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ドラマ『シュリンキング 悩めるセラピスト』感想(ネタバレ)…セラピストも人生は上手くいかない

シュリンキング 悩めるセラピスト

セラピストも人生は上手くいかない…「Apple TV+」ドラマシリーズ『シュリンキング:悩めるセラピスト』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Shrinking
製作国:アメリカ(2023年~)
シーズン1:2023年にApple TV+で配信
原案:ビル・ローレンス、ジェイソン・シーゲル ほか
DV-家庭内暴力-描写 性描写 恋愛描写

シュリンキング 悩めるセラピスト

しゅりんきんぐ なやめるせらぴすと
シュリンキング 悩めるセラピスト

『シュリンキング 悩めるセラピスト』あらすじ

妻を亡くした悲しみをなおも引きずっているセラピストのジミーは、本音を言えば自分の心身の方がズタズタで、他人の心をセラピーしている余裕はなかった。ジミーはそれまでの経験や専門的な倫理観を無視して、患者に自分の考えをありのまま伝えるという、ほとんどやけくそのような正直なアプローチを試みる。それは自分自身を含め、悩み多き人々の人生に大きな波乱に満ちた変化をもたらし始めるが…。

『シュリンキング 悩めるセラピスト』感想(ネタバレなし)

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セラピストは生身の人間だからこそ

最近にわかに大注目を集めている「ChatGPT」のようなチャット系AI。こちらの質問や話題提供に対して、高度なAIが非常に自然な文章を返してくれることで話題です。さまざまな応用が期待される一方で、悪用や危険性も指摘されており、この技術が私たちにどんな影響をもたらすのか先行きは不透明です。

そのチャット系AIのいろんな人の活用方法を見ていると、「ただなんとなくAIと対話しているだけでいい」と言っている人もチラホラ見かけます。とくに目的はなく、気ままにAIと他愛もなくやりとりしているというそれだけの時間が楽しいのだ…と。

たぶんこれはAIが一種のセラピストのようになっているんでしょうね。実在の人間相手だと気を遣ってしまってストレスになるけど、AIなら一切の気兼ねなく思う存分に言葉をぶつけられる。私たちはAIに悩みや不安を打ち明けるような時代が来るのでしょうか。

とは言え、AIなので適切なアドバイスをする専門トレーニングも受けていないですし、なにより会話に責任を持ってくれませんし、個人情報だって流出させるかもしれません

そんなわけでやっぱり当面は悩みや不安を打ち明けるなら生身のセラピストの方がいいのではないでしょうか。

しかし、そんなセラピストを生業とする生身の人間だって、専門家と言えども「人」です。セラピスト自身が悩みや不安を抱えていることもあるでしょうし、人間関係に疲れてしまったり、仕事が嫌になったりすることもあるでしょう。そんなときはどうしているのでしょうね。

今回紹介するドラマシリーズは、自身が深刻な悩みに沈んでしまったセラピストを主題にし、AIにはまだまだわかりえない人間の感情の機微を捉えたユーモラスで温かい作品です。

それが本作『シュリンキング 悩めるセラピスト』

本作はセラピストたちが主人公となっています。最近はいろいろな作品で主要人物を支える役としてセラピストが登場したりしていますが、そのセラピストそのものを主役に据えた親しみやすい作品はちょっと珍しいかもしれません。小難しくないので大人であれば視聴は容易いです。

原案には、ドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』でおなじみの“ブレット・ゴールドスタイン”が関わっており、確かに『シュリンキング 悩めるセラピスト』もどことなく『テッド・ラッソ』っぽい温かみがある内容です。

また、原案には“ジェイソン・シーゲル”が中心で関与し、主演も務めています。

俳優と言えば、あの“ハリソン・フォード”も主要人物の役で出演しているのも要注目です。“ハリソン・フォード”がこういうドラマシリーズで仕事するのは意外なのですが、本作の場合はとくにこれまでの“ハリソン・フォード”のパブリック・イメージを覆すような“男らしさ”を解体する役柄になっており、“ハリソン・フォード”のベストアクトという評価もあります。

他には、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』の“ジェシカ・ウィリアムズ”、ドラマ『CSI:ベガス』の“ルーク・テニー”、ドラマ『Generation』の“ルキタ・マクスウェル”、ドラマ『アグリー・ベティ』の“マイケル・ユーリー”、ドラマ『クーガータウン』の“クリスタ・ミラー”など。ちなみに“クリスタ・ミラー”の夫で脚本家である“ビル・ローレンス”はこの『シュリンキング 悩めるセラピスト』にも原案で参加しています。だからなのかキャスティングの相性は抜群ですね。

『シュリンキング 悩めるセラピスト』のエピソード監督には、『人生はローリングストーン』の“ジェームズ・ポンソルト”、ドラマ『scrubs〜恋のお騒がせ病棟』の“ランドール・ウィンストン”、『サン・イズ・オールソー・ア・スター 引き寄せられる2人』の“ライ・ルッソ=ヤング”などが名を連ねています。

