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『オペレーション:レッド・シー』感想(ネタバレ)…中国軍最強伝説

オペレーション:レッド・シー

中国軍最強伝説…映画『オペレーション:レッド・シー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:紅海行動 Operation Red Sea
製作国:中国・モロッコ(2018年)
日本公開日:2018年9月22日
監督:ダンテ・ラム

オペレーション:レッド・シー

おぺれーしょんれっどしー
オペレーション:レッド・シー

『オペレーション:レッド・シー』あらすじ

中東の某国で内戦が勃発し、現地に在留する自国民を助け出すため中国海軍が救出作戦を展開。多くの中国人が現地を脱出する一方、一部の人々が大使館などに取り残されてしまう。取り残された人々を救出する任務を負った「蛟竜突撃隊」の精鋭たちは、激戦を潜り抜けながら自国民を救出していく。しかし、1人の女性がテロリストによって連れ去られる。

『オペレーション:レッド・シー』感想(ネタバレなし)

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中国の戦争映画が勢いよすぎる

FPS戦争ゲームの金字塔として長らくファンに愛されてきた「コール オブ デューティ」最新作は、最近の世界情勢を反映してついに中国人民解放軍海軍が主人公になりました。はい、嘘です。デタラメを書きました。ごめんなさい。

でも、映画の世界ではそんな感じになってきたのです。というのも、昨今の流れなのか、戦争で戦う自国兵をただ賛美的に描く…言ってしまえばプロパガンダ的に扱うような一昔前は普通にあった戦争広報映画っぽい作品はすっかり減りました。とくにアメリカは、例えば2012年の『ネイビーシールズ』などそういう作品を十八番にしていたのに、今では鳴りを潜めています。やはりそういうのは良くないという風潮があるのか、それともアメリカ自体が多様化して大衆を一様に鼓舞する作品を作りづらくなったのか。復活の兆しはありません。むしろ最近は、『ウォー・ドッグス』や『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』など最近起こった戦争を風刺するようなコミカルな戦争映画が現れています。

そうなってくると、巨大な軍隊を持ち、社会情勢的にも好戦的な勢いがあって、かつ大作映画を作れるような国はひとつくらいしかありません。そう、中国です。日本からそんなに遠くない距離にあるアジアの大国、中華人民共和国。

今ではハリウッドも無視できないほど国内映画産業の発達が著しい、社会主義のこの国が作る戦争映画は十中八九、“広報的”な色が濃くなります。当然ですね。政府に検閲されている以上、自国を悪くは描けませんから。

近年もウー・ジン監督&主演による『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』という戦争映画大作が公開され、記録的大ヒットを叩き出しました。この作品を観た人ならすぐにわかるように、いわゆるプロパガンダ臭を全く隠す気もなくさらけ出しており、ここまでくると清々しいくらいです。

そんな中国万歳!な戦争映画にまた新しいとんでもない一作が加わりました。それが本作『オペレーション:レッド・シー』です。本作は中国映画史上『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』に次ぐ第2位の興行収入を記録しており、2018年の世界の映画興収ランキングでも、アメリカ企業映画がズラッと並ぶ中、現時点で8位に食い込んでいます。アメリカはアメコミキャラたちが戦争していて、中国はリアル軍人が戦争をしている…すごく極端な構図ですね。

そして本作はこれまた“広報的”な色がもうべっとりで、最初から最後まで「中国軍は最強!」というメッセージを映像で観客の脳に強制上書きしてきます。全編クライマックス状態で、劇中の8割以上は戦闘シーンか、襲撃されているシーンになっており、本編は2時間を超えるのでかなりの映像量に圧倒されます。『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』はアクション・ヒーロー的なワンマンプレイが目立ちましたが、こっちはひたすら名もなき無数の軍人たちの活躍を描くことに徹しているので、余計に広報要素が強めに出るんですね。さすが人民解放軍創設90周年でプレゼンされただけのことはある映画です。ただものじゃないです。

しかも、本作の監督はあの香港の名監督“ダンテ・ラム”だということがまた異色。この監督と言えば、ノワール系アクションで作品を積み重ねてきた歴史がありますが、最近、とくに2016年の『オペレーション・メコン』以降、スケールの大きい中国国家のパワーを描く作品に抜擢されています。こうなってくると、なんかもうマイケル・ベイ化していると言えないでもない、派手さが第一の作風が嫌でも目立ってくるんですね。“ダンテ・ラム”監督はどこに向かっているのだろうか…。

とまあ、こんな感じで、本作は“そういうものだ”とあらかじめ認識したうえでお楽しみください。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『オペレーション:レッド・シー』感想(ネタバレあり)

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銃声、爆発、以下略

冒頭、いきなり海賊に占拠される中国貨物船という、既視感いっぱいのシーンからスタート。しかし、この海賊たちはしょせん中国人民解放軍海軍の凄さを証明するための生贄にすぎなかった。超絶神業級のスナイパーがパーフェクト・ショットを決め、スタイリッシュに軍隊が突入。このブリーチ(突破)シーンは、ものすごいFPSゲームでよく見る光景。演出もスローモーションたっぷりだったりして、明らかにゲームを意識しているとしか思えない。中国もアメリカとやることは同じなんだなぁ。

この冒頭は掴みのシーンだからある程度派手なのはわかります。でも本作、このあともずっとこんな感じなんですね。ここからだいたいが絶体絶命の連続。「山場はどこですか?」と聞かれたら、「あなたの目の前に広がっている全部が山場です」と答えるしかないほど、物語の起伏が常にトップ状態。

