その結末はまだわからない…映画『28年後…』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス・アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年6月20日
監督:ダニー・ボイル
児童虐待描写
にじゅうはちねんご
『28年後…』物語 簡単紹介
『28年後…』感想(ネタバレなし)
2作目から18年後…
映画に疎く事情を全然知らない人に、「1作目が“28日後”、2作目が“28週後”、3作目が“28年後”っていうタイトルの映画シリーズがあるんだよ」って言ったら、デマだと思われて信じてくれなさそうです。確かに冷静になってみると、すごくパロディ臭がする…(実際に便乗題名映画もあったからね…)。
ということで本作『28年後…』です。
始まりは、2002年のこと。『トレインスポッティング』以降はあまりヒット作に恵まれていなかった“ダニー・ボイル”監督が、当時はほぼ知られていなかった“アレックス・ガーランド”という脚本家を出迎え、これまた当時は無名だった“キリアン・マーフィー”を主演に据えて、低予算で公開したイギリス映画が『28日後…』でした。
ざっくり言えばゾンビ映画なのですけど(ただし、作中では頑なに“ゾンビ”とは言わずに“感染者”と呼ぶ)、あの世界同時多発テロを経験した直後の漠然とした不安に怯える大衆心理に突き刺さったのか、『28日後…』は新時代のゾンビ・ホラーとして大ヒットしました。
その好評もあって2007年に続編の2作目となる『28週後…』が公開されました。
あ、タイトルの意味を説明していなかった…。要はパンデミックが起きてから「28日後」と「28週後」ということです。そのまんまですね。
それで製作陣は3作目を作りたいという話をしていたのですけど、いろいろ大人の事情があって、製作されず…。映画ファンの中では幻の3作目として期待の霧の中に消えていました。
ところが2025年、ついに3作目の誕生です。タイトルは『28年後…』。なんでも当初は「28ヶ月後…」にする案もあったらしいけど…。
いやはや、2作目からもう28年とはいきませんが、18年は経過してしまいましたよ。その間に“ダニー・ボイル”も“アレックス・ガーランド”も超有名業界人になりました(2人ともアカデミー賞を受賞した作品にメインで関与しました)。今作『28年後…』はその“ダニー・ボイル”監督&“アレックス・ガーランド”脚本のコンビがカムバック。今や贅沢なペアです。
しかも、この『28年後…』、なんと3部作だというから驚き。もう3部作の2作目となる次作も撮影済みのようで、本国公開日も2026年1月にセットされています。もうすぐです。
どんな内容になるのかと公開前から関心も高かった『28年後…』。ネタバレしないで紹介すると、わりと1作目並みにスケールを絞ってコンパクトに作ってます。今作はiPhoneで撮影しているそうで、そのせいか、映像がインディペンデントのお手製感が強めになってますね。
もちろん舞台の時代はパンデミックから28年後。なので環境はガラっと変わっています。あの世界で人々はどう生きているのか…。
『28年後…』の俳優陣は、『クレイヴン・ザ・ハンター』の“アーロン・テイラー=ジョンソン”、『最後の決闘裁判』の“ジョディ・カマー”、『教皇選挙』の“レイフ・ファインズ”など。
そして今作で大抜擢された子役の“アルフィー・ウィリアムズ”。初の映画主演作で、この子が主人公です。
過去作を知らなくても『28年後…』から見始めても大丈夫ですよ。
『28年後…』を観る前のQ&A
A:前作をとくに観ておかないと物語が理解できないということはありません。
鑑賞の案内チェック
基本 | 児童虐待の描写が含まれます。 |
キッズ | 残酷な暴力や殺人描写があります。 |
『28年後…』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
スコットランド高地(ハイランド地方)にある一軒の家で部屋に子どもたちがかなりの大勢で集まって子ども向け番組を観ていました。ジミーもそのひとりです。大人たちにここで大人しくしているように言われただけで、それ以外は何も知りません。
ところが急に物音がしたと思いきや、ドアがいきなり開き、半狂乱の大人たちが血まみれで乱入し、無防備な子どもたちを残酷に襲っていきます。まるで獣のように…。
たまたまドアの後ろに隠れるような立ち位置だったジミーは生き残り、外で襲撃者に襲われている最中の母に「逃げろ」と言われ、一目散で教会の父のもとへ。父はこれは神の審判だと恍惚に語り、十字架のネックレスを渡してジミーを逃がし、自分は犠牲になります。
