シャマランはコロナ禍でも元気そうです…映画『オールド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年8月27日
監督:M・ナイト・シャマラン
オールド
おーるど
『オールド』あらすじ
人里離れた美しいビーチに、バカンスを過ごすためやってきた複数の家族。それぞれが楽しいひと時を過ごしていたが、そのリラックスした時間は長くは続かなかった。異変には誰もがすぐに気づいた。明らかにおかしい。その異常事態は理屈では説明がつかず、ここにいる全員が困惑することになる。しかも、この恐怖の空間から脱する方法さえもわからず、ただパニックだけが広がっていく。ここで朽ちるしかないのか…。
『オールド』感想(ネタバレなし)
シャマランはコロナ禍でも元気
「いいですか? うがい・手洗い・消毒。あと人が密集しているところには行かない。マスクをしっかり身につける。あ、ウレタンマスクはダメですよ。悪いウイルスがまだ蔓延していますから油断しないように…」
「せんせえ~、またあの子が悪だくみしてま~す」
「こら、シャマランくん。こんな世の中になっても相変わらずだね。今度は何を考えているの? え? 教えない? いいから先生には教えなさい」
「(ごにょごにょ)」
「…そ、そんなことを考えていたの…(なにこの子、怖い)」
はい、今回も映画界の異端児にして問題児、“M・ナイト・シャマラン”監督の作品がやってきました。“M・ナイト・シャマラン”って誰?…なんて初心者の人はググってください(説明放棄)。ドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』の感想記事でもざっくりと紹介をしています。
私は別にシャマラニスト(“M・ナイト・シャマラン”監督作品のファンのこと)ではないと思っているのですが、もしかしたらこれはツンデレみたいなやつで、本当は大好きなのかもしれない…。なんだろう、どんなにつまらなくても常に広い心で受け止められる自信がある…。クラスにひとりはいる問題児、でもその子の良いところを私は知っている…みたいな…(ちょっと気持ち悪い)。
そんな一部の人を虜にする“M・ナイト・シャマラン”監督ですが、新型コロナウイルスのパンデミックが収束に向かい始めたのかなと思いきやまたもデルタアタックを決めてきたこの時期、ちゃっかり新作を送り込んできました。
それが本作『オールド』です。
もちろん毎度のことながらネタバレ絶対禁止。でも舞台となるビーチで何が起きるかはもう宣伝で散々明かされているのでわかっていると思いますけどね。けれどそれだけで終わるわけは…あ、ダメだ、ネタバレになる…。しかし本作も絶妙にコロナ禍をおちょくるような内容に…あ、ダメだ、これもネタバレになる…。え、何を書いたらいいの? あの作品に似ている…とかも言えないし…。まあ、あれです、シャマランですよ。実に平熱のシャマラン節ですよ(何の説明にもなっていない)。
そうだ、俳優のことを書こう。本作『オールド』は低予算ながら(約1800万ドルなので前作『ミスター・ガラス』とたいして変わらない)、俳優陣はとても国際色豊かに揃えています。ドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』でも関わるクリエイターに多くの非アメリカ・非白人の人を積極的に参加させていましたし、そもそも“M・ナイト・シャマラン”監督もインド系ですから、ダイバーシティには他人事ではなく、自身の経験からも応援していく姿勢のようです。
同時にこれは作品の面白さにも繋がっていて『オールド』もまさにそうですが多様な人種の人が登場するために、誰がどんな展開になるのかお約束な推測を立てることが難しくなり、サスペンスを引き立てています。
『オールド』のキャスティングは多彩です。『WASP ネットワーク』の“ガエル・ガルシア・ベルナル”(メキシコ)、『ファントム・スレッド』の“ヴィッキー・クリープス”(ルクセンブルク)、『ファーザー』の“ルーファス・シーウェル”(イギリス)、『ヘレディタリー 継承』の“アレックス・ウルフ”(ユダヤ系)、『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』の“エリザ・スカンレン”(オーストラリア)、『ジョジョ・ラビット』の“トーマサイン・マッケンジー”(ニュージーランド)、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の“アビー・リー・カーショウ”(オーストラリア)、『ラッシュアワー』の“ケン・レオン”(中国系)、『どん底作家の人生に幸あれ!』の“ニキ・アムカ=バード”(ナイジェリア系)、ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の“キャスリーン・チャルファント”(アメリカ)、ドラマ『地下鉄道 自由への旅路』の“アーロン・ピエール”(イギリス)、他にも…。
登場人物の多さに最初はややびっくりしますが、多様な人種構成ゆえか、そんなに混乱しません。それよりももっと混乱する事態が起きるのですけど…。
多少のホラー風味はありますが、そんなにバイオレンスでグロテスクな視覚的描写もないですし(あくまで比較的…ですが)、観やすい映画だと思います。友人や恋人と見終わった後にツッコみながら駄弁るのがぴったりの作品です。
オススメ度のチェック
ひとり | :シャマラン好きは必修 |
友人 | :気楽に語り合って |
恋人 | :話のネタにはなる |
キッズ | :その子の趣味に合うなら |
『オールド』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):時間を忘れて楽しむ?
