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『サバイバルファミリー』感想(ネタバレ)…電気とブタに感謝しよう

サバイバルファミリー

電気とブタに感謝しよう…映画『サバイバルファミリー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:サバイバルファミリー
製作国:日本(2017年)
日本公開日:2017年2月11日
監督:矢口史靖
サバイバルファミリー

さばいばるふぁみりー
サバイバルファミリー

『サバイバルファミリー』物語 簡単紹介

東京で暮らすごく普通の家族の鈴木家。ある日、電気を必要とするあらゆるものがなぜか使えなくなり、家の中は大騒ぎ。しかも、それはこの家だけでなく、東京全体に起きているようで、大混乱に陥ってしまっていた。交通機関や電話、ガス、水道まで完全にストップした生活に人々が困り果てる中、鈴木家の亭主関白な父・義之は、ここでは生きられないと判断し、家族を連れて東京を脱出することを決意するが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『サバイバルファミリー』の感想です。

『サバイバルファミリー』感想(ネタバレなし)

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世界から電気が消えたなら

「電気」が生活に欠かせないものであることは、災害大国である私たち日本人は重々承知なこと…と言いたいのですけど、どうなんでしょうか。どうしても実感しづらいし、忘れがちですよね。それくらい今の現代社会には電気を使った製品やそれに支えられたシステムが多すぎます。電気は使えるのが当たり前だと思っていませんか。コンセントにさせば電気なんていくらでも使えるものだと…。

日本の電力消費量は、戦後からほぼ一貫して増加。家電の普及もあって電力需要は伸び続けてきましたが、2011年に発生した東日本大震災以降、節電への取り組みが普及したせいか、それとも人口減少に転じて少子高齢化による世代構造の変化のせいなのか、伸びは鈍化傾向となっています。それでも電気ありきの生活なのは変わりありません。

そんな電気依存の日本にお灸をすえる…ほど“上から目線”感は全然ないですが、電気の大切さはよくわかる映画が本作『サバイバルファミリー』です。

本作は、突如、電気を利用する機器が使えなくなってしまった!というシチュエーションで家族がどう生きるかを描くサバイバル・ドラマ。この設定、補足すると、別に停電したわけではなく、電気を使うモノが一切動かなくなったという実際はあり得ないSF的状況となっています。つまり、テレビや冷蔵庫のような家電製品も使えないし、電池も機能しません。じゃあ、自然現象としての電気はどうなっているんだと、いろいろツッコミ放題ですが、そこは気にしないでください。とりあえず日常的な人間生活を取り巻く電気が消えた…という架空の異常事態が起きるものだと思ってもらえればいいです。

しかし、SF的考証はほぼないかわりに、このシチュエーションで生き抜くためのサバイバル技術や知識はリアルに描かれているので、そこを楽しむ作品です。

普段たくさん映画を見ているとやたらと生命力の強い奴らばかりを目にし過ぎて感覚がマヒしてきますが、本作を観ると人間の当たり前の弱さを再確認できます。人間というのは自分は強い存在だと勘違いしていますが、だいたいが電気のおかげです。

どちらかといえば家族みんなで観て、観終わったあとに防災について議論するのが良いと思います。いつ、あなたもサバイバルファミリーになるのかわからないですから…。本作を観終わった後は急いで家庭の防災備品を確認し、足りないものを用意しておきましょう。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『サバイバルファミリー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):日本から電気が消える

夜の日本の都市部。高層ビル街はネオンがギラギラと輝き、大量に走る車のライトが地面を照らし、夜遅くまで活動する人々の生活を電気が支えています。

ごく普通の会社員である鈴木義之も夜もオフィスで働き、どんどん仕事をこなしていました。その妻の鈴木光恵は専業主婦で、今は家で祖父と電話。「たまにはこっちに顔をみせて」という祖父の声に「来年、お母さんの墓参りにでも…」と故郷の訛り全開で語りかけます。

そんな2人の娘で高校生の鈴木結衣は風呂上り早々、祖父から送られてきたまな板の上の丸ごとの魚1匹に「キモっ!」と嫌悪感を示し、「そんなの食べないからね」と言い放ちます。光恵も魚をさばくのに慣れておらず、これをどう包丁で切っていけばいいのか困惑。義之に頼もうとしますが、「俺はいいよ」とテレビを楽しんでいるだけでした。「明日でいいか」とラップで包んで冷蔵庫にしまいます。一緒に送られてきた無農薬のキャベツについていた虫にもおっかなびっくりの光恵でした。

そこに大学2年生の鈴木賢司が自由気ままに帰ってきます。音楽をヘッドホンで大容量で聞いており、部屋で講義の資料をパソコンにファイルで整理。そこに学友で片思い中の中村里美から電話があり、少し慌てながら平気そうに答えつつ、メールで資料を送ってあげます。

結衣はスマホばかりをしており、「面倒くさ!」と言いながらも手放せません。光恵にとってはこの携帯代も悩みの種ですが、義之は相手にせず、疲れているからと寝てしまいます。

翌朝。静かです。義之は目覚まし時計が動いていないことに気づき、急いで居間に。光恵いわく停電しているようで何時かもわからないそうです。結衣もスマホが動かずショック。電池式の懐中電灯もなぜかつかないので真っ暗なまま。

それでも義之はいつもどおりにスーツに着替え、子どもたちも学校に向かうべく、アパートを出ます。エレベーターは止まっているので階段で降りるしかないです。10階なのでひと苦労。

