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『ソウX』感想(ネタバレ)…ソウ10がやってくれました!

ソウX

10作目でも元気です!…映画『ソウX』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Saw X
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2024年10月18日
監督:ケビン・グルタート
ゴア描写
ソウX

そうえっくす
ソウX

『ソウX』物語 簡単紹介

脳の腫瘍で余命わずかと診断されたジョン・クレイマーは、自らの創作意欲も虚しく、ただ死ぬ運命を待つだけの日々を過ごしていた。しかし、参加した患者同士のグループセラピーで知り合った男から、末期の癌でも治せる医者がいるという非認可の医療施設を紹介される。それこそ自分に残された最後の希望になるに違いないと考え、その施設があるという地へ足を運んでみるが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ソウX』の感想です。

『ソウX』感想(ネタバレなし)

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ソウ定外の高評価

「え…!? あの映画のシリーズ最新作が批評家から高評価だって!!??」

そんな感じで映画ファンの脳にドリルが撃ち込まれた事件が2023年にありました。

何かって、『ソウ』フランチャイズの最新作『ソウX』の話です。

またシリーズの歴史をおさらいしましょう。これ、新作の公開のたびにやるのも面倒だな…ただでさえ新作公開頻度が多いし…たぶんもうやらないです。シリーズはじゅうぶん知っているよという人は、自分を拷問する妄想をしていてください。

2004年に『ソウ』は産声をあげ、この世に誕生しました。残酷性と中毒性のある勢いのいいショッキング展開にコアなマニアは舌なめずりして大喜びし、低予算映画ながら大ヒット。ソリッドシチュエーションのスリラー映画の代表作になりました。

『ソウ2』(2005年)、『ソウ3』(2006年)、『ソウ4』(2007年)、『ソウ5』(2008年)、『ソウ6』(2009年)、『ソウ ザ・ファイナル 3D』(2010年)、『ジグソウ:ソウ・レガシー』(2017年)、『スパイラル:ソウ オールリセット』(2021年)と続編が連発されます。

とは言え、やはりこれだけ量産しまくっていると、批評家の評価は低めで…(1作目の時点でそんなに高くないのだけど)。まあ、このシリーズはコアなファンが「今回はどうよ?」「私は好きだけどね!」「お前、あれがいいのかよ?」みたいなどうでもいい映画トークをするための作品みたいなものですからね。批評家の評価は二の次でいいのです。

しかし、10作目という節目の続編となった本作『ソウX』はまさかの批評家から好評。シリーズの中で最も評価の高い映画に…。1作目に次ぐ面白さだと言うじゃないですか。一体何が起きたんだ…。批評家の人たちは拷問で脅されたんじゃないか…。

そんな10作目の奇跡を起こした『ソウX』、どういう物語なのかというと、シリーズの時系列としては1作目『ソウ』と2作目『ソウ2』の間の話になっています。

詳細は書くと面白さが減るので伏せますが、シリーズに欠かせない中心的なあのキャラクターのレガシーにもう一度注目し、その存在が再び輝かせるべく、バックグラウンドの深みを増して描き足したような感じというべきかな。

どんどん新キャラや新設定を追加しまくっていたこれまでの続編と比べると、落ち着きを取り戻しています。でも原点回帰とは違って、続編には間違いなくなってるんですよね。新しい続編ルートに突入したようなものか?

もちろんおなじみの創作意欲が爆発している芸術的な残酷拷問トラップはてんこ盛りです。スプラッタなゴア描写はいつもどおりで、観ているだけで貧血になりそうな映画となっております。

『ソウX』の監督は、『ソウ』シリーズの1作目から5作目まで編集を担当し、『ソウ6』と『ソウ ザ・ファイナル 3D』で監督を担っていた“ケヴィン・グルタート”。脚本は、前作『スパイラル:ソウ オールリセット』と同じ“ジョシュ・ストルバーグ”“ピーター・ゴールドフィンガー”

座組としては本当にいつもの面々なのですが、なぜ今回だけ上手くいったのか…。たまたまアイディアがハマった? 何はともあれフランチャイズがまた活性化するなら良いことです。

映画ファンにとっては、『ソウ』の20作目、30作目が公開されるときに、自分が存命かどうかはひとつの目安ですからね(そうだっけ?)。10作目は、私はまだ映画館に行けるくらいには元気でした。20作目のときは…わからん…自信がない…。

それにしても、アメリカ本国では2023年9月公開だった本作は、日本では2024年10月に劇場公開か…。ちょっと周回遅れぎみだな…。

ちなみに今作の映画製作の編集中、家で編集作業をしていた人がうっかり映画音声を流してしまったせいで、近所に警察通報されたという、笑っていいのかどうなんだ事件があったらしいですね。皆さんもこの映画を自宅で鑑賞する際は、イヤホンやヘッドホンで音量を外に漏らさずにしてください。

