん」と促され、どうせなら悪い奴をドラキュラに献上しようと思いつきます。
そこでドラッグ絡みのチンピラどものアジトに行き、人間相手なら造作もないほどの身体能力で次々と倒していきます。大男に苦戦しかけますが、虫のドーピングで大幅に強化。頭を吹っ飛ばします。外の車で待っていたギャングの幹部のテディ・ロボは一目散に逃走してしまいました。
近くでレベッカ・クインシー巡査と相棒のクリスが飲酒運転の取り締まりをしており、そこにテディの車が通りかかり、大量のコカインが車内にあったので走って逃げようとするもレベッカは捕まえます。
レンフィールドは主人にチンピラの死体を持っていくも、「こんなものは食えん」とドラキュラはご立腹。「罪のない純真な人を用意しろ」と怒り、口ごたえするレンフィールドの腹を切り裂くと、命令を聞けと脅し、血で傷口を治します。
警察署ではレベッカは父をギャングに殺された過去があるので、このギャング撲滅に張り切っていましたが、テディは弁護士の助けであっさり釈放されてしまいました。悔しくて妹のFBIのケイトにあたるしかできません。
一方、テディはギャングのトップで母のベラのもとへ行き、レベッカを殺せと命じます。
レストランでレベッカの前にテディが現れ、一触即発の中、レベッカは「撃ってみろ」と動じません。そんな姿を目撃したレンフィールドは思わず助けてしまい、「命を救ってくれてありがとう」と言われて、これは悪い気持ちじゃないと気づきますが…。
レンフィールド~、がんばれ~!
ここから『レンフィールド』のネタバレありの感想本文です。
『伯爵』みたいに独裁的で傲慢な権力者を吸血鬼に例えるアイディアはそこまで珍しくないですが、この『レンフィールド』はほぼ『吸血鬼すぐ死ぬ』並みのドタバタ劇。“ニコラス・ホルト”が”ニコラス・ケイジ”をぶっ倒すまでの約90分の軽めのエンタメ・ショーです。
まず序盤で白黒で描かれるのは、レンフィールドとドラキュラとの出会いの歴史回想ですが、これはわざわざ『魔人ドラキュラ』(1931年)の映像に“ニコラス・ホルト”と”ニコラス・ケイジ”を合成で当てはめて作り込むという遊び心で、ユニバーサルだからできるネタでした。“クリス・マッケイ”監督は本作を『魔人ドラキュラ』の続編のつもりで作っているらしいですけど、続編というか、盛大な公式パロディですよね。
クラシカルなシネフィルでもある”ニコラス・ケイジ”ですから“ベラ・ルゴシ”を相当に意識しながら演じているのでしょうけど、ここまでくるとその熱演がもうギャグみたいなことになってくるので、まんまと笑ってしまいます。
対するレンフィールドですが、今作では完全にアクションヒーローみたいな存在感です。虫を食べれば(本当にそこらへんの虫なら何でもいいのがズルいけど)たちまち超人化して、大暴れできますからね。要するに本当はひとりでもかなり強いし、全然やっていける人間なのです。
でもクソな主人のせいで自分を過小評価しているレンフィールド。今作ではこの苦しさでいっぱいいっぱいになっているレンフィールドを観客は「頑張れ~」と優しく見守りつつ、一緒に愚痴を言ってあげる、疑似応援映画です。心理的虐待からの脱出には周囲の支えが必要ですが、今回は私たち観客がその役目を担います。プリキュアにエールを送るような感じで、“ニコラス・ホルト”に声援を届けてあげましたか?
というか今作のレンフィールド、なんかちょうど今やっている『ひろがるスカイ!プリキュア』の敵キャラでこんなそっくりなポジションの奴、いるよね…。
残念かな、先駆者がいた
悲しいことにこの映画『レンフィールド』の世界にはプリキュアは助けにきてくれないのですが、こちらも腐った組織に属してうんざりしている警官のレベッカと出会えたことで、レンフィールドに好機が訪れます。
そこからは怒涛の解決。コカインで円を作って封印し、無抵抗のドラキュラをボコボコの細切れにし、死んじゃった善人は血で復活。近年まれにみるすごい力技のハッピーエンドだった…。
90分のコメディ映画としては程よいさじ加減の『レンフィールド』だったと思います。でも多少の雑さは確かにあります。
心理的虐待を風刺するという方向で持っていくと思ったら、思いっきりアクションにも振り切るのでさすがに落ち着かないですし、もっとテーマに寄り添った方がいい気もしました。
コメディをやるなら、ウェルカムマットを敷いていたから部屋に入れちゃったみたいな吸血鬼ギャグをたくさん盛り込んでほしかったというのもあります。
短い物語であるにもかかわらず、ギャングに警察にと、関係者を増やしすぎたのは、全体のまとまりのなさに拍車をかけたかもしれません。
でも本作の一番の難点は、吸血鬼から虐待を受けて苦しんでいる人物を主役にして、コメディタッチでやりたい放題に描きまくるというスタイルの先駆者がもういるってことです。『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』という、圧倒的で突出したトップランナーが…。
とくにドラマ『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』は、力の不均衡を風刺するだけでなく、人種もジェンダーも政治も何でもひっくるめてしまうという懐の広さを見事に示しており、なおもシリーズ継続中なので、勢いでは完全にこの『レンフィールド』は負けています。
せめてヒールからヒーローへというレンフィールドの成長をもっと斬新なプロットで表現できていれば良かったのですが、レベッカというキャラクターの扱い方もイマイチ物足りなかったですね。せっかく“オークワフィナ”が演じているのですから、潜在的な引き出しはいくらでもあるだろうに。
二番煎じになっていなかったら…もう20年前くらい前に公開されていたら、この『レンフィールド』はカルト的な支持を集めたでしょう。まあ、20年前だと“ニコラス・ケイジ”が絶頂期から大不調期へと転落する初期のあたりなので、この映画のせいで“ニコラス・ケイジ”のキャリアがどうぶれるのかはちょっと保証できませんが…。
とりあえず楽しそうな“ニコラス・ケイジ”のドラキュラが見れたし、良しとしようか。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 58% Audience 79%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
吸血鬼を題材にした映画の感想記事です。
・『ドラキュラ デメテル号最期の航海』
・『モービウス』
・『ブラッド・レッド・スカイ』
作品ポスター・画像 (C)2023 Universal Studios. All Rights Reserved.
以上、『レンフィールド』の感想でした。
Renfield (2023) [Japanese Review] 『レンフィールド』考察・評価レビュー