セラピストたちの悲喜こもごもなドラマを見ていると、「みんな悩みを抱えているし、それでいいんだな」と少し気持ちが軽くなるのではないでしょうか。そしてこういう悩みを本人も体験しているからこそ、人間のセラピストが大事なんだということも伝わってくるような…。アルゴリズムで正解を導こうとするAIにはできない仕事なんですよ、きっと。

『シュリンキング 悩めるセラピスト』は「Apple TV+」独占配信で、シーズン1は全10話。でも1話あたりが約30分なのでサクサク見れると思います。眠れない日、落ち着かない日は、ドラマでも観ましょうか。

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『シュリンキング 悩めるセラピスト』を観る前のQ&A

✔『シュリンキング 悩めるセラピスト』の見どころ
★セラピストの奮闘に元気を貰える。
✔『シュリンキング 悩めるセラピスト』の欠点
☆他人の悩む姿に気疲れしないように。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:ひとりで落ち着いて
友人 3.5:素直に語り合える仲と
恋人 3.5:恋愛要素あり
キッズ 2.5:大人のドラマです
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『シュリンキング 悩めるセラピスト』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『シュリンキング 悩めるセラピスト』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):悩んでいるのはこっちもです

深夜、リズはお隣のうるさい音にまたもうんざり。ベッドでは夫のデレクも寝ていますが苦情を言いに行くほどの気力はない様子。しょうがないのでリズが隣を見に行くと、ジミーが呑気にエア・ピアノをしながら若い女性をプールで遊ばせていました。

「何のつもり?」「もう静かにするよ」

「アリスは?」とジミーの17歳の娘の話題をだすと「寝ている」と呑気に答えてきます。「あの女の子たちは?」と聞くと「友達」と言葉を濁すジミー。

夜が明け、朝です。ジミーはアリスに気まずそうに挨拶。「昨夜はうるさくしてごめん」「毎度のことでしょう」と会話は続かず、アリスはリズに送ってもらうと言って出ていきます。

ジミーは自動車が動かないので自転車である施設へ。認知行動療法センターの看板を通り過ぎ、ある部屋に入るとひとりの男がいます。その男に心配されますが、ジミーはくたくたのまま対面の椅子にこしかけ、「スティーヴン、今日の気分は?」と仕事に入ります。ジミーはセラピストです。

いろいろな来訪者の悩みを聞いていくジミー。内容もさまざまで、人間関係は複雑。口々に最悪で幸せとは無縁であると訴えます。でもジミーも実はいっぱいいっぱいでした。

ついに患者のひとりであるグレースを前に思わず立ち上がって「2年も妻をバカ扱いして巨乳しか褒めない夫なんてクズだ」と声を張り上げてしまうジミー。「その夫は更生する気はない。捨てろ」と言い切って、あげくに「拒むならセラピーは終了だ」と断言。グレースは納得したのかしていないのか部屋を去っていきました。

水を飲みまくっている若いセラピストのギャビーと、70代のベテランのセラピストのポールが休憩室におり、ジミーが消耗しきってやってきます。自分がセラピー対象者に感情的にぶちまけてしまったことは言わず、それでも苦労を吐露すると、ポールは「共感疲労だ。中立を貫け」と淡々とアドバイス。

「患者に答えを示してやるのはダメなのか?」と愚痴っても、「患者の自主性を奪うだけだ。メンタル自警団にでもなりたいのか?」とポールは専門家らしい視点で俯瞰します。

ギャビーにひとりの患者をお願いされ、断れなかったジミー。相手は元海兵隊のショーンで、暴行事件をあれこれ起こしてしまったようです。でも全然相手できず帰ってしまうショーンでした。

別の日、ショーンと面接中、グレースから電話があり、夫と離れたという感謝の言葉が飛び込んできます。これに自信が付いたジミーは、セラピーの基本をあえて投げ捨て、ショーンにボクシングさせて発散させることに。

そしてショーンに自動車事故で妻ティアを亡くしたとジミーは告白。妻とは喧嘩した直後でした。今も娘との関係修復は難しく、ジミーは苦悩していました。

ある日、娘のサッカーをショーンと一緒に見に行くことになりましたが、その応援側に立っていると、どこからともなくグレースの夫が歩いてきて殴ってきました。思わずショーンが反撃し、流血沙汰に。

騒動が終わって、父の頑張りを目にしたアリスはジミーと対話。ジミーも「お前がママにそっくりで」と自分が向き合えなかった理由を率直に語ることに…。

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シーズン1:サイコロジカル・ビジランテ

『シュリンキング 悩めるセラピスト』でまず直視させられるのは、セラピストも人間だということ。専門家ではあっても、パーフェクトで傷のつかないメンタルの持ち主ではない。心の修復や回復の方法がさっぱりわからず、そして一歩を踏み出す勇気も持てない。そんなことは日常茶飯事です。

