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『モリーズ・ゲーム』感想(ネタバレ)…人生はまた滑りだせる

モリーズ・ゲーム

人生はまた滑りだせる…映画『モリーズ・ゲーム』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Molly’s Game
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2018年5月11日
監督:アーロン・ソーキン

モリーズ・ゲーム

もりーずげーむ
モリーズ・ゲーム

『モリーズ・ゲーム』あらすじ

モーグルの選手のモリーは試合中の怪我でアスリートの道を断念する。ウェイトレスのバイトで知り合った人々のつながりから、ハリウッドスターや大企業の経営者が莫大な掛け金でポーカーに興じるアンダーグラウンドなポーカーゲームの運営アシスタントをすることになるが…。

『モリーズ・ゲーム』感想(ネタバレなし)

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アーロン・ソーキン監督デビュー作

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を可能とする法案が成立し、いよいよ日本でもカジノ・ビジネスが本格化しそうです。まあ、私は賭け事に全然興味のない人間なので、“関係ないよ”風な顔をしています。そういう人は多いでしょう。

でも案外そう他人事のようにもいってられないかもしれません。懸念事項として、経済効果だ、ギャンブル依存症対策だと色々言われていますが、最も根本的な問題があります。それは莫大な利権が動くカジノを適切にマネジメントすることの難しさ。「カジノを誘致しました。はい、ボロ儲けで~す」なんて甘い話はなく、当然、そこには金の匂いに敏感なハイエナやらハゲワシやらがいっぱい群がってくるわけで…。それらを相手にできるのか、その実力も問われるんですよね。

そんなことを本作『モリーズ・ゲーム』を観ながら思いました。

本作は、モリー・ブルームが2014年に出版した自叙伝「Molly’s Game: From Hollywood’s Elite to Wall Street’s Billionaire Boys Club, My High-Stakes Adventure in the World of Underground Poker」を原作とした(長い)、要するに伝記映画。

このモリー・ブルームという人、私は全然知りませんでしたし、おそらく大半の人は聞いたことがないと思いますけど、オリンピック出場を有望視されていたスキーのモーグル選手で、大怪我でそのチャンスを絶たれた人です。つまり、本作は『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』や『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のような、スポーツ伝記映画でもあるわけです…が、スポーツは全くメインになりません

怪我で引退後にモリー・ブルームが始めたポーカーゲームの運営が主なメインとなります。

ところがそれさえも本作の本当の顔ではない…というのが面白い部分なのです。

私は予告動画や宣伝素材を観て、華やかな衣装をまとった“ジェシカ・チャステイン”演じる主人公モリー・ブルームが、セカンド・ワークで挑戦したポーカーゲーム事業で大成功をおさめるも転落するという、いわば『マネー・ショート 華麗なる大逆転』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』みたいなそっち系だと、金儲け絡みの話だと思ったのですが、それも違いました

ネタバレなしで結論だけ言えば、本作は「人生で大きな挫折を味わった女性が、女性特有の壁にぶちあたりながら、男社会の中で再出発をする」…その姿を描いた作品です。

本作はあの天才脚本家“アーロン・ソーキン”の監督デビュー作なのですが、彼が以前に脚本に関わった『マネーボール』に非常に似た雰囲気を持ち合わせています。ピュアな人生応援映画ですね。

題材となったポーカーゲーム場には実在のあんな俳優やこんな俳優も参加していて、そのことも名前を隠して描かれているのですが、“アーロン・ソーキン”監督自身は自分の知り合いもいたし、「人の噂話をするような脚本は絶対に書かない」と当初は思ったそうです。でも、モリー・ブルームの人生を知ってその考えを改めたくらい、その生き方に惚れたと。それほどのお手本になるような人物でもある。そんな人を描いた映画なのです。

相変わらず“アーロン・ソーキン”節は炸裂していて、凄い情報量をこれまた凄い速度で観客の頭に流しこむストーリーテリングなので、よそ見とかしていると全然ついていけません。こちらも勝負してやるくらいの集中力でのぞみましょう。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『モリーズ・ゲーム』感想(ネタバレあり)

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最初から飛ばしてます

まず冒頭の“アーロン・ソーキン”節フルスロットルな導入に一気に持っていかれる本作『モリーズ・ゲーム』。

「プロスポーツ選手300人に行ったアンケートがある。“スポーツで最悪な瞬間は?”」そんな出だしに始まり、その答えが「逆転負けされること」「連敗すること」「予選敗退」「五輪で4位になること」と次々語られるなか、モリー・ブルームの生い立ちと今後の人生計画が超ハイスピードで説明されていきます。

最終的には起業する。その手始めにこのモーグルのゲームで決めて、オリンピック出場だ。私のコンディションは最高。完璧なランを見せてやる。さあ、GO。滑り出し、順調。最初のジャンプ、好調。次のジャンプ、転倒。転倒、転倒、転倒…。私の人生、終わった。

「五輪で4位になることって言った人に言っておく、マジで言ってる?ファッキュー」のオチ。なんでしょうか、作中の登場人物は大失敗をしているのに、それを語るストーリーテリングがパーフェクトすぎて、あまり可哀想に思えなくなる感じ。“アーロン・ソーキン”の映画を観ている!という高揚感があり、ここだけでワクワクでした。

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その印象は間違っている

そして、舞台は変わって12年後、逮捕されてからのモリー。

容疑は違法賭博の運営。モリーはチャールズ(チャーリー)・ジャフィーという弁護士に助けを求めます。

このジャフィーは架空の人物ですが、これはもう実質“アーロン・ソーキン”自身の投影された存在だと言っても過言じゃないでしょう。なぜなら、“アーロン・ソーキン”がモリーの自伝を映画化するに至る過程で“最初はナメていたのに彼女を知るにつれてその生き方を見直していく”という経過がそっくりそのまま作中でも同じだからです。

