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『X エックス』感想(ネタバレ)…ほうら、クソみたいなホラー映画の出来上がりだぞ

X エックス

ほうら、クソみたいなホラー映画の出来上がりだぞ…映画『X エックス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:X
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年7月8日
監督:タイ・ウェスト
ゴア描写 性描写

X エックス

えっくす
X エックス

『X エックス』あらすじ

1979年、テキサス。3組のカップルで構成される6人の若い男女は、新作のポルノ映画「農場の娘たち」を撮影するために借りた農場を訪れる。6人を迎え入れたみすぼらしい身なりの老人ハワードは、宿泊場所となる納屋へ彼らを案内する。田舎のせいかよそ者には冷たい態度をとってくるが、そそくさと撮影を終わらせてしまおうと張り切る。そして母家の窓ガラスからそんな若者たちをじっと見つめる老婆が動き出す…。

『X エックス』感想(ネタバレなし)

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なぜ「X」なのか?

アルファベットの24番目の文字。それは「X」です。

この「X」は色々な意味や用法があります。

ローマ数字の10を意味しているのは最も思い浮かぶところでしょうし、未知のものを指すときにも「X」は使われます。あと「ex」で始まる単語の略語として「X」が使われることも多く、服のサイズの「XL」も「extra laerge」の省略です。他にも無数に用いられるので挙げだすとキリがないですね。

そんな「X」をタイトルに冠した映画が今回紹介する作品です。

それが本作『X エックス』

原題は「X」。これだけだと本当に何の映画がさっぱりです。下手したらまだタイトル未定なのかなと思ってしまいそう…。でもちゃんと意味があります。それこそダブルミーニングどころではない、いくつもの意味が折り重なっている、結構巧妙なタイトルの狙いが見えてきたりも…。

この本作『X エックス』、ジャンルはホラー・スリラー映画です。具体的には『悪魔のいけにえ』などのスプラッタなスラッシャー映画(マンハント)にオマージュを捧げており、その系譜と思ってもらえればいいです。

物語展開もほぼその王道をなぞります。若者グループがアメリカの田舎にノコノコとやってきて、思い思いに過ごそうとしていると、とんでもない恐怖が襲う…。「あ、またこのパターンね」という、いつものあれです。

じゃあこの『X エックス』は何が面白いのかというと、そういうジャンル的なお約束をなぞりつつ、このジャンルへの愛と皮肉なユーモアを感じさせるところがまずは良さのひとつかなと思います。だから基本はスプラッタなスラッシャー映画を愛する人向けの作品ですよ。嫌いな人が見ても面白くないです(そんな人は観ようとも思わないだろうけど)。そこまで強烈な斬新さみたいなものはないのですが、「そこでこうくるのね」と変化球を楽しんだりもできる。簡単に言えば、マニアがニタニタと笑えるような映画であり、そのオタク同士の愛好会的な雰囲気を満喫する体験を提供してくれます。

もちろんそれ以外にもこの『X エックス』の良さはある。それに関しては語っていくとネタバレになるので、それこそオタク・トークに花を咲かせるための楽しみとしておいてください。

とにかくスプラッタなスラッシャー映画が好きな人はとりあえず鑑賞リストに追加です。

この『X エックス』を監督したのは、『サクラメント 死の楽園』(2013年)や『バレー・オブ・バイオレンス 』(2016年)を手がけた“タイ・ウェスト”。2005年に『The Roost』で長編映画監督デビューを果たしたのですが、2022年になって『X エックス』でさらにワンステージ上がった感じ。今後はどんなキャリアを進むのかな。

その“タイ・ウェスト”監督にとっても重要な一作である『X エックス』の魅力にいち早く気づいて配給を手がけるのは、もはや映画マニアにとっては信頼マークである「A24」。いつも良い映画を引っ張ってくるなぁ…。「A24」だと日本でも劇場公開される確率があがる気がするので個人的には嬉しいです。

『X エックス』の俳優陣は、まず『マローボーン家の掟』『サスペリア』など何かとホラー映画に縁がある“ミア・ゴス”。『EMMA エマ』などホラーじゃない映画にもでていますけど、やっぱりホラーの方が合っているというのは確かに思う…。今作でもかなり凄い演技を見せており、その仕掛けに気づいたときは「ミア・ゴス、頑張ったよ!」となんか無性に褒めたくなりましたよ…。

また、『ザ・ベビーシッター キラークイーン』や最新の『スクリーム』、そして『アダムス・ファミリー』スピンオフドラマ『ウェンズデー』での主演も控える、こちらもホラーの分野で大活躍中の“ジェナ・オルテガ”も起用されており、『X エックス』でも良い絶叫を披露してくれます。

