ジョージ・クルーニーにはできないことがある…Netflix映画『ミッドナイト・スカイ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:ジョージ・クルーニー
ミッドナイト・スカイ
みっどないとすかい
『ミッドナイト・スカイ』あらすじ
ある日、地球の人間社会は終わりを迎えることになった。人類に残された手段はなく、ただ破滅のときを待つしかない。そんな中、科学者のオーガスティンはひとり北極に残り、自分の最期を静かに終えるつもりだった。一方、宇宙飛行士のサリーは宇宙探査ミッションとして遠く離れた場所に仲間たちといた。母星である地球は大変なことになっているとは知らずに…。
『ミッドナイト・スカイ』感想(ネタバレなし)
SFもやるんですか?
世界全体が危機に陥ったとき、どこが一番安全なのでしょうか。
このコロナ禍によってそんな考察をしたくなる状況が身近に起きてしまいました。もちろんそれがどんな危機なのかにもよるのですが、感染症であれ、気候変動であれ、核汚染であれ、地球規模のカタストロフとなると逃げ場はそうそうありません。
パッと思いつくのは辺境の地。例えば、北極や南極です。ここは気候としては過酷ですが、人間社会がほぼないので混乱とは無縁な感じもします。
でも先日、南極の最北端に位置するオヒギンズ基地で少なくとも36人が新型コロナウイルスに感染したと明らかにされ、コロナウイルスは世界7大陸全てに及んだことになるというニュースが飛び込んできました。これを見て「ああ…人間に逃げる場所なんてやっぱりないのか…」とちょっと現実を思い知らされた気分です。
結局は時間稼ぎしかできない。うん、ちゃんと目の前の問題を解決しよう…そう思いました。
今回紹介する映画は偶然ではあるのでしょうが、今のパンデミックで敗北の味を噛みしめている私たちにとって、なんかフィクションとして片づけづらい作品ではないでしょうか。それが本作『ミッドナイト・スカイ』です。
物語の始まりは突然。全人類滅亡の危機が発生。その絶望的な状況の中で、北極圏にひとりポツンと残った高齢の男のドラマ。それとはるかかなたの宇宙でミッションに挑んでいる科学クルーの人間たちのドラマ。この2つのドラマが絡み合ってくるスケールが大きいSFです。
そのざっくりしたあらすじを聞いて「あの映画かな?」「この映画っぽいな」と思ったかもしれませんが、たぶん頭に思い浮かべた作品のような雰囲気を感じ取れると思います。
原作者は2015年に初の作品を発表したばかりのリリー・ブルックス=ダルトンで、翌年に執筆した「世界の終わりの天文台(Good Morning, Midnight)」が原作ベース。かなり新しめの作品ですね。
ユニークなのは監督です。あの“ジョージ・クルーニー”なのです。ダンディ俳優として今もファンをメロメロにしている彼ですが、2002年に『コンフェッション』で監督デビューして以降、監督業でも映画界を沸かせてきました。
しかし、これまで撮ってきた監督作は最近だと『スーパー・チューズデー 正義を売った日』(2011年)のような政治経済劇、『ミケランジェロ・プロジェクト』(2014年)のような歴史サスペンス、『サバービコン 仮面を被った街』(2017年)のような社会風刺劇です。それなのにSFという最もクセが強く、偏った才能を求められるジャンルに手を出して大丈夫なのか?と私は半信半疑で思ってました。まあ、でも監督の他に主演と製作にガッツリ関わっているあたり、本人はかなりやりたかったのでしょうね。その実力はいかに…という点も注目でしょうか。
俳優陣は“ジョージ・クルーニー”以外だと、もうひとりの主役として“フェリシティ・ジョーンズ”が中心に立っています。『ビリーブ 未来への大逆転』での勇ましいアカデミックな存在感も印象的でしたが、今作では宇宙船に搭乗する科学者役。『博士と彼女のセオリー』で科学者の妻だったですけど、『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』で気急に乗る女性科学者となり、ついに本作では宇宙に飛び出してしまいましたね。
また『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の“カイル・チャンドラー”も。まあ、彼で宇宙モノと言えば『ファースト・マン』が最近はありましたけどね。『エイリアン コヴェナント』の“デミアン・ビチル”も宇宙船に乗っています(でも地球外生命体モンスターはでてきませんからね)。さらに『グリンゴ 最強の悪運男』『ドント・レット・ゴー 過去からの叫び』の“デヴィッド・オイェロウォ”、ドラマ『ザ・フォロイング』の“ティファニー・ブーン”など。スケールの大きい世界観ですが、そこまで登場人物がわらわらと出てくるタイプでもありません。
Netflixオリジナル映画として2020年12月23日から配信中ですが、『ミッドナイト・スカイ』は明らかに映画館のスクリーンの大画面で鑑賞するべき迫力がありますから、できればなるべく良い動画環境を確保できる状況で鑑賞するのがオススメです。
人類の絶滅危機!みたいなシチュエーションの映画ですが、中身自体はそこまでの絶望的シリアスさ一辺倒でもありませんし、ホリデーのまったりした空気の中で鑑賞会をするのも良いと思います。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(俳優ファンは見逃せない) |
