シリーズ第4弾へ!…映画『ソー ラブ&サンダー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年7月8日
監督:タイカ・ワイティティ
恋愛描写
ソー ラブ&サンダー
そー らぶあんどさんだー
『ソー ラブ&サンダー』あらすじ
『ソー ラブ&サンダー』感想(ネタバレなし)
ソー! ラブ! サンダー!
『アベンジャーズ エンドゲーム』の熱狂冷めあらぬ2019年7月、サンディエゴ・コミコンで“ケヴィン・ファイギ”はマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のフェーズ4にあたる今後のスケジュールを大々的に発表しました。
いくつもタイトルが発表される中、ひときわそのバカっぽいタイトルがデカデカと輝き、注目を集めた作品がありました。
そのタイトルは「Thor: Love and Thunder」。
この小学生が知っている英語を並べただけのようなタイトルの映画は、2011年から始まった「マイティ・ソー」シリーズの第4弾となります。
思えばこの「マイティ・ソー」シリーズ、最初はそんなに絶好調というわけではありませんでした。アイアンマンやキャプテン・アメリカと比べるとイマイチな作品の盛り上がりで、2作目の『マイティ・ソー ダーク・ワールド』(2013年)は批評家評価もそれほど芳しくなく…。多くのヒーローが集結した『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』(2016年)でもソーは不参加だったし…。
しかし、どうですか。3作目の『マイティ・ソー バトルロイヤル』で状況を激変させる大当たりを巻き起こしました。
それもこれも監督の“タイカ・ワイティティ”のおかげ。「マイティ・ソー」シリーズに必要なのはコイツだったのか…。
でもまさか「マイティ・ソー」シリーズの第4弾が“タイカ・ワイティティ”監督のもとで続行するとは思いませんでしたよ。別に『アベンジャーズ エンドゲーム』でソーの物語が終わってもよさそうだったのに…。パーティーはまだ続くのかよ…。
しかも、今回は“ナタリー・ポートマン”が筋肉マシマシでカムバックしてくれるし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の面々も出てくるし、 “クリスチャン・ベール”と“ラッセル・クロウ”も新規参加するし…。これはパーティーがここから本番だった…ということなのか…。
その最新作の邦題は『ソー ラブ&サンダー』。
みんな言ってるけど、すごいバカっぽい! こんなダサカッコいい邦題が許されるの、「ワイルドスピード」シリーズだけかと思ったよ。まあ、実際の中身もバカなのでいいんですけど…。
それについに「マイティ」がとれました。思えば1作目の映画が原題が「Thor」だったのに邦題が『マイティ・ソー』になったのは、別の映画『ソウ』シリーズとの混同を防ぐ目的だったのではと言われていますが、もう今回は『ソー』となったことで、それだけの知名度を獲得した証ですね。日本でも頑張ったよ、ソー…。
ということで『ソー ラブ&サンダー』を鑑賞してクソ暑い夏を吹き飛ばしましょう。盛り上がりすぎて外で全裸にならないようにね。
『ソー ラブ&サンダー』を観る前のQ&A
A:雷を操るハンマーのオジサンです。アスガルドを統べるオーディンの息子であり、神様です。2011年の『マイティ・ソー』で初登場。2012年の『アベンジャーズ』ではチームの主力に加わり、弟のロキを懲らしめ、2013年の『マイティ・ソー ダーク・ワールド』と2017年の『マイティ・ソー バトルロイヤル』ではロキとの因縁が根深く描かれました。2019年の『アベンジャーズ エンドゲーム』では一皮むけた成長を遂げ、新しい旅立ちをしたようでしたが…。
A:物語は『アベンジャーズ エンドゲーム』の続きから始まりますが、別に本作から初めて観てもいいと思います。1作目の『マイティ・ソー』を鑑賞し直して思い出を振り返るのもいいでしょう。
オススメ度のチェック
ひとり | :ここからファンになるのも良し |
友人 | :友達を誘ってワイワイと |
恋人 | :昔のロマンスは忘れよう |
キッズ | :子どもも大満足 |
『ソー ラブ&サンダー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):助けて、ソー!
