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ドラマ『チャッキー』感想(ネタバレ)…チャッキーはクィアの味方です

チャッキー

本当に?…ドラマシリーズ『チャッキー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Chucky
製作国:アメリカ(2021年~)
シーズン1:2021年にSyfyで配信
シーズン2:2022年にSyfyで配信
シーズン3:2023年~2024年にSyfyで配信
原案:ドン・マンシーニ
動物虐待描写(ペット) イジメ描写 児童虐待描写 LGBTQ差別描写 ゴア描写 性描写 恋愛描写
チャッキー

ちゃっきー
『チャッキー』のポスター。

『チャッキー』物語 簡単紹介

ニュージャージー州ハッケンサックの町に暮らす14歳のジェイクは、父親に趣味も性的指向も理解されず、学校ではイジメられて青春を過ごしていた。そんなある日、偶然にも奇妙な人形「チャッキー」を手に入れ、それが実は意思を持った恐怖の殺人鬼であることを知ってしまう。殺しに手慣れたチャッキーは殺意と憎しみを煽り、この町を戦慄させていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『チャッキー』の感想です。

『チャッキー』感想(ネタバレなし)

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チャッキーはドラマではもっと配慮しない

昔はホラー映画がヒットすると、瞬く間に続編が量産されたことがありました。そうなると、当初のアイディアを生み出したクリエイターがいつの間にか降板となり、別の製作陣に移り変わっていることもしばしばでした。

しかし、『チャイルド・プレイ』のフランチャイズは一貫していました。ほんの一部を除いて…。

“ドン・マンシーニ”原案・脚本の映画『チャイルド・プレイ』は1988年に誕生しました。殺人衝動に憑りつかれた人形「チャッキー」が惨劇を巻き起こす…。“ドン・マンシーニ”はUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で映画を学んでいる間にこのコンセプトを思いついたそうです。

その後、『チャイルド・プレイ2』(1990年)、『チャイルド・プレイ3』(1991年)、『チャイルド・プレイ チャッキーの花嫁』(1998年)、『チャイルド・プレイ チャッキーの種』(2004年)、『チャイルド・プレイ 誕生の秘密』(2013年)、『チャイルド・プレイ 〜チャッキーの狂気病棟〜』(2017年)…と計7作となるほどに続編が作られました。その全てに“ドン・マンシーニ”が脚本で参加し、5作目・6作目・7作目は監督も務めました。

ところが2019年リブート版『チャイルド・プレイ』が“ドン・マンシーニ”のあずかり知らぬところで作られてしまい、“ドン・マンシーニ”は大いに不満を表明。まあ、そうですよね…ずっと自分で作ってきたシリーズなんですから。

その“ドン・マンシーニ”は『チャイルド・プレイ』を諦めたわけではありません。満を持してこのドラマシリーズを送り出してきました。

それが本作『チャッキー』です。

『チャイルド・プレイ』フランチャイズをドラマシリーズ化したものですが、一連の映画シリーズ全てと接続しており(リブート版はもちろん例外)、ちゃんと続編になっています。というか、もうほぼ集大成です。

“ドン・マンシーニ”のやってきたこと、そしてやれなかったやりたいことを全部ぶち込んだような大ボリュームとなっています。

その「やれなかったやりたいこと」のひとつだったのだろうと思われるのが、LGBTQ表象です。“ドン・マンシーニ”もゲイ当事者なのですが、本作の主人公もゲイの10代となっています。性的指向の悩み、それに関する家庭や学校での孤立…描かれる青春のトピックが“ドン・マンシーニ”の経験を参考にしているとのこと。

最初はこの『チャイルド・プレイ』フランチャイズを青春ティーン・ドラマと合体させて上手くいくのかと私も思ったのですけども、“ドン・マンシーニ”が実に上手くまとめていました。たぶんずっと頭の中にあったのだろうな…。