1台の車がリゾート地の森の道路を走っています。乗っているのはカッパ家族です。父のガイ、母のプリスカ、娘の11歳のマドックス、息子の6歳のトレント。家族揃ってのバカンスで南国に遊びに来たのでした。
到着したのは快適そうなリゾート施設。丁寧に出迎えられ、入り口でドリンクをもらいます。他の観光客もゆったりと過ごしており、子どもたちも上機嫌。子どもたちはすぐに水着に着替え、ビーチへ。いろんな国の人がおり、その中でもトレントはホテルのマネージャーの甥だという男の子と仲良くなりました。その子からメッセージの書かれた紙をもらい、それは暗号めいた文字の羅列で、対応する文字を当てはめていくと他愛もない文章が浮かび上がるものでした。
一方で、ときおりプリスカの顔は暗くなります。部屋では夫婦で深刻そうな会話。実は2人は離婚を考えるほどに関係は悪化しており、これを最後の家族旅行とするつもりでした。そんな両親の怒鳴り合いを隣の部屋でじっと聞く子どもたち。
とりあえず食事。近くのテーブルには医者のチャールズとその母のアグネス、チャールズと交際している若いクリスタルとその娘のカラがいました。また、ジャリンとパトリシアという夫婦もおり、パトリシアの方はどうやら“てんかん”持ちで、今も発作で倒れてしまいます。
そんな中、食事の席でリゾートのマネージャーが特別なビーチを教えてくれました。そこは穴場らしく、人込みを気にしなくていいのだとか。
さっそくその秘密のビーチへ向かうことにした一同。チャールズ家族も一緒です。自然保護区だという柵を越えて、バスでは途中までしか行けないのであとは歩き。自然が鬱蒼とするジャングルを抜けていき、狭い岩の間を通ると、着いたのは誰もいないビーチ。まさに秘境のスポットです。沈んでいたプリスカも思わず「綺麗」と呟きます。
ビーチパラソルを広げてさっそくくつろぐみんな。子どもは海辺ではしゃぎ、洞窟を見つけたりします。ジャリン&パトリシア夫妻とセダンという男もいました。
ところがかくれんぼしていた子どもたちが海に浮かぶ遺体を発見します。子どもたちを遠ざけ、茫然と立ち尽くす大人勢。これはくつろいでいる場合ではない…。
ジャリンは岩の道から戻って出ようとしますが、なぜか意識を失い、ビーチで目を覚まします。
そうこうしているうちにチャールズの母のアグネスの様子がおかしいことに気づきます。そして事情もわからぬままに急死してしまいました。
一方でトレントとマドックスはジャリン&パトリシアと会話します。「6歳だ」と自己紹介するトレント。でもジャリンたちはにわかには信じられないという顔。そこへプリスカもやってきて、子どもたちを見るや驚愕。2人は明らかに急激に成長していたのです。トレントもマドックスもすっかりティーンです。
混乱する一同。異変はそれだけではありません。急速に腐敗する死体。一切の生物がいない海辺。瞬時に治る切り傷。そして大人たちにも皺が増えてきたような…。
このビーチ、実は時間が異様に早く進むエリアだと知ったときにはもう手遅れで…。
空気を読まないシャマラン
『オールド』、時間が急激に進行する魔境のようなビーチが舞台であり、なんかもう「ドラえもん」とかに出てきそうです(そんなやつがあった気がする)。雰囲気としてはシチュエーション・スリラーなのですが、最終的に明らかになる黒幕といい、想像以上にスケールがデカい陰謀に発展していきます。この「わけがわからないぞ、なんだなんだ」と言っているうちに自分ではどうしようもない変貌した世界の理に蹂躙されていく感じ、監督作『ハプニング』(2008年)を彷彿とさせる…。
単なる老化にとどまらず、あの手この手で悪趣味な展開を嫌がらせのようにぶちこんでくるのはさすがの“M・ナイト・シャマラン”。
極めつけはあのカラの妊娠のくだりです。急激な成長が起きるも肝心の経験や知能は幼少期のままなので、トレントもカラも6歳思考。だからといってこれは…。このなんてツッコめばいいのかもわからない“いたたまれない”空気…。
他にもかなり無理やりな展開が無数にあってツッコミを入れようと思うと追いつけないほどですよ。例えば、チャールズの悪化していく統合失調症も、あれだとただの手に負えない殺傷犯罪者状態で、どう考えても病気に対する誤解と偏見を増幅するだけだし。また、あのクリスタルの低カルシウム血症も「ああは折れんだろう」というくらいのホラーテイストでボッキボキになるし。
