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『スクールライフ パリの空の下で』感想(ネタバレ)…Netflix;学校へ行こう

スクールライフ パリの空の下で

いろいろあるけど学校へ行こう…Netflix映画『スクールライフ パリの空の下で』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:La vie scolaire
製作国:フランス(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:グラン・コール・マラード、メディ・イディル

スクールライフ パリの空の下で

すくーるらいふ ぱりのそらのしたで
スクールライフ パリの空の下で

『スクールライフ パリの空の下で』あらすじ

パリ近郊の貧困地帯にある学校に赴任してきたカウンセラー。自分自身の悩みにも向き合いながら、それぞれに事情を抱える問題児たちに寄り添う多忙な日々が始まった。それは常に問題の連続で、落ち着く日は1日もない。ストレスも蓄積されていき、音を上げる教師もいる。それでも学校生活を少しでも良くするために奮闘を続ける。

『スクールライフ パリの空の下で』感想(ネタバレなし)

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フランスで話題のあの人が…

フランス語圏ジュネーヴ共和国生まれの著名な哲学者「ジャン=ジャック・ルソー」は、教育論「エミール」の中で、人は子どもというものを知らないので、教育をする際はまずは子どもが何であるかを研究することから始めなければならないと語っています。

なるほど、なかなかに至言だと思います。子どもは単純な生き物ではなく、大人以上に複雑な存在。学ばせたいのならば、まずはあなたが学べ…というのは理にかなっていますね。

こんな教育精神が下地にあれば、さぞフランスの教育は高水準なのかなと覗いてみれば、そう簡単にはいっていないようで…。やはり教育は永遠の人類の難題なのか…。

そんなフランスの教育事情を垣間見える映画が本作『スクールライフ パリの空の下で』です。

本作は、フランスの労働者階級の子たちが集まる学校を舞台に、そこで教育に従事する大人たちと、教育を受けることになる子どもたちの、喜怒哀楽をリアルに映し出したスクール・ムービーです。なお、邦題では「パリの空の下で」となっていますが、舞台はサン=ドニというパリ北部郊外にある地域です(なんで邦題はパリにしちゃったのか…)。貧困層や低所得者の多い地域なようで、治安も他よりも悪いです。2015年のパリ同時多発テロ事件の一部攻撃もこのサン=ドニで起きましたね。

この『スクールライフ パリの空の下で』はフランス国内で大ヒットし、2019年を象徴する一作になったみたいです。

なぜそんなにもヒットしたのだろう?と思ったら、どうやら監督の力が大きいようで…。

本作の監督のひとり“グラン・コール・マラード”、私は全然知りませんでしたけど、フランスでは有名なアーティストなのです。正確には「ポエトリー・リーディング」を行う人で、何それ?という感じですが、詩を朗読して競い合うパフォーマンス・アートだそうで、それがフランスの独特な文化と融合した結果、「スラム(Slam)」という独自ジャンルに発展しているのだとか。ちなみにスラム街の「スラム(Slum)」ではありません(綴りが違います)。

なんでも“グラン・コール・マラード”、変な名前だなと思ったら、本名は「Fabien Marsaud」で、もとはバスケ選手だったみたいです。しかし、プールでのダイビングの事故で脊椎を損傷。スポーツ生命を絶たれたどころか、歩くのも厳しいのではないかと診断されました。ところが彼は立ち上がる。「病んだ背の大きな体」を意味する“グラン・コール・マラード”と名乗り、表現の世界で自分をアピールし出したのです。松葉づえをつきながらの魂のこもったパフォーマンスはフランス大衆を魅了。一躍国内トップアーティストの仲間入りを果たします。

以下の動画は“グラン・コール・マラード”の曲のピックアップ。

そんな“グラン・コール・マラード”、とても旺盛なクリエイティブ精神を持っているのか、2017年に『Patients』という作品で映画監督としても活躍。そして次なる監督作が本作『スクールライフ パリの空の下で』なのです。だから注目度が高いのも当然なんですね。

監督自身がサン=ドニ育ちということで地元愛も詰まった一作になっています。映画からは確かに故郷で暮らす人々への想いが感じられます。

俳優陣は…まあ、私はフランスの俳優に全然詳しくないのであれなのですけど、本作みたいにフランス映画をちょっとずつ観ることで覚えていきたいな、と。主演は“ジタ・アンロ”。彼女は2015年のセザール賞で『Fatima』という映画にて有望若手女優賞を受賞した若手株。『カブールのツバメ』というアニメーション映画で主演の声優も務めていましたね。とりあえずこの“ジタ・アンロ”だけしっかり記憶しておこう…。

フランスの学校における問題を描く作品ですが、日本との違いや共通点を見つけながら鑑賞していくのも興味深いと思います。私はあらためて色々な発見があって面白かったです。「あ~、ここはすっごく日本に通じるな」とか、「これは日本よりもはるかに恵まれているな」とか。極端にデフォルメされた学校描写ではなく、比較的リアル寄りになっているので、フランス教育の切実な一面も見えてきます。

