回りくどく隠れている…「Disney+」ドラマシリーズ『ナインパズル』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2025年)
シーズン1:2025年にDisney+で配信
監督:ユン・ジョンビン
自死・自傷描写
ないんぱずる
『ナインパズル』物語 簡単紹介
『ナインパズル』感想(ネタバレなし)
9つのピースでも…
3000ピース、5000ピースのジグソーパズルを楽々と完成させることができる人にとって「たった9ピースのパズル? 簡単すぎじゃない?」と思うのも当然。10秒もしないうちに出来上がりそうです。
でもこの9ピースのパズルは簡単ではないのです。
問題はパズルの絵柄合わせだけではなく、そこに描かれた絵はどんな意味で、何がどう関連しているのかまで分析しないといけないのですから。しかも、これは人の命が懸かっている…。
そんな史上最もピースが少ないのに最大級の困難さを極めるパズル・ミステリーに挑むことになる韓国ドラマが今回紹介する作品です。
それが本作『ナインパズル』。
本作は、とある犯人不明の殺人事件が発生し、その現場に1つの謎めいたパズルピースが落ちている…というところから始まります。お察しのとおり、そこから謎解きをしていくことになるのですが、道のりは長いです。本当にややこしい…。
捜査モノのミステリーなのですが、そのジャンルでは定番のバディで進行していきます。しかし、この主人公となる2人組の関係性がやや特殊で、それがこの作品をより謎めいたものにさせています。
ひとりは刑事の男、ひとりは犯罪プロファイリングの専門家の若い女なのですが、刑事はその犯罪プロファイラーこそ例の事件の犯人ではないかと疑っている…という状態なのです。バディものは多くのケースで、互いに何かしらの不和が生じて関係に亀裂があることは珍しくないですが、ここまで露骨に疑心暗鬼なスタートを決めることはあまりないかもしれません。
この主役2人を演じるのは、犯罪プロファイリングの専門家は“キム・ダミ”が、刑事は“ソン・ソック”となっています。
“キム・ダミ”は2018年の『The Witch 魔女』で一気にその才能が見いだされ、続くドラマ『梨泰院クラス』でも大好評を博し、ドラマ『その年、私たちは』などキャリアを重ねて、もはや盤石の貫禄さえある若手です。
“ソン・ソック”は最近でもドラマ『カジノ』や『殺人者のパラドックス』など着実に演技力を培って実力をつけてきた中堅。俳優としては遅咲きですが、本作『ナインパズル』ではそんな“ソン・ソック”が天才若手“キム・ダミ”にたじたじになる姿がたくさん見られるので、なんだか実人生と役がシンクロしていて微笑ましいです。
『ナインパズル』は基本的にこの2人の俳優のコンビネーションを眺めるドラマですので、この俳優が好きな人には幸せな時間が訪れます。
共演は、『ソウルの春』の“キム・ソンギュン”、ドラマ『ダリとカムジャタン』の“パク・ギュヨン”、『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』の“ヒョン・ボンシク”、さらに“チャン・ギョクス”、“チョン・マンシク”、“アン・ソヨ”、“ノ・ジェウォン”など。加えて、大物ゲスト枠も充実しています。
『ナインパズル』を監督するのは、ドラマ『ナルコの神』を手がけた“ユン・ジョンビン”です。
『ナインパズル』は「Disney+(ディズニープラス)」で全11話で独占配信しています。
『ナインパズル』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 自死を少し描くシーンが一部にあります。 |
キッズ | 残酷な殺人の描写があります。 |
『ナインパズル』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
夜、赤いヘッドホンをつけた高校生のユン・イナは土砂降りの中、傘を差しながらバス停へ着き、乗り込んで家に帰宅。庭を抜け、玄関のロックを自分で開けて中へ。電気はつかず、誰の気配も感じません。「おじさん」と呼びかけるも返事なし。なぜか裏の窓は開いたままです。そして居間の床にはパズルのピースがひとつ落ちていました。
