感想は2100作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『SPY スパイ』感想(ネタバレ)…男も女も股間を蹴られたら痛い

SPY スパイ

男も女も股間を蹴られたら痛い…映画『SPY スパイ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Spy
製作国:アメリカ(2015年)
日本では劇場未公開:2016年にDVDスルー
監督:ポール・フェイグ
性描写

SPY スパイ

すぱい
SPY スパイ

『SPY スパイ』物語 簡単紹介

CIAでエージェントをサポートする分析官として日々真面目に働くスーザン。ある日、危険な核爆弾の売買を阻止する任務を遂行中に、パートナーのファインが冷酷な武器商人・レイナによって撃たれる。それだけでも失態であったが、もっと事態は緊迫することになった。レイナに全てのエージェントの顔が知られてしまったのである。打つ手なしと思われた中、スーザンは自ら志願して現場のエージェントになることを決意する。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『SPY スパイ』の感想です。

『SPY スパイ』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

おばさんでもスパイになれる

スパイアクション映画『007』シリーズの最新作で主人公ジェームズ・ボンドを演じてきたダニエル・クレイグが次回作には降りるとの情報が流れたとき、次は誰がジェームズ・ボンドになるのか?と話題になりました。きっとあの人だ、いやこの人がいい、それよりも彼はどうだろう…期待と憶測が入り混じって、さまざまな俳優の名前が飛び出す中、女性のジェームズ・ボンドを求める声も。

でも、本作『SPY スパイ』がやってくれちゃいました。

女性大活躍なスパイ映画の誕生です。

ただ、女性といっても、本作の主人公スーザン・クーパーは内勤のおばさん。スパイとして活動するにはいささか不安ですが、心配ご無用。バッサバッサと敵を倒し、スマート(?)に任務をこなします。

世の中には職業において「女性差別」というのはいまだに根強く残っています。企業のビルに入ってまず目に入る受付に立っているのは誰ですか? 女性です。会議に出席している人たちにお茶をくんでまわっているのは誰ですか? 女性です。電話や記録など雑多な事務作業に追われている秘書は誰ですか? 女性です。スーパーでレジに並ぶ客の列に対応している人は誰ですか? 女性です。テレビ番組のMCの男性の横に立つサイドの司会サポートは誰ですか? 女性です。

こういう指摘をすると「世の中には女性のほうがふさわしい仕事と、女性には不向きな仕事があるんだよ」という反論がお決まりのように帰ってきます。しかし、本作はそれに対して、しっかりアンサーを用意しています。世間の偏見を吹き飛ばす、痛快なメッセージです。

本作の見どころは女性だけではありません。男性が男性らしい仕事で活躍するも空回りして全然上手くいっていない感じを、あの“ジェイソン・ステイサム”が熱演。かつてないほどバカキャラを演じています。

こういうと説教臭いと思うかもしれませんが、映画自体は全くそんな堅苦しい要素のない娯楽作なので安心してください。真面目なテーマをここまでギャグ満載で語るからこそ、本来相手にしてくれない人にも伝わるかもしれないという視点。確かにそのとおりだなと思いますし、ぜひ偏見や差別を振りまいている人を見かけたら、さりげなくこの映画を観させたいところですね。

おばさんが主人公ってことはコメディでしょう? どうせ映像はB級映画みたいなチープなやつだろう」なんて思っているなら、大間違いです。キレのあるアクションあり、派手な大激戦あり、カーチェイスあり、大物ゲストあり、縦横無尽に世界を舞台に展開します。さらに『007』シリーズ風のオープニングクレジットもあってサービス満点。爆笑と爽快感を味わえる楽しい映画です。まるで映画自体が偏見を跳ね飛ばすかのようなパワーに満ちています。

監督は2016年公開のリブート版『ゴーストバスターズ』の監督でもある“ポール・フェイグ”。冴えない女性の大活躍を描くなら、この人の右に出るものはいません。

残念なことに本作はDVDスルー。2016年リブート版『ゴーストバスターズ』を見るなら、ぜひ本作も合わせて見ておくと良いです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『SPY スパイ』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(前半):私もスパイになれますか?

ブルガリアのヴァルナ。エージェントのブラッドリー・ファインはタキシード姿でパーティに潜入。地下に降りていき、銃を構えてターゲットに近づきます。狙いはティホミル・ボヤノフです。

ボヤノフだけが知るスーツケース型核爆弾の隠し場所を聞き出すはずでしたが、ファインはくしゃみの拍子にボヤノフの脳天を撃ち、殺してしまいました。これでは手がかりゼロ。

「嘘でしょ?」

そう無線で驚愕するのはCIAの内勤分析官であるスーザン・クーパーです。ワシントンD.C.エリアにあるCIAオフィスからスーザンは「花粉症の薬は飲んだ?」とツッコミをいれますが、ファインはうっかりミスが多いです。しかし、スーザンは「私の責任だ」と謝ります。

敵が迫ってきたのでスーザンは的確に位置を教え、支援します。その情報に基づき、ファインはクールに格闘をきめます。オフィスではコウモリ・パニックが起きていますが、それにも屈せずにスーザンは指示を出し続けます。そして桟橋にドローン空爆要請。危機を脱しました。

「戻ったらディナーをおごるよ。あとクリーニングと車を取っておいて」

ファインのそんな一方的なあれこれな要望に何でも「任せて」と答えてしまうスーザン。

スーザンはファインと高級レストランで食事。「君無しじゃ何もできないので特別なお礼をしたいと思う」…そう言って差し出したのは…カップケーキ風の変なネックレス。予想と違ったけれども気を取り直します。