そんなこんなでLGBTQのホラーを観たい人にもオススメできます。

ドラマ『チャッキー』に出演するのは、『フィフス・ウェイブ』“ザカリー・アーサー”『スレイヤー 7日目の煉獄』“ビョルグヴィン・アルナルソン”、ドラマ『デイブレイク 世界が終わったその先で』“アリヴィア・アリン・リンド”などフレッシュな若手が多数揃っています。

そしてシリーズでおなじみのあの人も…。これはネタバレになるので一応伏せておきましょうか。

クィア・ホラーとしてさらに絶好調となったドラマ『チャッキー』。アメリカ本国では「Syfy」「USA Network」での配信なのですが、日本では「Hulu」で先行して扱われ、2024年には「Amazonプライムビデオ」でも観られるようになり、見やすくなりました。

シーズン3までとなっており、各シーズンで8話ずつ、計24話となっています。

相変わらず不道徳で残忍なチャッキーをどうかよろしくお願いいたします。シリーズ初心者もようこそ。

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『チャッキー』を観る前のQ&A

Q:ドラマ『チャッキー』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:前作となる一連の映画シリーズを観ていなくても大きな問題はありません。未見の人は時間があれば1作目だけでもいいので鑑賞しておくといいでしょう。
✔『チャッキー』の見どころ
★盛大に大暴れするチャッキーとその仲間たち。
★クィアとしての恐怖や不安を盛り込んだプロット。
✔『チャッキー』の欠点
☆たくさん人が残酷に殺されるのでそこは留意。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:クィア・ホラー好きにも
友人 4.0:気軽に見やすいエンタメ
恋人 4.0:残酷な体験を一緒に
キッズ 2.0:殺人描写が多数
↓ここからネタバレが含まれます↓

『チャッキー』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

ニュージャージー州ハッケンサック。住宅街でガレージセールが行われ、近所の人たちがいろいろないらないものを持ち寄って売りに出しています。14歳のジェイク・ウィーラーも見に来ていましたが、ふと目立つ大きめのグッドガイ人形を手にします。どうやらヴィンテージのようで、アートに関心があってレトロ好きなので買うことにします。

帰宅したジェイク。部屋には自身の創作物と猫のビンクシーがいます。さっそくジェイクは人形を分解しようとします。でも頭が全然外れません。

ナイフを取り出したところで、急に「やあ、僕はチャッキー」と人形がいかにもおもちゃっぽく喋ります。ちょうど父のルーカスも帰宅してきました。父はジェイクの趣味を快く思っていません。いつもの薬を飲み、人形を部屋に置いて、ジェイクはその場を後にします。

夜、父の兄弟であるローガンの一家が夕食に来ます。父は家計が苦しくてもローガンの助けを借りる気はなく、荒っぽい態度。一方でそのローガンの息子でジェイクにとってはいとこであるジュニアは「今はゲイでもボーイスカウトに入れるんだぞ」とジェイクに刺々しいことを言ってきます。場は険悪。結局、ローガンの妻ブリ―も合わせてローガン一家3人は帰っていきます。

酔った父はジェイクの創作物をバッドで叩き壊します。父は暴力的な傾向がありましたが、ジェイクは誰にも相談していません。

翌朝、あの人形をネットで調べると1500ドルすることがわかり、これならアートキャンプに行けるおカネも手に入ると考えます。そこで学校に持っていって買ってくれる人がいないか探します。

しかし、ジュニアのガールフレンドであるレクシー・クロスに廊下で出会い、「貧乏ならおカネを貸す」と嫌味を言われます。

ロッカーに入らないので人形を授業でも連れ歩きます。カエルの解剖の理科の実験です。ジェイクは血を見るとパニック発作を起こし、ふと目を離すといつの間にかカエルが刃物でズタズタにされていました

加えて、レクシーによって募金サイトが立ちあげられるイジメに遭い、同級生のオリヴァーもバカにしてきます。これにレイチェル・フェアチャイルド先生はさすがにレクシーを叱りますが、レクシーの母ミシェルは市長ということもあり、レクシーは強気です。

