卒業、進級、そして入学…映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年5月3日
監督:ジェームズ・ガン
動物虐待描写(ペット) 恋愛描写
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3
がーでぃあんずおぶぎゃらくしー ぼりゅーむすりー
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』あらすじ
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』感想(ネタバレなし)
やっぱりボリューム3だね
2023年のアメコミ映画界を象徴する人物は間違いなくこの人、“ジェームズ・ガン”ですね。
2014年にマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を監督し、最も期待されていない作品から最も盛り上がった作品へと評価を一変させた立役者。ヒーロー映画の方向性を変えたと言ってもいいでしょう。
続編の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』も順調に高評価を獲得していましたが、その矢先、思わぬ難所に直面します。
もともと“ジェームズ・ガン”は差別的な言動をする保守派や右翼層に対して毅然とした態度をとり、SNSでもよく目立っていたのですが、それによって目を付けられ、保守系メディアから「お前も過去に差別コメントをしているぞ」と昔のSNSをほじくられます。
これによって“ジェームズ・ガン”は責任をとるかたちでMCUから降板。しかし、“ジェームズ・ガン”嫌いだった保守・右翼層の思惑どおりにはいきませんでした。
なんと“ジェームズ・ガン”は今度はマーベルのライバルであるDCに拾われ、『ザ・スーサイド・スクワッド 極悪党、集結』とドラマ『ピースメイカー』を監督。保守・右翼層は必死にネガキャンしていましたが、その健闘も虚しく、“ジェームズ・ガン”はDCでも大成功をおさめ、そしてあっさりMCUに帰ってきて、本作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』に着手しだしました。なんだろう、ちょっとしたプチ留学みたいな感じだった…。
しかも、お次はDCのクリエイティブのトップを務めることになり、新たな「DCユニバース」を先導する大役を任せられます。“ジェームズ・ガン”嫌いで以前攻撃していた保守・右翼層の人たちも歯ぎしりしているでしょうね…攻撃したら相手がものすっごいキャリアアップしちゃったんだから…。
そんなこんなで“ジェームズ・ガン”は2023年はまだ先の見えない「DCユニバース」に関する質問を受けまくりつつ、このMCU最後の仕事である『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』を世に送り出すという、とても忙しい1年を過ごしているようです。
まあ、DCのことはDC映画の感想記事(『シャザム!神々の怒り』とか)でも書いているので、今回はこのシリーズ第3弾『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』のことに専念してください。
でもネタバレ無しで言えることはもうシンプルです。今回もヘンテコで、でもエモーショナル…そんな物語が待っています!
『エンドゲーム』があろうがなんだろうが、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のチームは変わらない。いつもの奴らがいつものノリで今作も賑やかです。今作はロケットが実質の主役なのですが、それは観てのお楽しみ。
だから他に言うことありません! いや、「VOLUME3」にするなら2作目も「VOLUME2」にしとけよ!とディズニー・ジャパンには言いたいけど…。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』を観る前のQ&A
A:宇宙のどこかでカッコつけてなんかしているチーム。リーダーはキザなピーター・クイル(スター・ロード)、アライグマっぽいロケット、筋肉バカなドラックス、「ボクはグルート」のグルート、心は読めるが少し奇抜なマンティス、冷酷ツンデレなネビュラ、そして『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ エンドゲーム』である事態が起きたガモーラ。こんな愉快な奴らです。
A:1作目の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』、2作目の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』、スピンオフの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル』は観ておくと“あいつら”と友達になれます。
オススメ度のチェック
ひとり | :たっぷり満喫 |
友人 | :MCUに誘って |
恋人 | :気軽なエンタメ |
キッズ | :動物愛溢れる |
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ロケットを救うために