そこらへんはシャマラン、全然空気は読まない。これは彼のいつものスタイルです。
一番の最大のツッコミはやっぱりオチです。臨床試験の場だった!という驚愕のカラクリが明らかになるのですが、臨床試験ってこういうことじゃないだろう…という…。医学界からの怒涛の訂正の嵐が目に浮かぶ。そもそもあんな不確定要素が多すぎる環境で正確性を求められる試験なんてできないし、あれだけ倫理観無視する組織なら最初からもっと手ごろな放浪者相手とかに実験台を強制させればいいだけではとも思いますし…。
何よりもこのコロナ禍の時代において、これほど反ワクチンを増長させる内容の映画をしれっと打ち出せることが恐ろしいというか。製薬会社関連の陰謀論を全力で煽っていく自由さ。
でも、もはやこれは確信犯。なにせあの登場人物たちを例のビーチに送り、それを監視している男を演じるのは“M・ナイト・シャマラン”本人なのですからね。
あのビーチでのパニック事態もコロナ禍で右往左往する私たちに重なりますし、シャマランはそれを見物しているのですよ。コロナ禍は映画業界に暗澹たる被害を与えたものですが、“M・ナイト・シャマラン”監督はなぜかそれもエンターテインメントとして消費してやるという意気込みすらあって、これぞシャマランの不屈の精神(狂気とも呼ぶ)。
怖い。シャマランとはビーチで遊びたくないなぁ…。
シャマランに見られている
そんなこんなでありつつも、『オールド』はこれまでの“M・ナイト・シャマラン”監督の持ち味もたっぷりあります。
とくに急激な時間の経過で起きる現象の数々は、見方を変えると特殊能力に見えてくるということ。軽い絆ら瞬時に回復できるとか、身体的な変化と心のミスマッチとか、そういうものはイレギュラーな存在として異質に映ります。本作はそんな異質さを短時間で受け入れられるかというテーマでもあります。
それは前作の『ミスター・ガラス』にも通じるものがあります。特殊な自分たちは社会に受容されるのか、ここで卑屈になって枯れ果てるくらいなら世界に貢献するという選択肢もあるはずだ…という。
結局はビーチで翌日を迎えて中年になったマドックスとトレントの存在はまさにそれで、今後は「見た目は大人、中身は子ども」な存在としてシャマラン作品に出てきてもおかしくないですよ。
ただ、今回はいかんせん風呂敷をあちらこちらにぞんざいに広げすぎた感じもあります。辻褄が合わない部分も多すぎますし、身体的時間変化以前に、物理的な劣化や化学的な変化まで考慮すればもっとおかしなことになってしまいますからね。だからこそシャマランも最後は製薬業界のせいにして全部をぶん投げたのだと思いますが…。
でも『オールド』は久しぶりにざっくばらんすぎる雑な縫い方の作品になっていて、これはこれでシャマランっぽいなと堪能はできました。最近の出来の良さが目立つ感じが抜けて、ツッコミ上等に懐古したというか。最近のものはずっと狭い空間を舞台にしていましたから、今回のように広い舞台はそれはそれで新鮮でしたしね。
とにかくシャマランは私たちに言っているのです。コロナ禍でああだこうだと揉めている暇があったら、今のこの瞬間を大切にしなさいと。開き直って一時の快楽で熱狂するか、事態の打開に向けて冷静に熟慮して踏み出すか、それはあなたしだいですよ、と。無能な政府と自粛に疲れてスポーツだ音楽だと祭り的なイベントについ現実逃避してしまう我々の弱さをシャマランはもう見抜いており、こっちをずっと監視している…のかもしれない。
これからはシャマランに見られているという緊張感を持って行動しよう…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 50% Audience 53%
IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
以上、『オールド』の感想でした。
Old (2021) [Japanese Review] 『オールド』考察・評価レビュー