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インド映画『pk ピーケイ』感想(ネタバレ)…おかけになった電話はお繋ぎできません

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おかけになった電話はお繋ぎできません…インド映画『pk ピーケイ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:PK
製作国:インド(2014年)
日本公開日:2016年10月29日
監督:ラージクマール・ヒラーニ
恋愛描写
pk ピーケイ

ぴーけい
pk

『pk ピーケイ』物語 簡単紹介

留学先のベルギーでステキな人と出会ったことで幸せの中にいたジャグーは突然の失恋を経験してしまう。そして、現在は母国インドのテレビ局で堅実に働いていた。そんなある日、ジャグーは、地下鉄で黄色いヘルメットを被って大きなラジカセを持ち、あらゆる宗教の装飾を身に付けてチラシを配る奇妙な男を見かける。どう考えても怪しい存在だった。その奇妙な男は「pk(ピーケイ)」と名乗るが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『pk ピーケイ』の感想です。

『pk ピーケイ』感想(ネタバレなし)

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宗教って何?

私はインド映画にそこまで詳しいほうではありません。そんなに観ていなかったですし、割と最近になってなるべくたくさんのインド映画を鑑賞しようと漁っている感じです。ただ、国内でちゃんと見られるインド映画が少ないのがネックなんですよね。もうちょっとインド映画を観やすい環境が整備されないものだろうか…。

それでもだんだんと知識をつけ、インド映画界隈の監督の作家性とかもふんわりな感触ではありますが、わかってきたように思います。

例えば、この人。インド映画界の巨匠・“ラージクマール・ヒラーニ”監督は、アメリカのドキュメンタリー映画(最近だと『マイケル・ムーア イン トランプランド』)でおなじみのマイケル・ムーア監督みたいです。国が抱える根深い問題を情け容赦なくピックアップして表に出す姿勢が似ています。日本で2013年に公開された『きっと、うまくいく』では大学教育や学歴社会に切り込みましたし、『Lage Raho MUNNA BHAI』という日本未公開の映画ではインドの偉人であるマハトマ・ガンディーを再認識するというチャレンジに挑んでいました。

マイケル・ムーア監督と違って、ラージクマール・ヒラーニ監督の凄いところは、インド映画らしくエンターテイメントなドラマで表現してみせるという点。そのため難しいテーマでありながら親しみやすい作風という両立を実現しています。世界的にみても稀有な監督です。

今回、最新作『pk』でラージクマール・ヒラーニ監督が的にしたのは「宗教」。「宗教」を題材にした作品といえば今年は神様メールがありましたが、この映画はキリスト教だけでした。本作『pk』は地球上に存在するあらゆる宗教がターゲットです。「宗教って何?」という子どもが質問してきそうな問いかけにちゃんと答える…収拾つくのかと心配になりますが、そこをうま~くクリアしてみせる手腕はさすが。

ラージクマール・ヒラーニ監督と再タッグを組んだ主演の“アーミル・カーン”もやっぱりすごい役者だと実感。変幻自在です。何歳に見えますか? 撮影時は40代後半なんですよ。2016年時点では50歳超えてます! 本作ではムキムキの肉体とコミカルな演技を駆使して暴れ回ってます。ちなみにアーミル・カーン本人はムスリム(イスラム教徒)だそうです。

自分は無宗教だから本作のテーマにはノれないんじゃないかとか気にする必要はありません。「宗教」とまでいわなくても、家族のルール、組織のシステム、社会の仕組み、はては占いまで私たちが信じて従っている全ての概念に当てはまるテーマですから。

『きっと、うまくいく』が好きな人は必見ですし、インド映画初めてでも問題なし。友人・家族・恋人誰とでも観てもOKです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『pk ピーケイ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):なんだこいつ…

インドのラジャスタン。雲にまぎれてやってきた宇宙船。そこから降りてきたのは、人間の男性の姿をした生命体。首のデカいペンダントだけが光っており、あとは全裸です。

地元民がその怪しい男を目にとめます。近寄ってきてこちらをまじまじと観察。しかし、地元民が隙を見てその首のペンダントを奪ってしまいます。列車に飛び乗り、逃げられてしまいました。盗られたのは宇宙船を呼ぶリモコン。もう帰れなくなりました。

そこから5000キロ離れたベルギーのブルージュ。ジャグーという女性がサルファラーズという男性で些細なことで出会い、詩の趣味も合うので仲良くなりました。それは恋へと発展します。

しかし、ひとつ問題がありました。ジャグーの父は熱心なヒンドゥー教信者だったのです。パキスタン人のムスリム(イスラム教)であるサルファラーズとの交際は宗教的対立から厳しいです。でもジャグーはサルファラーズを諦めることはできませんでした。2人は順調に関係を深めていきます。

ジャグーが熱愛だと妹は両親に伝え、両親は大慌て。父はいつも頼りきりの導師のタパスヴィーに相談に行きます。導師は神の言葉を聞き、「サルファラーズはジャグーを裏切る」と預言してきます。もちろんジャグーはそんな預言は信じません。

