キムタクの金で海洋の謎に挑む!…ドラマシリーズ『THE SWARM ザ・スウォーム』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:ドイツ・ベルギー・フランス ほか(2023年)
シーズン1:2023年にHuluで配信
監督:バーバラ・イーダー、ルーク・ワトソン ほか
自然災害描写(津波) 恋愛描写
THE SWARM/ザ・スウォーム
ざすうぉーむ
『THE SWARM/ザ・スウォーム』あらすじ
『THE SWARM/ザ・スウォーム』感想(ネタバレなし)
グローバルな製作陣が結集
2023年1月、大阪市西淀川区の淀川河口付近で雄のマッコウクジラが1頭迷い込んでいるのが見つかりました。当初は元気そうに泳いでいましたが、しだいに衰弱し、死亡してしまいます。その後、クジラは作業船に積み込まれ、河口から約140キロ離れた紀伊水道沖に沈められました。
世間はそのクジラが淀川にいたことから「淀ちゃん」と名付け、マスコミも大衆も一瞬だけ盛り上がっていましたが、しょせんはこの社会の一時的な珍しいイベント扱い。今やすっかり忘れ去られました。
とくに海洋保護とかの機運も高まるわけでもないのが残念です。日本にとっても海洋生態系の保全はとても大切で、現在進行形の危機に晒されている大問題になっているのに…。
例えば、日本人の秋の味覚となっているサンマという魚。こちらは近年は記録的不漁が続き、ほぼ庶民の食卓の味方である財布に優しい魚ではなくなってしまいました。他にもサケやサバなど、地域においてめっきり獲れなくなった魚も…。また、アジやマイワシといった本来は海の表層に住む魚がなぜか深海で確認されたりもしています。
これらの海での異常現象において専門家に理由を問えば「気候変動などによる海洋環境の変化か…」と漠然とした回答が返ってくるのが恒例ですが、実際にこの原因を調べようとすれば膨大な研究予算を必要とするプロジェクトになってしまいます。海を調べるのって実はすごく大変なのです。広大ですからね。
確かに起きている、私たちの目で観察できる異常の気配。それは海の核心で起きているもっと大きな変化の余波か、前触れか…。今すぐ本格的に調べないといけないのに、世間の無関心と政府の学問への支援の少なさもあって、がっつりと着手できない…。もどかしいままに、異変をただ眺めるだけ…。
こんな現状の私たちの顔に水をかけて「目を覚ませ」と言い放つかのようなドラマシリーズが、今回の紹介する作品です。
それが本作『THE SWARM/ザ・スウォーム』。
本作は日本の宣伝では『ゲーム・オブ・スローンズ』のプロデューサーが贈る「超大型深海SFサスペンス」…とやたら仰々しく大々的にアピールされているのですけど、ちょっと語弊もある…。
まず確かにあの大人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の製作総指揮に名を連ねた“フランク・ドルジャー”がこの『THE SWARM/ザ・スウォーム』の製作総指揮にも名を連ねていますけど、それだけですからね。他の製作陣はほぼ関与してません。『ゲーム・オブ・スローンズ』の製作総指揮なんて9人くらいいましたし、この『THE SWARM/ザ・スウォーム』だって10人くらいいますからね。あんまりこの人物だけで作品のクリエイティビティが計れるわけでもないです。
本作『THE SWARM/ザ・スウォーム』の特徴はその製作体制で、非常にグローバルなチームになっています。基本はドイツの公共放送局である「ZDF」が中心に立っているのですが、各国のプロダクションが共同して「Schwarm TV Productions」という組織を新たに立ち上げるという徹底っぷり。日本からは「Hulu Japan」が参加しており、なので日本では「Hulu」独占配信です。
俳優陣もグローバルな座組で、日本からは“木村拓哉”が海外ドラマ初出演。出番は後半にならないと増えてこないのですけど、英語セリフを喋ってます。
で、この『THE SWARM/ザ・スウォーム』はそもそもどんな作品なのかと言うと、ドイツの小説家である“フランク・シェッツィング”の「深海のYrr」という2004年の海洋冒険小説が原作です。非常に緻密なSF考証が評価され、高い支持を得ました。
この難しい原作を映像化することになったわけですが、物語は世界中で発生する海の異変の原因を突き止めるべく科学者たちが結集するというもの。とても硬派なSFなので、慣れない初心者向きではないです。しかも、ドラマシリーズもかなりスローペースで進むので、根気が求められます。一方で、硬派なSFファンは壮大な科学サスペンスが上質に映像化されているので堪能できるでしょう。アニマルパニックの要素も若干あります。