『スクールライフ パリの空の下で』はNetflixオリジナル作品として2020年4月10日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(教育に興味があるなら)
友人 ◯(フランス映画好き同士で)
恋人 ◯(気軽に観るぶんには)
キッズ ◯(ティーンが観るなら)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スクールライフ パリの空の下で』感想(ネタバレあり)

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問題だらけの学校生活が始まる

「静かにしてください、新年度です」

そう大勢に呼び掛けている女性は校長です。この少し大きめの部屋では、大人たちがぎゅうぎゅうに集まって座っています。そして校長が続けて説明します。

「中学3年生の非選択科目クラスの担任はブファラ先生です」

すると隣の若い女性が質問します。「校長、非選択科目クラスって?」

「昨年度の中学2年生の時にラテン語や音楽を選択しなかった生徒たちのことよ」と答える校長に、「劣等生だよ」なんて答える教師らしき人。「いいえ、違います」とすぐさま否定する校長は「確かに問題のある生徒はいたけど劣等生ではない」とフォローしました。

そしてその質問をした若い女性が校長に紹介されます。「新しいカウンセラー」として。彼女の名前はサミア・ジブラです。彼女から指導員として、バドル、ムサ、ブサド、ディラン、レイラがそれぞれ紹介されていきます。

「何か問題が起きたら事務所に相談してください」

さて翌日、新学期が始まり、続々と子どもたちが登校してきました。友達のおしゃべりがあちこちで止まりません。

例の非選択科目クラスではさっそく問題が勃発。ドアの鍵穴に誰かがガムを入れたのか開きません。授業だって荒れ放題でろくに進行できませんし、教師に暴言だって吐きます。外では新学期早々喧嘩が起きて、もはやてんやわんやで何がなんだか…。

ジブラはいきなりストレスを抱えながらのスタートですが、この学校に慣れている指導員と協力しながら対処にあたっていきます。

諸悪の根源のようになっている非選択科目クラスの中でも、とくに問題児なのがヤニスという生徒でした。非常に知的さはあるものの、それが反抗するという一極にだけ集中しているような生徒で、何かと大人たちに突っかかってきます。ある時、ジブラに呼びつけられたヤニスは「無関心なことを学んで将来何の役に立つ?」と事も無げに言い放ち、逆にジブラに「何に興味あるの?」と聞かれると「映画?『スカーフェイス』とか好き」と答えていました。

そのヤニスがここまで教師に反抗的なのは、どうやら以前にフォデという友人を退学にされたことへの恨みもあるようです。

そんなヤニスですが、ジブラは彼のことを見放すことはしません。ヤニスの父は刑務所におり、家では母と幼い妹との暮らしなのですが、ジブラは少し親近感を感じていました。というのも実はジブラのパートナーもカード偽造の罪で刑務所に服役しているのです。事情を言えば、ジブラがこの地域で働き始めたのもそのパートナーと面会しやすいからでした。

学校は続きます。個性豊かな生徒たち、それを取り巻く大人たち。

ヤニスと信頼関係を築こうとするジブラでしたが、ある決定的なショッキングな事件によってヤニスの心は大きく動揺し、学校生活すらも危うくさせることに…。

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主人公の立ち位置

『スクールライフ パリの空の下で』はフランスの学校の様子を垣間見ることができる映画です。

まず主人公のジブラの立ち位置。和訳では「カウンセラー」となっていましたが、私たち日本人がなんとなくイメージする「スクールカウンセラー(生徒たちの心のケアを行う人)」とは全く違います。実際に業界内では「生徒指導専門員(CPE;conseiller principal d’education)」と呼ばれており、これは教員との協同のもとで生徒の学校生活のマネジメントをする仕事を担う人だそうです。欠席、遅刻、風紀、犯罪防止など、要するに生活指導ですね。

ジブラと同室で働いている作中では「指導員」と呼ばれている複数の人たちは、おそらく「生徒指導補助員(AE;assiatant d’education)」と呼ばれる人たちなのかな。生徒の学校生活指導を補佐する仕事をしています。

要するにジブラたちは教師とは別枠で生徒指導に専念して働いている人員なんですね。ジブラたちが授業を教えることはありません。

ここが日本と全然違いますよね。日本は授業も部活も生徒指導も保護者対応も進路相談も全部教師任せですから。だからこそ教師の過重労働負担が問題になり、いろいろな議論が起こっているわけですが…。

そんな日本と比べると少なくとも『スクールライフ パリの空の下で』で描かれる学校の教育体制は超充実しているように見えてきます。ひとつの学校に1人のCPEと5人の指導員がいるんですからね。これがフランスでは普通なのかどうかは知りませんけど、たぶん日本の教員が本作を観たら羨ましがるんじゃないか…。

