巨大ロボットよりもタンポンの方が厄介だ!…ドラマシリーズ『ペーパーガールズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にAmazonで配信
原案:ステファニー・フォルソム
恋愛描写
ペーパーガールズ
ぺーぱーがーるず
『ペーパーガールズ』あらすじ
『ペーパーガールズ』感想(ネタバレなし)
女の子も巨大ロボットとか好きです
巨大ロボット、巨大怪獣、タイムトラベル、思春期の多感な時期に経験する壮大なSF大冒険…。
これらの要素は全部「男の子」向けだと思っていませんか?
もちろんそんなことはありません。女の子だってそんなジャンルのあれこれが大好きな人もいますし、子どもであろうと大人であろうとも、女性がそんなジャンルを求めるのは普通なこと…。
でも世間では残念ながらそれを普通とは思っていないようで、こういうジャンルの主人公はたいてい男の子になってしまいます。少年のロマンという言葉によって壁を作られて…。女の子は登場したとしても「男の子のお相手役」…男の子の面倒を見たり、恋の対象になったりする役割でしかなかったりします。
こんな状態では、メカメカしく駆動する巨大ロボット愛を内でメラメラと燃やしている女の子たちはどうすればいいのか。難解なSFシチュエーションにあれやこれやと議論を交わしたい女の子たちの考察意欲はどこに向ければいいのか。
はい、そんな世の中に鉄槌を食らわすのがこのドラマシリーズ。欲求不満な女の子たちに贈るプレゼントのような作品、それが本作『ペーパーガールズ』です。
このドラマの原作は2015年に“ブライアン・K・ヴォーン”が執筆し、“クリフ・チェン”がイラストを描いた「Paper Girls」というコミックです。人種も生い立ちも異なる12歳の少女4人が、ひょんなことからタイムトラベルをしてしまい、時間をめぐる壮大な陰謀に巻き込まれながら成長していく青春SFストーリー。その独創性からアイズナー賞を受賞するなど高い評価を受け、ある批評家は「次の偉大なアメコミだ」と絶賛したりもしていました。
青春SFドラマと言えば今最も人気なのは『ストレンジャー・シングス 未知の世界』ですが、この『ペーパーガールズ』はそれと比較されることも多いです。『ストレンジャー・シングス 未知の世界』は男女の子どもたちがでてきますし、人種も幅がありますが、やはり主軸は白人の男の子にある部分も否めませんでした。しかし、『ペーパーガールズ』は完全に女の子に振り切り、人種も多彩でフェアに展開される。ゆえにジャンルの次世代として称賛されているわけです。
主人公は、ひとりはアジア系、もうひとりはアフリカ系、3人目はユダヤ系白人の富裕層、4人目は白人の貧困層。科学オタクもいれば、ボーイッシュな子もいるし、性的指向に密かに悩んでいる子もいる。レプリゼンテーションとして非常に充実しています。
しかも、この作品は二足歩行巨大ロボットが平然と登場するんですよ。「え!? こんなナチュラルにでるの!?」ってびっくりするくらいに。それ以外にもSFらしいことが連発しまくりますし、もうSFのおもちゃ箱をひっくり返したみたいです。
その『ペーパーガールズ』がついにドラマシリーズ化したのですが、そのドラマを原案で指揮するのは、『マイティ・ソー バトルロイヤル』や『トイ・ストーリー4』の脚本家でおなじみの“ステファニー・フォルソム”。満を持して配信が始まるドラマ『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』の脚本にも関わっており、今や引っ張りだこのライターです。
そして“ステファニー・フォルソム”と一緒に製作総指揮に名を連ねているのが「Plan B Entertainment」を引っ張る“ブラッド・ピット”。相変わらず良い仕事を裏でやってるなぁ…。
俳優陣は、初々しい子役たちに混ざりつつ大人勢も注目。個人的には『いつかはマイ・ベイビー』で主演し、私もすっかり気に入ってしまった“アリ・ウォン”が今回も絶妙な演技を披露しているので期待してほしいところ。
他のキャストは、ドラマ『フォー・オール・マンカインド』の“ネイト・コードリー”、ドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』の“アディナ・ポーター”、『ディザスター・アーティスト』の“ジェイソン・マンツォーカス”など。
ドラマ『ペーパーガールズ』は「Amazonプライムビデオ」で独占配信中。少ない予算だろうと察せられるのですが、時代をアップデートしようと頑張っているSFドラマであり、ぜひ応援してあげてください。
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンルのファンは注目 |
友人 | :趣味が合う人同士で |
恋人 | :同性ロマンスもあり |
キッズ | :SF好きな子に |
『ペーパーガールズ』予告動画
『ペーパーガールズ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):今日は世界の終わり?