そのまま少し奥に目を向けると血が流れており、その先では叔父の遺体が無残に転がっており、首には錐が刺さっていました。呆然と立ち尽くすイナ。
警察が通報で駆けつけて現場検証を開始します。亡くなったのは元署長のユン・ドンフン。死亡推定時刻は1時間前の午後9時。新米刑事キム・ハンセムはこの事件の担当になります。イナは交通事故で両親を亡くしており、このドンフンと家政婦との生活だったようです。イナの部屋は絵でいっぱいであり、錐もそこにありました。
取調室でもイナは感情を表にださず、喋りもしません。家に入ってからの記憶がないとだけ口にします。夜8時に学校を出てバスに乗ったらしく、バス停から遠回りして9時頃に家に着いたとのこと。そして家政婦が自分の名前を呼んでいるのに気づき、亡くなった叔父の存在を自覚したという何とも空白の記憶が滲むものでした。
ハンセムは直接証拠はないですが明らかに怪しいイナが犯人だろうと睨みます。侵入や争いの痕跡は見られないため、被害者のドンフンは犯人を知っていたことになります。
ハンセムもイナを事情聴取してみると、イナとドンフンが寮のことで口論していたことは確かであるものの、やはり肝心のあの場での出来事は頑なに思い出せないと繰り返すだけでした。
しかし、翌日、イナは署にわざわざやってきてハンセムにパズルのピースを見せ、犯人を捕まえてくれることを期待するかのような素振りをみせます。
10年後、イナはバンジージャンプを何度も楽しんでいました。死に近づく感覚が楽しく、彼女にとってはいつもの余興。その後に赤い真新しい車を乗り回し、顔なじみのセラピストのイ・スンジュの前では爆笑してみせたりと、自由奔放です。けれどもあの叔父の殺された事件の記憶はなおもありませんでした。
一方で、刑事として仕事を続けるハンセムはまだあの事件が引っかかり、独自に空き時間に調べたりしていました。イナの元寮仲間で久しぶりに韓国に戻ってきたヨム・セリョンに事情を聴くと、当時「アリバイ」とイナが発言していたらしいです。
今のイナはハンセムの漢江署に入り浸り、すっかり顔も知られていました。実はイナも警察官で、正確には犯罪プロファイラーだったのです。イナの亡き両親は病院を経営しており、彼女は遺産相続によって裕福でしたが、仕事にはこの犯罪分析を選んだようです。
イナのソウル警察庁の犯罪分析チームの班長はユン・ゴウンで、ナム・ヒョクスやピョン・ジユンといった同僚がいます。
イナをずっと疑い続けるハンセムの言動は漢江署の他の警察仲間の間では知られています。署長のヒョン・ホグン、強力2班の班長のヤン・ジョンホ、元漢江署の刑事で今は広域捜査隊の隊長のテ・ドンス…そんな彼らはいつもの光景として見守っていました。
そんなある日、亡きドンフンの家に配達物が届き、イナは2つ目のパズルピースを受け取ることに…。10年後になぜ…。
回りくどいパズルピース

ここから『ナインパズル』のネタバレありの感想本文です。
シンプルなあらすじでも、それを抽象的な絵にして、さらに9つのパズルピースに分割し、バラバラにして1個ずつ提示していけば、全体像が異様にわかりづらくなる…本作『ナインパズル』がやっているのはそんなことだったと思います。
連続殺人(場合によってかなり巧妙に死に追い込む)が起きている状況からして、パズルピースを1つずつ送ってくる行為といい、それは一見するとゲーム気分で連続殺人を楽しむサイコパスの犯行のようですが、そうではないことはわりと初めの時点で察せます。
物語の視点が最初から警察内部にあたり続けることからしても、おそらくこの一連の犯行は大規模な組織不正に対する復讐か何かだろう、と。
あとはフーダニット(whodunit)…犯人は誰かというそこに絞られます。
真相を言ってしまえば、今回の背景は、かつてあった新東亜市場の再開発計画(後にザ・ワンシティーという超高層ビルが建つ)によって蹂躙された者による権力側への仕返しでした。
パズルキラーによる事件の被害者たちは、ユン・ドンフン、イ・ミヨン、カン・チモク、チェ・ヨンハン、ド・ユンス、イ・ガンヒョン、オ・チョルジン、クォン・サンボム、キム・モイル…。全員の点が線で繋がっていきます。殺された人たちは加害者だったということ。
それにしても平然とゲスト出演する“ファン・ジョンミン”。しかも、すごくあられもない死体の扱われ方で、絶対に製作陣は笑いをとろうとしているだろう…。
