野生動物保護の最前線は戦争だった…ドキュメンタリー映画『アイボリー・ゲーム』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:オーストリア(2016年)
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信
監督:Kief Davidson, Richard Ladkani
あいぼりーげーむ
『アイボリー・ゲーム』物語 簡単紹介
『アイボリー・ゲーム』感想(ネタバレなし)
アフリカの野生動物保護に関心ある人へ
某質問サイトでは子どもか学生だと思われるユーザーからこんな疑問が書かれていました。
「アフリカで野生動物の保護に興味があります。どんな仕事があるのですか?」
この質問に映像で答えてくれる映画があります。それが本作『アイボリー・ゲーム』です。
Netflixオリジナルのドキュメンタリー作品である本作がメインで取り上げるのは、アフリカといえばこの動物、アフリカゾウ。アフリカゾウは以前から密猟の対象となってきました。その理由は「象牙」。成長すると最大3mを超えるアフリカゾウの牙は、その美しさから長らく芸術的価値がある素材として取引されてきました。経済的貧困に苦しむアフリカでは、この象牙が注目されないわけがありません。今や組織的な闇流通ネットワークが国際規模で形成されています。
本作ではそんな象牙を狙う密猟者からアフリカゾウを守るべく、世界各地で奮闘する人々に焦点を当てています。こんなにもリアルに野生動物保護を担う仕事をする人物にカメラが迫った作品もなかなかないでしょう。日本の普通のファミリー向け動物番組だと、ゾウの生態を紹介しながら、あくまで優しく親しみやすく動物保護を呼びかける程度ですが、本作は正反対。どちらかといえば戦争ドキュメンタリーに近いです。潜入、盗撮、怒号、銃声…緊迫感ある映像が繰り広げられます。
本作は、『レヴェナント 蘇えりし者』でアカデミー主演男優賞をついに見事受賞したレオナルド・ディカプリオが製作総指揮をつとめています。『レヴェナント 蘇えりし者』ではクマと激闘していたディカプリオですが、本来の彼は自然保護に熱心な人です。自身が主演して大ヒットとなった『タイタニック』公開の翌年に設立した環境保護財団「レオナルド・ディカプリオ財団」は、去年は総額1500万ドル(約18億5000万円)を環境保護運動に寄付すると発表していました。この作品もそうして作られたものです。ちなみにこの作品中でディカプリオは登場しませんので、あしからず。
アフリカの野生動物保護の最前線を知りたい人は、必見です。
『アイボリー・ゲーム』予告動画
『アイボリー・ゲーム』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ゾウが消えている
過去5年間で15万頭以上のゾウが象牙のために殺されました。西アフリカと中央アフリカのゾウが激減し、密猟は東部と南部に拡大。中国に密輸入されて加工された象牙は高級品として高額で取引されます。このまま象牙取引が続けばアフリカのゾウは15年以内に絶滅する可能性があります。
ケニア南部のチュールヒルズ。このサバンナが広がる地球上で最も雄大な大地。そこでワントンという像を探す男。彼はケニアのビッグ・ライフ基金の警備責任者のクレイグ・ミラーです。
群れは見つかるものの、ワントンがいません。必死になって周辺を捜索すると、無事に発見。ワントンは大きな像で、牙も巨大。密猟者が命をかけて欲しがるほどに…。いつ狙われてもおかしくはないのです。
夜、銃声の報告があったので急いでジープを走らせます。明らかに何かがありましたが、すぐには確認できません。なにせここはサバンナのど真ん中。街灯があるわけでもないのです。車の明かりしか頼りになりません。
密猟者が近くにいる危険性もあり、重武装のチームで探索します。もし交戦することになれば躊躇なく相手を撃たないといけません。それはつまり自分の命も失う可能性があるということ。それでもみんなは歩む足を止めません。この広大な土地で死骸を見つけるのは何週間もかかりますが、根気だけが支えです。
一方、アフリカのタンザニア。武装した集団が夜間に集落に突入します。軍事作戦が行われているわけではありません。これは密猟の取り締まり。ここには犯罪シンジゲートを取り仕切っている悪名高き「ゾウの殺し屋」であるシェタニの情報を求めて捜索を開始しました。
ケニアとタンザニアの国境にあるツァボ国立公園。すでに息絶えたゾウの死骸が転がっています。無残な惨状です。ゾウの家族は皆殺しでした。密猟者はゾウの絶滅を望んでおり、ゾウが減れば象牙の価値はさらにあがります。
タンザニア捜査当局諜報機関長エリシファ・ンゴウィはシェタニを追います。彼一人のために1万頭が犠牲になっており、その存在はこの象牙違法ビジネスの中心です。彼を押さえれば不正を根こそぎ検挙できます。しかし、それは一筋縄ではいきません。今日は60歳代のマサイ族の男が捕まりました。狩った本人に与えられる報酬はたったの6%。残りは全部シェタニが懐に収めています。このように逮捕できるのは末端の貧しい労働者だけなのです。