他には『ストレンジャーズ 地獄からの訪問者』の“マーティン・ヘンダーソン”、『ピッチ・パーフェクト』シリーズの“ブリタニー・スノウ”、『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』の“キッド・カディ”、『ナンシー』の“オーウェン・キャンベル”など。

後半の感想では、なぜ「X」なのか、そのタイトルの意味もあれこれ考察めいたことを書いています。

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『X エックス』を観る前のQ&A

Q:怖いのが苦手でも観れる?
A:いわゆるゴアに該当する残酷描写が満載です。苦手な人は目をつむってください。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:スラッシャー映画好きは必見
友人 3.5:好きな人同士で楽しんで
恋人 3.5:苦手だと厳しいけど
キッズ 2.0:性描写もたくさんあり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『X エックス』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):老婆は見ている!

1979年、テキサス州。田舎にポツンとある農家にパトカーが何台も停まっています。家の前にはおびただしい血。その家の中ではテレビがついたまま。駆け付けた保安官は仲間に案内されて地下室へ。ライトに照らされたのは、絶句するしかない光景で…。

その24時間前。マキシーンは楽屋でクスリを吸っていました。マネージャーのウェインが後ろから抱き着いてきてキスしてきます。その彼が去った後、マキシーンは鏡に向かってセックスシンボルに毒づきます。

ヒューストンを出発するバン。乗っているのは6人の男女。女優のマキシーンとマネージャーのウェイン、俳優同士のボビー・リンジャクソン、学生監督のRJと録音担当のロレイン。それぞれがカップルであり、この若者たちがこうやって一緒に出かけているのは映画の撮影のためです。自分たちで自主映画を作るつもりなのでした。

車内で「農家の娘たち」という脚本を配られます。内容はポルノです。

途中でスタンドに寄ります。店内で、マキシーンはリンダ・カーターみたいに有名になりたいとウェインに告げながら、録音担当のロレインは喋らないから嫌いだとこぼします。外では、ジャクソンがガソリンを入れている姿を撮るためにカメラを回していると、まるでアレを入れているような撮り方ができるとボビー・リンがアドバイス。呑気な一同です。

車を走らせていると渋滞に遭遇。どうやら事故のようで、牛が轢かれて無惨にも内臓が盛大に飛び出ており、タイヤはその一部を踏みながら通過します。

そして撮影するために借りた農場に到着。ウェインがノックすると、でてきたのは老人のハワード。猟銃をつきつけてきます。不法侵入だと思っているようで、緊迫しつつも事情を説明。

なんとかわかってもらえて一同は車を降ります。そのときマキシーンは2階の窓に人影を見た気がしました。

泊まる納屋へ案内され、ハワードにカネを渡します。感じが悪い老人です。

さっそくセックスシーンの撮影を開始。ジャクソンとボビー・リンは激しく乱れる中、カメラが回ってきます。

マキシーンは外へひとり歩き、近くの森の向こうに水辺を発見。のんびり足を水につけ、泳ぐことにします。浮かびながらリラックスして、岸に上がります。

帰る途中、マキシーンは家にいる白髪の老婆が視界に入ります。なんかこっちに手を振っているようです。招かれたと思って、マキシーンは家に入ってみます。声をかけるも返事無し。ふと老婆が近くにいるのに気づき、飲み物をだしてくれます。無言です。老婆は飾ってある夫婦の若い頃と思われる写真を眺め、「昔は私も若かった」と呟いたように聞こえます。しかし、ハワードが帰ってきたので、マキシーンは裏から退散。

撮影はなおも続行。続いてマキシーンは農家の娘役を演じ、セックス撮影に移ります。こちらも順調に終わりました。

夜は納屋で寝泊まりです。みんなで談笑しながら、それでも貞操観念の強いロレインを少し揶揄っていると、ロレインも映画に出たいと言い出します。RJは反対しますが、プロデューサーとして仕切るウェインはそれを認め…。

そんな若者たちを老婆が見ている…。

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若者カップルvs老人夫婦

『X エックス』は映画全体が皮肉に満ちた雰囲気が漂っています。まずはジャンルへの皮肉です。

物語はもろに『悪魔のいけにえ』です。若者男女がテキサスの田舎に集う。舞台は整いました。

そんな若者たちが集った理由がポルノ映画の撮影であるというのがこの『X エックス』の肝です。ここでタイトルの意味がひとつ明かされますね。アメリカのレーティングでは昔は「X」という区分があり、いわゆる成人映画を指していました。1970年代はこの「X」レーティングが盛んにもてはやされ、むしろポルノっぽさを示すマークとして重宝されていたりもしました。今は新しいレーティングのシステムに置き換わってしまったのですが、今でも「X」はポルノを指す文字として界隈では用いられています。

