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『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』感想(ネタバレ)…あなたも?

ロシアン・ドール 謎のタイムループ

ナターシャ・リオンらしさ全開…ドラマシリーズ『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Russian Doll
製作国:アメリカ(2019年)
シーズン1:2019年にNetflixで配信
製作総指揮:ナターシャ・リオン、レスリー・ヘッドランド ほか

ロシアン・ドール 謎のタイムループ

ろしあんどーる なぞのたいむるーぷ
ロシアン・ドール 謎のタイムループ

『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』あらすじ

36歳の誕生日パーティを繰り返し体験することになった女。何度も訪れる自らの死がすぐに自分をあの場所に戻してしまう。この超現実的なタイムループから抜け出すにはどうすればいいのか。独りでもがき苦しんでいるだけだったが、その糸口は意外なところにあった。自分を見つめ直す過程で、彼女が選んだ人との関わりとは…。

『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』感想(ネタバレなし)

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2019年の密かな話題作ドラマ

はい、皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは。

ところでいきなりですが「タイムループ」していますか?

“今、絶賛タイムループ中です”という人は、こんな感想ブログを読んでいないですぐにその事態解決に思考してください。“あ~、昔タイムループしてたんだよね”という人は、その体験を本でも映画でも何でもいいので創作のネタにするといいです。今すぐに。

私は幸か不幸かタイムループをした経験がない人間なので、何も経験者として偉そうに語れることは皆無なのですけど、世の中には「あれ、この製作者はタイムループした経験があるんじゃないか?」というくらいのリアルな体験談的生々しさを感じさせるタイムループSFモノがありますよね。

本作『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』もまさにそんな作品です。

これはドラマシリーズなのですが、タイトルからしてかなりマイナーな臭いがプンプンと漂っています。でも2019年の話題になったドラマシリーズのひとつで、業界ニュースを追いかけている人ならば、かなり頻繁に目にしたことのある作品のはずです。

評価はとてつもなく高く、エミー賞、ゴールデングローブ賞、サテライト賞、サターン賞、ゴッサム・インディペンデント映画賞など多数の映画賞にて受賞もしくはノミネートに輝いています。2019年2月にシーズン1がNetflixで配信されたのですが、まさかここまで話題沸騰になるとは…。今年のドラマシリーズのダークホース枠ですね。好評につき2019年内の時点でシーズン2の製作が決定するという、絶好調です。

内容はお察しのとおりタイムループがテーマ。正直、もう幾度となく同様のジャンルを観てきたので「もうさすがに…」と思ってしまうのですが、これがまた評判どおり面白い。誕生日を基点に死を繰り返す主人公女性の物語なのですが、それだと日本では2019年に『ハッピー・デス・デイ』2部作という、熱狂的な中毒者を生んだタイムループSFホラー映画が公開されました。

『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』はそれとスタートラインは同じながらまた別の味にアレンジされていて…。やっぱり上手く構成されていると本当にこのジャンルは病みつきの面白さを発揮するものですね。

製作陣も重要です。というのも本作を語るうえで製作総指揮・原案・監督・主演と大事な柱で関わっているこの人を忘れることはできないからです。その人物とは“ナターシャ・リオン”

“ナターシャ・リオン”という女優は『アメリカン・パイ』シリーズなどお茶の間に愛されるコメディを舞台に活躍している人という印象でしたが、最近の話題作はなんといってもこれ。女子刑務所を舞台にしたドラマシリーズ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』です。そして俳優業だけでなく、製作面にも手を広げるようになり始めました。

『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』の主人公を“ナターシャ・リオン”が演じているわけですが、作中の主人公は実は“ナターシャ・リオン”自身の人物像や人生にも重なる面がみられ、おそらく投影しながら物語を生み出していると思われます。だからこそ完全に「自分のモノ」としてバシッとハマった完成度を自ら体現しているんですね。“ナターシャ・リオン”じゃないと作れない作品だったのではないでしょうか。

とにかくタイムループSFが好きだろうが嫌いだろうがまず観てください。観ないと始まりませんし、ネタバレなしで面白さを伝えづらい作品です。「もうこのジャンルはいいかな…」と横にどける前にぜひとも試し見する価値はあると思います。

幸いなことにシーズン1は全8話で1話あたりの時間が20分ちょっととかなりコンパクトなので、見始めるとあっという間に見終えることができます。どうしても時間がない人は第3話までを鑑賞してみてください。そこで本作の仕掛けが起動し始めますから。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(ジャンル好きは必見)
友人 ◎(展開を語り合える)
恋人 ◯(展開を語り合える)
キッズ △(大人のドラマなので…)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』感想(ネタバレあり)

