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『ジェーン・ドウの解剖』感想(ネタバレ)…リアルネクロホラー!科学は恐怖を解き明かせるのか

ジェーン・ドウの解剖

リアルネクロホラー!科学は恐怖を解き明かせるのか…映画『ジェーン・ドウの解剖』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Autopsy of Jane Doe
製作国:イギリス(2016年)
日本公開日:2017年5月20日
監督:アンドレ・ウーブレダル
ゴア描写
ジェーン・ドウの解剖

じぇーんどうのかいぼう
ジェーン・ドウの解剖

『ジェーン・ドウの解剖』物語 簡単紹介

バージニア州の田舎町で息子のオースティンとともに遺体安置所と火葬場を経営するベテラン検死官トミー。死体に囲まれた職場ではあるが、2人ともこの環境には慣れている。ある夜、緊急の検死依頼として、一家3人が惨殺された家屋の地下から裸で発見された身元不明女性、通称「ジェーン・ドウ」が運ばれてくる。とりあえずさっさと仕事を終わらせようということになり、解剖を進めていく中、その遺体の奇怪さに気づいていき…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ジェーン・ドウの解剖』の感想です。

『ジェーン・ドウの解剖』感想(ネタバレなし)

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科学 vs 怪奇

「心霊現象を科学で解明!」みたいなTV番組は昔から定番ですが、最近はネット社会ですからすぐに情報の検証をする人が現れて、なかなか心霊現象も肩身が狭いですね。

そんな「心霊現象を科学で解明!」なノリを、とても真面目なホラー映画にしたのが本作『ジェーン・ドウの解剖』です。

身元がわからず名前を呼びようがない男性を、英語では「ジョン・ドウ」と俗語で表現しますが、その女性版は「ジェーン・ドウ」です。この「ジョン・ドウ」「ジェーン・ドウ」は、犯罪事件などで死因を特定するために遺体を解剖する場面でも、いわゆる「身元不明者の遺体」という意味で使われます。そんな身元不明の女性遺体「ジェーン・ドウ」が検死官の親子を恐怖の罠に突き落とす…というのが本作のストーリー。

監督はノルウェー人の“アンドレ・ウーブレダル”という人物。この人、前作がとても変わっていて、『トロール・ハンター』(2010年)という、密猟者の噂を聞きつけて映像を撮ろうとやってきた学生たちが北欧に伝わる伝説の生物“トロール”を撮影してしまったフェイクドキュメンタリーを監督しています。

この『トロール・ハンター』で高い評価を得た“アンドレ・ウーブレダル”監督の最新作がホラーというのも納得できます。『トロール・ハンター』もホラー演出が上手かったですから。

本作は、舞台設定や物語は普通どころかド定番に思えますが、実は中身では斬新なことをしています。詳しくは記事後半のネタバレ部分で書きますが、怪奇的な恐怖を科学で解き明かしていく要素を組み込んだのがユニークです。『ドント・ブリーズ』のようなエンタメ系ホラーというよりは、心理的恐怖をたたみかけていくリアル系ホラーですね。

当然のように解剖シーンがかなり直接的に生々しく描写されているので、苦手な人は気を付けて(まあ、解剖シーンこそ重要な映画なので、ここで目をそらしたら面白くないのですが…)。

全米最大のジャンル映画の祭典「ファンタスティック・フェスト」で最優秀作品賞の栄冠に輝いた本作、ホラー映画ファンなら必見でしょう。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ジェーン・ドウの解剖』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):いつもの検死

バージニア州のグランサム。閑静な住宅街の何の変哲もない家。そこは凄惨な殺戮の現場。警察が現場を封鎖し、捜査の真っ最中です。家には無残な死体がいくつも転がっており、酷いことがあったと誰が見てもわかります。おびただしい量の血が床に広がっており、殺人なのは明白です。

さらに地下ではもっと異常な光景がありました。地中に女性の遺体が埋まっているのです。身元不明「ジェーン・ドウ」の遺体。侵入の形跡なし。それよりも住人が外に出ようとしたがっていたかのように思える…違和感だらけの現場でした。保安官たちにさっぱりわかりません。マスコミに発表する前に科学的な分析が必要です。

一方、別の場所。音楽をガンガン鳴らし、残酷なことになっている遺体を平然と検死していく2人。「死因は何だと思う?」と年配の男性は若い男に聞きます。いろいろと推察してみる若い男性。しかし、「硬膜下血腫。死因はこれだ」と年配の男性は断言。この2人は父と息子。トミーオースティンです。検死スキルに関してはまだまだ父の方が上のようです。

息子のオースティンはガールフレンドのエマと映画を見に行く予定らしく、準備をします。

ここはティルデン遺体安置&火葬場。ひと気のない場所に佇む家です。仕事場はエレベータで降りた地下にあります。代々続いている家業です。内容が内容なので、あまり公で語れるものではないですが…。

息子の方が遺体をしまうと、換気口が開いており、猫のスタンリーが出てきます。どうやらネズミを捕獲した様子。

オースティンが後片付けを完了させ、ガールフレンドの待つところへ向かおうとすると、後ろからエマが驚かせてきます。来てしまったようです。エマは特殊な職場に興味深々で探索。

