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『スポットライト 世紀のスクープ』感想(ネタバレ)…他人事じゃない

スポットライト 世紀のスクープ

他人事じゃない…映画『スポットライト 世紀のスクープ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Spotlight
製作国:アメリカ(2015年)
日本公開日:2016年4月15日
監督:トム・マッカーシー

スポットライト 世紀のスクープ

すぽっとらいと せいきのすくーぷ
スポットライト 世紀のスクープ

『スポットライト 世紀のスクープ』物語 簡単紹介

アメリカのマサチューセッツ州ボストンの地方新聞「ボストン・グローブ」。その決して目立つ方ではない新聞の「SPOTLIGHT」という名の一面を担当する記者たちは、新しい編集局長の提案がきっかけで、神父による性的虐待事件を次の記事にすることになる。情報は乏しく、詳細も不明。取材を重ねていくにつれ、事件の裏に隠れていた想像以上の実態が明らかになっていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『スポットライト 世紀のスクープ』の感想です。

『スポットライト 世紀のスクープ』感想(ネタバレなし)

報道のあるべき姿がこの映画にはある

突然ですが、あなたは最近のマスメディアの報道姿勢に不満はありませんか? SNSなどでこぞって個人を批判し追い詰めるインターネットの流れに疑問を感じたりしていませんか?

実は本作『スポットライト 世紀のスクープ』はそうした人にこそ見てほしい一作です。誰でも情報を世界に発信できる時代だからこそ、この映画で描かれるマスメディアの在り方を見て我が身を振り返る気持ちになってほしいのです。

本作は第88回アカデミー賞で『レヴェナント 蘇えりし者』や『ブリッジ・オブ・スパイ』といった強敵を押さえて作品賞と脚本賞を受賞しました。また、受賞は逃しましたが、監督賞、助演男優賞(マーク・ラファロ)、助演女優賞(レイチェル・マクアダムス)、編集賞にもノミネートされました。

そういう意味では映画ファンには見逃せない一作ですが、それ以上に現代人なら誰でも一見の価値があります。

『スポットライト 世紀のスクープ』は実話をベースにした物語です。なので結末は周知の事実であり、神父による性的虐待が報道されておしまいなので、ネタバレもなにもないです。しかし、本作の邦題には「世紀のスクープ」とありますが、そこから連想されるイメージと実際の映画の雰囲気は全く違います。詳細は後半で書いていますが、終始じっくりと地味に進行します。

物語を堪能するうえで事前に知っておくべきことは何もないですが、こういう社会派な映画に慣れていない人は背景や登場人物を把握して見ると、理解がよりスムーズでしょう。

『スポットライト 世紀のスクープ』の中心となるメディアはアメリカの新聞「ボストン・グローブ」。ボストン・グローブは、マサチューセッツ州ボストンで最大の部数を発行する日刊新聞です。ボストンにはもう一つの日刊新聞であるボストン・ヘラルドが存在します(作中にもボストン・ヘラルドの記者が登場します)。

さらにそのボストン・グローブの新聞一面に「SPOTLIGHT」と呼ばれる欄があり、その「SPOTLIGHT」を担当する4人と上司2人の小さなチームがこの物語の主役となります。

メインの登場人物を簡単にですが紹介しましょう。

マーティ・バロン
新しく赴任してきた編集局長で、神父による性的虐待を記事にすることを提案した人物。口数は少ないが、報道には誠実。演じるのはリーブ・シュレイバー。
ウォルター・“ロビー”・ロビンソン
「SPOTLIGHT」チームのリーダー的ポジションで、メンバーをまとめあげます。演じるのはマイケル・キートン。
マイク・レゼンデス
「SPOTLIGHT」チームのひとり。報道に対する姿勢がもっとも積極的で、若さがあります。彼自身は宗教にあまり関心がないように見えますが…。演じるのはマーク・ラファロ。
サーシャ・ファイファー
「SPOTLIGHT」チームの紅一点。彼女自身はボストン出身ではないですが、祖母がボストン出身のカトリック。取材しつつ祖母を気にかけますが…。演じるのはレイチェル・マクアダムス。
マット・キャロル
「SPOTLIGHT」チームのひとり。落ち着いた雰囲気の男性ですが、ある事実を知って取り乱すことに。演じるのはブライアン・ダーシー・ジェームズ。
ベン・ブラッドリー・Jr.
古参の部長。神父による性的虐待事件を取材することに当初は難色を示しますが…。演じるのはジョン・スラッテリー。