28年後。感染すると人を一瞬で狂暴化させてしまう未知のウイルスのパンデミックがイギリスで発生してから年月が経過しました。今ではそのウイルスはヨーロッパ大陸から根絶されたものの、イギリスとアイルランドは依然として無期限の隔離状態にあり、感染者が徘徊しています。ここにはかつての文明はありません。
イギリスにあるリンディスファーン島には、数少ない生存者が暮らしていました。この島は普段は海で本土と隔てられていますが、ある時間帯だけ潮汐路で本土と繋がり、行き来することができます。その路を厳重に警護することで、感染者の侵入を防いできました。
この島の町には生存者たちの小さなコミュニティがあり、自給自足で、数少ない資源を慎重に使いながら質素に生活しています。
その住民のひとつの家族が、ジェイミーと12歳の息子スパイクです。末期の病を患いベッドでときに我を失う妻(母)のアイラもいましたが、家からは出ません。
この日、成人の儀式の一環として、ジェイミーはスパイクを本土へ狩りに連れて行くことになっていました。スパイクは島を一度も出たことがなく、本土は初です。しっかりした朝食をとり、準備万端。弓矢をもらい、出発です。町のみんなが温かい応援のもと見送ってくれます。
十字架が横に立ち並ぶ浜辺のゲートに着くと、見張りがいて、通行の許可をもらいます。ここから先は本土への道です。かろうじて1本の道が海面から浮上しており、海水面が下がっている間だけ通れます。ここからは2人のみ。
歩くだけですぐに対岸の本土に到着。島では見られなかった、どこまでも続く広大な風景に圧倒されるスパイク。
さっそく森で地面を這う感染者をひとり発見。ジェイミーはスパイクの「初めての殺し」を見守ります。感染者は地面のミミズを食べるのに夢中な様子。緊張しながらスパイクの放った矢は感染者の首に刺さり、相手は動かなくなります。
すると背後に別の感染者が出現。すぐにジェイミーが反応して矢で撃退し、無事に対処して2人は安心して移動します。
しかし、まだまだ感染者は迫っていました…。
島ファーストで壊れ始めるコミュニティ

ここから『28年後…』のネタバレありの感想本文です。
前作『28週後…』でウイルス(「レイジウイルス」という名称)のヨーロッパ大陸への拡散が匂わされていたので、てっきりこの3作目の『28年後…』はさらにスケールの広い世界が舞台になるのかなと思ったら、予想以上に狭い世界から始まります。
どうやらヨーロッパ大陸全体へのパンデミックは封じ込めができたようで、感染蔓延はイギリスとアイルランドのあの島だけのようです。
つまり、この前提からして本作はイギリスを風刺する色が濃いことが察せます。
しかも、この『28年後…』の前半の主な出発点が「リンディスファーン島」で、これは実在する島で、イングランドの北東端のスコットランド国境付近に位置し、作中のとおり、本当に潮の満ち引きで本土と接続します。
本作におけるリンディスファーン島のコミュニティは一見すると穏やかそうですが、この人間性は大きく後退していることを、ジェイミーとスパイクが本土へ移動する際に流れるモンタージュが示唆します。ボーア戦争から、薔薇戦争、百年戦争に到るまで、かつてのイギリスにルーツのある人間共同体が起こしてきた争いの数々。パンデミックによってこの地は時代が逆行し、暴力がルールとなったのでした。
作中のリンディスファーン島のコミュニティもだいたい白人中心で成り立っていますし、そもそもこの島は史実ではキリスト教を北部に布教するうえでの中心経由地だったので、そういう背景もいろいろ暗示していますよね。
それはブレクジットとかロックダウンとかの風刺ですらもない、もはや絶対的な孤立主義の極みです。危険な存在とみなしたものを排外し尽した先にある、未来のないひと握りの者たちだけの一時の足場のようなもの…。
実際に予想して考えると、あの作中のリンディスファーン島のコミュニティは将来性がありません。あそこまで閉鎖的だと病気や天災で簡単に社会が崩壊しますし、子孫を残すにも限界が来ます。それをわかっていて考えないようにしているのか、それとも考える思考も失ったのか…。
このあたりは脚本の“アレックス・ガーランド”が監督作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で少し登場させたあの町に似ていますね。
そんな島のコミュニティでスパイクは明らかに居心地が悪そうです。