エピソード監督は、『バーバリアンズ 若き野望のさだめ』の“バーバラ・イーダー”、『リッパー・ストリート』の“ルーク・ワトソン”、『千年医師物語 〜ペルシアの彼方へ〜』の“フィリップ・シュテルツェル”など。
ドラマ『THE SWARM/ザ・スウォーム』は全8話。1話あたり約45分で、ゆったり進むので、疲れていない時に見ましょう。
なお、津波の描写が明確にあるので、そこは留意してください。
『THE SWARM/ザ・スウォーム』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :硬派なSFが好きなら |
友人 | :興味ある者同士で |
恋人 | :趣味が合うなら |
キッズ | :地味な大人のドラマも |
『THE SWARM/ザ・スウォーム』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):海が襲ってくる
南太平洋のペルー、ウアンチャコ海岸。いつものように海に出かける漁師。仲間たちと共に小舟で海へと漕ぎ出し、沖へ。網を投げ、魚を捕まえる作業に取りかかります。ところが網を上げようとするものの何かに引っかかったのか、漁師は海に投げ出されてしまいます。海中に潜って沈んでしまった網を回収。すると急に魚の群れに囲まれます。明らかにその魚群の挙動はおかしく、異様でした。そして漁師は海面に上がってくることはなく…。
スコットランドのシェトランド諸島。この岸壁が剥き出しの険しい地であるスカウに海洋生物研究所(IMB)の基地がありました。カタリーナ・レーマン教授に師事する研究員のシャーロット・チャーリー・ワグナーはこの孤立した基地に派遣され、ひとり研究に励んでいます。ドイツのキールの研究所と連絡するときくらいしか会話はない、孤独なフィールド・ワークです。
何か異変を検知したと画面に表示され、チャーリーはすぐさま船で海の現場に向かいます。ダイビングスーツで海に潜って海中の機器に絡まった調査道具を取り除きます。海面にあがると船から離れてしまったので急いで戻り、なんとか戻れてひと安心。
チャーリーは町のバーに行き、漁師の男ダグラスと寝る関係に。一緒の調査道具を海中へ投下していると、通常なら海底深くにあるはずのメタンハイドレートの欠片が海面に浮かんでいるのを発見します。大量にあり、明らかに不自然でした。この出来事をレーマン教授に報告します。
一方、カナダのバンクーバー島。鯨類専門の学者であるレオン・アナワクは死んだシャチが打ち上げられた現場に足を運びます。地元の漁師に聞き込みをすると、シャチが襲ってきて船が激しく傷つけられていました。こんなことは普通ありえません。
アナワクはクジラが戻って来たことをソナーで把握。海にでたアナワクの前にクジラが大人しく浮かんでこっちを見つめてきます。そして去っていきました。
その近くでは友人のリジーは遊覧船で観光客を相手に野生動物ウォッチングをしていました。遊覧船ではクジラがダイナミックにジャンプするのを見られ、人気です。
今回も目の前でクジラが跳ね上がります。でも近すぎる…。そのクジラはまるで狙ったかのように、船の頭上にジャンプし、船めがけて体当たり。船は真っ二つになります。
乗船していた大人や子どもが海に投げ出される中、そこにさらにシャチの群れが迫り、シャチが人を次々と襲って海中に引き込んでいきます。完全にクジラとシャチが連携して計画していたかのように…。
急いで子ども優先で救出するアナワク。しかし、アナワクの目の前でリジーも海中に消えてしまい…。
ところかわって、フランスの海辺の町サン・ジャン・ド・リュズでは、市場に並んでいた新鮮なロブスターを調理中に急に液体が飛び散り、それに触れたスタッフたちが急変して死亡する事件が発生。分子生物学者のセシル・ローシュ博士が分析にあたります。
全ては海に関連した異常事態。そしてこれはさらなる惨劇の始まりでした…。
科学者の平凡な実像
ここから『THE SWARM/ザ・スウォーム』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『THE SWARM/ザ・スウォーム』の良いところは、科学者の描写がリアルだという点です。フィクションでは科学者がやけに特殊能力的なスキルを有するスーパーサイエンティストとして描かれることがしばしばあるのですが、本作は非常に現実味がある科学者の姿がそこにあります。
本作では、海洋生物学者のシグル・ヨハンソン、分子生物学者のセシル・ローシュ、海洋生物専門の研究員のシャーロット・“チャーリー”・ワグナー、クジラ専門の研究員のレオン・アナワク、海洋生物研究所のベテランであるカタリーナ・レーマン、天体物理学者のサマンサ・クロウと、実に多くの科学者が集います。
それぞれが自分のエキスパートな分野を持っていますが、万能ではありません。仕事に対してもできる範囲でしか手をつけられず、限界があります。意見が対立することもあるし、家庭とどう折り合うかで悩むこともある。でもこれが科学者の平凡な実像ですよね。科学者って「変人」ありきではないんです。
