感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

アニメ『時光代理人 LINK CLICK』感想(ネタバレ)…中国アニメが業界の青写真を改変する

時光代理人 LINK CLICK

中国アニメが業界の青写真を改変する…アニメシリーズ『時光代理人 -LINK CLICK-』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Link Click
製作国:中国(2021年)
シーズン1:2022年に各サービスで放送・配信(日本)
監督:李豪凌
セクハラ描写 児童虐待描写 自然災害描写(地震)

時光代理人 LINK CLICK

じこうだいりにん りんくくりっく
時光代理人 LINK CLICK

『時光代理人 LINK CLICK』あらすじ

とある街にある「時光写真館」。トキ(程小時)は大家であるリン(喬苓)に借金を返済するため、ヒカル(陸光)とともに特殊な仕事を請け負っていた。それは依頼人から預かった写真の中にダイブして撮影者の精神に乗り移り任務を遂行すること。トキが写真の過去に潜入し、ヒカルがナビゲートする。このチームワークで2人は写真の中に残存する世界に触れていく。決して何も改変してはならないという忠告を守りながら…。

『時光代理人 LINK CLICK』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

中国アニメはもう無視できない

中国のアニメーションの歴史は深く、それこそアニメーション史そのものの源流に関わってきます。では商業的なアニメシリーズの勢いはどうかと言えば、当初はそれほど盛んではありませんでした。1982年に流行った『黑猫警长』など国産の作品もあるにはありましたが…。

2000年頃になると流れが変わります。その背景にあるのは日本のアニメの流入です。2010年代にはインターネットの発達によってさらに日本のアニメが大量に国内に入り込み、中国人の若者たちは日本のアニメに染まり、熱狂しました。

ところが最近はそうでもないようです。いや、もちろん日本のアニメは今も一定の人気を集めています。しかし、現在は日本のアニメ以外でもいくらでも海外諸国のエンタメに触れられる時代です。舌だって肥えてきますし、それぞれの好みが多様化してくるので、日本のアニメありきで満足はなかなかしません。

そこで勢いを増しているのが自国のアニメーションです。とくにWebアニメの展開が活性化しています。日本のアニメのファンだった若い中国人がそのままその熱量でクリエイターとして活動するようになり、かといって日本のアニメスタジオは給料が低すぎるので現実的な職場としては不向きで、結果、中国本国でアニメーションを制作している。ことさらWebアニメというのは大企業ではなく中小企業や個人クリエイターでも手がつけられるのでやりやすいのでしょう。

Global Times」によれば、2017年の中国における中国アニメーションに関連する製品の売上高は、アニメーション製品の総売上高の14.02%を占めていましたが、2019年上半期には38.45%に上昇し、短期間で激増しているそうです。中国では国産アニメーションの占有が急速に伸びているのがわかります。

そうなってくると中国国内だけの話では終わりません。中国アニメーション作品は海外へと輸出されることになります。そしてこのアニメ大国の日本でも中国アニメーションの存在は年々無視できないものになってきました。

2019年には中国のWebアニメを原点とする『羅小黒戦記』の映画版が日本に上陸し、界隈でカルト的な大ヒットとなったのも記憶に新しいです。「中国のアニメって質が低いのでは?」と偏見を持っていた人も驚かされるクオリティでした。

そんな中、中国のアニメシリーズが日本のアニメシリーズに普通に混じりながら放送・配信される時代が来ました。おそらくこの傾向は今後も強まり、日本企業も中国や韓国のアニメシリーズの買い付けに積極的になっていくのではないかなと思います。

今回紹介する作品もそんな日本に進出してきた中国のアニメシリーズです。それが本作『時光代理人 LINK CLICK』

本作は「瀾映画」という中国のスタジオが制作し、中国では2021年に「bilibili」で配信されたアニメシリーズ。日本では日本語吹き替えとともに2022年に放送・配信され、高い評価を得ています。

『時光代理人 LINK CLICK』は物語自体は2人の主人公を軸にした、タイムトラベル・ミステリーサスペンスになっており、特殊能力で写真の中に入れる(=特定の過去に戻れる)という要素をベースにして展開されます。この仕掛けの使い方がとても上手く、ストーリーも後半になるにつれてどんどん加速していき緊迫感も増すので、一度見始めれば一気に引き込まれるでしょう。