地球出身のピーター・クイルをリーダーとする「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のチームは、サノスとの一大決戦の後、サノスに破壊し尽くされたノーウェアを復興しながら、仲間と寄り添い合って生活していました。
しかし、ピーター・クイルは心に大きな傷を抱えたまま。なぜなら、そのサノスとの対決にて最愛のガモーラを失い、別の時間軸から過去のガモーラがこの世界にやってくるも、そのガモーラは全くピーター・クイルと出会った経験がなく、愛などまるで初めから無かったことになってしまったからでした。
ノーウェアでピーター・クイルは意気消沈の日々を送り、ガモーラの義妹であるネビュラに介抱されたりするも、元気になる兆しはありません。ノーウェアの復興の指揮は、このネビュラ、そしてピーター・クイルと実は兄妹関係にあったマンティスによって行われています。怪力のドラックス、樹木型のヒューマノイドのグルートも積極的に手伝ってくれています。
喋れて念力も使える犬のコスモも加わっていますが、ピーター・クイルの師であるヨンドゥからヤカの矢を引き継いだクラグリンは、このコスモを「バカな犬」呼ばわりして喧嘩しています。
一方、ピーター・クイルと腐れ縁のロケットも誰にも言っていませんが、内心では葛藤を抱えていました。それは自身の過去のこと。それは「89P13」として辛い記憶です。
ある日、平穏だったノーウェアに突如閃光と共に出現した正体不明の存在がひとり。それはロケットを狙っているようで、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の面々は戦闘を余儀なくされますが、その敵はとてつもなく強く、歯が立ちません。なんとかサイボーグ化されたネビュラの不意の一撃で倒すも、敵は逃げ帰るだけでした。
その最中、ロケットは瀕死の重傷を負ってしまい、救命機器で助けようとすると、なぜかロケットは苦しみだします。どうやらロケットは過去の秘密の実験のせいで身体にロックがかかっており、パスコードがないと普通に治療はできないようです。猶予は48時間。
ロケットを救うには、ロケットの過去を辿らないといけない。そう考えたピーター・クイルはこの技術の生まれた場所とされるオルゴスフィアへ向かいます。
そこは有機物質で構築された生命体の施設であり、宇宙に浮かんでいるものの、セキュリティは厳重。そこでネビュラは密かに連絡を取り合っていたガモーラの力を借りることにします。ガモーラは今はラヴェジャーズの一員となっており、唐突な再会にピーター・クイルは困惑しますが、ガモーラには赤の他人です。
クラグリンとコスモをノーウェアに残し、ガモーラを加えて、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」はこの潜入を開始します。
大切な仲間をこれ以上失わないために…。
社会進化論がヴィラン
ここから『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』のネタバレありの感想本文です。
3部作の集大成となる『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』は冒頭からこれまでの1作目と2作目とは明らかに雰囲気が異なる出だしとなっています。いつもなら明るい音楽でノリノリに踊りまくっているのですが違います。
まず映るのはロケットの顔面。それも非常に哀愁の漂う深みのある表情。CG動物キャラクターをここまで複雑な感情をともなって描く作品も珍しいですが、そのロケットがいつもはピーターが持っていた音楽プレーヤーで音楽を流して切なく聴き入っている。本作の実質的な主人公はロケットであり、それを表明するかのようなオープニングです。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズは音楽が重要な作品ですが、単に楽しい音楽を背景で流しているだけでなく、その音楽を物語に織り込んでいるという点で、他とは一線を画すものがありますね。このシリーズにおける音楽は「表現」であり、「感情」であり、「ケア」でもある。すごく音楽を大事にしています。
で、そのロケットの悲惨な過去が明らかになるのですが、この過去パートは本当に残酷無慈悲なキツいシーンです。ライラ、ティーフ、フロアとの空への夢は果たせず…。
本作のヴィランであるハイ・エボリューショナリーの思想は、社会進化論(社会ダーウィン主義)と呼ばれるものと同一で、2作目のヴィランであるエゴも優生思想的でしたが、今回もそれをもっと醜悪に蔓延させる存在として立ちはだかります。
話それるけど、ハイ・エボリューショナリーがアイーシャと対峙する場面で、ちゃんとアイーシャを演じる“エリザベス・デビッキ”の身長の高さを活かしたギャグシーン(わざわざ踏み台を用意してハイ・エボリューショナリーがアイーシャを見下ろすようにしてあげる)があって、そこはちょっと笑いました。