舞台は本題である中東の某国家(どう考えてもイエメン)へ。ここからは色々なシチュエーションでの中国軍の活躍を観客は見せつけられます。

まずは市街地戦。RPGがビュンビュン飛んでくる中、自爆攻撃を仕掛けてくる敵の猛攻を食い止めるのが今回のミッション。どうしてもゲーム思考で観てしまいますが、「ここでコンティニュー・ポイントだな…」と思っちゃうくらい、起こる事態が画一的に提供されているような印象を受けます。映画だったら最初に戦闘のない場面で緊張感を募らせる“タメ”の演出があってもいいのに、本作は早々にドンパチが開始しますから。

続いてガラッと変わって遮蔽物のない山岳砂漠地帯。ここでは民間車両を挟みながらのテロリスト集団の迫撃砲連発に必死に耐えるミッション。迫撃砲が雨あられと降ってくるなか、中国軍の精鋭たちは小型ドローンで対抗。岩陰に隠れる敵陣でドローンを自爆させ、形勢を逆転します。ここももう何が起こっているのか説明不可能なくらい、映像が激しすぎる…。最後は爆発によって、大きな損失を出すチーム。この時点で本作の様式がわかってきます。基本、激戦でピンチ⇒善戦するも仲間を失う⇒次のステージへ…の繰り返しなんですね。

その後は、中国海軍艦が敵の攻撃をサラッと退けるシーンを挟みつつ、敵に捕らわれた女性ジャーナリストを救出するミッションに。ここでは最初は「お、潜入系なのか?」と思わせつつ、やっぱりドンパチに移行。ここは高低差と遮蔽物を駆使したスナイパー対決がメイン。このシーンの、チーム連携で独りの凄腕スナイパーをギリギリで追い詰めていく展開は結構こっちも燃えました。

まだ終わりません。終盤パートに突入すると、今度は一気に派手さが増して戦車戦へ。中国軍全面協力なだけあって、本物の戦車を使った超重量感のある兵器が高速で走りながらチェイスして主砲を撃ちあうバトルはいかにも映画的な見ごたえあり。都合がいいことに前方から砂嵐もやってきて、さながら「マッドマックス」状態。そして、きました、満を持しての登場、中国製軍事ドローン。小さい自爆タイプとはわけが違う攻撃機ドローン、最近の中国がかなり力を入れている兵器であり、いろんな国に売り込んでいるとか…そんな最新兵器で決着をつけます。

しかし、まだ、まだ終わりません。ここで映画を終わってもいいくらいの物量だったのですが、イエローケーキです。そんなものすっかり忘れていましたが、そもそもの目的のひとつでした。それをめぐる敵陣との最終決戦。ヘリで空中からウィングスーツで降下する意味はないですが、プロモーションビデオとしては効果があるのでOK。ラストは敵ヘリを地対空ミサイルで撃破して締め。

いや、長かった…。でも、どのパートもシチュエーションを全部変えているあたりに工夫が感じられ、エンタメとして一定の楽しさがあるつくりになっていました。もちろん、映画というよりはミリタリー好きが楽しむ動画集であるという意味で…ですが。

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警告:グロいです(遅い)

こういう風に全体を見ればガチのプロパガンダ一色なんですが、そこに一滴だけ、本作を上品な優等生広報映画には見えなくさせる要素が入っているのが忘れられません。

それは誰しもが印象に残ったであろう残酷描写。本作はとにかくグロいシーンの連続。指は吹き飛ぶわ、耳は吹き飛ぶわ、腕は吹き飛ぶわ…さらには民間人でさえ容赦なく串刺しになるわ、体がバラバラになるわ…。戦場に転がるたくさんの四肢がもげた死体の数々は、4DXじゃなくても死臭がただよってきそうです。最近のグロ描写のキツイ戦争映画に『ハクソー・リッジ』がありましたが、それよりもゴア度は強め。日本公開版だともしかしたらカットされているシーンもあったのかもしれませんが、正直、カット編集のしようがないほどグログロでした。

“ダンテ・ラム”監督らしい作風だとも言えます。監督作『コンシェンス 裏切りの炎』なんかでも、自爆シーンを直接的に描いて暴力から一切逃げないのが特徴でした。登場人物をとことん追い詰めていくあたりは本作にも通じています。リアリティはあまり気にしていない、ケレン味が第一の監督ですし、例えば『疾風スプリンター』だったらスポーツを一種の魅せプレイとして描くことに才能を発揮していますが、今作では戦争を魅せプレイにする際もやはり残酷さは外せなかったのでしょう。

ただ、結果的に「海外でこんな最悪な状態で働いている中国軍に敬礼!」という、広報色が濃くなったとも言えなくもないです。それでも、普通はこんな残酷性まで描く広報はしないですから、監督の持ち味も出ているのかなとも思います。

もしかしたら、戦争なんてどんなに美化しようと結局は残酷な行為だよ…という俯瞰した見方を込めているのかもしれません。これは監督の真意がわからないので、なんとも言えないですが。香港出身という、中国本土中枢とは立場の異なる“ダンテ・ラム”監督ならそれもありそうだなと思わせるのでした。

まあ、最後は「領海を侵犯したらただじゃおかねぇ」という気迫のエンディングなので、どうあれ広報を通り越して威嚇映画になってましたけどね。

社会情勢を見る限り、中国のこの手の戦争映画はこれからも続きそう、というかさらに過激にパワーアップしていきそうですね。せめて映画の中だけにしてください…。

『オペレーション:レッド・シー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 86% Audience 70%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

(C)2018 Bona Entertainment Company Limited All Rights Reserved オペレーションレッドシー

以上、『オペレーション:レッド・シー』の感想でした。

Operation Red Sea (2018) [Japanese Review] 『オペレーション:レッド・シー』考察・評価レビュー