本作では3組のカップル構成になっており、実質「X」が3つ並ぶ。「xxx」は最もハードなポルノを指すときに使ったりもするので、ちょうどいい数字です。

もちろんただ何事もなく撮影が終わるわけはない。なにせこれはスラッシャー映画なのですから…。

ここで序盤、マキシーンが水辺で泳ぐシーンではワニが出現します。あの全くの無反応で平然と描かれる感じも良かったですね。上からの俯瞰でワニがスーっと近づいていく無音の恐怖。音で驚かせる演出とは真逆です。これがこの映画の恐怖の開幕の序章になります。

で、何がメインで襲ってくるのかと思ったら、しきりにカットバックしてフレームインしてくる、あの老婆パールですよ。本作の強敵は老婆でした。

しかも、この老婆、何やら性的な関係への強い願望があるらしく、各人を的確に殺害しつつ(ウェインの目をグサっとした後の老婆の行動にちょっと笑ってしまった。ウェインもパンツ一丁だし…)、だんだんとエネルギーが戻ってきたようで、あげくには老人ハワードとベッドインしだします

そう、この映画は「若者ポルノvs老人ポルノ」の、一体誰得なんだという対決が繰り広げられるのでした。ポルノを撮りに来た若者が老人夫婦のポルノを見せられて、なんだかゾッとする羽目になるなんて、皮肉すぎる話ではありますが…。

あの老夫婦がよろしくヤっているギシギシ軋むベッドの下で身を潜めているマキシーンの恐怖の顔。こうなってくると何に怯えているのかもわからなくなるな…。

本作は単に殺人老夫婦というだけでなく、このポルノにポルノをぶつけてくるカウンターというあたりに、笑っていいのか悪いのかわからない面白おかしさがありました。まあ、体験するのは私も勘弁ですが…。

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この人なら生き残って当然

そしてもうひとつ『X エックス』で欠かせないのが、宗教の要素です。つまり、このタイトルの「X」はキリストを意味するものでもありました。

本作でホラーポルノを若者にお見舞いしてくるあの老夫婦。僅かに語られる背景から察するに、大戦のトラウマを抱えており、おそらくそうしたものが原因で理想的な夫婦像を築けなかったのだと思われます。

その老夫婦が信仰しているのは保守的なキリスト教。テレビには伝道師が語る映像が流されており、信仰深いことだけはわかります。伝道師というものについては『タミー・フェイの瞳』の感想でも語ったのでそちらを参考にしてください。

そしてラストで明かされる驚愕の事実。なんとファイナル・ガールであるマキシーンは伝道師の娘だったのです。何やら逃げ出してきたようで、その背景を知ればこのマキシーンがあの老夫婦を打ち負かせるのは必然だったのかと納得。「リンダ・カーターみたいになりたい」と言ってましたけど、殺人鬼をぶっ倒すワンダーウーマンになれているじゃないか…。

一方のロレインは対極的でちょっと可哀想です。彼女は明らかに熱心キリスト教信者で、純潔主義を素直に信じているので、このポルノ撮影にも乗り気ではない様子でした。そのロレインがつい性を解放してしまった瞬間に案の定、恐怖が襲ってくる…。地下で縛り上げられた男を見て大絶叫しますが、よく考えるとあの男もイエス・キリストみたいなもので、普段はそんな男のアイコンをしょっちゅう見ているくせに、いざ生身のそれを目にしてしまうとおぞましさしか感じない…シュールなシーンでもありますね。

ともかくマキシーンは老夫婦を倒しました。いや、正確にはあの老夫婦の自滅なのですが、やはり老化には勝てません。

でもあの老婆のパールを演じているのは“ミア・ゴス”であるということを考えれば、「自分vs自分」ですからね。宗教なんてあらためて轢き殺してやると言わんばかりの決別です。

捨て台詞で去っていったマキシーンと、その後に駆け付けた保安官の、あの最後に観客をニヤっとさせてくれるセリフ。なんかこれで全部OKな気がしてくる、そんな私はチョロすぎるかもしれない…。

この皮肉全開の『X エックス』、なんと3部作を予定しているらしく、もう2作目となる前日譚も撮ったのだとか。マキシーンの過去が描かれるのか、それともあの老婆の過去か。今の時点の原題は『Pearl』らしいですけど…。あのアグレッシブさの原点を拝むのが楽しみです。

『X エックス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 75%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

続編の感想記事です。

・『Pearl パール』

作品ポスター・画像 (C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

以上、『X エックス』の感想でした。

X (2022) [Japanese Review] 『X エックス』考察・評価レビュー