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『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』感想(ネタバレ)…SDGsの前にこれを観よう

偽りのサステイナブル漁業

SDGsを語る前にこれを観よう…Netflixドキュメンタリー映画『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Seaspiracy
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:アリ・タブリージー

Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業

しーすぴれーしー いつわりのさすていなぶるぎょぎょう
偽りのサステイナブル漁業

『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』あらすじ

海はあらゆる生命を育む神秘の場所。多種多様な生き物が海のおかげで繁栄している。そんな愛する海の生態系を守りたい。その素直な思いでカメラを手にしたひとりの男がいきついたのは、綺麗な海に覆い隠された汚い人間社会の闇だった。人間が海洋生物にもたらした弊害をカメラに収め始めると、次々と露わになる衝撃の情報。人間はこの地球の海を持続的に利用することなどできるのだろうか。

『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』感想(ネタバレなし)

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SDGsって何だよ!という人へ

あっちへ行っても、こっちへ行っても、SDGs、SDGs、SDGs…。なんか急によく目につくようになった気がする「SDGs」という聞きなれない言葉。

検索ワードの傾向を調べることができる「Google Trends」によれば、2017年頃から徐々に「SDGs」の検索数が増え始め、2020年になると急上昇を見せていることがわかります。みんな気になって調べてたんですね…。そしてやっぱり最近のことのようです。

あまりにSDGsがどこでも目に入るので、もう映画のタイトルとかにもつきそうな勢いです。『ワイルドスピード SDGs』とか…。

この「SDGs」とは何か。「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。もともと「持続可能な開発(sustainable development)」という概念があり、これは1980年代あたりから使用され、1990年代には一般化していました。私も大学では環境問題を学んでいたのでこの言葉も知っていました。要するにすごく雑に言うと「やりたい放題に開発しまくると大問題になっちゃうから、やりすぎない程度に抑えてほどほどに開発しましょうね」ということです。

この「持続可能な開発」が2015年に国連で採択されたアジェンダに基づき、国際目標が設定されたことで「SDGs」となったわけです。だから目新しい概念ではなく、まあ、リブートみたいなものです(この説明でいいのか?)。

SDGsは17の世界的目標、169の達成基準、232の指標があるそうです。そんなに!?という感じなのですけど、中身は貧困、飢餓、教育、ジェンダー、環境保護などあらゆる分野にわたり、ほぼ網羅しています。2030年に向けた具体的行動指針なので、これらについて各国は改善しようねと宿題を出されたかたち。なので国としてはメンツを守るためにもこのSDGsを推進しないといけないのです。

ただ、だからといってSDGsという言葉だけ流行らせても何も意味はないのは誰でも察しがつきます。肝心なのは本当に意味ある成果を出せるのかということです。

その点においてこの「持続可能」という言葉は実は要注意ワードでもあって…。今回紹介するドキュメンタリーは「持続可能」という今もっとも流行りのフレーズに疑問を投げかけるセンセーショナルな作品です。それが本作『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』

本作はその名のとおり、「漁業」に焦点をあてています。漁業では昔から水産資源の保護が重要なトピックになってきました。そこで魚などの海洋生物を乱獲して絶滅させない範囲で漁業をしていこう…というのが持続可能な漁業、つまり「サステイナブルな漁業」であり、そうやって獲られた魚などを「サステイナブルなシーフード」と業界では呼んでいます。SDGsでも海洋資源の持続可能な開発がしっかりピックアップされています。

しかし、『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』はそこに大胆にツッコんでいく内容です。本作はNetflixで配信されたのですが、公開早々あちこちで話題を呼び、業界の各種団体や専門家などがあれこれとコメントし、やや場外乱闘に発展しました(それについては詳細は後半の感想で)。

そういう意味では今のうちに見ておかないとこの乱闘をリアルタイムで見物できません。そんな嫌味な見方はせずとも、真面目にこのテーマを学びたい人にもひとつの考える材料になると思います。

別にこのドキュメンタリーが絶対に正しいと主張したいわけではありません。ただ、やっぱり考えないよりは考える方が大事です。なにせこれは私たち全員に関わってくることですからね。

SDGsという言葉に安易に乗っかるくらいなら、まずは本作を観てみませんか。

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『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』を観る前のQ&A

Q:『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年3月24日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:環境問題に関心あるなら
友人 3.0:議論できる友達と
恋人 3.0:関心ある相手なら
キッズ 3.5:勉強のきっかけに
↓ここからネタバレが含まれます↓

『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』感想(ネタバレあり)