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『ソウX』を観る前のQ&A

Q:『ソウX』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:シリーズ未見の人が今作『ソウX』から観ても一応は問題はないですが、少なくとも1作目を鑑賞しておくと、キャラクターの背景がよくわかります。時間があれば2作目の『ソウ2』も観ておくといいでしょう。『ソウX』には『ソウ2』の核心的なネタバレが含まれます。
✔『ソウX』の見どころ
★創造力をつぎ込み過ぎた拷問トラップの数々。
★騙し騙されのサスペンス。
✔『ソウX』の欠点
☆過去作のネタバレが含まれるので、鑑賞の順番には注意。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:シリーズ好きなら
友人 3.5:残酷描写が平気な人と
恋人 3.0:相手の趣味に合うなら
キッズ 1.0:子どもには不向き
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ソウX』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

MRI検査を終えた老人のジョン・クレイマー。落ち着いてはいました。しかし、脳腫瘍の悪化のため、余命は良くて1ヶ月と告げられており、状況は依然として打つ手なしの状態。医者も全てからリタイヤして死に備えることを奨めます。

癌患者支援のグループセラピーに参加し、みんな一様に暗い顔の中、ジョンもそこに佇む自分に限界を感じていました。これしかできることはないのか…。

ある日、病室で若い男性の看護師が寝たきりで装置に繋がっている患者の高級時計を盗もうとしてる光景を目撃。出来心なのか、それはわかりませんが、ジョンには見えていました。

ジョンはその看護師を罠で拷問する妄想をします。こういう想像は得意なのです。医療器具から発想を得た残酷な仕掛けのトラップで、看護師は1本1本指が折られていき、眼球が掃除機チューブで摘出されていく…。これはかなりゾクゾクします。

ふと我に返ると、何か視線を感じたのか、良心が躊躇いをみせたのか、その看護師は盗まずに出ていくところでした。「良い選択だ」とジョンは囁きます。

別の場所、グループセラピーにいたヘンリー・ケスラーと偶然に出会います。妙に元気です。確か末期癌だったはずで、前に会ったときはもっと絶望的な感じだったような…。

話を聞いてみると、そのヘンリーはお腹の手術痕をみせてくれます。何でもフィン・ペダーソンという医師の手術を受けたそうです。そのフィン医師の娘はセシリアといい、名医で有名だとのこと。

すぐにネットで調べると実在する医師で、メディアにも出演していました。セシリアも癌を治せる医療の可能性を堂々と動画で語っています。そんな夢のようなことがあるのか半信半疑になりますが、じっとはしてはいられません。

セシリアに連絡をとってみると、なんと向こうから電話をかけてきました。面倒をみてくれるようです。今はメキシコシティ郊外にある診療所にいるとのこと。

藁にも縋る思いでメキシコへ行きます。空港でディエゴという人物が出迎えてくれて、車で街を案内しつつ、目的地に連れて行ってくれます。しかし、いきなりバンが車の前に現れ、銃を突きつけた黒づくめの覆面たちがジョンを連行。

そのわけもわからないまま、ある屋敷に到着。どうやらここが目的のクリニックらしいですが、普通の屋敷でしかありません。

ガブリエラという女性が中を案内してくれます。彼女も手術で癌を治したらしいです。

セシリアも現れ、屋敷の奥に連れて行ってくれます。そこにはハイテクそうなクリーンな設備がありました。助手のマテオヴァレンティーナがいて、スタッフが最低限しかいない様子。患者のパーカー・シアーズもおり、手術を受けたばかりだそうで、気軽に話しかけてくれます。

説得され、おカネを支払って、ジョンはここでチャンスを掴むことにします。もし手術が成功すれば、人生が新しく開けるはずです。

手術が開始され、ジョンの意識は朦朧としてきます。その後に体験する失望をまだ知らずに…。

この『ソウX』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/11/15に更新されています。
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ジグソウの強敵、現る

ここから『ソウX』のネタバレありの感想本文です。

『ソウX』はこれまでと大きく違う構成となっており、それは残酷なトラップ監禁を行う「ジグソウ」の正体であるジョン・クレイマーの視点が主軸になっていることです。これまでの過去作でもジョン・クレイマーは欠かせない存在で登場はしていたのですが、『ソウX』は完全にジョン・クレイマー側に立っており、「一体何が起きているんだ!?」と監禁された側が困惑する従来のソリッドなシチュエーションは薄いと言えるかもしれません。そのため、ミステリーな仕掛けが乏しいです。

ではジャンルとしてはつまらなくなっているのではないかと心配になるのですが、そうはなっていないのは新しい駆け引きを用意しているからでした。

それは騙し騙されのサスペンスです。

まずジョン・クレイマーは余命宣告で絶望しているところに「治せますよ」という光明が差し込み、そのセシリアの手術をメキシコシティで受けますが、それは詐欺だったことが判明します。ジョンの体には手術の痕跡はどこにもありませんでした。