この島の大人たちがスパイクに(他の子どもたちにも)やっていることというのは、暴力への順化です。この過酷な世界で生き残るには仕方のないことかもしれませんが、それでも暴力で理性を失わせ従いやすくさせていることには変わりありません。それは非常に虐待的な性質があります。
それを直接的に突き付けるように、ジェイミーはスパイクを衝動的に殴ってしまうシーンがありましたが、あの家庭が壊れ始めているように、あの島のコミュニティ全体が壊れ始めているのでしょう。
当人たちは「島のことを最優先に考えて、島民を第一に生きているだけ! 島ファースト!」なんて感じで悪気もなく息巻いているつもりかもですけど、それは自覚もできないところで人間性を消滅させていっている…。
それゆえにスパイクは母アイラを連れて島から出ていきます。構図としては「DV家庭から逃げ出す母子」と同じです。
大人が子どもに加虐的な支配を加えるというのはドラマ『THE LAST OF US』でもありましたけど、本作『28年後…』はイギリス史を絡めて家族の本質にそれを見いだす手触りでした。
追悼の儀からのまさかのテレタビーズ
もちろん無自覚に壊れ始めている島のコミュニティから脱出しても平穏は訪れません。この『28年後…』の世界は残酷です。
本土も感染者でいっぱいで暴力に溢れており、暴力から逃げたのに暴力に依存しないといけない矛盾を抱えます。
それに嫌な展開として登場するのがスウェーデンのNATO軍の生き残りですね。彼を見ているかぎり、どうやらパンデミックが起こらなかった地帯でも、暴力の支配は社会に蔓延っているようで、スパイクもそのへんを察します。自分の島だけがおかしいわけではないようだ、と。それは悲しい現実です。都合のいい理想郷はないことを知るにはまだ若すぎる…。
そのスパイクがついに終盤にケルソン博士と出会います。噂ではかなり狂気の人物として風評が流れていましたが、会ってみると誰よりも倫理と人徳のある人でした。感染者にすら敬意を払っています。あの頭蓋骨の塔みたいなのも、文字どおり「メメント・モリ」…死を悼む意味合いでしたしね。
そこでスパイクは母の安楽死を通して頭蓋骨を塔の上に置く、とても儀式めいたことをします。ここは序盤の儀式と対になっていて、序盤はそれこそ「死を暴力で飲み込む」という支配的なマインドコントロールだったのに対し、この終盤の行為は「死を非暴力で乗り越える」という人間性の尊いたくましさを信奉しています。
こうして本当の意味で大人への成長を果たしたスパイク。島には戻らず、自力でサバイバルすることにしたようですが、喪に服す余韻も一切気にせずにラストに忘れていたアイツが現れる…。
ここの展開は本作最大の衝撃…というか、困惑シーンです。「な、何? なんだこのトーンが不調和すぎるエピローグは!?」って感じですから。
単色のトラックスーツと派手なジュエリーを身につけ、その動きに意味があるのかと疑問も浮かぶパルクール風の動きを駆使して感染者を倒す集団。
それにしてもここであの冒頭のジミーが登場するだけでなく、あの『テレタビーズ』の伏線まで回収してくるとは思わないですよ。番組のテーマソングのハードロックカバーが全く空気を読まずにガンガン流れて、どことなくファッションの色合いも『テレタビーズ』のキャラを思わせる雰囲気があって…どういうことなんだ…。アイツ、28年間もテレタビーズに囚われていたのかよ…。
みんなが「ジミー」を名乗る「ジミーズ」。作中のあちこちで存在を匂わせていたので、それなりの勢力圏があるっぽく、このカルト集団がスパイクに次はどんな暴力を見せつけてくるのか…。
本作はまるでドラマシリーズの第1話のようにゆっくり進んでいるので、3部作前提だからなのかもしれませんが、単作だと評価はしづらいな…。
とりあえず次作はもう来るのでね。次はあの『キャンディマン』や『マーベルズ』の“ニア・ダコスタ”が監督するようで、でも“アレックス・ガーランド”が引き続き脚本をしているので一貫しているはず。
タイトルも英題は『28 Years Later: The Bone Temple』となっていますし、時間軸も直結しそうです。良かった、「280年後」とかじゃなくて…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Sony Pictures
以上、『28年後…』の感想でした。
28 Years Later (2025) [Japanese Review] 『28年後…』考察・評価レビュー
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