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ドラマ『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』感想(ネタバレ)…話せばよかった

ザ・ステアケース 偽りだらけの真実

話せばよかった…ドラマシリーズ『ザ・ステアケース -偽りだらけの真実-』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Staircase
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にU-NEXTで配信(日本)
原案:アントニオ・カンポス
LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写

ザ・ステアケース 偽りだらけの真実

ざ・すてあけーす いつわりだらけのしんじつ
ザ・ステアケース 偽りだらけの真実

『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』あらすじ

2001年12月9日、小説家のマイケル・ピーターソンから、妻が家の階段から落ちて死んでいるとの切羽詰まった通報が入る。現場に到着した救急隊が見たのは、血塗れで階段下で亡くなっている女性の遺体だった。警察は状況から事故ではないと判断し、その場に唯一いたマイケルによる殺人として捜査を開始。検察側と弁護側がこのスキャンダラスな事件をめぐって攻防を繰り広げるなか、関係者の秘密や過去が浮き上がる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』の感想です。

『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』感想(ネタバレなし)

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階段下で始まった実話の事件を描く

私は子どもの頃から「階段から落ちる恐怖心」みたいなのが脳裏をよぎることが多く、大人になっても、とくに階段を降りるのが苦手です。別に実際に階段から落ちた経験はたぶんないと思うのですけど、そういう恐怖が頭にこびりついて離れないことがあるようなんですね。夢でも階段から落ちる悪夢をたまに見るし、私にとって階段は全くもって良いものじゃないです。

まあ、でも開き直って「ゆっくり階段を降りるのもいいじゃないか」と思うことにしています。急いで降りられるようになったらそれは便利でしょうけど、危ないですからね。階段って本来はゆっくり確実に一歩一歩降りるのが適切なんじゃないかな。

そんな私にとって今回紹介するドラマシリーズは、階段への恐怖をさらに増長しかねないのですが…。

それが本作『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』

本作は実際に起きた事件を題材にした、ノンフィクションのミステリーサスペンスです。事件は家の階段下でとあるひとりの女性の遺体が発見されたことから始まります。通報したのは。階段から落ちたのかと当初は思われましたが、現場の状況は何やら怪しく、警察は殺人事件を疑います。そして容疑者となったのは夫でした。

物語はこの事件の捜査と裁判を通して真実を解き明かそうとする過程を描いていくのですが、これが想像以上に一筋縄ではいかないものになっていき…。

当然ネタバレできません。とは言え、史実の事件なのでネットで調べればすぐに顛末はわかります。それでもこのドラマ『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』は事件前と事件後の2つの時間軸を並行して描き、とてもスリリングで目を離せない展開を持続させます。演出も非常に上手いです。

そして1個だけネタバレをしてしまおうと思うのですが、ドラマ『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』は容疑者が「セクシュアル・マイノリティであること」が争点のひとつとなります。本作は紛れもなくクィアなドラマです。(少なくともアメリカでは)有名な事件を題材にしているので、もうそのあたりも視聴者は知っているでしょうという前提なのかもしれませんが、「クィアであること」を作劇上の“意表を突く”仕掛けとして利用しているみたいにネガティブに思われる人も、とくに当事者の中にはいるでしょうから、今回の私の感想では事前に明かしておきます(明かしても作品の面白さは損なわれないです)。

殺人の容疑者がクィアと言うとステレオタイプにならないのか?と不安になってくるのですが、本作はしっかりそのあたりをカバーしています。これ以上はさすがに伏せますが、クィアな当事者の内面的複雑さにちゃんと向き合っているドラマになっていると私は思いました。

ドラマ『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』は“ジャン・グザビエ・ド・レストラード”の制作したドキュメンタリー『The Staircase』をドラマ化したもので、原案は『悪魔はいつもそこに』“アントニオ・カンポス”

渦中にある主人公を演じるのは、『英国王のスピーチ』『エンパイア・オブ・ライト』“コリン・ファース”。“コリン・ファース”自身は別にクィア当事者ではないんですけど、『シングルマン』『スーパーノヴァ』などなんかゲイの役がしっくりきてしまう人ですよね。