しかし、騒動は想像以上でした。駅では全線運行休止だと駅員が説明に追われていました。復旧の目途は無し。ホームは電車を待っている人で埋め尽くされており、バスも来る予定なし。原因は不明とのことです。

自転車で大学に向かっていた賢司は自分のスマホが起動しないことに気づきます。音楽も聴けません。ヘッドホンをとって周囲の音を初めて実感。やけに静かなのです。どうやら車はバッテリーが動かないせいなのか、どれもエンジンはかからないそうです。

光恵は近所の主婦と情報交換。電気がつくところは全くないらしく、みんな蝋燭を買いに行きます。店では商品不足状態で、食品もろくに手に入りません。

幸いにも2つ隣の駅の位置に会社があるので、なんとか職場に歩いてたどりついた義之ですが、ビルの自動ドアはロックされていて開閉しません。こうなったらガラスを割るしかないとのことで、思いっきり割ります。社内は当然暗闇に包まれており、パソコンも何もかも起動せず。これでは仕事できません。

結衣の高校は先生の何人かが来れないので自習になり、結衣たちは浮かれます。

この状態になってもまだ事態の深刻さを認識していない日本人たち。まさかこの世界全てから電気が一切消えたとは考えてもおらず…。

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カツラはいらない

『サバイバルファミリー』の監督は、2001年に『ウォーターボーイズ』を大ヒットさせ、コメディ邦画界の代表的名監督となった“矢口史靖”。しかし、本作は“矢口史靖”監督のこれまでのフィルモグラフィのなかではかなり特殊というか一味違う作品になってました。

まず、“矢口史靖”監督といえばまさにドタバタコメディという言葉がふさわしい現代喜劇が特徴ですが、本作は過去作と比べてかなりシリアス。一応、被災生活を描くからなのか、終始ドキュメンタリーチックのようなリアルな緊張感が垣間見えるドラマになっていました。真っ向から死を匂わせる描写も随所にあって“矢口史靖”監督作品ではなかなかない神妙な気分になります。

今回は、“矢口史靖”監督らしい「不謹慎」ギャグは封印なのかな…と、途中まで思ってました。過去作だと、『ハッピーフライト』では航空機事故、『ロボジー』では高齢者虐待と科学不正、『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』ではド下ネタと、「それはどうなの…」となるような不謹慎ギャグを遠慮なくぶち込んできてくるのが最近の定番でしたが、それは本作ではないのかと。

でも、ちゃんとありましたね。カツラが。

あの川で溺れて残ったのはカツラ…というシーンは、もう「あれっ、悲しいシーンだよね…」と困惑と可笑しさが顔を見合わせますよ。最後に蒸気機関車の窓から、父・鈴木義之の古臭いプライドを象徴しているカツラを投げ捨てるシーンは、やっぱり“矢口史靖”監督作品なんだなと謎の安心感がありました。

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本当に川で死にかけた役者陣

シリアス度の強さ以外にも、もうひとつこれまでの“矢口史靖”監督作品と違う点として挙げられるのはスケールの大きさです。

そもそもこういうSF的設定のある作品はたいていシチュエーション・スリラーとなってスケールの狭い範囲で物語が展開するものです。私も本作『サバイバルファミリー』もそういうものなんだろうと思ってました。

ところが本作は予想以上にスケールが大きく、“矢口史靖”監督作品史上最大クラスでした。

しかも、ちゃんとCGを使わず、それを再現しているのですから、お見事です。あの大勢が高速をゾロゾロ歩く場面とか、めったにない日本の映像が見れて新鮮です。トンネルの場面はシチュエーション・スリラー的な感じにもなって、飽きない映像の連続で楽しかったですね。

それにしても主人公家族を演じた主演の4人はお疲れ様でした。ブタを捕まえるために疾走したり、冷たい川に飛び込んだり(メイキング映像が本当に辛そう)、斜面を転げ落ちたり、とにかく体を張ってました。でも、あれかな、もっと野生生物を採って食べるシーンが欲しかったかな…虫とかヘビとか(役者をさらに苦境に追い込む観客のクズ)。『レヴェナント 蘇えりし者』のレオナルド・ディカプリオはこれよりさらに酷いサバイバル演技を実行していますけど、日本のレオナルド・ディカプリオは“小日向文世”だったんだなぁ…。

苦言を言うなら、ブタの解体はもっとしっかり映すべきだったと思います。解体中の“それ”を映さず、子どもたちが顔をしかめる映像だけが映るのは、フェアじゃないというか、“それ”に対する印象操作に見えてしまう気もして

ともあれ電気を失った現代の日本社会をささやかな風刺とともに見事に映像化しており、これだけでもじゅうぶん褒められる映画でしょう。

ちなみに電気が発見されたのはいつなのか、気になって調べたら、なんと紀元前にまで遡るのですね。なんでも電気を意味する英語「electricity」 はギリシア語の「琥珀」を意味する言葉に由来し、古代ギリシア人が琥珀をこする事で静電気が発生する事象を発見したからだとか。この洞察力…これこそサバイバルに必要なものなのかもしれない…。

いや、日本人の場合は災害だろうがミサイルだろうが何があっても通勤・通学・家事を止めない、その真面目気質を最初になんとかしないとダメかな…。

『サバイバルファミリー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10

(C)2017 フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

以上、『サバイバルファミリー』の感想でした。

『サバイバルファミリー』考察・評価レビュー