落ち込んでいると殺人事件をテーマにした独自のポッドキャストをしているデヴォン・エヴァンスに食堂で話しかけられます。ジェイクが密かに好意を抱いている男子でした。

夜、謎の人物から電話がかかってきて、「あの人形には気をつけろ」と警告されます。

次の日、家に来たときからずっと自動音声のように喋っていたチャッキーに電池が入っていないことが発覚。不気味に感じてすぐにゴミ箱に投げ捨てます。

ところがこのチャッキーはまたジェイクのもとに現れ、とんでもないことを囁きます。それは危険な誘いで…。

この『チャッキー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/11/18に更新されています。
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シーズン1:殺人鬼にはならない

ここからドラマ『チャッキー』のネタバレありの感想本文です。

ドラマ『チャッキー』のシーズン1は第1話から、純度100%のクィア・ホラーとして張り切っています。

父親のサポート拒否&虐待、いとこのジュニアのホモフォビア、イジメっ子のレクシーによるアウティング…。ゲイのジェイクが経験する苦しみが痛いほど伝わってきます。

そんなジェイクが迎え入れてしまったチャッキー。当初はそんな同性愛嫌悪に苦しむジェイクにやけに同情的で、あげくには「俺にもクィアな子どもがいる、ジェンダーフルイドのな」とまで発言。

これ、5作目『チャイルド・プレイ チャッキーの種』に登場したチャッキーとティファニーの間に生まれた子ども人形への言及です。この映画の物語内では、子どもの性別がわからず、チャッキーはその我が子を男子として「グレン」と呼び、ティファニーは我が子を女子として「グレンダ」と呼ぶのですが、その子自身は「男の子と感じることもあるし、女の子と感じることもある」と打ち明けるんですね。

その5作目の「グレン/グレンダ」のキャラはじゅうぶんクィア・リーディングできる存在だったのですが、まさか2020年代になってチャッキー本人から公式認定みたいになるとは思わなかった…。

チャッキーってクィアの味方だったんだ…とクィアな視聴者を高揚させますが、そんなあっけないわけもなく…。チャッキーはそうやって心の隙間に入り込み、自分の「分身軍団で世界征服」という野望に利用しようとしているだけでした。

でも差別が容赦なく尊厳を奪う人生で何もかもを憎んでしまう心理は当事者には共感できるものがあると思います。本作は憎しみに支配されず、仲間を見つけて立ち向かえと真っ直ぐに教えてくれるドラマでした。

かつてはクィア当事者はホラーのジャンルでは殺人鬼の役になることが多いものでしたが、本作のジェイクはその宿命という名のステレオタイプを乗り越え、デヴォンとの幸せなゲイ・カップルの未来を手にしました。

チャッキー、ありがとう。じゃあ、さようなら。

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シーズン2:学校と家庭の次は宗教

”さようなら”はしないドラマ『チャッキー』。シーズン2は前シーズンのラストから直結。チャッキー軍団のトラックを奪ったアンディ・バークレーが車ごと崖から落下。もちろん壊滅するわけもない…。

デヴォンと熱いキスで名残惜しく別れたジェイクはニュージャージー州セーレムの里親宅で、養子の弟ゲイリーと共に暮らしていましたが、デヴォン&キャロラインと共にまたしてもチャッキーの罠にハマり、ゲイリーを爆殺させた容疑で少年院ではなく、カトリックの寄宿学校送りにされてしまいます。

シーズン2はキリスト教をいじるネタが豊富。無論、保守的な宗教はLGBTQの迫害と密接に関係あるので(作中で言及されるとおり、七つの大罪のひとつは「プライド」です)、これはもう次なるステージのクィア・ホラーの幕開けです。

同性愛嫌悪を信仰的に正当化するブライス神父(“デヴォン・サワ”大活躍だな…)、マッチョなチャッキーにキリスト復活を重ねるシスター・ルース…。

ジェイクたちは親しくなったナディーンと一緒に、捕らえたひとりのチャッキーを「温厚な人格」に変えようと試みますが、これは転向療法ですね。でも転向療法が良い結果を生むわけもなく、ナディーンの死という悲惨な事態を…。やっぱりトラウマに向き合うには健全な支え合いが最も確実な道なのでした。