スーザンは同僚のナンシー「40歳で独身の私の人生はダメダメね。教師をやめてCIAに入って人生が変わると思ったけど、スパイになれなかった」と愚痴り、控えめな女でいなければいけないのかと考え込みます。他の女性だとカレン・ウォーカーはエージェントとしてパーフェクトで輝いているのに…。

CIA本部ではボヤノフの娘レイナが爆弾を持っている可能性が浮上。チェチェン人テロリストのソルサ・ドゥディエフも近くにいるようです。

そこで任務が新たなに開始。ファインはレイナの家に接近します。妙に警戒がないので怪しむスーザンですが、ファインがレイナに射殺されてしまう瞬間がスーザンのモニターに映りました

仕事のパートナーが殉職してしまった…。スーザンは落ち込みます。

しかし、スーザンは手がかりを発見。何とかすぐに手を打つ必要がありますが、エージェントの顔は知られてしまいました。そこでスーザンが自分が現場に出ると申し出ます。エージェントのリック・フォードは「こんな事務のおばさんは無理だ」と呆れ顔で、辞めてやると出ていってしまいました。彼女の上司のエレイン・クロッカーは、資料によれば成績トップで訓練映像でもアグレッシブに戦闘していたスーザンの実力を知り、「なんで現場に出なかったの?」と聞きます。スーザンはファインの指導に従い、内勤を選んだのでした。

そして現場への出動が決まります。キャロル・ジェンキンズとして…。4人の子がいるお母さんで…。

スポンサーリンク

フェアにスパイしよう

主人公スーザン・クーパーはとにかく他者からの評価に恵まれていません。一番のパートナーであるエージェントのファインは仕事を評価してくれていますが、スーザンを女性とは見ていない。これが一番辛かったりしますよね。徹底して肯定してもらえない扱いでありながら、当の本人は大きな文句も言わずに、黙々と仕事をこなしていく。よく言えば真面目、悪く言えばいいように使われている。こういう女性は世の中にたくさんいますよね。コミカルに表現していますが、わかる人には切実なはずです。

そして、周囲の評価とは裏腹にスーザンは実は非常に優秀。

分析官として的確にサポートする能力があるのはもちろん、射撃や体術、バイク・車・飛行機・ヘリの操縦、外国語、とっさの判断力や危険察知力、コミュニケーション、度胸、どれをとってもバツグンの才を秘めていました。

ここで問題なのが、スーザン自身も自己評価が低いこと。この扱いが当然だと思っています。意外に優秀だということが判明し、上司になぜ隠していたのと聞かれても、スーザンはそれが普通だし、サポートのほうが向いていると思ったと控えめな言い分にとどまるばかり。

ジェンダー問題に詳しい専門家によれば、こういう傾向は女性によくみられるそうで、男性は昇進や自己推薦に積極的で、女性はその逆の特徴を示すことが統計的に示されています。つまり、本作で描かれていることは、多少オーバーな味付けがされていますが、科学的な根拠に基づく事実なのです。

そんな抑圧されてきた女性に「もし」能力に合った適切な仕事を与えたら? それこそがスーザンがエージェントになってやりたい放題しまくる本作の展開。痛快な活躍で、不可能なミッションもガンガンこなして、ありえない壁をぶち壊します。ガラスの天井? そんなもの知らないよ!と言わんばかり。

本作は先にも言ったように、コメディではありますが、結構本格的なスパイ映画らしいシーンもやってくれるので、そこも映画ファン的には嬉しいですし(とくにナルヒス・ファクフリ演じる“緑女”・リアとの対決シーンは迫力ありました)、それ以上にそれはこの作品では大切なこと。なぜなら、ここで雑なシーンを見せてしまうと、「ほら、やっぱり女性でスパイ映画は面白くないよ」となってしまいますから。本作はその高いハードルにきっちり答えるという、非常に誠実な作り。ふざけているようで実は真面目。志を汚さない素晴らしい映画製作陣の働きでした。

この映画のいいところは、決して女性だけを過度に理想化して安易に持ち上げたわざとらしさがないという点だと思います。

確かにジェイソン・ステイサム演じるフォードはアホなんですけど、ローズ・バーン演じるレイナ・ボヤノフもわりとアホです。というか、この作品は登場人物全員がなにかしらマヌケな一面があります。

“ポール・フェイグ”監督作はたいていそうなのですが、登場人物をとことんダメそうに描くことが、ギャグとして機能するのはもちろん、人間を美化もせずありのままを表現することにもなるので、あまり嫌味に感じません。人間ってこんなものでしょという気楽な感覚がいいものです。

つまるところ、男だからとか女だからとか関係なしに「誰だって優秀な点もあれば、ヘマすることもあるでしょう?」という極めて真っ当な平等精神が込められています。これぞ真の男女平等。「女だからダメだ」でも「女を贔屓すればいい」でもない。皆の能力を認めようという素直なメッセージが心に響きました。

この映画を見た後は、優秀なはずなのに評価されない…そうした隅でくすぶる人が身近にもいないか気にしてみましょう。人材不足だなんだとぼやく前にすることがあるでしょう。そして、自分に自信がない人は、臆せず自身の能力や意見を表に出してみませんか? このおばさんの後なら、一歩を踏み出すのも難しくない気がしてきたでしょう。

『SPY スパイ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 79%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 © Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

以上、『SPY スパイ』の感想でした。

Spy (2015) [Japanese Review] 『SPY スパイ』考察・評価レビュー