孤独にフィールド・ワークするしかないチャーリーの生活など、ああいう描写はとても生っぽく、過度に理想化されていないのもいいです。『さかなのこ』みたいに「動物をひたすらに愛しまくれる人」が動物研究者になる…というイメージは本当に根強いからね…。
そんな科学者たちが直面する海の異常事態。クジラとシャチの強襲、「悪魔の毒々モンスター」ならぬ悪魔の毒々ロブスター、新種アイスワーム、カニの異常大量発生、調査船の沈没、そして津波などの水害の連発…。
いずれもハイクオリティで描かれているのでインパクトは絶大です。真面目に描けば、小さなカニだって恐ろしいものです。
そしてその原因は、深海の奥底に潜んでいた人類にとって未知の知的生命体ではないかという仮説に到達。これを「Yrr(イール)」と名付けるわけですが…。
最初、この「Yrr」をどう映像化するんだろう?と思ったのですが、わりと無難に抽象化したまま映像にしていましたね。トヴァルセン号が北極海モロイ海淵を探査する終盤のパートは、下手すると一番リアリティラインが吹っ飛んで、それまでの積み重ねが台無しになりかねないのですが、ここでも抑えながらの表現に徹するなど、全体的にヨーロッパ作品らしい落ち着いたトーンの実写化だったかな。
「Yrr」よりも謎の存在
一方、ドラマ『THE SWARM/ザ・スウォーム』は欠点もわかりやすく、解き明かすまでもなく、いろいろ目立ってきます。
まず一番はやはり物語の展開が超スローペースだということ。同じく未知の生命体とファースト・コンタクトする話である映画『メッセージ』と比べると、『THE SWARM/ザ・スウォーム』は全8話を通して、『メッセージ』の3分の1くらいしか進んでないですから。さすがにゆっくりすぎます。
それなりに見ごたえをだすために、ところどころでパニック・シーンを用意はしてくれているので、完全に退屈というほどでもないのですが、あくまで目覚まし程度であり、すぐにそのパニック・シーンが終わるとゆったりペースに戻ってしまうし…。
せめて途中で別のサスペンスがあるといいのですが、実は原作ではCIAやアメリカ海軍とかも関与してくるんですよね。原作の方では、アメリカ海軍のもとに世界の科学者が結集して調査にあたることになります。それをドラマシリーズではアイト・ミフネ率いる「ミフネ財団」に変えており、これはアメリカ中心主義的な構造に依存しないためにも良い改変だったと思います。
ただ、そのせいでもうひとつの別の問題が浮上していて…。
それは結局あの「ミフネ財団」って何なの?…という疑問で…。
あれだけ科学者描写を精密にやっている本作なのに、いきなり「ミフネ財団」という妙に現実から浮き出た架空の組織が出現しちゃったものだから、ある意味「Yrr」以上の謎の存在が登場してしまったことになり、こっちの正体が気になってきますよ。
そもそも今の日本にはそんな海洋生物調査に莫大な資金提供する単独の組織は基本は存在しませんからね(今の日本で最も資金力があるのは政治的パイプを持つ大手水産会社だと思うけど、大手水産会社は世界平和のための慈善事業で調査なんてしないだろうな…)。高度経済成長期の日本だったらあり得そうだけど、そうするとこの『THE SWARM/ザ・スウォーム』の「ミフネ財団」の描写は70~80年代くらいの海外作品にありがちな日本の役回りっぽくて、ちょっと古い気がする…。
どうせならもっと各国の政治的駆け引きを背景にしてサスペンスを増せばいいのに(原作はそうしている)、このドラマはややそこらへんを日和った感じもします。これもグローバルな体制で作品制作をしたことによる副作用なのだろうか…。日本を変に縁の下の力持ちに描いたのが作品クオリティを損なう弱点になりましたね。
最終話ではケタミンで「Yrr」の怒りを買い(そりゃあいきなりケタミンぶちこまれたら怒るよね)、チャーリーが潜水艇で「Yrr」と単独接触。最後はこの「Yrr」と一体化したチャーリーが海岸に打ち上げられた…ような雰囲気で終わっていました。
強引に閉幕した感じもありますが、チャーリーの科学者としてのキャリアが心配になりますよ…。「Yrr」さん、あのなんとかしてくれませんか? ケタミンの件は「ミフネ財団」が全力で賠償金を支払うので…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 63%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Schwarm TV Production
以上、『THE SWARM/ザ・スウォーム』の感想でした。
The Swarm (2023) [Japanese Review] 『THE SWARM/ザ・スウォーム』考察・評価レビュー