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今、あなたは洗面所に立っている

「誕生日おめでと~」

36歳になったナディアは洗面所の鏡の前で突っ立っていましたが、ドアをあけて賑やかな誕生日パーティの中を歩いていきます。友人のマキシンからお祝いの言葉を貰いつつ、ハッパもいただくナディア。「中年の危機ってあるの?」とか、自分のお気に入りの(オートミール)がいないことをぼやいたり、自分の誕生日だというのにどこかテンションは低め。

結局、パーティ内でなんとなく気が合いそうだった中年の男マイクとそそくさと外に出て、快楽に溺れてモヤモヤを忘れることにしようと考えるナディア。道路の向こうに小銭をねだるホームレスや、店で商品を盛大に落とす酔っ払い男に一瞥をしながら、その男を家に連れ込みます。しかし、ヤる気は失せ、外でひとり猫探しに。なんとか発見し、「ここにいたの」と気を緩めた瞬間、道路を横断したところを車に轢かれてしまったナディア。

洗面所です。ドアを開けると誕生日パーティ真っ最中で友人のマキシンが「誕生日おめでと~」とお祝いを…。あれ何か変…更年期かな…。奇妙なデジャブを感じながら、パーティに友人が呼んでしまった元カレの男ジョンと嫌々ながら話すことに。いなくなった猫を一緒に探し、またも孤独の中で見つけた猫を抱いていると、ふと猫が消え、座っていた柵に後ろから落ちて…。

洗面所です。「誕生日おめでと~」…マキシンと若干の口論になりつつ、気を付けて家に帰宅。起床して冷静に考えるとこの変な状況はあのハッパのせいじゃないかと疑います。そこで売人ウォードッグに何か混ぜたか聞くとコカインだけだとのこと。オカシイと思いつつ、元カレのジョンと歩きながら電話していると、歩道の足元をよく見ていなかったために落下

洗面所。「誕生日おめでと~」…。これはハッパだ、絶対そうだ。ハッパ製造者に問い詰めると、中身はケタミンらしいと判明。そんな中でまた落下

洗面所。誕生日おめ…。今度はパーティ部屋の階段を落下。

洗面所。誕生…。また階段落下。

洗面、誕…。また階段落下。

洗、誕…。また階段落下。

オカシイ、これはハッパの問題でもない。パーティに参加して夜を明かし、翌日の月曜日にリジーと一緒に非常階段を降り、精神科医ルースのもとへ。ループしていると相談するも救急車を呼ばれ、乗り込むも車は事故。

洗面所です。「誕生日おめでと~」…。階段恐怖症になってしまったナディアは、この現象の原因はユダヤ人学校だったアパートのせいだとテキトーに推測。ただ、手がかりを見つけるべくユダヤ教会堂で元カレのジョンをいいように利用したために、相手は激怒。夜にふらふらと歩いていると、ホームレスのホースと出会い、髪を一部切ってもらって、一緒に薄い毛布にくるまって寝ます。

洗面所。凍死かと嘆きながら、今度はホースのいるシェルターのもとへ。隣で寝て、前回は失くしていた靴を守ってあげます。そのエレベーターでのこと。突如、停止して落下を始めるエレベーター。ああ、今回はこうやって死ぬのか…。そう思っていると、隣の男もやけに冷静。そして驚くべきことを言います。

「いつものことだから」

この男、アランもまた死のタイムループから出られなくなっていたのでした。

そして振り出しに戻る…。

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俳優と重なるからリアルがでる

時空を超越したトンデモなタイムループ現象に見舞われながら自分をあらため直していくという内省的な筋書きは、『恋はデジャ・ブ』(1993年)という完成形がすでにあります。不動の名作です。

『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』はその完成された土台に、新しい要素をほどよく肉付けしつつ、“ナターシャ・リオン”の名演&名プロデュースでビシッと引き締める…手腕の勝利な作品でした。

『ハッピー・デス・デイ』が割とマンハントもののスリラージャンルに偏ることで若者ウケにも応えやすくした戦略を取ったのに対し、『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』は36歳の女性という、まさに作中でも言われていたような中年の危機を迎えつつある人生の、生っぽい焦りが伝わってくる物語。ティーンの世代が本作を観ても、タイムループの展開だけに注視してしまうかもですが、主人公と同年代もしくはその年齢以上の人は身に刺さる物語だったかもしれません。

本作のリアリティを効果的に生み出したのは、もちろん“ナターシャ・リオン”を始めとする女性製作陣。実人生の経験を注ぎ込んで作っていることが感じられます。

ナディアはハッキリ言えば模範的な人物ではありません。他者との関係性をないがしろにする傾向が全ての主因であり、そのため恋人とも友人とも何かしらの衝突を起こしやすいです。本人は結婚願望もなく、むしろ孤独の方がラクだと考えています。そして、そんなナディアの人生の根本には精神的な問題を抱えていた母親の存在があるようでした。

