間違いなく嫌になります…ドキュメンタリー映画『タックス・ウォーズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:フランス(2024年)
日本では劇場未公開
監督:ヘゲ・デリ、グザヴィエ・ハレル
たっくすうぉーず

『タックス・ウォーズ』簡単紹介
『タックス・ウォーズ』感想(ネタバレなし)
あなたは税金を払う! でも多国籍企業は…
2月から3月は日本では確定申告の時期です。2026年は首相の勝手な都合でいきなりの解散もあり、選挙のスケジュールが割り込んできました。ただでさえ忙しい期間なのに…。そして裏金やら保険料逃れの政治家がたくさん立候補して当選している始末…。私たち国民はこれからこんな政治のためにカネを払うのか…?
そんな怒りが湧いてくる今日この頃ですが、今回紹介するドキュメンタリー映画は、確定申告が終わってから観てください。さらに怒りが噴出することになりますから。
それが本作『タックス・ウォーズ』。
このドキュメンタリーの主題を最もあなたの堪忍袋の緒が切れるかたちで表現するならば…「あなたは確定申告で1円単位で細かく計算し、自分で払う税金を提出しましたよね? 払わないと脱税ですよね? でも世界の大儲けしている多国籍企業たちは税金払わなくていいんです。ときには1円も払いません!」という感じ。
「はあ!?」ってなると思いますが、はい、残念ながらこれがこの世の現実。
ではなぜこんな理不尽なことがまかりとおっているのか。それを解説するのがこの『タックス・ウォーズ』です。
タイトルとポスターのデザインで薄々察せたと思いますが、『スター・ウォーズ』のパロディとなっています。あのフィクションの世界では悪の銀河帝国はひとつでしたけど、私たちの生きる世界では悪の帝国はめちゃくちゃたくさん存在するんですよ…。あなたの知っている身近な大企業が実は税金をズルしている…。
とは言え、中身は極めて真面目なドキュメンタリーです。2024年のフランスを中心に製作された作品ですが、専門家の解説を交えつつ、この税をめぐる世界のシステムの不公平さ、その問題を根本的に解決しようとする人たちの取り組みを追っています。なるべく簡単に説明してくれているので、税金に詳しくない人でも安心です。
私たちは税金を払っているのですから、税金を払っていないで平然としている多国籍企業に「ちゃんと払えよ!」と怒っていいでしょう。というか、もっと怒らないと私たちが税で搾取されて貧しくなっていくばかりですし…。
『タックス・ウォーズ』を観て、この反乱同盟軍に加わりましょう。
『タックス・ウォーズ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 保護者の説明の補足が必要かもしれません。 |
『タックス・ウォーズ』予告動画
『タックス・ウォーズ』感想/考察(ネタバレあり)

ここから『タックス・ウォーズ』のネタバレありの感想本文です。
多国籍企業のデス・スター
アマゾン(Amazon)、アップル(Apple)、グーグル(Google)、マイクロソフト(Microsoft)、スターバックス、マクドナルド、ペプシ、コカ・コーラ、ファイザー、ボーイング、SONY、トヨタ…。
みんな知っている、どこかでそのサービスを使ったり、商品を利用していたりする…そんな名の知れた大手の多国籍企業たち。あまりにも身近なので、愛用していてすっかりその企業に親近感を持っている人もいるでしょう。
でもそんな大企業が「税金をちゃんと払っていない」と知ったら…どう思いますか? 『タックス・ウォーズ』はそんな問いかけに始まり、私たち庶民を都合よく貪る多国籍企業の実態を暴露していきます。
もちろん当の多国籍企業は必ずこう言います。
「私たちは法的な手続きに則って税金を処理しています。不正はしていません」…と。
そんなのこっちも知っているんですね。問題なのはその税金のシステム自体が根本的に不公平なものになっているんじゃないですか?ってことで…。
租税回避のカラクリは本当に詳しく説明しようとすると複雑すぎますが、本作ではわりとシンプルに視覚化してくれています。
要するに「多国籍」のとおり、複数の国にまたがってビジネスを展開していることを悪用し、自分の払う税金が最小になるように小細工していく…。すると税金を1円も払わなくていいことにもなったりする…。
「タックス・ヘイヴン」なんて言葉はどこかで聞いたことがあると思いますが、課税を回避・低減しやすい租税回避地を活用する行為は国によっては規制されているものの、その規制は決して完璧ではない…それどころか穴だらけであり、易々と多国籍企業は庶民にはあり得ないほどの税金逃れが実現できているのでした。
まさに膨大な力を持つ多国籍企業だからできるズルです。そう、ズルいんですよ。
毎年世界で3兆ドル以上の利益をあげている多国籍企業たちがのうのうと税金を払わずにすむ現実。どうしてこれを各国の政府は黙認してしまっているのか。それは多国籍企業の影響力があまりに甚大であり、太刀打ちできないからです。
あらためて本作を観ていると痛感させられますが、世界の多国籍企業は極端なまでに力を持ちすぎました。もはや国家を超える存在です。パワーバランスが「多国籍企業 > 国」になってしまっています。
作中でいくつもの各多国籍企業のデス・スターが宇宙を漂うさまは絶望的。『スター・ウォーズ』の世界はまだ生ぬるかったんですね。デス・スターの1個、2個はまだ楽勝ですよ。うちの世界はこれが何十個もあるんだもん…。これではさすがのルーク・スカイウォーカーも勝てません…。
タックス・ジャスティス
『タックス・ウォーズ』はそんな不公平な現実を根本的に変えようと反撃にでる勇気ある者たちの活動を追いかけます。