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まるでスパイ映画のように潜入した国は…

“アリ・タブリージー”はドキュメンタリーを見て海の虜になり、22歳で自身の番組制作の着手し始めます。しかし、そのロマンはあっけなく消失しました。クジラやイルカにビーチに打ち上げられ、プラスチックは世界中の海を侵食。海は綺麗な光景を与えてくれるだけの場所ではありませんでした。

実際に海を守ってこなかったことを反省し、寄付し、ゴミ拾いもし始めたアリ。プラスチック警察にもなりました。それでもイマイチ実感はわきません。

そんな中、日本政府が商業捕鯨を再開したというニュースを目にし、居ても立っても居られず、その渦中にある和歌山県の太地町へ飛びます。ここからはさながらスパイ映画のような潜入の緊迫感があります。たぶん私たち日本であればこんな映像は撮れないです。なぜならこれは外国人だからこんなにも不気味に監視されるためです。

太地町ってこんな物々しい空気になっているのかと驚いた人も多いのではないでしょうか。作中ではドルフィン・プロジェクト創設者のリック・オバリーが、日本による反捕鯨勢力の排除を指摘し、暴力団も右翼も政府も漁師も町中が監視していると語ります。

今度は紀伊勝浦の漁港へ行くと、大量のクロマグロが水揚げの真っ最中。クロマグロは絶滅の危機に瀕しており、なぜそこまでして獲るのか、世界のクロマグロのシェアの4割を占有する大企業「三菱の東洋冷蔵」を突撃取材するも断られます。

また、サメも大量に並んでおり、ヒレを切られているのも目撃。そこにあるのは儲かるフカヒレのビジネスです。フカヒレの街である香港にも向かいますが、ことごとく撮影拒否。

作中ではなぜそこまでしてイルカを殺すのだろうとアリが疑問を抱くシーンがあります。シー・シェパードのタマラ・アレノヴィッチはペストコントロールを関係者は理由にしていると語ります。

私はこれはもう少し踏み込んだ分析ができると思っていて、日本では捕鯨に関しては『コーヴ』というドキュメンタリー以降、一気に対立に火がつきました。そしてどうなったのかというと、ただの漁業や自然保護の議題から政治論争へと様変わりしてしまったんですね。とくに欧米人が日本文化を攻撃しているという論調が強まり、ゼノフォビアも相まって地方コミュニティは疑心暗鬼になり、そこに右翼系の人たちも嬉々として参戦し、いつのまにやら愛国心の問題にすり替わってしまいました。

捕鯨問題に関しては、仲良く双方と向き合って議論しましょうみたいなドキュメンタリーが日本でもいくつか作られて公開されてきましたが、私は力の不均衡や権力の介入がある時点で中立な議論なんて紛いものだと思いますし、この問題はもはやそういう次元にはないのだと考えています。

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サステナブルな漁業は実在しない?

本作は次に混獲の問題を取り上げます。漁業界は「Accidental take(意図せぬ漁獲)」と言うが、すべて織り込み済みである、と。フランス西海岸で毎年1万頭のイルカが混獲で死んでいて、太地町で殺される数の10倍にものぼるという話も。

では巷の商品についている認証マークは? ドルフィンセーフ認証も役に立たないと聞いて、認証マーク発行者を訪ねるアリ。そこで「調査員は同行しない」「とくに証拠はない」「保証は誰にもできない」とにこやかに言ってのける担当者がお出迎えしてくれました。

また、「持続可能な漁業」に認定されているシーフードにラベルされる「MSCマーク」。これはどうなのか。海洋管理協議会(MSC)について取材を申し込むと返答なし。そこで自分なりに調べると、MSCの共同創設会社ユニリーバ(Unilever)は魚の小売業をしていたことが判明(ちなみにユニリーバは多国籍企業でいろいろなビジネスに手を出しており、過去に別の問題も起こしたりしてます)。過去20年で認証を拒否された船はほんのわずかで、収入源の8割は認証料なのでマークを付与するたびに儲かると指摘。

環境保護活動家のジョージ・モンビオットは、反プラスチック団体も漁網と漁具の話をしたがらないと言及。ネットではストローの話しかしておらず、でもストローが海上のプラスチックに占める割合は0.03%であるとも。

そこで反プラスチック団体「PPC」に取材し、「太平洋ごみベルトの45%は漁網ですよね。なぜHPに載せないの?」と質問すると、「管轄外です」との返事。後に調べるとPPCに寄付していたのはドルフィンセーフ認証のアース・アイランドという団体でした。

サステイナブルなシーフードを食べて!とウェブサイトでアピールしている世界最大の海洋保護団体「オセアナ」を取材します。でも「どの魚がサステナブルか消費者が見極める材料は今のところはない」と断言。「じゃあこう言っては? 魚の摂取量を減らそう」と提案すると、返答に躊躇したあげく、そういう担当者はいないとやはりここでも決まり文句。