そしてラストの“高等な”子どもだけでなく、動物も逃がしてあげるべきだ…という展開は、非常に優生思想に対する強い反抗姿勢です。“ジェームズ・ガン”監督はドラマ『ピースメイカー』もそうでしたが、とても動物好きで、今作は完全に動物愛が全面にでている作品でしたね。宇宙開発の犠牲者である犬のコスモの扱いもそうですし、以前は倒される存在であった巨大触手モンスター「アビリスク」もマンティスの力で心を通わせ合っていたし、随所にその要素が散りばめられています。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』は最近の『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』に続いて、アニマルウェルフェア&アニマルライツを扱った大作映画となりました。
「俺はロケット・ラクーンだ」と自身の誇りを取り戻してハイ・エボリューショナリーに牙をむいたロケットは、文字どおり「アライグマだ」と自分で認めることで「それのどこか恥ずかしいことなのか」という認識にいたり、自らの内面に蔓延る優生思想をも克服する。
動物を主体にここまで清々しく自立を描く作品もなかなかないですね。
偶然なんでしょうけど、下等とされる生き物の知能を誇示して大団円を演出した『アントマン&ワスプ クアントマニア』に対して、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』は知能に限らずどんな生き物も大事だという結末で、なんだか対照的です。
さっそく気になる新顔
ロケットの主役として堂々たる人生の突破点を描ききった『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』ですが、では本来の主人公であったピーター・クイルはどうなのか。
クイルの人生の物語はほぼ2作目で終結しており、サノスとの戦いは要するに恋人の父との全面対決でした。正直、これ以上の敵も用意しづらいでしょう。
だからなのか今作でのクイルのテーマは「鬱病のケア」になっており(こんなハイテクノロジーの世界観でも鬱病は治せない。まあ、しょうがないよね)、同じく男女絡みであった『ソー ラブ&サンダー』の宇宙規模ラブコメ感と比べると、この『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』はもっとこじんまりとした内省的な“男らしさ”の話になっています。
新たなガモーラとの関係も、ひと昔前だったらまた恋人同士になってハッピーエンドとかやりそうなところを、しっかり恋愛というかたちではない、自身の納得としてゴールを設定しており、クイルのあの地球の祖父と過ごすというラストも良かったんじゃないかな、と。最低な父に苦しんでいたガモーラも、男との恋愛ではない自己実現として、ラヴェジャーズと楽しそうに笑い合うエンディングの姿があって幸せでした。
最後はノーウェアでみんなで踊るいつもの賑やかさ。これぞこのシリーズ。
この「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のチームはこれで解散ですが、クレジットシーンでは早くも新生「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の面々が描かれています。リーダーとなったロケット、やたらと巨大化しているグルート、頼もしくなったクラグリン、コスモ、あと毛むくじゃらのブラープもいる…。
新顔として参加している“ウィル・ポールター”演じるアダム・ウォーロックも今後に期待ですね。このMCUのアダム・ウォーロックは見事に“ジェームズ・ガン”流「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」仕様になっていて、なんだか「アホなスーパーマン」って感じで、観ていて飽きません。
そしてもうひとり加わっているのは、ハイ・エボリューショナリーに造られた“高等な子ども”のひとり。あの白髪の少女は、コミックとはだいぶ違いますが、ファイラ=ヴェル(Phyla-Vell)だそうです。あれだけ幼い子の姿で参戦するのはびっくりですが、最近のMCUの潮流である次世代枠ってことなのかな。ちなみにコミックのファイラ=ヴェルはレズビアンのキャラクターで、クィアのレプリゼンテーションとしてMCUでも期待に応えてほしいところ。
卒業、進級、入学を一本で終えて、新生「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」もいつか本格始動するのを心待ちにしていますよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 81% Audience 95%
IMDb
8.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品の感想記事です。
・『アントマン&ワスプ クアントマニア』
・『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』
・『ソー ラブ&サンダー』
作品ポスター・画像 (C)2023 Marvel ガーディアンズオブギャラクシー3
以上、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』の感想でした。
Guardians of the Galaxy Vol. 3 (2023) [Japanese Review] 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3』考察・評価レビュー
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