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『アシスタント』感想(ネタバレ)…私もその牢獄で手助けしてしまった

アシスタント

私もその牢獄で手助けしてしまった…映画『アシスタント』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Assistant
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2023年6月16日
監督:キティ・グリーン
セクハラ描写

アシスタント

あしすたんと
アシスタント

『アシスタント』あらすじ

名門大学を卒業したジェーンは、憧れの映画プロデューサーを目指して映画業界の企業に就職する。業界の大物である会長のもとでジュニア・アシスタントとして働き始めたものの、エンターテインメントとはまるでかけ離れた職場では陰湿なハラスメントが常態化していた。チャンスを掴むためには会社にしがみついてキャリアを積むしかないと耐え続けるジェーンだったが、無視できない現実を前に行動にでる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『アシスタント』の感想です。

『アシスタント』感想(ネタバレなし)

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有害なシステムの会社に属してしまったとき

日本最大のアイドル・プロダクションである「ジャニーズ事務所」の創業者であり、2019年に亡くなるまで実質的にトップに君臨していた“ジャニー喜多川”。その人物が元所属タレントら(未成年を含む)へ性加害を行っていたとして、2023年に当事者から告発を受けました。その告発のきっかけも、イギリスのBBCが『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』という報道特集番組を公開したことでした。

ジャニーズ事務所が設置した外部の専門家によるチームは6月12日、記者会見を開き、「過去の性加害の存在を前提として、事務所の対応にどんな問題があったかを厳正に検証する」と説明する一方で、「網羅的に調査することは目的としていない」とも発言し、その検証の有効性が問われていますハフポスト

ハリウッドでも「Time’s Up」「#MeToo」運動の引き金となった“ハーヴェイ・ワインスタイン”による性暴力事件がありましたが、今回の「ジャニーズ」も構造は同じようなものがあると思われます。

つまり、これはひとりの極悪な加害者が起こした事件ではなく、組織・業界全体が引き起こした構造的問題だということです。それを全て解明するのは難しく、また改善も至難の業であり、たいていはひとりか数人が責任をとり、それで世間体として終止符をうって完了です。構造的問題は残ったままとなります。

この構造的問題というのは陰謀論的な暗躍とか癒着とかの話ではないです。人がただその業界で働いているだけで、もしくはファンとして触れ合っているだけで、いつの間にか加害に加担してしまう、被害に遭ってしまう…そういう自然に成立してしまうほどに溶け込んだ有害なシステム。そういうものが表向きはいかにも真っ当そうな雰囲気を出しながら存在している…。

もし自分がその有害なシステムの中に配置されたひとつのパーツだったら、何ができるのか。いや、そのパーツだということに気づくことがまずできるのか。

今回紹介する映画はそのひとつのパーツの人間から見た有害なシステムを描く作品です。

それが本作『アシスタント』

『アシスタント』はアメリカの映画会社で働くひとりの若い女性アシスタントが、その会社内で淡々と雑務をこなしながらも、キャリア上のあからさまな女性差別を受けつつ、さらに会社で行われている有害な文化を間近で実感して…という、ディストピアなお仕事モノです。

言わずもがな「Time’s Up」「#MeToo」運動の諸悪の根源となった“ハーヴェイ・ワインスタイン”を連想する話ですが、特定の実際の人物や企業を題材にしておらず、『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』のようなジャーナリズム的なアプローチもありません。

『アシスタント』はより写実的でありつつ、寓話的でもある…独特な雰囲気を持っています。1日のことしか描いていないというのも特徴です。

監督が“キティ・グリーン”だということも本作の独自性を説明するのには外せません。『アシスタント』は“キティ・グリーン”監督の長編劇映画デビュー作で、以前は2017年に『ジョンベネ殺害事件の謎』というドキュメンタリーを撮っていました。

このドキュメンタリーも一風変わっており、幼い少女が誘拐されて殺害される実際の事件を主題にしているのですが、ベタな実録犯罪ドキュメンタリーとは違って、事件をドラマ化する企画を軸に地元の人たちの勝手気ままな推理を映像化するというものでした。

“キティ・グリーン”監督はこの『ジョンベネ殺害事件の謎』の前に撮った2013年の『Ukraine is not a Brothel』というドキュメンタリーもやはり独特で、こちらはウクライナで活動するフェミニスト団体「FEMEN」を取り上げるもの。しかし、このトップレスでパフォーマンスすることで有名な「FEMEN」を単純に推すようなものではなく、実はこの団体はとある男性が活動の裏にいて…という、これまた変化球な掘り起こし方をします。

そんな“キティ・グリーン”監督の新作、しかも劇映画ですから、『アシスタント』も「どうくるんだ?」と気になってくるのも当然です。ついに劇映画監督としても一歩を踏み出したので、今後も認知度がぐんぐん上がってくる監督になるはず。