死体を見せてほしいと言ってきて、しぶしぶ見せることに。遺体の足首には鈴がついており、これは昔は昏睡状態と死の区別が難しかったから…とのこと。

カップルが外に出ようとするとエレベーターで新しい遺体が運ばれてくるところでした。こんな時間に保安官が遺体を運んでくるのは緊急事態だろうと考え、デートを延期して仕事に戻ることに。オースティンはずっとこの遺体安置所で身をうずめるつもりはないようですが、今は父を支えたいのも本音。エマに謝り、父と合流します。

さっそく遺体の情報を整理。4人も殺されたが関連性はなし。警察はとにかく情報がほしいようです。今夜中に頼むと言われ、検死に取り掛かります。

解剖開始。年齢は20代半ばから後半と見られ、白人。外傷はなし。瞳は…灰色?

死後硬直もなく、いつ死んだのかわかりません。これは詳しく調べないといけません。

手首と足首が折れているのを確認。外傷もなく折れていることはあるのか。

足や手の爪には泥炭が詰まっています。自然に泥炭があるのは北の地域のはず。

口を開けると、舌が切断されています。噛み切ったものではないです。

人身売買事件で同じようなものを見たとトミー。両手両足を縛り、口封じのために舌を切るのだとか。その可能性も確かにあります。

鼻の穴からハエが出てきます。歯も1本抜けています。そして口の中からが見つかりました。これも何なのかわかりませんが、証拠になりうるので大切に保管。

外部に精液の付着は確認できませんが、膣内はズタズタでした。売春説が現実味を帯びてきます。でもまだ断定はできません。

いよいよ体内の検証に移るため、遺体にメスをいれていきます。

普通であればもっと情報が得られ、真実に近づくもの。ところがこの遺体は想像を絶するものでした。2人はまだその事実に気づいておらず…。

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科学サイドと心霊サイドの駆け引きがアツい

ありがちなホラー映画だと、怪奇現象や恐怖の存在に、最初は登場人物が舐めてかかって油断していたところ、ある時から「ワー」「キャー」叫んで翻弄されていく…というのが定番です。

しかし、『ジェーン・ドウの解剖』は違います。それは主人公であるトミーとオースティンが検死官だということが大きく関係してきます。遺体「ジェーン・ドウ」が運ばれてきても、もちろん仕事として淡々と処理していく二人。本作の原題「The Autopsy of Jane Doe」にもある「Autopsy」は“検死解剖”のことですが、語源はギリシア語で「自分で見る」という意味です。そのとおり、二人は科学を武器に“自分で見て”分析していくことで、「ジェーン・ドウ」を解き明かそうとするわけです

目が灰色だから死後時間が経っているのか? でも、メスを入れるとまるで新鮮なように血が溢れてくる。手首と足首が骨折していて、爪には泥炭、しかも、舌が切断されている。肺が損傷しているけれど、致命傷が見つからない。喉から何かの布の糸、そして、消化器官から植物が…。

ひとつひとつロジカルに解き明かしていく。このプロセスがミステリーとしてとても上手く、ゾクゾクして面白いです。“アンドレ・ウーブレダル”監督はこういうドキュメンタリーチックなリアル描写が非常に得意ですね。

懸命な検死の結果、生贄の儀式ではないかと推測するも、でもなぜ外傷がないのかわからない二人。そして、「ジェーン・ドウ」の皮膚の裏全体に謎の模様が刻まれているのを発見した瞬間、本作の物語が転換します。序盤であれだけプロフェッショナルな会話をしていた二人が、「これはヤバイ」と降参する瞬間であり、ここから科学が心霊に圧倒的に押されていく。映画的な演出が実に鮮やかです。

しかし、本作は科学の敗北で終わらないのが良いところ。最終的には「ジェーン・ドウ」の正体を持ち前の検証力で解き明かすわけであり、二人は死んじゃいますけど勝負は引き分けといった感じでしょうかね。

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死体はモデルの究極系

他にも褒めたい部分はたくさんあって。序盤からの細かいフラグ立てが本作の構成の丁寧さを感じさせてくれるし、ベタなホラー演出も緊迫感を200%増しにしてくれる映像の美しさは素晴らしかったし…。

ちゃんとショットガンで顔がつぶれた男が後半のここぞというタイミングで出てくるのも、わかってる感じでGOOD。何度も使われる鈴の音の演出もベタながら効いてました。

それにしても、魔性の死体を演じた“オルウェン・ケリー”はモデルだそうですが、究極のモデル魂を見せてくれましたね。日本人だと死体役が似合うモデルは誰だろうかな…。

『ジェーン・ドウの解剖』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 87% Audience 69%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2016 Autopsy Distribution, LLC. All Rights Reserved ジェーンドウの解剖

以上、『ジェーン・ドウの解剖』の感想でした。

The Autopsy of Jane Doe (2016) [Japanese Review] 『ジェーン・ドウの解剖』考察・評価レビュー