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子どもも大人も同じように

でも、一見すると理想的に見えなくもない『スクールライフ パリの空の下で』ですが、やはり実際の中身では苦労の連続。

その最大の問題発生源となっている非選択科目クラスは見るからに大変そう。その音楽の授業でリコーダーを吹くシーンでの、先生は必死になるも肝心の生徒たちは極めてやる気のない空気を全開に発し、全然授業になっていないところとか。ジブラがいくら懇切丁寧に指導しても、のらりくらりと交わされてしまうところとか。あれはツラいだろうな…と思ってしまう場面がたくさん。

しかし、本作はそんな問題児生徒に対してただ上から目線で大人たちが説教する物語ではありません

むしろ大人と子どもの立場を極めてフラットに描いているところが印象に残りました。

そのフラットさは冒頭から描かれており、あの校長を前に大人たちが集まっているシーンはまさに大人版の教室だとも言えます。結局、大人だって学校という空間で同じルーチンワークのもとに生きている。

その後も何度も共通性を見せつけるような対比的なシーンがでてきます。女とヤったかどうかで盛り上がる男子たちや、悟空やベジータが強いといったトークに夢中になるヤニスたち(もう完全に日本の生徒と変わらない話題じゃないか…)。それと並ぶように、笑ったかどうかでポイントを競ったり、どんな書き取りをさせたかでアピール合戦する指導員たち。ノリ自体は全く同じです。

そういえば大麻もガンガン吸ってましたね。フランスでは大麻は違法なのですけど、事実上黙認されるように普及しまくっており、合法化もそう遠くないと言われているとか。

「近所のヤニ」と完全に隣のおじさん扱いにされる指導員とか、笑いの絶えない間柄もあったり…。

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学校は役に立たないのだろうか

一方で、ポジティブな部分だけがフラットというわけでもありません。

CPEのジブラは生徒に対してだけ指導しているのでもなく、他の大人たちにも指導が向けられる姿が描かれていました。

例えば、ローラーの男こと体育教師ルドゥアンは熱血すぎるのが多少の問題となり、ケヴィンをケガさせてしまいます。もう少し普通のスポーツをしてくれない?と言われても、卓球はクソなスポーツだと譲らない困った教員です。

また、シンディという女子生徒の母も呼んで服装を注意する場面では、母も娘とたいして変わらない肌を出しまくった格好をしており、二人が部屋から出た後、指導員のひとりが「娼婦だ」と女性差別的に口走るのをジブラはきつく叱ります。

はたまた生徒に暴言を吐かれて怒り心頭で仕事を辞めることすらちらつかせるティエリ・ブシャール先生の対応をすることにもなります。もちろんこの先生だってひとりの人間。人権があるわけであり、教師だからといってそれを我慢しないといけない理由もありませんので、それは正当な訴えです。

こうやってみると『スクールライフ パリの空の下で』はフランスらしい平等の思想のもと、いかにして教育を成り立たせるのかという苦悩が詰まっている作品だなとも思います。

いろいろな人種、いろいろな経済状況、親の境遇…。それらを平等に扱うことは口で言うのは簡単だけど実際はとてつもなく難しい。貧困層の子どもたちを描く『スワッガー』(2016年)や、格差の対立を鮮烈に描きだした『レ・ミゼラブル』(2019年)などフランス映画ではよく描かれるテーマですが、多様性を健全に育むことの難易度は本当に頭を抱えさせます。

そしてラスト、ヤニスの口から大人たちに向かってある“指導”がなされるわけです。それは現行の教育システムへの痛烈なダメ出し。

でもそれを聞いている大人たちも内心はわかっているんですよね。システムが全ての生徒に適応できていないことを。責任があるはずの大人が一番上手くやれていないことを。

それは作中のいたるところで見られます。指導員のディランが生徒の遅刻などを取り消すかわりに大麻を得ていたことが判明し、対応に困ったジブラは「誰にも言わないから辞職届を提出して」と穏便に済ませるしかない。明らかに家庭で親に威圧されているだろう(虐待可能性が濃厚そうな)生徒を見かけても、ジブラにはどうすることもできない。学校システムからはみ出してしまった若者は命のリスクをともなうことになる。全く完璧ではないし、欠点だらけの場所。それが学校です。

それでも学校は拠り所にならないといけない。子どもにとっても、大人にとっても。

そこは製作陣の譲れないメッセージなのかな、と。

エンディングでの次年度の初日。またも繰り返される学校生活の場面を見ながら、学校の役割について再度学習させられたような、そんな気持ちになりました。

『スクールライフ パリの空の下で』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Mandarin Cinéma

以上、『スクールライフ パリの空の下で』の感想でした。

La vie scolaire (2019) [Japanese Review] 『スクールライフ パリの空の下で』考察・評価レビュー