主演は、ドラマ『オザークへようこそ』“ジュリア・ガーナー”。ほぼこの“ジュリア・ガーナー”の演技ひとつで成立させています。

なお、本作『アシスタント』には性暴力の直接的な描写は無いです。セクハラ描写はあるにはあるのですが、それも露骨なものは薄く、どちらかというと歪曲的な“嫌な空気”みたいなものが終始蔓延している感じです。そうは言っても、87分と短い映画ですが、初めから終わりまでずっとそれが続くので、経験がある人は自分の忌まわしい過去を思い出すこともあるでしょう。その点は留意してください。

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『アシスタント』を観る前のQ&A

✔『アシスタント』の見どころ
★有害な組織内の構造を淡々と見つめていく。
✔『アシスタント』の欠点
☆明確な起承転結に乏しい。
☆フラッシュバック等には注意。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:題材に関心あれば
友人 3.0:テーマを語り合って
恋人 3.0:デート向きではない
キッズ 2.5:子ども向きではない
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アシスタント』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):ある1日のこと

まだ暗い夜。ニューヨーク・シティの建物の入り口から車に乗り込むひとりの若い女性。ジェーンは後部座席でぐったりと疲れが抜けていないように脱力しています。

そして到着したのは務めている映画制作会社。ジェーンはここのジュニア・アシスタントです。

オフィスはまだ誰もおらずに真っ暗。部屋に入ったジェーンはいつものように明かりをひとつひとつつけ、机やパソコンがじんわりと照らされます。

キッチンで溜息をつきながらも、休む暇は無し。他の社員が来たので「週末はどうでしたか?」と社交辞令的な会話。けれどもこの社内ではジェーンと対等にトークするような社員はひとりもいません。

その後はひたすら事務仕事です。印刷し、飲み物を箱から取り出し、掃除をし、出勤してきた男性社員に印刷した資料を配っていき、電話をかけ、また印刷し、それを配り歩いていき…。

時間を見つけてキッチンでシリアルをひっそり食べますが、ゆっくりする時間はありません。次から次へと雑用を頼まれていきます。

男性アシスタントもいますが、ジェーンはその男性からも仕事を投げつけられていました。

そして姿の見えない会社のトップである会長からの罵声の電話を受け取ることも…。

ある時間、廊下で母に電話。「大丈夫なの?」と心配され、自分が父の誕生日を忘れていたことにそこで気づきます。

また仕事に戻り、散らかした食べ物を片付け、食事を注文し、受け取り、男性アシスタントには頼んでたものと違うと文句を言われつつ、皿を洗い…。

そこに若い女性がやってきます。シエナという子で、アシスタント志望のようです。その子をこの会社のトップである会長に会わせるべく、ホテルまで送ることになりました。

ホテルに向かう行きの車の中で、シエナは先輩であるジェーンの横で、この映画業界で働く夢を無邪気に語っており、ジェーンはそれをローテンションのままに受け流していました。

しかし、そのホテルへ送る仕事が終わってもジェーンの中では心残りがあり、無かったことにはできなくなってきます。あのシエナという若い子が会長とホテルで密かに会うことになるというのは、どういうことを意味するのか…。

ジェーンはすでにやや動揺しつつ、思い切って人事部長のウィルコックに相談に行くことにします。彼のいる狭い部屋に通され、ウィルコックの前で自分の懸念を語りだすジェーン。必死に感情をこらえる表情で言葉を絞り出しますが…。

この『アシスタント』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/07に更新されています。
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ボトムアップ型の寓話

ここから『アシスタント』のネタバレありの感想本文です。

“キティ・グリーン”監督によれば『アシスタント』の製作きっかけは、『ジョンベネ殺害事件の謎』の公開時に取材者から「男性プロデューサーの誰が決定を下すのか」など、まるで”キティ・グリーン”監督自身が創造性も責任も持っていないかのような扱いを受けたことだそうですBFI

そして組織や業界というものをトップダウンで見るのではなく、ボトムアップで見るという視点に立ち、物語を企画し、大量のリサーチを重ねました。リサーチ対象も映画業界だけでなく、いろいろな職種の人を調べたそうです。

だからなのかこの『アシスタント』はあまり映画業界特有の要素は無く、仕事や国を問わず、どこにでも当てはまりそうな寓話性を有しています。

冒頭から主人公のジェーンがオフィスで淡々と雑務をこなしていく姿が、極めて抑揚も何もなく事務的に映し出されます。非映画的というか、ハイパーリアリズムな地味さです。華やかさなどは皆無で、「本当にエンターテインメント業界か?」と疑いたくなるほど。たぶん「ここは小さな事務用品の販売会社です」と説明しても、映像だけならそのまま信じる人もいそうです。