サルファラーズにプロポーズしてそれが嘘だと証明しようとします。「明日にも結婚するつもりがある?」と聞き、一気に結婚式当日を迎えます。ところがチャペルでひとり座っていると手紙を受け取ります。そこには「宗教も国も違うので結婚をキャンセルしたい。もう連絡しないで」という旨の内容で、ジャグーはショックを受けて故郷に戻ります。

帰国はしましたが親には見放されたも同然。とりあえずニュース局に勤めることにしました。

ある日、電車の中で変な男に出会います。いろいろな神の行方不明チラシを配り歩いており、「見つけた人はpkまで」と書かれています。これはネタになると考え、話しかけてみることに。

なんでも神様と揉めているとか。ふざけているのか…でもそうも見えません。黄色いヘルメットをなぜかぶっているのかと聞くと、タクシーのマネだと言います。これなら神様も見つけてくれるはずだと。意味不明ですが、悪い人ではなさそうです。

ジャグーはつまらないニュースを扱うのはうんざりだったので上司にこの神様探しの男を取り上げようと提案しますが、「宗教ネタはダメだ」と言われてしまいます。宗教はタブーだと釘を刺されて納得するしかないのか…。

でもまたあの変な男に街で出会い、好奇心をくすぐられ、追跡することに。

献金箱から金を盗っているようで、咎められていたので、その場で機転を利かせてかばいます。なんでそんな金を盗るのかというと、払った分を返してもらっているだけだと言います。

やっぱり変な奴です。全てが奇行だらけ。

「家はどこ?」

そう聞くとなんだか寂しそうな顔をします。

俄然興味が湧いたので「あなたのことが知りたい」と伝え、この男に取材することにしますが…。

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信仰は大切。でも盲信には気をつけて

インド映画だしどうせ大味長編なんでしょう?と思ってたら、それは大きな油断です。この『pk ピーケイ』という映画は結構どころかかなりストーリーテリングがしっかりしています。難しいテーマでありながら上手くバランスのとれた脚本だなと思いました。

留置場からの回想が、長い!相変わらず歌ってるし!どこまで続くの!とはツッコミたくなりましたけど。

事前にネタバレを見ていなければ、冒頭からビックリです。「おまえ、宇宙人だったの?」と。まさかのSFものです。そう考えると『PK』という原題も宇宙人映画の代表作『E.T.』に響きを重ねているのかもしれません。ただ、冒頭で宇宙人という設定をみせるからこそ、本作が投げかける全ての宗教に疑問をぶつけるという最大級の暴挙が成り立つわけで、これくらいしないとダメだなという製作者のクレバーな判断だと思います。

本作の良さは、宇宙人・pkの思考や行動原理がとにかく明快で気持ちがいいこと。嫌味がないです。例えば意外なところだと、pkがお金を恵んでもらおうと道端に立つ盲目の人から逆に金をとっていく場面。単純にみるとただのギャグです。このシーンでpkがやっていることは一見すると非道徳的ですが、これも考えようによっては深い疑問提起をしているのではないでしょうか。もちろんpkは「慈善」という概念を知らないだけなんですが。私たちの信じる「慈善」というものは、救うべき相手を見た目で判断し、とりあえず金をばらまくだけ。これは本当に正しいのか? pkなら本当の意味でハンディキャップを抱えた人を救う方法を見い出しそうです。そういえば宗教でも見た目だけで人の宗教を判断しており、中身を全く見ていないという指摘をpkがしていました。「慈善」も「宗教」と同じあなたこそ盲目になるなというメッセージともとれます。

このように本作のシナリオは「宗教」から話を広げるのも上手いです。「かけ間違い」の例えがそのままヒロインの恋愛にも波及していくのはそうきたかと思いましたし。

言語や物の使い方はすぐにマスターできるpkも、宗教という地球上最も抽象的な概念だけは理解できないというのも頷けます。それでも、ひとつひとつ理解しようと奮闘しながら、既存の宗教を悪用している人には矛盾点をつく…このカタルシスは素直に興奮します。

本作ではヒンドゥー教のとある導師が明確な悪役として登場しますが、ヒンドゥー教徒にしてみれば悪く描きすぎだと怒る人もいるのかもしれません。実際、上映反対運動もあったみたいです。

でも、インドの宗教事情を良く調べてみると結構深刻らしいです。

なんでも劇中に登場した導師のような人は「ゴッドマン」と呼ばれており、こういうカリスマ的な人物が支配するカルト宗教集団がインドではたくさんあるそうです。なかには子どもに銃を与えて武装化したり、独自の政府を築く組織もいて、警察と衝突して死傷者を出す事件も起きているとか。それを知ると、この映画の重みが増します。下手したら『カルテル・ランド』状態になりますしね。また、インドでは死者は少ないものの、1日2件以上のテロが発生しているのだとか。劇中の鉄道爆破テロも全く大げさなものではないんですね。

でも、本作では宗教を否定はしません。嘘で騙すことが悪で真実を話すことが正義というような安直な結論にもしません。pkも最後は嘘をついていました。

不穏な流れも多い今の世の中で、こういう映画を作れるというだけで、世界に希望がもてます。

『pk ピーケイ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 76% Audience 85%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)RAJKUMAR HIRANI FILMS PRIVATE LIMITED

以上、『pk ピーケイ』の感想でした。

PK (2014) [Japanese Review] 『pk ピーケイ』考察・評価レビュー