絵柄も日本のアニメとそう変わらず、日本人層にも親しみやすいです。でも世界観はしっかり中国ですけどね。

中国アニメなんてまだ経験してないな…という人はぜひこの『時光代理人 LINK CLICK』を入り口にしてみてください。

『時光代理人 LINK CLICK』はシーズン1(第1期)は全12話(うち1話は番外編)です。

日本語声優
豊永利行(程小時;チョン・チャオシー;トキ)/ 櫻井孝宏(陸光;ルー・グアン;ヒカル)/ 古賀葵(喬苓;チャオ・リン)/ Lynn(徐姗姗;シュー・シャンシャン)/ 阪口周平(肖力;シャオ・リー)/ 河西健吾(リウ・ミン)/ 小清水亜美(エマ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:中国アニメ初心者も
友人 3.5:友達にオススメしたい
恋人 3.5:アニメ好き同士で
キッズ 3.5:殺人描写などはあるけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『時光代理人 LINK CLICK』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(序盤):絶対に何も改変するな

どこの町にでもあるしがない写真館、ここは「時光写真館」。ただし、ここでは写真にまつわる特殊な依頼を請け負っています。この店の経営者の程小時(チョン・チャオシー)、コードネーム「トキ」は撮影者の精神に乗り移って写真の世界に入り込める能力を持っているのです。そして共同経営者の陸光(ルー・グアン)、コードネーム「ヒカル」は写真の世界の出来事を読み取ることができます。

この建物の大家の娘で、トキの幼馴染でもある喬苓(チャオ・リン)が仕事の依頼を持ってきます。

ルールがいくつかあります。ひとつはタイムリミットが12時間だということ。ヒカルが把握できる写真の出来事は12時間以内なのです。二つ目は、ヒカルの指示に従うこと。何が起こるかを知っているヒカルのナビゲートがなければトキは写真の過去を彷徨うだけになってしまいます。そして3つ目は、絶対に何も改変してはいけないということ。過去も未来も無用な詮索は禁物。ヒカルはトキに言い聞かせ、2人は繋がるために互いの手を叩きます。ダイブ開始です。

今回の仕事は、チュエダーゲームの第3クォーターの財務データを入手すること。不正の疑いがあるようですが、資料はCFOの男がひとりで管理しており、パソコンには保存しておらず常にその身に携帯しているらしいです。CFO助手のエマだけがそのデータを目にするチャンスがあり、そのエマの写真にダイブすることに。

エマがSNSにあげた春巻きの写真を使用します。その写真を見て、撮影12時間の出来事を把握したヒカルは「見込みはある」と答えます。チャンスは1度だけ。

ダイブしたトキはエマの体になっていました。ぎこちなくも馴染もうとするトキ。

CFOはエマを呼び出し、キスを迫ってきますが、エマの母からの電話でその場をなんとか離脱。母はひとり働く娘を心配しており、父は恋人でも作れと言ってきます。

エマは遅くまで資料作りで働き詰め。エマはこんな毎日を繰り返しているのか…トキは痛感します。

疲れながらも帰宅。エマの体のまま両親と春巻きを食べる夢を見ます。あの春巻きはエマにとって両親を思い出す食べ物のようです。

翌日、会議が開始。CFOの妻が乱入する展開を待ち、屈辱に耐えながらもトキは仕事を果たします。財務データを入手し、この企業の不正は暴かれました。トキのダイブも終了です。

何が起こったのかも知らないエマは帰宅し、家に春巻きがあるのに気づきます。実はトキはエマにダイブしていたときに居ても立っても居られずエマの母にメッセージを送ってしまっていました。

エマは両親に会いたくなり、急いで向かいます。その途中で怪しい帽子の男と遭遇し…。

仕事を片付けたトキは意気揚々。一方でヒカルは遺体が発見されたというニュースを目にし、それがエマのものであることを知ります。トキにその事実を教えないようにすることに…。

しかし、これはエマだけでは済みませんでした。トキとヒカルはまだ知らない。この事件の裏で蠢く連続殺人犯の正体を…。

スポンサーリンク

写真を使ったSFの見せ方の上手さ

『時光代理人 LINK CLICK』は「タイムトラベル」「身体の乗っ取り」の要素が組み合わさったSFであり、そのジャンル自体は珍しいものではないです。

仕事の内容も傍から見ればかなり個人的なものが多く、「秘伝のレシピを入手する」とか「道場で勝つための攻略法を知る」とか、些細な悩みに思えるものを解決していきます。

その中で例えば第3話から始まる、バスケのチームや仲間にメッセージを伝えるという物語で、大地震で亡くなるという運命が決定している者たちとどう向き合うかという展開があったり、はたまた第7話での子ども誘拐事件でのエピソードだったり、このジャンルにありがちな「過去を改変してしまったらタイムパラドックス的なことが起こってしまう。でもこのまま過去を静観できない」という葛藤が描かれる。このあたりもベタと言えばベタです。