セラピーやカウンセリングを受けた人ならわかると思いますが、ああいう人たちは親身になりつつ、どこか一線を引いた距離を保ってきます。専門家であれば公私を分け、回答を授ける安直な役に陥らず、あくまで患者の主体性の中でその人がどこに行くかを見守ってあげる。そのサポートをするだけです。

しかし、本作の主人公であるジミーは妻の死を引きずりすぎて完全に自分の余裕が無くなり、仕事面でも患者に深い介入をするようになってしまいます。とくにショーンにいたっては家にまで泊めたりと、家族ぐるみの付き合いに。

これが良いのか悪いのかはさておき、人間関係が自暴自棄になってくるというのは、メンタル不調時にありがちなこと。これはこれでジミーなりの、下手糞かもしれないですけど、自己ケアの実践です。他人をケアするのは得意だけど、自分をケアするのは下手な人っていますよね。

本作は物語のフォーマットとしてはわりとアメリカ作品では定番のコメディではあるのですけど、その土台にはメンタルヘルスの議論がしっかり枠組みとして構築されており、ストーリー自体が自暴自棄でいいやと問題放置してエンタメに走りすぎることを上手く抑えてくれる役割を果たしています。昔のアメリカ作品だったら「笑えればそれでいい」みたいな安直な片付け方もしたと思うのですが、『シュリンキング 悩めるセラピスト』はそうはならない。

くどいくらいに何回も何回も対話を繰り返して、少しずつでいいからメンタルをケアしていく。こういう姿勢を良しとしてストーリーを成り立たせるというのは、昨今のアメリカ作品の良さだなと思います。

「サイコロジカル・ビジランテ」とジミーのアプローチをポールは形容していましたが、お節介すぎる人というのもやっぱりときには必要で、あれは本来のセラピストの仕事ではないでしょうけど、結果的にジミーのやっていることを通して、セラピストの通常業務ではカバーできないメンタルケアの在り方も提示しており、本作の姿勢は誠実でした。

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シーズン1:人生の迷路がそれぞれに

『シュリンキング 悩めるセラピスト』で最も深刻にメンタルが低調なのはジミーですが、他のキャラクターも各々で悩みを内に抱えています。

ポールはセラピストとして熟練の経験があり、貫禄じゅうぶんなキャリアを歩んできています。しかし、「私はヒーローだ」と強がっていますけど、その内側では自信が無く、学会から功労賞を授与されるのさえ気が引けており、恋愛面でも消極的になっています。そして一番の悩みは家族のこと。娘メグとの関係を今さら戻せるのかと後ろめたさを抱き、パーキンソン病のことを伝えるかも葛藤する。

“ハリソン・フォード”は『スター・ウォーズ フォースの覚醒』以降からだと思いますけど、老いた自分を上手く再利用して、こういう新しい老齢男性像に置き換えることに成功させていますよね。

また、同僚のギャビーは一見するとかなりポジティブシンキングで悩みなんて露ほども無さそうなのですが、夫ニコと離婚は言っているほど円満なものではなく、肝心の元夫側はわりと自由奔放のようですけど、ギャビーは正直ずるずると振り切れていません。

そんなギャビーとジミーが恋愛関係を介在させずにその場しのぎのセックスフレンド化していくあたりのギャグ状態はどこまで続くのやら…。ギャビーは教授を目指すみたいだからまた悩みが増えそう…。

お隣のリズは定年退職となったデレクが家にいるようになってから、今度は自分が外で何かをしたいと考えるようになりますが、あまり思いつきません。アリスの面倒を見ていたくらいですから、たぶんバイタリティはいくらでもあるでしょうし、それこそセラピストではカバーしきれない人助けを仕事にすると相性はバッチリなんだろうな…。

ジミーの娘のアリスは父よりも母の死を先に乗り越えるステップを進んでおり、そう考えれば良かったねという話なのですが、本作では「死別の悲しみを克服するルートを先行する者の辛さ」もきっちり描いており、母の誕生日を忘れていた自分にショックを受けたり、こちらもこちらで苦労はまだありそうです。

あと弁護士をしているブライアンですが、最初は典型的なゲイ・フレンドのポジションなのかと思いましたけど、しっかり人生面も描かれていて、チャーリーへのプロポーズから挙式までの一連のエピソードも含まれていました。ゲイ・フレンドのステレオタイプを吹き飛ばす役柄で、こういう出番が当たり前に描かれるのは嬉しいものです。

悲しみ方は人それぞれ。人生の迷路を通り抜けた一同は最後は楽しく踊って、めでたしめでたし。

…と思ったら、あのグレースが冗談ではなく本当にDV夫を崖から突き落とすシーンでシーズン1は終了。ジミーに新しい精神的ショックが増えてしまうのか…。またエア・ピアノに戻ってしまうよ…。

ほんと、悩みってどうしてこうも次から次へと湧いてくるのでしょうね。

『シュリンキング 悩めるセラピスト』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 81% Audience 85%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Apple

以上、『シュリンキング 悩めるセラピスト』の感想でした。

Shrinking (2023) [Japanese Review] 『シュリンキング 悩めるセラピスト』考察・評価レビュー