友人 | ◯(家で気軽に観れる大作) |
恋人 | ◯(映画鑑賞会にぴったり) |
キッズ | ◯(宇宙モノが好きなら) |
『ミッドナイト・スカイ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):2つの交信
北極圏のバーボー天文台。凍てつく一帯にポツンと立つ施設。しかし、そこの内部に人影はありません。ただひとりだけ、殺風景な大部屋で食事をとる老人男性がいます。
2049年2月。3週間前に世界は変わりました。地球に人類ではどうしようもない変化が起き、人間社会は崩壊するしかない状況に追い込まれます。地下に逃げることもできますが、時間稼ぎにしかならないと推測されていました。わずかな猶予の間、多くの人たちは大切な時間を愛する者と過ごすべく、決断を迫られました。
この北極の基地でも滞在していた大勢のスタッフが家族に会うために故郷に帰りました。しかし、このオーガスティンという名の男は「行くところはない」とここに残ることにします。自分は末期患者で、待つ家族もいないので、北極が最期の地でも構わないようです。
大勢が北極を出るために列を作る中、子どもを見失ったと話す女性がひとり。でももう先に乗ったと言われてひとまず納得。そんな光景に背を向けながら、オーガスティンは基地に滞在し続けました。
今、彼の目の前にあるモニターには世界の危機を示すデータが表示されています。破壊は確実に進んでおり、手の施しようがありません。ここもいずれは終わりを迎えることは確実。オーガスティン自身は輸血と薬が必須で、これがないとすぐに死んでしまう状態です。どう死ぬかはわかりませんが、命が潰えるのは間違いないです。
オーガスティンは若い時は研究に情熱を燃やしていました。「K-23」という惑星について発表し、人間が居住できる可能性は高いと自信満々に熱弁。けれどもメディアの中には彼の発見に疑いの目を向けるものもいました。
高齢となったオーガスティンは死期を待つだけでしたが、ふと稼働中の宇宙でのミッションをコンピュータに検索させます。ほぼ全てのミッションは停止状態でしたが、アイテルだけは稼働していました。「いつ交信範囲に入る?」とコンピュータに尋ねると「11時間54分後です」と回答が返ってきます。
宇宙船アイテル号。そこでサリーは目覚めます。穏やかな惑星「K-23」にひとり置いていかれる悪夢でした。この船内の仲間と他愛もない会話をいつものようにします。マヤ、ミッチェル、サンチェス、そしてパートナーで船長のゴードン・アドウォール。
アイテルはK-23の探査を終えて地球に帰ろうとしていました。しかし、地球からの交信が途絶えて3週間がたつという異常事態に困惑していました。アメリカ以外の国とも連絡がつきません。磁気嵐か?と疑いますが、こんなに長期間に影響を及ぼすとは考えられず、不明です。今はとにかく交信を待つほかありません。本当は最高の知らせを届けたいのに…K-23は永住ができると…。
北極のオーガスティンは今日も寂しくひとりで食事。しかし、いつもの食堂の机に皿があって誰かが食べた痕跡があります。怪訝に思いますが、自分が前に忘れただけかと片づけることにします。
突然のアラーム。キッチンで火災です。なぜ使用していないのに火の手が…。とにかく急いで消火。ホッと安心してその場に座り込むと、ひとりの幼い女の子がうずくまっているのを発見。
動揺するオーガスティン。慌てて子どもが置き去りになっていると通信しますが、「誰か迎えに来てくれ」と叫ぶも応答なし。
女の子は何も話さないまま。音も聞こえるし、言葉はわかるようです。「迎えに来てもらう。俺には無理なんだ」と繰り返すオーガスティン。その子はアイリスの花の絵を描いており、「アイリス?」と口にするとその子は反応しました。その子の名前はアイリスのようです。こうしてオーガスティンはアイリスと暮らすことになります。
オーガスティンはアイテルと通信できないのはアンテナのせいだと予測。しかも、吹雪の中、外に出ると鳥が次々と落下して死んでいるのを目撃し、ここもすぐに危険が迫ると理解します。北に強力なアンテナがあり、周りを山で囲まれているからまだ空気は綺麗なはずと考え、そこに向かうことに決めます。もちろん危険な旅です。アイリスと一緒ならなおさら警戒が必要です。
一方、アイテルにも危機が発生していました。不意のコースアウト、さらには流星群の衝突…。
人類の生存能力が最後まで試される…。
なんか他の映画で観たような…
『ミッドナイト・スカイ』の世界でどんな危機が起きたのか、詳細はわかりません。ただ、K-23探査ミッションをしているくらいですから、以前から地球から離れて居住できる地を探さないといけないほどに危機的な状況が観測されていたのかもしれません。そしてそれは起こってしまったようです。
物語は2つのフィールドにハッキリ分かれています。ひとつはオーガスティンのいる北極。もうひとつはサリーたちのいる宇宙のアイテル号。それぞれが互いに交信しようとしているのが特徴です。オーガスティンは「地球は住めない。戻るな」という悲報を伝えるべく、かたやサリーたちは「K-23は住める」という吉報を伝えるべく。