正直、この真相ならもっと関係者の過去を入念に調べたらすぐに関係性に気づけるのではないかと思わなくもないですよ。あれだけ大きな社会的な接点があるのですし、犯罪プロファイリングの出番ですらないでしょう。
というか、この事件、パズルピースですら一種のミスディレクションみたいなもので、すごく回りくどいやりかたなんですよね。
そのパズルの絵を描いたあのファン・インチャン医師も、性的指向を隠していたという弱みが協力の理由のようで、マイノリティのアイデンティティがオチに使われるステレオタイプな扱われ方といい、とくに盛り上がる展開でもないのがまたあれでしたが…。
犯人もまた復讐がしたいならパズルピースに頼らずにもっとわかりやすく行動すればいいのに…。ザ・ワンシティーにひとりひとり磔にしておけば、あの土地の価値も下がるだろうし…。
そんな感じでこの『ナインパズル』はミステリーとしてはだいぶ散漫で、事件の動機に対する行動のありかたが強引なので、そこはちょっと気にはなりました。なんとなく観ているうちに思いましたよ。「これ、パズルピースはわりとどうでもいいのでは?」と…。
ラストの主犯の焼身自殺による陰鬱な結末といい、結局のところ、何も解決したわけでもないですから、観客としてはスッキリしないまま放置されます。
ここだけ切り抜けば本当に鬱展開なミステリーでしたね。
のんびり眺めていたい2人
それでも完全に重くなりすぎず、ある程度の朗らかな見ごたえを用意してくれているのが、この『ナインパズル』の顔と言える、ユン・イナとキム・ハンセムの2人。
イナは犯人だと当初から疑われますが、「主人公が犯人」というオチでやるにしてはさすがにストーリーテリングが能天気すぎるので、それはないなという雰囲気ではありました。このイナは車もスマホもヘッドホンもノートパソコンもクレジットカードも赤い色を使っており、本作はイナ以外でも至る所に赤を駆使していますが、一種の謎の中心地になっているのがイナです。犯人側にしてみれば「謎を解いてくれる人(無念に気づいてくれる人)」の役割を与えただけで、イナは無自覚にその使命を果たします。
ただ、そこに気づくのはだいぶ終盤になってからで、ではその間は何をやっているのかと言えば、イナはハンセムいじりを楽しんでいるわけです。
この「イナがハンセムを揶揄う」というのをただただ眺めるのが本作のメインショーになってましたね。まるで「若い女の子に弄ばれるおじさん」のようになっているハンセム…。
変なことにイナはハンセムを疑っていません。いや、最初は疑ったのかもしれませんけど、最も先にその疑惑から外れます。
そして2人はしだいに信頼を築いてバディを組んでいく。この過程はドラマらしい味つけで楽しくはありました。
ハンセムも何か裏でもあるのかと思ったら、本当に単にミステリージャンルが好きでこの仕事やっているだけの根はオタクでしたからね。少しイナがハンセムの好きなジャンル作品に興味を持ってくれると喜びを隠せないあたりがオタクの本音がこぼれてる…。
スーツスタイルのイナがハンセムを引っ張っていく構図はずっと観ていられます。ハンセムも全然怖くないですし、あんなの「弄ばれる中年男性」のサンプルじゃないですか。韓国で最もタトゥーしているのに怖くない刑事だよ…。
そのギャグっぽいトーンで事件も進んでくれると良かったのですが、前述したとおり、今回の事件はかなり陰惨なので、そこがミスマッチだったかもしれません。
私はイナとハンセムが街で起こる「ふんわりした困りごとの事件」に次々と挑み、イナのプロファイリングと弄りに遊ばれてるハンセムの七転八倒をのんびり眺めて休日を過ごしたかったです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
関連作品紹介
Disney+で独占配信されている韓国ドラマの感想記事です。
・『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』
・『ムービング』
作品ポスター・画像 (C)2025 Disney
以上、『ナインパズル』の感想でした。
Nine Puzzles (2025) [Japanese Review] 『ナインパズル』考察・評価レビュー
#韓国ドラマ #ユンジョンビン #キムダミ #ソンソック #キムソンギュン #警察 #バディ #シリアルキラー #ゲイ同性愛