1988年11月1日、クリーブランド・プリザーバー。ストーニーストリームの町はまだ暗い時間で静まり返っていました。そんな早朝、新聞を配達するバイトの少女たちが起きてきます。
ハロウィンの次の日なので道は散らかっている中、バイト初日の中国系のエリン・ティエンはおぼつかない感じで自転車をこいでいました。うろうろと迷っていると配る家を間違え、家主に不審者と間違えられて「ジャップ」と差別用語を言い放たれる始末。
そこにティファニー(ティフ)・クイルキンというバイトに慣れた子が助け船に入ってくれて事なきを得ます。さらにマッケンジー(マック)・コイルという子もやってきて、同じ配達の子でKJ・ブランドマンがいじめられているらしいと教えてくれます。
3人はその現場に駆け付け、マックは花火で威嚇し、いじめていた年上の男子のウォリーを追い払い、その隙に逃げます。
KJの祖父は大物で裕福で、マックは嫌味っぽく揶揄います。マックはエリンを新入りと呼び、他人はいつもこんな愛想のない態度のようです。
ひとりで不安だったエリンは「一緒にやらない?」と提案し、3人はとりあえず賛成し、ティフの無線機で連絡もとれるようにしてくれました。4人で並走し、2組に分かれようとしたとき、エリンがまたあの男子に襲われます。無線機をとられ、ウォリーの奴らを反撃してやろうと意気込むマック。
その男子がいそうな建設中の家に足を踏み入れますが、ウォリーじゃない人間たちがいて思わず逃走します。しかし、空がおかしいです。異様な色で雲が蠢き、咄嗟にマックの家に逃げ込みます。
トランシーバーからよくわからない言語が聞こえ、さらに人の姿が町にありません。
エリンが母の様子を見に行こうとしますが、それを止める3人。するとサーチライトのようなものが窓の向こうから差し込み、「ソ連の侵攻か?」とパニック。マックが銃を取り出し、揉み合いになってしまい、うっかり発砲。それはエリンの腹部に命中してしまいました。
ティフが車を運転して病院へ向かおうとしますが、謎の人物が車を止めて…。
エリンは記憶が曖昧ですが、謎の黒い服の2人にどうやら捕まったようです。しかし、なんとか逃げようとする4人。「カプセルに戻って」「ものすごく遠くまで来たんだよ」という相手の声も無視です。
ところが別の白い服の何者かが出現し、銃撃戦のようになってしまいます。散り散りに逃げる4人。エリンの血塗れの腹に小さな虫のようなものが無数に蠢いており、エリンはショックを受けます。
「持っていけ、アンダーグラウンドだ」と何かを手のひらサイズのものを渡され、ドタバタしている間にホッケースティックでKJがひとり倒してしまいます。
4人はとにかく逃げます。いつの間にかエリンの腹の傷が消えていました。
必死に辿り着いたのはエリンの家。でもそこには先客がいました。いや、先住者が…。
ひとりの大人の女性がゆっくり近づいてきて、不安そうな顔を向けます。
「何で私の名前を?」
どうやらこの人は大人の姿をしたエリンなのか…。そしてさらに衝撃的な事実を知ります。ここは2019年。自分たちはタイムトラベルをしてしまったようで…。
頭の理解が状況に追いつかない中、それでも4人の少女たちはこの事態に向き合わなければならず…。
シーズン1:巨大ロボットからのタンポン考察トーク
『ペーパーガールズ』はジャンルとしてはオーソドックスなタイムトラベルもので、一方でものすごくジャンル過多な詰め合わせみたいにいろんな要素がごちゃごちゃと密集しています。そんなカオスな中で、時間の迷子となった12歳の少女たちがどう生きていくのか…というのが見どころです。
設定としては、「STFアンダーグラウンド」という組織と「オールド・ウォッチ」という組織の2つが対立している世界で、STFの方は時間軸をより良いものに改善していこうと改変に前向きなのに対し、オールド・ウォッチは時間軸は絶対的に不可侵なので変えるべきではないとする信念を持っているようです。主人公の少女たちは最初はSTFとコンタクトするのでSTF側の視点で物事を教えてもらいますが、終盤にはオールド・ウォッチ側からもこの世の見え方を提示され、どちらが正しいのか、混乱していくことになります。