つまり、最初はジョン・クレイマーがまんまと騙される展開で始まるんですね。セシリアもあの屋敷でなかなかに大掛かりな設備を用いて演出しており、さりげなく拘束したも同然。しかし、拘束した相手の体に傷ひとつつけず、尊厳を傷つけている。

セシリアのやっていることはちょうどジグソウのやっていることに似通っていますが部分的には真逆です。

次にジョンはジグソウとしてヴァレンティーナ、ガブリエラ、マテオ、セシリアを誘拐し、拷問トラップで監禁します。いつもの『ソウ』らしい展開ですが、あれほどの屈辱を序盤で描いているので、構図としてはリベンジ・スリラーが強調されます。

しかし、パーカーの登場で形勢逆転し、今度はジョンがセシリアによって自身の作った拷問トラップに拘束されるというかつてない展開に…。「あのジグソウがこんな目に遭うなんて!」とこっちもハラハラドキドキです。

そしてまたやってくれます。ジグソウの渾身の最終トラップが発動し、セシリアとパーカーは毒ガス部屋に閉じ込められ、大パニックに…。

こういう二転三転のソリッドシチュエーションはシリーズに新しい刺激を与えていました。

とくに今作で強烈な存在をみせたのが、“シヌーヴ・マコディ・ルンド”演じるセシリア。ジグソウに監禁されている間も、ヴァレンティーナの腸をロープ代わりにするアイディアを実行したり、焦りつつも猟奇的な性格を露呈していましたが、やはりジグソウと対になる異常性を持ち合わす人物でした。今回の一件でその異常性が開花したかもしれません。

最終的にパーカーを犠牲にしてセシリアは生き残ったっぽいので、これは今作『ソウX』から始まるであろうジョン・クレイマーのメインシリーズのヴィランとして立ちはだかり続けることになるのかな。でもジグソウにこういう最大の強敵が現れるのはいいことだと思います。ほら、生きがいになるしね…(そういうことか?)。

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その発想はなかった

『ソウX』はジョン・クレイマーというキャラクターを掘り下げるので、これまでにないほどに同情的でもあります。余命わずかな人に対してこの仕打ちはあんまりですからね。

とは言え、やっぱりその倫理観はちょっとおかしく、作中でセシリアと「正しくないことはやめろ」「あなたの言えるセリフか?」みたいなやりとりを何度か応酬し合うのも、結局は両者ともにどっちもどっちなサイコパスだからで…。観てるこっちとしては真面目に考えるのもバカバカしくなってくるので考えるのをやめてしまう…。

そのジグソウさんの今回の芸術作品を見ていきましょう。

初めに映像化されるのはポスターでもみんな「なんだこれ?」と思った「アイ・バキューム・トラップ」。まさかの眼球を摘出する装置です。「いや、そうはならんだろ」とツッコみしたくなる仕組みですが、なんとただの妄想でした。妄想だから荒唐無稽なのか、妄想でここまで考えてしまうその発想力が凄まじいのか…。

お次はディエゴに仕掛ける腕爆弾解除のための肉抉りタイム。そしてヴァレンティーナの足切断ギコギコ競争と、マテオのセルフ脳摘出手術、ガブリエラのアツアツ手足ハンマーボキボキゲーム…。

どれも見事なクリエイティブでしたよ。今作では医療からの着想を得たDIYであることが暗示されていますが、でもこういう医療行為に恐怖を増幅されてこんなおぞましい発想をしてしまうというのも、個人的になんかわかる気もする…。

ジョン・クレイマーは一応は「殺すことが目的ではない」ということになっており、今作でも生存者はいて病院に連れて行く姿勢はみせていました。

ただ、毎回思うけど、あのあれだけの拷問レベルだと病院行けばいいものではないだろうという…。出血多量で即死だろうっていう話だし、「感染症って知ってる?」と聞きたくもなるよ…。ラストのカルロス少年とやるハメになってしまう血液で溺れそうになるシーソーゲームも、溺れる以前の問題だったな…。

本作はジョン・クレイマーのキャラクターの掘り下げは成功しましたが、アマンダ・ヤングをどこまで掘り下げられるかが今後の注目かもしれません。アマンダのキャラは正直、これまでは自傷行為のステレオタイプな描写が濃かったので、それをどう変えていくかですかね。

シリーズの新しいルートを開拓した『ソウX』。本作の続きと思われる新作が早くも2025年に『Saw XI』として待機中。『ソウ』シリーズに支えられて頑張り続けている制作スタジオ「ツイステッド・ピクチャーズ」としてはもうずっと作っていくつもりでしょう。

ジグソウさん、余命宣告を受けながらも最もシリーズに長期登場し続けるキャラクターになるかもしれない…。“トビン・ベル”が元気なうちにいっぱい作ってください。

『ソウX』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

作品ポスター・画像 (C)2024 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.

以上、『ソウX』の感想でした。

Saw X (2023) [Japanese Review] 『ソウX』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2023年 #ソリッドシチュエーション