つまり、過去を改変せずに、それでいて現実を生きる人間がどう納得できるか…その曖昧な着地点を模索しないといけない。そこが本作の面白さなのかなと思います。

そこに「写真」というアイテムが鍵になってくるのがいいですね。今の時代は写真はありふれています。誰でもスマホで写真をパシャパシャ撮れて、SNSにもあげている。その写真は過去の記録であり、それがトリガーになっていくのは仕掛けとして汎用性がありますし、親近感もあります。監視カメラ映像もアリなのはなかなかにズルいけど…。

過去を改変するなというルールも、今は写真をいくらでも好き勝手に加工できる時代と考えると、ちょっと警句に思えてくるのではないでしょうか。

そして過去を改変してはいけないというルールを小さく無視してしまったトキの行為の顛末がいきなり第1話でショッキングに提示されるのですが、これが終盤に緊迫感とともにまた加速していく。このあたりの見せ方も上手く、ぐいぐいと引き込まれます。

終盤の暗室で写真に次々とダイブして犯人を攻撃して翻弄していくアクション展開も、このジャンルらしい最高の主人公の見せ場の技でした。

スポンサーリンク

一貫する正しさで手ブレ無し

『時光代理人 LINK CLICK』について私がいいなと思うのは、作品自体が常に一定の“正しさ”を確保していてブレないことです。

なにせこのトキとヒカルの特殊能力はチートすぎるので、その気になればいくらでも悪用できます。そうじゃくても安易に悪ふざけに使えてしまいます。

けれども本作はそうしません。この作品には二重の安心保障があります。ひとつは仕事の依頼を持ってくるリンで、リンが窓口となり、どの仕事を対象とするか決めます。そこで明らかにマズい依頼は拒否しているのでしょう。そして次にヒカルが仕事の実現性を能力で判断する。これでこの仕事の正当性がある程度担保されます。こう言ってはあれですが、トキだけだと絶対に成立しない公正さですよね。

こうしてこの特殊能力はこの仕事の目的のためだけに使われ、目的外利用は厳禁となります。すっごいコンプライアンスがしっかりしてる…。

その仕事の中で、しっかり中国が抱える社会問題にもフォーカスされ、それにケジメをつけて正しさを見せるのがこの作品の安定感にも繋がっています。冷笑なんて絶対にしません。

例えば、第1話。トキがエマという女性の身体になりますが、だからといってふざけたりせず、自分を律し、しかもセクハラなど女性が抱える苦悩を男のトキが体験することでジェンダー問題を学ぶ。このあたりは同じ仕掛けを持つ『君の名は。』にも無かったことで、『時光代理人 LINK CLICK』がかなり一歩抜きんでているなと思います。最終話の「人生をやり直したい(でも持たざる者には何もできない)」というエマの悲痛な叫びは胸に迫ります。

第2話のナツとリンジェンのエピソードなんかは、女性のキャリアに焦点をあてつつ、クィアっぽささえも感じるウーマンスな関係性の物語であり、中国作品としてはかなり頑張っていると思いますし…。

地震(2008年なので四川大地震なのかな)とか児童人身売買とかのいかにも中国らしいトピックがありつつ、家族主義規範に苦しんでいる人たちの姿が頻繁に映し出されるのが印象的ですね。やっぱり今の中国の若い世代もそこに一番不満を持っているのだろうなというのがよく伝わってきますし、そこは大半の日本人だって同感でしょう。

そしてこの特殊能力が登場するなら想定すべき最悪の事態が終盤に…。シャンシャンの事件を発端に判明した、エマ、リウ・ミン、リン…次から次へと他者に乗り移る赤い眼の存在。やはり特殊能力持ちは他にもいたのか。ここで主人公たちが徹底した“正しさ”で行動してきたからこそ、この敵対する”悪”のおぞましさが突きつけられる…この恐怖演出も上手くもあり…。まあ、完全に『スイッチ』や『ポゼッサー』みたいになってるけど。

『時光代理人 LINK CLICK』はシーズン2(第2期)が中国本国では2022年に配信予定だそうで、日本でも期待です。

『時光代理人 LINK CLICK』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
スポンサーリンク

関連作品紹介

2022年前半期に放送・配信されたアニメシリーズの感想記事です。

・『明日ちゃんのセーラー服』

・『平家物語』

作品ポスター・画像 (C)bilibili/BeDream

以上、『時光代理人 LINK CLICK』の感想でした。

Link Click (2021) [Japanese Review] 『時光代理人 LINK CLICK』考察・評価レビュー