また、中国の北京では別の動きもあります。高級ショップで巨大な象牙が堂々と売られており、33万ドルの高価なものまで。ワイルドリークス捜査責任者のアンドレア・クロスタは「中国には象牙の合法市場があり、中国政府が許可するものだけ取引される。しかし、それは5トンだけ。なので違法象牙に市場は頼り始める。違法を合法に見せかけてロンダリングできるようになる」と解説。
それを取り締まろうにも、象牙ビジネスで権力者は荒稼ぎし、政府や警察を買収しているため誰も信用できません。ネットでの情報連絡も慎重になり、匿名を確保できるTorブラウザを活用。内部告発の映像を確認します。
活動家のホンシャン・フアンは子どもの頃から動物を守りたかったのでアフリカで中国人の潜入ジャーナリストとして身を投じることにしました。ウガンダの大物密売人に近づき、象牙のある場所を見つけ出す作戦です。まだ経験は浅いが情熱はある彼は、とてつもなく危険な瞬間に緊張していました。それでもなんとか逮捕することに成功。「まさか中国人が正義の側につくとは思っていない」…そう彼は自虐的に言います。
人生をゾウに捧げる人間たち。すべてはゾウを守るために…。
ゾウを守るのは、兵士?スパイ?
野生動物を守る仕事に「LOVE&PEACE」なイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。動物を愛でて、治療し、自然に帰すみたいなものが真っ先に連想されます。もちろん、そういう仕事もあると思いますが、本作で描かれる内容は全く違いました。それこそ、野生動物を守る仕事にふわっとした印象しか抱いていなかった人にはショックでしょう。「イラクの紛争地帯での活動です」と嘘ついて本作の映像を見せてもバレないんじゃないかというくらいの過激なシーンが繰り広げられていました。
本作で印象に残るであろう登場人物が二人います。
ひとりは「ワイルドリークス」という自然保護団体の男性。ただ、雰囲気としては自然保護団体というよりは完全に民間軍事企業みたいです。闇夜に車を走らせ、ライフルを手に、こちらも銃で武装した密猟者を相手にする物々しい様相は、自然保護のイメージを覆します。ときに、農場に侵入したゾウを殺そうと殺気立つ農民をなんとかなだめる彼に、慈善とかの印象はゼロ。危険が充満する土地で必死に抗う兵士といった感じです。
もうひとりは中国人のジャーナリストの若い男性。自然保護に関わりたいと言って、ジャーナリストという職業を想像する人は少ないでしょうが、これもまた立派な自然保護に関われる仕事です。ただ、彼の場合は相当な危険に踏み込んでいました。おとり潜入して密売人と接触するなど、まるでスパイです。彼は中国が象牙最大市場であることを承知だからこそ、中国人の自分が中国を良くしたいという強い使命感を持っていました。彼をチョイスするあたり、この作品の面白いところだと思います。彼を描くことで、特定の国批判だけの作品にならないように、多様な視点を揃えることができています。
その一方で、本作のちょっと気になった点として、多様な視点を描くために登場人物がコロコロ変わるので、観ている側としては追いかけづらい印象も受けました。
ただ、個人的に願わくば「日本」についても取り上げてほしかったところ。本作には日本は登場しません。しかし、中国が最大の象牙市場となる以前は、日本が最大の象牙市場でした。象牙を何に使っていたのかといえば、それは印鑑です。1970年から1989年までに日本が輸入した象牙は5000トン(約25万頭のゾウに相当)に上るそうです。象牙が規制された現在でも、日本に密猟された象牙が出回っているといいます。某ネットショッピングサイトには、象牙の印鑑が大量に販売されていますが、たいていは「政府認定」とか「認定書付」と書いてあります。ところが、これらは偽装書類によって合法的であるかのように偽っているケースが少なくないという調査機関の分析があります。それに日本政府は国際社会が求める象牙の国内取引禁止には消極的な姿勢を表明しています。日本もじゅうぶんに本作で描く価値があると思うのですが…。
親日のレオナルド・ディカプリオも、遠慮しないでもっと日本にガツンと言っていいんですよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 74%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
関連作品紹介
自然や野生動物に関するドキュメンタリー作品の感想記事です。
・『オール・ザット・ブリーズ』
・『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』
・『チェイシング・コーラル 消えゆくサンゴ礁』
作品ポスター・画像 @Netflix アイボリーゲーム
以上、『アイボリー・ゲーム』の感想でした。
The Ivory Game (2016) [Japanese Review] 『アイボリー・ゲーム』考察・評価レビュー