どこかの世界。ある男が何もない砂漠で瀕死の娘を抱えて、自らが信仰する神に祈ります。きっと助けてくれるに違いない…。しかし、何も救済はなく、娘は無慈悲にも亡くなりました。
絶望に沈んでいた男は、遠くの方でオアシスを見つけます。そこに行ってみると、神が優雅に佇んでいました。「来世の幸せを約束してください」と懸命にお願いしますが、その神はそんな姿を嘲笑い、見下します。そして神にさえ見捨てられたその男の首を絞めようとします。
そのとき、男のもとにひとつの剣が音もなくやってきます。それはネクロソード。神を殺せる武器です。男はその剣を神に突き立て、この世の全ての神を抹殺することを決意します。神殺しのゴアとして…。
一方、別の場所。神の国であるアスガルドの第1王子だったソーは、弟のロキの陰謀に振り回されたり、その故郷を姉のヘラに支配されたり、国民を地球へ避難させている間にサノスによって虐殺されたり、過酷な経験をしてきました。戦意喪失して5年くらい引きこもり生活もしました。しかし、再起してアベンジャーズの一員としてこの宇宙(ユニバース)を守ることに成功し、吹っ切れました。
現在は、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々と一緒に宇宙を旅し、困っている人々を助けています。友人の岩異星人であるコーグも一緒です。ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの一応のリーダーであるピーター・クイル(スター・ロード)とは、そこそこの信頼関係。
雷神ソーは新しい愛用の武器「ストームブレイカー」を手に、大群の敵を豪快に吹き飛ばします。
そんな中、不穏な情報を耳にしました。宇宙各地の神が何者かに殺されているというのです。そして救難信号を受け取ります。それはかつての戦士仲間であるシフからのものでした。
すぐさま駆け付けるとシフは大怪我を負っており、ゴアという神殺しの存在にやられたと語ります。次の標的は地球に再建されたニュー・アスガルドだとも…。
ノルウェーの海沿いにあるニュー・アスガルドは今や観光地として大人気で、珍しい異星の文化や技術を見ようと各地から観光客が押し寄せていました。この地の新たな王であるヴァルキリーも外交に商業にと大忙しで、すっかり勇ましい戦いからは遠ざかっています。
ある夜、ニュー・アスガルドの街は、謎の影のモンスターの群れに襲われました。すぐにヴァルキリー含めて戦える者が応戦。そこにソーも加わり、乱戦を繰り広げていきます。
すると「ムジョルニア」というソーがかつて扱っていたハンマーが飛び交っているのを目撃します。そのハンマーはバラバラに壊されたはずなのになぜ…。久しぶりの再会となったムジョルニアに手を伸ばそうとした瞬間、それはソーではなく奥にいたある女性の手におさまります。なんだかソーに似た格好の女です。怪しむソーは声をかけ、何者かを問います。その女は兜を外し…。
「ジェーン!?」
それはソーが昔、地球にいた頃に交際していた女性であるジェーン・フォスターでした。ソーとは疎遠になって別れてしまったのですが、その後はジェーンは天体物理学者として著名になります。しかし、末期の癌が見つかり、絶望していました。そんなとき、ムジョルニアを手にすれば健康な身体が手に入る逸話を目にして、実際にやってみたのでした。そして…ソーになりました。
状況が呑み込めないソー(男)でしたが、ゴアが出現し、子どもたちを拉致したことで事態は緊迫。
ソー(男)とソー(女)は子どもたちを救えるのか…。
元カノと元ハンマー
『ソー ラブ&サンダー』は前作以上に“タイカ・ワイティティ”監督がアホやりたい放題をしています。
正直、目を見張るような深いテーマとか社会風刺とか、そういうのを期待するとガッカリするだけです。それに『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』みたいに「次はどんなキャラがでてくるのか?」とかMCUのハイコンテクストを考察して満喫する楽しみ方もあまりありません。
本作は良くも悪くもMCUから独立しており、別にあっても無くてもいいくらいに単独でも成り立つ一本で、ストーリーもめちゃくちゃ単純です。
つまり、ぶっちゃけて言ってしまうと『ソー ラブ&サンダー』の物語はソーが元カノと愛を再確認するお話です。
「マイティ・ソー」シリーズは1作目からシェイクスピアの要素が濃く、王道の人間模様が展開されていましたが、『アベンジャーズ エンドゲーム』では“男らしさ”の重圧に押しつぶされてメンタル崩壊したソーのリハビリの物語でした。
今作『ソー ラブ&サンダー』でのソーはそのトラウマからは吹っ切れていたのですが、どうも何か心に引っかかる。それはかつての恋人ジェーンのことで…。
普通だったらここでジェーンとのベタな再会ロマンスを展開するのですが、そこは“タイカ・ワイティティ”監督、まさかのハンマーであるムジョルニアとストームブレイカーを交えた、なんだか意味不明な四角関係が繰り広げられるという…。いちいち嫉妬してフレームインしてくるストームブレイカーが可愛い…。
“タイカ・ワイティティ”監督は最近はドラマ『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』やドラマ『海賊になった貴族』などでクィア表象が盛り上がりをみせていたので、今作『ソー ラブ&サンダー』もそこを期待した人もいるかもですが、それほど大々的なことはしていません。
それでもヴァルキリーがガールフレンドについてぼやいたり、2人の父のもとで育ったコーグが最後はちゃっかりボーイフレンド(?)とアツアツだったり、自然にクィアが溶け込んではいましたが…。
しかし、ラストは元カノとよりを戻すのではなく、元ハンマーとよりを戻すオチになるとは…。これは何なの? こういうのはフィクトロマンティックに入るんですか?