その一方、本シーズン2の裏主人公とも言えるのが、女優ジェニファー・ティリーと入れ替わって体を手に入れたティファニー・ヴァレンタイン。彼女は典型的なサイコレズビアンです(ちなみに“ジェニファー・ティリー”と言えば、レズビアン映画の名作である1996年の『バウンド』で有名)。本作はそんなステレオタイプなクィア表象のキャラをあえて猟奇的なままにより豊かに(キャンプに)描き、不器用ながら幸せを手にしようと奮闘します。ティファニーもチャッキー側の狙いとは完全に離れて独自に行動していますからね。けれども四肢切断したニカ・ピアースと幸せになろうとする当初の目的は果たせず…。

あと、ついにグレングレンダが人間姿で登場。演じているのはノンバイナリーの“ラクラン・ワトソン”です。最終的に1対の人形に2人の魂を映し、「GG」と名乗ります。

今回もなんだかんだでチャッキーの戦略勝ち。悪魔祓いも虚しく(爆ぜろ神父!)、チャッキーはチャールズ・リー・レイ時代のセラピストのミクスターすらも踏み台にし、花嫁人形ベルに成りすまし、キャロラインも支配下に。

ちゃんとジェイクとデヴォンのクリスマスのロマンチックを描いてくれるあたりが、“ドン・マンシーニ”の優しさですね。

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シーズン3:チャッキー政権

ドラマ『チャッキー』のシーズン3、その舞台は一気に飛躍してまさかのホワイトハウス。ポリティカル・サスペンスです。アメリカはヤバい人間がいとも容易く大統領になれるけど、ヤバい人形も簡単に政府中枢に入り込めるのでした…。

ジェームズ・コリンズ大統領シャーロット大統領夫人、そして息子のグラントヘンリー。ジョセフという亡くなった子の喪失感を利用してまんまとチャッキーが家族の仲間入りに。

そのチャッキーの狙いは、老化しつつある自分の再生で、邪悪な場所で生贄の儀式をやること。その目的を果たすべく、遠慮なく殺しをホワイトハウス内で連発しますが、エージェントのウォーレン・プライスの入れ知恵で不審死を全て隠蔽。あげくに大統領の死まで影武者で隠匿します。ダメだ、この政府、無能だ…。ミサイル直撃した北極にどう謝るんだよ…。

一方、ようやくまともな大人であるフェアチャイルドのもとに落ち着いたジェイク、デヴォン、レクシー。どうやってホワイトハウスに乗り込むんだ?と思ったら、なかなか強引にいきましたね。

今作では、ジェイクとデヴォンはやっと体を交え、関係もグッと深まり、さらにはジェイクは霊界に行って父と再会し、赦しのもとでトラウマを乗り越えます。ジェイクの物語もひと段落という感じです。

しかし、やっぱり今回のチャッキーの思惑どおり。チャッキーはジェイクに一時的に憑依し、ウェンデル・ウィルキンス人形職人のもとでグッドガイ人形のプロトタイプに魂移動し、復活。ジェイク、デヴォン、レクシーをマリオネット人形に変え、チャッキーは人形に戻ったティファニーとよりを戻し、キャロラインの支援のもと、意気揚々と人生を再開してしまいました。

そして悲しいお知らせ。ドラマ『チャッキー』、ここで打ち切り。

でも“ドン・マンシーニ”はまだフランチャイズを続けると言ってますし、この世界はまだ続いてくれるでしょう。これだけクィア・ホラーとしてかつてないほどに元気になったのですから、これを失速させるのは損というもの。チャッキーは不滅です。

『チャッキー』
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)

作品ポスター・画像 (C)Syfy, USA Network

以上、『チャッキー』の感想でした。

Chucky (2021) [Japanese Review] 『チャッキー』考察・評価レビュー
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