共演は、『ヘレディタリー/継承』やドラマ『パワー』“トニ・コレット”『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』“マイケル・スタールバーグ”『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』“デイン・デハーン”『エルヴィス』“オリヴィア・デヨング”『ダニエル』“パトリック・シュワルツェネッガー”『X-MEN:ダーク・フェニックス』“ソフィー・ターナー”『Shirley』“オデッサ・ヤング”『レイチェルの結婚』“ローズマリー・デウィット”『真実』“ジュリエット・ビノシュ”など。

俳優陣の演技合戦が素晴らしく、エミー賞などでもノミネートされました。

ドラマ『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』はアメリカ本国では「HBO Max」で2022年に独占配信、日本では「U-NEXT」で取り扱われています。リミテッドシリーズとなっており、全8話で1話あたり約60~70分。サスペンスでぐいぐいと引っ張るので、1話を見始めれば止まらなくなるでしょう。

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『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』を観る前のQ&A

✔『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』の見どころ
★俳優たちの演技合戦に魅入ってしまう。
★クィアと犯罪という難しいトピックを巧みに扱う。
✔『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』の欠点
☆クィアに対する世間の偏見を直視させるので注意。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:じっくり味わって
友人 4.0:題材を語り合うも良し
恋人 3.5:素で語れる相手と
キッズ 3.0:性描写ややあり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):夫婦に何があったのか

2017年2月24日、ノースカロライナ州ダーラム。目を開けるひとりの男、視線の先には妻の写真。ゆっくりと体を起こし、スーツを着ますが、ネクタイを上手く結べません。背後に女性の声がします。

その16年前。2001年12月9日午前2時40分、911に通報が入りました。「妻が階段から落ちたんだ!早く来てくれ!息をしてないんだ!」というパニックの声…。

友人の運転する車でトッドが家に帰ってきます。しかし、家の前には緊急車両が何台も停車しており、サイレンで照らされていました。「何があったんですか? ここは両親の家です」と警官に言いながら、室内にあがると、そこには父マイケル・ピーターソンの今の結婚相手であるキャスリーンが階段下で血塗れで倒れていました。トッドにとっては義理の母です。

すぐ近くで父が狼狽して座り込んでおり、父は妻の遺体にすがりつきます。それを引き剥がすトッド。父を介抱しながら、「何があったの?」と聞くと「外にいたんだ。家に入ったら…ああなってた…」としどろもどろで説明します。

警察は「ここは犯罪現場と認定された」と言い、「許可がでるまで離れないでください」と告げます。

その事件の3カ月前。2001年9月、キャスリーンは末娘マーサと大学入学の祝いで家でみんな集まって盛り上がっていました。家族揃ってディナーです。マイケルは「こんな家族は他にはいない、でも絆は強い」と語りかけます。マイケルの最初の息子のクレイトン、末息子のトッド、キャスリーンの最初の娘のケイトリン・アトウォーター、マイケルの2人の養子であるラトリフ家のマーガレットマーサ。血は繋がっていなくても家族です。みんなで大きな杯を回して互いの愛を確認します。

時間軸は前に進んでキャスリーンの遺体発見後。侵入された形跡はなく、遺体は傷だらけ、何よりも血液量が多いです。検死では、松の木の葉が遺体から見つかったりする中、即死ではなかったと推察され、頭部は特に傷だらけ。でも頭蓋骨損傷などの骨折は無く、死因は鈍的外傷による出血死と思われました。

事件当時一緒にいたのはマイケルのみ。寝室に使用済みコンドームが落ちていましたが、覚えがないとマイケルは言っています。

隣人のラリー家にひとまず退避し、翌朝にキャスリーンの妹であるキャンディスに電話し、死を伝えます。

マイケルの弟ビルが来て、ビルは弁護士を雇うべきだと進言。デヴィッド・ルドルフを提案します。マイケルは少し前まで政治家選挙に出馬しようと試みていたので、「市議会や警察を批判していたからその仕返しだ」とマイケルは直感で考えていました。

大陪審は始まり、マイケルは起訴されたので出頭。警察はキャスリーンの妹であるキャンディスとローリの2人にマイケルの書斎のパソコンで見つかったゲイポルノの写真を見せます。

事件の真相は一体何なのか…。

この『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/07に更新されています。
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こんなの真相がわかるわけなかった

ここから『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』のネタバレありの感想本文です。

ドラマ『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』、まずミステリーサスペンスというジャンルとして非常に見ごたえがあります。冒頭のトッドが到着してからの長回しでの騒然とした様子の撮り方といい、観客を一気に混乱の中に飛び込ませます。一体何があったんだ?…と。