税金の公平さを求める活動は「tax justice」(日本語では「税制正義(租税正義)」などと訳される)と呼ばれますが、まさしく税の正義を貫こうとこの多国籍企業の支配の世界に戦いを挑みます。
その代表的組織が「ICRICT」という略称で、「Independent Commission for the Reform of International Corporate Taxation」という正式名があります。
正直、私はこんな組織を初めて聞いたのですけど、まあ、よく考えれば多国籍企業のメディアがこんな活動をしている組織を積極的に紹介するわけもないです。
「ICRICT」の中心メンバーには、著書『21世紀の資本』で有名な経済学者の“トマ・ピケティ”、ノーベル経済学賞を受賞した“ジョセフ・E・スティグリッツ”、タックス・ヘイヴン研究の第一人者である“ガブリエル・ズックマン”、「ヨーロッパ・エコロジー=緑の党」出身でフランスの政治家の“エヴァ・ジョリ”、グローバリゼーションやジェンダーと絡めた開発経済学を専門とするインドの“ジャヤティ・ゴーシュ”などがいます。
そして「ICRICT」の主張はとても簡潔です。税金を平等に払う世の中にする。それだけ。
そのための最終目標として、彼らは多国籍企業の利益に対する世界的な税の創設を提案しています。作中ではこの考えは夢想家すぎると初期の頃は相手にもされなかったと言われています。
でもあたらめて思うと、これだけ国境を気にしない多国籍企業による尋常ではない金額が動き回るビジネスが常態化しているのですから、もう国ごとに税を管轄するのはとっくのとうに限界ですよね。そろそろ税の在り方も根幹からアップデートしないといけない時期に来ていると考えるのは何も変ではないでしょう。
嬉しいことに、作中では取り組みの進展が垣間見えます。
2021年には歴史的合意が成功し、多国籍企業の利益に対する世界的な最低税率を設定する第1歩に。この措置がもし実現すれば、各国政府に2200億ドルの税収がもたらされるというのですから…。
もう「食品の消費税をゼロにしたら、その税収損失はどうするんだ」とかチマチマしたことを考える必要はないでしょう。医療費を上げなくてもいい。税金の正義を果たせばいいのです。
あらためて「税金を払ってね?」
とまあ、『タックス・ウォーズ』自体はとても前向きな未来を提示して終わってくれるので、新たな希望があるのですが、ここからは残念な話。そう、こんな悲しい追記をするのも心苦しいのですけども…。
このドキュメンタリーの続きが現実にはあります。
2024年には国連・国際租税協力枠組条約起草委員会が、枠組条約の骨子案を賛成110、反対8で採択しました。これは嬉しいニュースです。
でも、オーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、ニュージーランド、韓国、イギリス、アメリカの8ヶ国が反対しました(ええ…)。要は多国籍企業と繋がりの深い国ほど反対しており、その国の政府は庶民よりも多国籍企業を優先したい実情がみえみえです。
例の条約は2027年の国連総会に提出することが予定されていますが、どうなるかは見通せません。
とくに2025年以降は平等と公正を揺るがすさらなる大問題が出現しました。はい、2期目の“ドナルド・トランプ”大統領です。
トランプは関税というものを税の公平とか何も気にせず、単に脅しの手段として自分勝手に濫用しまくり、税を私物化してしまいました。この発想はいかにも金持ちの価値観を表していますよね。たぶん大富豪は税というものを自分にとって煩わしい目障りと考えているので、その税は脅しに使える…と自分の感覚で思ってしまうんじゃないかな。
そして就任式で多国籍企業のトップが並んで参加していた風景からもわかるように、トランプ政権はあからさまにほんの一握りの多国籍企業を贔屓し、庶民を切り捨てる「国家と企業の共謀」を加速させました。
今回のドキュメンタリーを観ながら、トランプ時代を見つめ直すと、これは税の正義に対する明白なバックラッシュだったんだなと納得できますね。タイミングも完全にハマってます。自分たちが税金を払わないといけなくなりそうになったから、大慌てで都合のいい独裁者を祭り上げて既得権を守ろうとしている多国籍企業たち…。
あげくには2026年になるとトランプは「国連を壊す」というフェーズに本格的に突入し始めましたからね。国連が機能しなくなれば損をするのは世界中の庶民です。得をするのは多国籍企業のトップと大富豪、そしてそんな奴らと癒着する政治家です。
つまり、もっと一部の特権階級だけが稼げる世界にしたい…そういう野心を隠そうともしていません。
「ICRICT」も「世界中の国々はトランプ大統領の脅しに怯むことなく、協力のために団結し、多国籍企業が正当な負担を負うことを保証する措置を断固として実施し続けるべきである」と述べていますが、本当に瀬戸際に立たされていることを感じます。
こうなってくるともはや税の正義だけの話というよりは、世界の土台全てが多国籍企業と特定国家のならず者たちに乗っ取られるかどうかの最終局面みたいなものにも思えますね。
だから何度でも繰り返しましょう。庶民にはこれを言う権利があります。
「多国籍企業さんたち、あなたのほうこそ、税金を払ってね?」
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『タックス・ウォーズ』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)Arte G.E.I.E. タックスウォーズ
Tax Wars (2024) [Japanese Review] 『タックス・ウォーズ』考察・評価レビュー
#フランス映画 #告発ドキュメンタリー