ジェーンは開始時点ですでに限界に達しているのが伝わってきます。顔に生気は無く、幽霊のようです。感情的な気楽なシーンは一切ありません。ここはジェーンにとっては職場という名の牢獄です。

プライベートなシーンも全く映らず、かろうじて両親との電話がそれに該当しますが、あのやりとりからして、ジェーンにはもはやプライベートすら何もないのでしょう。

演出も的確で、例えば、ジェーンの服装。薄桃色の上半身、普通のパンツ。この無味乾燥なオフィスにおいて全く目立たない出で立ち。一応、主人公として最低限のカラーはある程度です。

子どもを預かるシーンで、年上の女の子が机にあがって動物の真似なのか、自由に振舞っている場面がありますが、あそこだけちょっとホラー風味が増します。ライティング(光)のせいなのか、物言わずともそこにはサスペンスがある…そんな感じにも受け取れます。

このひとりの女性がある場所で淡々と働いている姿を映し出すという演出を見ていると、“シャンタル・アケルマン”監督の『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を思い出します。こちらの映画は1975年のもので、ひとりの主婦が家で淡々と家事をこなしていく姿を描きつつ、そこに滲むフラストレーションを巧みに捉えた作品でした(こっちは200分もあるのですが)。

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被害者なのに罪悪感を感じてしまう

性暴力やセクシャル・ハラスメントを題材にすると、「被害者vs加害者」という構図になりがちですが、『アシスタント』は最大の加害者たる会長は映らず、直接的な暴力も映りません。徹底して「有害なシステム」を映すことに専念しており、何度も言うようにこれは構造を可視化するものです。

ここでジェーンの立場が重要で、ジェーンも確かに被害者です。ジェーン自身が明確に露骨な被害に遭うことはないのですが、その扱われ方は常に女性蔑視的。毎日、泥をコーヒー1杯に1滴だけ加え続けられるかのような(この例えが適切かはちょっとあれだけど)、じわじわとした苦しみです。

ただ、それと同時にジェーンは自分がこの有害なシステムに加担してしまっているという、加害者としての罪悪感を感じているのも見て取れます。この映画のタイトルどおり、まさに「アシスト」してしまっている、と…。

それが強調されるのが、あの人事部長ウィルコックとの会話シーン。本作における唯一のコミュニケーションの場面ですが、ここでシエナが会長から性暴力を受けているという懸念を懸命に訴えようとするジェーンに対し、ウィルコックは言ってしまえばガスライティングな口調でなだめるわけです。

ウィルコックを演じた“マシュー・マクファディン”の見事な嫌な奴っぷり。ドラマ『メディア王 華麗なる一族』でもそんな役回りでしたけどね。このドラマ『メディア王 華麗なる一族』でも、エンターテインメント業界の大企業で淡々と行われる女性アシスタントへの酷い扱いが、こちらでは背景として描かれており、『アシスタント』にも登場した“ジュリアーナ・キャンフィールド”がその被害者の役で、すっごい既視感があるんですが…。

このウィルコックによる「落ち着きなさい。心配しないで。最初は辛いものだ」の3コンボ対話の最後に、ジェーンが部屋を出る直前、ウィルコックからの言葉「君はタイプじゃないから心配いらないよ」という醜悪なハラスメントも追加されます。

つまり、ジェーンは自分も被害者なのに加害者としての責任感を感じてしまい、その最中に被害を上書きされる。こういうことが平然と起きてしまうのが、このシステムだということ。

終盤では「I overreacted」と会長への反省文を(うざい男性アシストがありつつ)書かされるのですが、こんなのはジェーンに最もかけ離れた単語です。大袈裟で過剰反応だったことなど作中で1ミリもないのに…。

ラストは会社を出たジェーンがささやかな食事をとりつつ、オフィスの窓が照らされているのを目にし、そこで起きている“加害”が脳裏をよぎるも背を向けていく…。『裏窓』的な構図なのですが、『アシスタント』の場合は主人公は何もできずに終わるというのが現実を突きつけていました。

有害なシステムは「悪いリンゴ理論(Bad Apple Theory)」…要するに「問題を起こす特定の人間の排除」では解決しません(無論、これは加害者がお咎めなしでいいという意味ではありませんが)。

ヒエラルキーにおいて最も下にいる者だけが被害と罪悪感の二重苦に沈む世界。そんな世界の作るエンターテインメントは楽しめません。

『アシスタント』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 25%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

性暴力を題材にした作品の感想記事です。

・『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』

作品ポスター・画像 (C)2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.

以上、『アシスタント』の感想でした。

The Assistant (2019) [Japanese Review] 『アシスタント』考察・評価レビュー