欧州議会・欧州委員会の漁業部門であるカルメヌ・ヴェッラに取材すると、「漁業は止めろというのは非現実的です」と答え、大事なのはより持続可能な漁業をすることだと熱弁。

しかし、本当にサステイナブルなシーフードなんて存在するのか。持続可能な漁業は存在するのか。その確かな証拠は見つけられませんでした。

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危険な犯罪化する漁業

さらに、肝心の漁業の現場を監視する調査員の行方不明事件もいくつも起きており、殺人まであるという怖い話を入手。国際犯罪のシンジケートも絡んでおり、奴隷の労働力まで投入されている話にまで。

こういう裏社会と繋がる話、実は日本でもあって、日本に商業漁業に批判的に切り込む人が少ない理由にもなっています。実際にヤクザな人たちに狙われるということは普通なようです。だから水産関係の大学や研究者もまず商業漁業の批判はしません。私はジャーナリズムに商業漁業や捕鯨に切り込む日本人研究者を知っていますが、その人も水産業界とは全然関係ない外部の専門家でした。

作中では補助金が漁業産業にも流れているため、EU漁船は優遇され、アフリカの地元の漁船は厳しい立場に追い込まれるという、白人社会によるアフリカ搾取についても言及しています。ソマリアの家族だってもとは地元の漁師。漁業ができなくなれば、地上の野生動物を狩るし、そうなると人獣共通感染症のパンデミックのリスクも増える。

養殖は養殖で、餌の原料は魚粉なのでやっぱり大量の魚が必要。そこには養殖業界も巨大な利権にまみれていて…。

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ドキュメンタリーへの反論

こんな感じでかなり手厳しく商業漁業の闇を暴く『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』。

これに対して世間はどんな反応なのか。

例えば、自然保護団体の「グリーンピース」や動物愛護団体の「PETA」はおおむね好意的な評価です。

一方、水産業界は激しく反発し、ヴィーガン・プロパガンダだと罵っています。また、作中で名指しで批判された団体も相次いで反論を公表。MSCもわざわざ公式サイトで反論文を提示。後出しじゃんけんしないできちんと取材に答えればいいのにと思いますが、こうやって問題提起した方がマヌケで落ち度があるかのように見せる対応スタイルはビジネスでは定番ですけどね。

専門家は別の視点で本作に言及。とくに科学的な考証の甘さを指摘しており、BBCなどがファクトチェックしているので以下のページを参考にどうぞ。その中では、軽視されていたストローの問題をこっちもこっちで無視できない重大さがあると取り上げたりもしています。

確かに本作はやや話を単純化しているんですよね。海洋生物を脅かすものは、漁業だけでなく、気候変動、環境汚染、外来生物など多岐にわたり、その影響も複雑に絡み合っていますから。

ただ、大事なのはシステムの腐敗という問題です。これは厄介です。なぜなら腐敗してしまえば、専門家であろうとデータであろうと信用できなくなってしまいます。

石油マネー、原発マネー、ITマネー、レアメタルマネーといろいろな利権がありますが、漁業も絶大な利権です。網で水揚げされているのは魚の形をした札束です。欲深い人間が湧くのは当然です。

だから「腐敗しているんじゃないですか?」と指摘されたら、既存のデータとお決まりの説明を繰り返すのではなく、今以上の透明性と第3者の介入による適切な監視を追加することはやっぱり考えないといけないでしょう。シャープ・エコロジーではなくディープ・エコロジーで…というこれまでの保全学の議論にまた立ち返る必要もあるはず。

本作では「魚を食べない」という結論になっていましたが、是非はともかく、もちろん代替食としての植物由来のフードにだって、これにもいずれは巨大な利権が生まれ、不正が蔓延する可能性が高いです。持続可能な農業の「持続可能」もむやみに信用できません。

「持続可能」という言葉は机上の空論に陥りやすく、科学的な立証も困難で、そして開発して利益を得たい側に都合よく悪用される恐れがある。このことは頭に入れておくべきかなと思います。

とどのつまり、人類よ、己惚れるなよって話です。

『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 75% Audience 88%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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関連作品紹介

自然環境問題を題材にしたドキュメンタリーの感想記事です。

・『チェイシング・コーラル 消えゆくサンゴ礁』

・『ハントウォッチ』

・『アイボリー・ゲーム』

作品ポスター・画像 (C)A.U.M. Films

以上、『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』の感想でした。

Seaspiracy (2021) [Japanese Review] 『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』考察・評価レビュー