けれども交信できるのは物語終盤なので、それまではずっと物語が独立した状態にあります。そして、その各パートを観ていると、なんだか有名な作品の融合体みたいな感じがずっと漂っていました。
オーガスティンの北極パートは、サバイバル映画的なジャンルです。極寒の雪上というあたりだと、最近の映画で言えば『残された者 北の極地』を思い浮かべますね。
ただ、本作の脚本家が“マーク・L・スミス”であることを踏まえるなら、同じく彼が脚本を手がけた『レヴェナント 蘇えりし者』を強く連想することになります。というかほぼ状況が同じです。オーガスティンが辿る過去との向き合いといい、後味もなんだか似ています。
しかし、そこに無口な女の子・アイリスとの共生といういかにもなジャンル的要素が加わります。これはもう『LOGAN ローガン』的といいますか、私は直近で観ていた『マンダロリアン』とどうしたって重ねてしまいましたよ。
一方のアイテル号でのパート。こちらはこちらで既視感が満載です。何よりも“ジョージ・クルーニー”自身も出演した『ゼロ・グラビティ』そのまんまなVFXを駆使した宇宙パニック要素あり(まあ、リメイクの『ソラリス』(2002年)にも出演していましたけどね)。K-23という未知の惑星を探査しているという部分からみれば、これまた私が直近で観ていた『スタートレック ディスカバリー』とのシンクロを感じずにはいられません。しかも、人類復興の未来をまさに宇宙船に託されますからね。
けれども先ほども書いたようにこの2つのパートが絡み合うのは終盤なので、どうしてもそれまではまどろこっしいスローテンションになります。サスペンスも突発的に起きるのですが、その緊迫感をもってしてもまったりムードを壊せていない気がする…。
個人的には、あの少女とのグリーンピース並べからの弾いて遊ぶごっこ描写、いるか?…と思いますし、アイテル号での船外活動時のかったるい会話とのんびりBGMもやけにわざとらしい脱力感があって…。
これ、たぶん片方側がもっと危機感全開だったら感覚が違ったと思うのです。地球側を未曽有の天変地異で崩壊する現場にいる人間の視点にしていたら、すごい切迫さが出たのに…。
アダムとイヴは古いです
『ミッドナイト・スカイ』はSFとしてのワクワクも乏しいのが残念な部分ではありました。「こんな世界になっているのか~」という空想科学のロマンが欠けている感じです。
本当に2049年なのか。だったらもうちょっと未来のテクノロジーが出てきてもいいのに…。AR思い出浸り空間とかは登場したけど…。
それに未知の惑星を探査したのですから、何か未知の物質を採取していてもおかしくないでしょうし、それを使って事態を打開する展開もあっても良かったのに…。
あとこれは違和感として残るものだったのですが、妙に未来を描いてくれているわりには古臭いSFだと思うのです。例えば、音楽センスとか。あの2049年のクルーたちは2020年の時点ではきっと10代~20代、下手をしたら10歳以下だった人ですよ。つまり、彼ら彼女らは今のZ世代が年を取った姿のはず。にもかかわらず全然そういうイマドキな雰囲気を持ち合わせていません。あのクルーたちにとっての青春ソングはきっとKポップとかですよ。
本作の肝になるSF要素として挙げられるのは、アイリスの正体です。これはたぶんあの子が登場した瞬間に察しがついた人もいたと思います。アイリスはオーガスティンの空想の存在で、かつての娘の姿でした。家族への後悔が残っていたオーガスティンは最期に家族に尽くすことができました。
ただ、このSF要素も、まあ、ありきたりと言えばそれまでで、もうちょっとさらなるインパクトが欲しかったところ。『アド・アストラ』のようなクセ全開すぎるのが私の好みなので…。
一番の見せどころになるはずのラストも尻すぼみです。オーガスティンの提案に従い、K-23に戻ることに決めたサリーとアドウォール。「アダムとイヴ」的な第2の人類のスタートです。
しかし、これも平凡すぎるので、もっとアレンジが欲しかったです。例えば、サリーは妊娠しているのですが、せっかく2049年なのにいまだに女性母体出産なのもね。ということでラストになって実は男のアドウォールの方が妊娠していたと判明するサプライズがあってもいいんじゃないでしょうか。
本作は全体的にジェンダー観が旧式すぎるんですよね。サリーも科学者としての才能をフルに発揮する展開が全然なく、むしろステレオタイプな女性的献身を見せるシーンばかりで味気ないです。もっと『オデッセイ』のアイツのようにハジケまくってほしかったです。
別にアドウォールじゃなくてマヤが生存して、女性二人での「イヴとイヴ」ENDでも良かったのですよ。
“ジョージ・クルーニー”はあんまりそういうジェンダー・アップデートの才能はないのかな…。
人類の第2の歴史の始まり。アダムとイヴを繰り返すのは飽き飽きじゃないですか。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 54% Audience 29%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix ミッドナイトスカイ
以上、『ミッドナイト・スカイ』の感想でした。
The Midnight Sky (2020) [Japanese Review] 『ミッドナイト・スカイ』考察・評価レビュー