キッチュ100%な濃度
『ソー ラブ&サンダー』は、物語を構成するメインパーツ自体は、ジェーンの癌闘病だったり、ゴア・ザ・ゴッド・ブッチャーの神に見放された苦悩だったり、わりとシリアスです。
しかし、“タイカ・ワイティティ”監督はそれでもあえてふざけまくる。このキッチュ100%な濃度はこの監督の昔からの作家性ですね。
今作では、冒頭でコーグがジェーンを「ジェーン・フォンダ」と間違えたりしていましたが、その俳優“ジェーン・フォンダ”のカルト的代表作『バーバレラ』を連想するような、ふざけエロバカ遊びがあったりもしました。今回はゼウスの前でソーが全裸にされますけど(ロキを偲ぶタトゥーを背中にいれている!)、この「マイティ・ソー」シリーズ、以前はセルヴィグ博士が全裸で駆け回っていたし、ドラマ『ロキ』ではロキが全裸にされていたし、何かと素っ裸にさせたがるんですよね…。
今作でソーに変身するジェーンもエロ方向の描写はないのですが、明らかに作品全体の空気に毒されているのか、アホ気味になっており、キメ台詞を考えていたり、愛嬌あるマヌケさを見せていました。
序盤のソーの大暴れパートは、オーストラリア撮影でおなじみの『マッドマックス サンダードーム』感もありましたね。
神をおちょくる描写も酷かったです(褒めてる)。ニュージーランド繋がりで起用したのであろう“ラッセル・クロウ”演じるゼウスも、近年の“ラッセル・クロウ”の中でもダントツのアホ親父っぷりでしたからね。小籠包の神様もでてくるし…。ここまで神様をコケにしまくって信仰者は怒らないのかなと思うけど、まあ、広く普及している宗教は扱っていないのでセーフなのか。ドラマ『ムーンナイト』といい、MCUの神様の敬意が駄々下がりだな…。
あと、ヤギね。“タイカ・ワイティティ”監督、『ボーイ(Boy)』でもそうだったけど、ヤギ好きなのかな…。
終盤戦はキッズ軍団を従えてのソーの親子アベンジャーズ状態。この子煩悩なスタイルはいかにも“クリス・ヘムズワース”らしいですけど。ここで印象的なのは子どもバトルよりも、「誰がアスガルド人なのか」の緩い定義。これまでのMCUは『ブラックパンサー』なんかがそうでしたけど、すごく血縁主義的な民族観があったのですが、今回の『ソー ラブ&サンダー』は「アスガルド人だと思ったらもうアスガルド人だ」くらいのすごく包括的な懐の広さがあって、とても多様性賛歌がありましたね。
ゴアの娘ラブとの2人生活となったソーはこのまま宇宙のどこかで自由に楽しくやるのか。それともまたMCUの奔流に加わっていくのか。ちなみにここでラブを演じるのは“クリス・ヘムズワース”の実の娘です。親馬鹿です。
そして、エンドクレジットで登場したゼウスの息子のヘラクレス。原作コミックでもわりと人気キャラですけど、まさか大人気ドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』から“ブレット・ゴールドスタイン”が起用されるとは思わなかった…。ヘラクレスは原作では(というか元の神話からそうだけど)バイセクシュアルで、一部のファンの間ではソーとWパパになって子育てするのではと妄想されていますけど、どうなるやら…。
ジェーンは看取られて亡くなってしまいましたけど、ポストクレジットシーンではヴァルハラに降臨し、ヘイルダムと邂逅。この神様ワールドは何でもありなのでまだMCUに関与していく余地はいくらでもありそうですね。
最近のMCU作品は女性を犠牲にしすぎると批判されることも多々あったのですが、今作はかなり優しさに包まれた一作でした。最終戦でゴアがジェーンを「レディ・ソー」と呼ぶのに対し、「第一に私の名はマイティ・ソー」「第二にそうでなければジェーン・フォスター博士と呼びなさい」「第三に私のハンマーを喰らえ」と言い放つのもそうですし、ラストの復活的なエンドもそうです。原作ではヴァルキリーが死んでジェーンがヴァルキリーを引き継ぐ展開もあったので、今作でもヴァルキリーがゴアに刺されたとき「死ぬのか?」とヒヤヒヤしましたけど、そうならず、「内臓をなくしたけどね」という雑なひと言で片付いているのが、ものすごく“タイカ・ワイティティ”監督的な着地でしたよ。
それよりあのヴァルハラにはロキがいるのでは?とそればかりが気になる私でした…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 68% Audience 85%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品の感想記事です。
・『エターナルズ』
・『シャン・チー テン・リングスの伝説』
作品ポスター・画像 (C)Marvel Studios 2022 ソー ラブ・アンド・サンダー
以上、『ソー ラブ&サンダー』の感想でした。
Thor: Love and Thunder (2022) [Japanese Review] 『ソー ラブ&サンダー』考察・評価レビュー
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