『スポットライト 世紀のスクープ』の99%はこのチームが織りなす人間ドラマです。無駄のない洗練された脚本と、役者陣の素晴らしい演技が合わさり、とにかく作りが誠実です。また、ハワード・ショアの音楽もすごく良い…物語を引き立てます。

わざと難解にみせるような説教くさい作りにはなっていません。「神父とか教会とか興味ない、社会派映画は固くるしそう」と敬遠するのは損です。

なお、性的虐待事件を扱っていますが、直接的な性暴力の描写は映画内にはありません。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『スポットライト 世紀のスクープ』感想(ネタバレあり)

あらすじ(前半):裁判にはならない

1976年、マサチューセッツ州のボストン。ボストン警察第11分署。警官のひとりは神父による“とある子どもが受けたと言う被害”を訴えてやってきた家族の話を聞いたばかり。それを同僚に伝えます。

「神父が“いたずら”を?」

地方検事補がやってきてメディアを追い返していることを警官は報告。今いるのは小さな地方紙だけです。「裁判になればどうせバレるのに」と同僚は言いますが、先輩警官は「裁判にはならないさ」と口にします。

こうしてゲーガン神父は帰されます。司教は子どもたちに優しく語りかけていました。「教会は昔からずっと地域を支えてきた。私が責任を持って神父を転属させるよ。こんなことは二度と繰り返さない」

2001年7月。ボストン・グローブ新聞社は重鎮のスチュアートの退職を社員に報告している真っ最中で、和やかな雰囲気でした。次に新しい局長が来る予定です。優秀な社員はみんな大手に引き抜かれてしまいます。

「SPOTLIGHT(スポットライト)」欄の編集室ではマイクがネタ探しにイラついていました。この部署のリーダーはロビーです。マイクは「スポットライト」抜きのネタを求めていますが、そう簡単に見つかるものでもなく…。

ロビーは新しいマーティ・バロン局長と食事をします。ボストンを知らないバロンはロビーに地域について聞きます。グローブ社はタイムズ傘下ですが、地方紙のようなものとしてやっているようです。ロビーはスポットライト欄について説明。統括は部長のベン。今のネタは建築基準の改ざん問題。次のネタも探し中。バロンは経費削減を迫られる中、もっと魅力的な紙にしないといけないと言います。リストラを考えているのか、バロンの心の内は読めません。

編集会議。全員の自己紹介を聞いたバロンは「アイリーンのコラムを読んだかな」と穏やかに話題を口にします。それはゲーガン事件と呼ばれているもので、ゲーガン神父が6つの教区で30年間子どもたちを性的に虐待してきたという案件。被害者側の弁護士ガラベディアンによればロウ枢機卿は15年前からこのことを把握していました。しかし、他の会議参加者はあの弁護士は変人で、教会も否定しているし、続報を追う価値は無いとみなしていました。「もっと掘り下げるべきだ。少なくとも証拠を手に入れたい」とバロン。

判事は敬虔なカトリックで証拠開示が認められる可能性は低いです。ボストンはカトリックの影響が強い地域なのでした。ベンとロビーはバロンに呼び出され、この事件を優先するようにお願いされます。

こうしてスポットライトのチームはゲーガン事件を追うことになります。マイクは張り切ります。いつも以上に慎重に、極秘にやるようにロビーは指示を出します。

その事件の闇が解き明かされる時が来ました。

日本も他人事ではない

ボストン・グローブの読者の半数以上がカトリックなくらい、神父・教会はボストンの街と密接につながっています。仕事から家に帰れば家族と神父・教会の話題を話し、礼拝にも行き、教会の前の公園で子どもが遊ぶ…。そうした何気ない日常をこの映画では見せつつ、その何気ない近しい存在の知られざる実態が暴かれていく。その過程は爽快とはなく、ただただ辛いです。