まあ、そんなことはさておき、巨大ロボットですよ。いきなり第3話のラストでSTFのラリーから巨大ロボットを見せられ、第5話では「ロボットvsロボット」の特大バトルが展開。シーズン1最終話にいたっては恐竜(テッサという名の翼竜)が飛び交う世界になっていきますからね(若ラリー、食べられるし…)。
笑っちゃうのは、そんな二足歩行巨大ロボットやタイムトラベル理論よりも、タンポンの使い方に悪戦苦闘する少女たちの素の姿。エリン、ティフ、マック、KJの4人が集結しても、このタンポンだけは攻略できない…。4人とも初めて使うのであたふたするのは当然なのですが、この何とも言えないタンポン考察トークを巨大ロボット戦闘を見せられた後にわりと長めに展開するという、かつてこんな緩急のある構成は見たことあるだろうか…。この第5話のエピソード・タイトルは「A New Period」という思いっきりギャグになっているのがまたいいですね。
巨大ロボットもあれば、恐竜もでてくるし、タイムトラベルもして、タンポンも買わないといけない。それが当たり前の日常。そんな『ペーパーガールズ』です。
シーズン1:自分(12歳)に説教されるのも辛い
大人の庇護を失った少女たちのサバイバルが描かれる『ペーパーガールズ』。その少女たちが出会うのは未来の自分であり、ある種の「自己との対話」をフィクショナルなシチュエーションで実現してしまうような作品です。
典型的なアジア家庭で育ったエリンは12歳の頃は上院議員になる夢を内では抱きながら、アメリカ社会に馴染もうと必死でした。そんなエリンの30年以上経過した2019年。母親の介護で妹ミッシーとの関係を悪化させ、孤立しながらなんとかパラリーガルの仕事で生計を立てているものの、抗不安薬が手放せない惨めさを自己嫌悪している自分がそこにいて…。
母に忠実に生きてきたティフは1999年の自分に出会いますが、MITを卒業して科学者になる希望を諦めてしまった自分の姿に苛立ちます。
トムボーイな容姿のマックは自分の兄ディランに2019年の時代に出会い、そこで自分が16歳で脳の腫瘍で亡くなることを告げられます。
裕福な家庭で不自由なく暮らしていたように見えるKJは、実は女性に魅力を感じるというセクシュアリティを意識し始めており、それを1999年の自分が女性とデートしてキスしている姿を目撃して痛感することに…。
エリンやティフの体験は、自分の夢を自分に否定されてしまうようなもので、12歳にはショックです。でも人生とはそういうものなんだということを12歳に理解してもらうのも無理な話。だからこそ大人の自分たちは複雑な表情を浮かべます。大人側からしてみれば黒歴史がタイムトラベルしてやってきて自分に説教してくるんですから、これはこれで辛いですよね。
マックなんて死という宿命に向き合わないといけなくなり、こんなの12歳じゃなくてもキツイです。KJの背中で密かに涙を流すマックの顔が切ない…。
一方のKJは未来の自分との邂逅で、心の憂いが晴れて、少し前向きになっており、こうやってアイデンティティを模索する心理をストーリー化するのは面白いなと思います。
シーズン1最終話では4人はオールド・ウォッチの司令塔「大聖堂」に捕まり、そこでまさかのオールド・ウォッチ側のプライオレスが味方してくれますが、KJとマックだけがカプセルに入り、残った2人は別のカプセルに…。エリンとティフが到着したのはドライビング・シアターがある1970年代でした。
ティフはクイルキン博士としてオールド・ウォッチを創設したのか…。グランドファーザーの目的は…。
謎が謎を呼ぶ衝撃のラスト。早く続きのシーズン2が観たいです。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 89% Audience 84%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
タイムトラベルを題材にした作品の感想記事です。
・『時光代理人 LINK CLICK』
・『ダーク DARK』
作品ポスター・画像 (C)Amazon ペーパー・ガールズ
以上、『ペーパーガールズ』の感想でした。
Paper Girls (2022) [Japanese Review] 『ペーパーガールズ』考察・評価レビュー