この主人公のバックグラウンドは同一ではないにせよ、“ナターシャ・リオン”自身とオーバーラップします。彼女もユダヤ系であり(実際に祖父母がホロコーストの生存者なのも同じ)、恋愛が上手くいかない経歴があり、逮捕歴があり、薬物中毒疑惑もあり…。タイムループはしていないと思いますが、苦労のループはしていたのでしょう。

そのため作中のナディアという存在を、遠慮なしで見事に体現していました。何度も言いますが彼女にしかできない演技です。あのビジュアルもいいですよね。ボサボサしすぎるくらいの赤毛の絡まり具合とか、それこそタイムループの複雑な混線を示しているようで。“ナターシャ・リオン”自身はすごく綺麗なスラっとした人なのに、作中のナディアはそんな雰囲気を微塵も感じさせないし…。役者のパワーです。

ユダヤ系の自虐ネタからの、クルーガーランド金貨(152780ドル86セント)だったり、L・M・モンゴメリの「可愛いエミリー」だったり、個人の想いを感じさせるピックアップ要素もマイ・ストーリーを補強していました。

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アリアドネの糸

一方でナディアだけのプライベートな物語で終わらないのが『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』のユニークさ。同じくタイムループをしているアランの登場によって予測不可能なサスペンスが追加されます。
アランはナディアとは正反対な性格。几帳面で完璧主義。何事も清潔にすべきと考え、部屋のモノの配置もこだわり、ルーティンどおりに行動します。そして、人間関係も強く欲しますが、完璧主義ゆえに相手からは愛想をつかされてしまうことも。

本作では手順どおりに恋人ベアトリスにプロポーズすればいつか上手くいくとアタックしていましたが、彼女のマイクとの浮気に冷静ではいられず、最終的にはあんな行動に…。

ナディアの場合は猫でしたが、アランの場合は「ベタ(闘魚)」という、縄張り意識が強くとくにオス同士は激しい喧嘩をすることで知られる魚に生き方を象徴させていました。

この水と油のような対極にある二人がコンビを組むことによる面白さがシーズン1の4話からグイグイと物語を引っ張ります。その二人を繋げる意外な共通点が「ゲーム」というのも興味深く、このタイムループの謎を解きほぐす要素になっているのも新鮮です。ナディアはソフトウェアエンジニアでゲーム開発に関わっており、アランはゲームで日々のストレスを発散。何度も死亡してはリスポーンして繰り返すゲームのようにがむしゃらにプレイするだけのタイムループ地獄。しだいに二人はコードのバグと同じだと考え、実は最初に店で会っていたことが発覚。つまり、助け合うべきときに助けなかったから、初対面をやり直せばいいのではないか。それを攻略の糸口としますが…。

しだいにモノや人までも消えていくという焦りを増長させる追い込みも良いですし(繋がりの欠如)、極めつけはシーズン1の最終話(8話)での、互いを知らない別の世界線にいるという試練。このサプライズもテンポの良い物語で一気に進むのでそんなに違和感も感じることなく、普通にハラハラドキドキ。まあ、落ち着いて思案するといろいろな疑問が湧いてくるのですけど…。SFってそういうものだしね(開き直り)。たぶん短い時間だからこれで済んでいるのであって、長尺の作品だったら感想は違ってくるのかも。
演出面で言えば、リセットのスタート地点である洗面所を出ると流れる、ハリー・ニルソンの「Gotta Get Up」など楽曲センスも絶妙にフィットしていました。ナディアの身になってみれば、トラウマになりかねない曲なのですけど、いい感じでリピートで聞きたくなる曲ですよね。

ちなみにエンディングは複数パターンが用意されていたらしく、異なるラストのものを実際に撮影していて、アランを演じた“チャーリー・バーネット”本人もどれが使われるのか知らなかったのだとか(たぶん“ナターシャ・リオン”はもっと情報を知っていたでしょうけど)。

シーズン1の最終話(8話)のタイトルは「Ariadne」。ギリシャ神話の「アリアドネの糸」のことです。クレータ王ミーノースと妃パーシパエーの間に生まれた娘のアリアドネはテーセウスに恋をします。あれこれあり迷宮に入ることになったテーセウスはアリアドネから貰った糸玉を使って迷宮の入り口に糸を結び、その糸をたどってまた戻ってくれた…という逸話。

同じことばかりしているような感覚で人生に迷ったら、いったん立ち止まって自分の「アリアドネの糸」を見つけるのがベストですね。その糸はどこかの誰か、他人が結んでくれた糸なのです。

『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 97% Audience 87%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Universal Television, Netflix ロシアンドール

以上、『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』の感想でした。

Russian Doll (2019) [Japanese Review] 『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』考察・評価レビュー