今も生存している被害者は「サバイバーズ」と呼ばれており、とくにこういうケースの場合、宗教を失うことは相当の苦しみです(信仰を奪われ、酒やクスリに走り、自殺する人が多い)。単純に神父や教会と縁を切ればいいという話ではありません。教会に関わったと思われる人は誰もが「話せない」と言い、街全体がまるで隠蔽に加担している状態。善悪で一刀両断にできないからこその報道の苦悩が、本作の主人公たちの最大の敵です。「SPOTLIGHT」の記者たち全員が苦しみながら取材をしていきます。

こうした神父や教会のスキャンダルの深刻さは、宗教に関心のない日本人にはいまいち実感しづらい話題なのも確かです。

しかし、視点を変えれば日本を含めたどこの国にも、誰でもありうる話ではないでしょうか。なにも性的虐待に限った話ではないでしょう。自分にとってもっとも身近な存在が実は犯罪に手を染めていたとしたら…。例えば、親友、家族、恋人、勤務する会社、学校などなど。闇を知ってしまったとき、あなたならどうしますか? 批判するのか、止めようとするのか、見なかったことにするのか、逃げるのか。考えだすと恐ろしいです。

システムに光をあてろ

『スポットライト 世紀のスクープ』の邦題「世紀のスクープ」というわりには、大スクープを求めて奮闘するという感じではありません。手に汗握るようなスリルやサスペンスはないし、犯罪を暴くカタルシスも痛快なラストもなし。この映画では、性的虐待をした神父やそれを隠蔽した関係者を痛い目に合わせる、ざまあみろ的なスカッとする展開は皆無です。そういう要素を入れようと思えばいくらでも入れられたはずなのにです。ただ淡々と取材と検証を積み重ねながら、記事をつくっていくだけ。

そう描いた理由は映画で語られています。性的虐待を行った1人目の神父の事件の裏がとれ、すぐに記事を出そうと焦るマイクに対して、バロンは言います。「神父個人ではなくシステムを狙いなさい」。報道は個人への復讐や糾弾のためにあるものではなく、真実を明らかにするためにある…これはこの映画の報道というものに対する非常に一貫した考えです。

最近の情報化社会におけるマスメディアやインターネットは、個人を批判し、扱き下ろすことで盛り上がる傾向が目立ちます。でもそれでは意味がないんだとこの映画は伝えているように感じました。

「スポットライト」チームが冷静に情報源(ソース)を収集して追究した結果、最終的にある事実が明らかになります。

実は教会側を弁護していたマクリーシュ弁護士は神父による性的虐待に関する情報をボストン・グローブにかつてリークしており、しかも「スポットライト」チームのリーダーであるロビーは知っていたのです。しかし、ロビーは忘れていました。気にも留めていなかった。結局は自分たちもまた被害者の声を軽視した存在だった…この残酷な真実こそ、事件の無関心による黙殺の怖さを示していると同時に、報道の価値も突きつけています。

映画ラストの鳴りやまない被害者からの電話は、もしもっと以前にしっかりとこの神父による性的虐待をマスメディアが追究していれば被害に遭うことなんてなかった人たちともいえます。電話の音は、黙殺されていた「サバイバーズ」の叫びであり、痛快ではなくやるせないラストでした

『スポットライト 世紀のスクープ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 93%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

関連作品紹介

どちらも性犯罪を扱った作品。重苦しいテーマですが、見る価値はあると断言できます。

・『ネバーランドにさよならを』

・『アンビリーバブル たった1つの真実』

・『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

作品ポスター・画像 Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

以上、『スポットライト 世紀のスクープ』の感想でした。

Spotlight (2015) [Japanese Review] 『スポットライト 世紀のスクープ』考察・評価レビュー