ジャフィーは初めはモリーのことを「どうせ有名人の金目当てで調子に乗って、マフィアにまで手を出した、自業自得でマヌケな女なんだろう」くらいにしか思っていません。もともと人権問題を扱う弁護士であり、ゆえに彼女の自伝本に対して「貧乏人のベーグルじゃなくて、“ニガー”のベーグルじゃないのか」と指導する感じで、世間をわかっていないこの女性に教えてやろう的な対応をします。

そんな彼が罪状認否に同行するだけにするはずが、最初の法廷で急に弁護士になると意見を急転させたきっかけは何か。それは、皆が買い取りたがった客の債権を売らなかったこと。その理由は、「取り立て方法が不安だった」から。自分の服さえ売ってお金を工面していたモリーですが、そんな状況でも法律や顧客の安全を最優先に考えている…この事実で「あ、この女は悪い人じゃない」と確信するジャフィー。

それどころか、モリーは被害者・加害者・容疑者の枠を超えて、社会の弱者であり、搾取される側の人間でもあるという、ジャフィーが本来得意とする人権問題の範疇にいる人だと理解するわけです。

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現代の「るつぼ」

スポーツの世界から降りたモリーの第2の人生に立ちふさがる最も大きな障害は「自分が女性であること」でした。

選手引退後にウェイトレスで生活費を稼ぐモリーが出会ったディーン・キースのもと、雑用係をすることになりますが、それは明らかの彼女に不釣り合い。学歴もあり、成績優秀で、体力も精神力もある彼女の仕事が男の奴隷のような内容のものばかり。完全にアンダー・エンプロイメントです。

しかも、男に表計算ソフトを使っているだけで驚かれるくらい、ナメられまくり。差別と偏見にまみれた職場です。

しかし、モリーはそんな男社会の中で、ポーカーを学び、さらにそれだけでなくポーカーの客を通して世界のあらゆる情報を学びとり、経営者としての才覚を発揮していきます。そして、まんまとディーンの客を奪い取り、自分のポーカークラブを設立。その才能を活かして順調にのし上がっていくモリー。

モリーは経営的なセンスが素晴らしく、それは天才型というよりは努力型。常に几帳面に自分で帳簿をつけている姿からもよく伝わってきます。一方で、したたかさも備えており、“男性の需要に答えるために”刺激的でセクシーな衣装を身にまとうようにします(自分自身がゴージャス三昧な生活をしているわけではないところがミソ)。違法な点がないか気をつかうあたり、とにかく真面目です。

さらに、ポーカークラブに集まってくるハイエナやハゲワシのようなダメダメな男たちにも常に親身。このへんは、近所の世話好きなおばちゃんみたいです。極端にポーカーに弱い男がいれば、もうやめたらと諭してあげるし、負け続けてムキになる男がいれば、家族を大切にしてと語りかける。自分に性的関係を迫ってくる男がいても、それはあなたのためにならないと丁寧に断る。イカサマをする男には、他の店ではやるなと忠告する。

けれどもそんな一生懸命にキャリアを歩むモリーに、社会は厳しい対応を突きつけるわけです。マフィア組織の暴力、国家権力の横暴、マスメディアの詮索、その他ハラスメントの数々。そもそもモリーが逮捕されたのも違法賭博の容疑というのは建て前で、実際はマフィア撲滅のための情報入手が目的。このあたりの構図は、2018年に起きた米中貿易戦争に巻き込まれるかたちでカナダでHUAWEIのCFOの女性が逮捕された一件も思い出しますね。

作中で何度も言及されているとおり、アーサー・ミラーの戯曲「るつぼ」そのもの(セイラム魔女裁判やアカ狩りをテーマにした作品)。モリーは、権力と偏見によって迫害される、現代人の代表です。

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女性の道しるべ

そのモリーの弁護をすることになるジャフィーもまた、実は最初の会話冒頭で、弁護士を探した話をするモリーが「1人は性的関係を強要」と言った言葉をわりとあっさりするーしているあたり、女性差別的な意識を持っています(後に改め直しますが)。

本作では女性があまり出てこないのですけど、ある意味、このジェンダー格差を俯瞰的に見ている存在として登場しているのはジャフィーの娘です。この少女は、“アーロン・ソーキン”監督自身、自分の娘にモリーを会わせたいと思ったと発言しているので、やっぱりそういう部分を意識しているのでしょう。モリーは未来を生きる女性たちのロールモデルだというメッセージ性が示されています。

前半から後半まで“アーロン・ソーキン”流の情報マシンガンで攻めまくる内容でしたが、後半も終盤にさしかかると、急にエモーショナルなドラマがおしだされます。このあたりも『ソーシャル・ネットワーク』や『スティーブ・ジョブズ 』など“アーロン・ソーキン”脚本のいつもの特徴ですね。

父との本音で語り合う「3年分のセラピー」。法廷での判決。短いながらもそこに確かに社会の善が存在していました。

ラストはモーグルの転倒時のシーンに戻る演出も上手いです。立ち上がるモリー。努力を讃えて拍手する観客。掲示板にはリタイアの文字。「彼女はきっと何かで復活しますよ」と語る実況。転倒の原因となったコースの小枝が映るエンディング。

もしあなたが人生に致命的につまずいたと思っても大丈夫です。認めてくれる人は必ずいますから。

『モリーズ・ゲーム』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 84%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

(C)2017 MG’s Game, Inc. ALL RIGHTS RESERVED. モリーズゲーム

以上、『モリーズ・ゲーム』の感想でした。

Molly’s Game (2017) [Japanese Review] 『モリーズ・ゲーム』考察・評価レビュー