本作は「事件の真相はこうではないか?」といういくつかの立場による推理案が浮上し、それが再現映像風に映されます。

弁護側は、階段からの転落死というシンプルな不慮の事故の説を推します。でもこの再現映像ですらキャスリーンの転倒もなんか妙に不自然で、違和感が浮かび上がるだけです。

一方の警察&検事側は、マイケルが男性と関係を持っていたことを知ったキャスリーンが詰め寄り、それにカっとなったマイケルが妻を殺したという説を推します。当初は火吹き棒で撲殺したという説で裁判を進めていましたが、ガレージで犯行に使われた形跡の無い火吹き棒が見つかり、その凶器説は却下。警察&検事側は動機ありきで有罪を求め、結果、終身刑が評決されます。

裁判は第4話で終わってしまい、ここから何を描くのかと思ったら、第3者の事件解明者が出現。ドキュメンタリー編集者のソフィです。“コリン・ファース”と“トニ・コレット”の演技合戦に、“ジュリエット・ビノシュ”が加わるという、贅沢な構図ですね。

上訴が立て続けに棄却される中、ここでまさかの説が浮上。「フクロウに襲われた」説です。嘘みたいな説ですが案外と辻褄が全部合うというのも面白いですし、それを思いついたのが当初は田舎の弁護士だから当てにならないだろうとみなしたお隣のラリー・ポラードというのも皮肉。もしラリーが初めから弁護していたらこのマイケルの人生も変わっていたのかもしれない…。

しかし、これで終わりません。2010年6月、頭蓋骨損傷の無い鈍的殺人が確認され、しかもデニス・ロウを殺したタイロン・ラクール、双方ともにマイケルと性的関係あり、もしかしたらキャスリーンは普通に招かれて入ってきたラクールのような人間に殺されたのではないかという説も持ち上がります。

加えて、無実調査委員会のリサーチに寄って、ノースカロライナ州捜査局と検事と癒着が明らかになり、刑事司法制度の腐敗も露呈。

つまり、こんなずさんさですから、はなから真相なんてわかるわけもないのでした。ほんと、酷いありさまです。

最終話では、2011年の再審請求審と、2017年のアルフォード・プリーの様子が同時並行で描かれるという、なかなかない構成です。再審できずにやむなく選んだアルフォード・プリーとは「自分の行為が法的に間違っていることを必ずしも認めているわけではないが、有罪を証明できる十分な証拠を検察側がすでに入手していることは認める」というアメリカの司法特有の有罪答弁のこと。マイケルはこれによってあらためて懲役刑が言い渡されるも、すでに刑期を超えて服役していたため、追加の懲役刑は課されずに自由の身となります。

真実を解き明かすという機能を全く果たさずに、それぞれの体面ありきで幕引きしてしまうという、非常に嫌な後味の終わり方です。

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アメリカン・スウィートじゃないハート

刑事司法制度が土台から腐っていたという問題もさることながら、ドラマ『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』では社会に蔓延るセクシュアル・マイノリティへの偏見が真実を明らかにすることを極めて遠ざけてしまう問題も直視させます。

警察&検事側もキャンディスやケイトリンも、マイケルの「不倫」を許せない行為として少なくとも表面上はみなしていますが、その内心ではそもそも「男性が男性と性的関係を持つこと」自体が汚らわしい非倫理的行為だと思っているのが滲み出ています。

裁判でも検事はマイケルの男性とのやりとりを「醜悪で卑猥」と言い切り、裏でもホモフォビアな発言を連発していました。

一方で男娼が実はかなり多くの大物と関係を持っていたことを知るも、その情報はもみ消してしまいます。

同性愛関係はタブーという認識が、捜査を恣意的に歪め、真相解明ではなく憎悪の捌け口の場として裁判を利用してしまっている状態でした。

当のマイケルはバイセクシュアルだと事件後に家族に明らかにしますが、オープンにはしていませんでした。キャスリーンには言っていたと主張しますが、それもあやふやです(最終的にマイケルは言っていなかったと白状しますが、キャスリーンは察していたようにも受け取れる、作中では曖昧な描き方になっています)。

本作ではマイケルはずっと姿勢が不明瞭で、下手すると常に誤魔化しているようにも見えてきます。「こうだ」と言ったかと思えばその後に「いや、それはこういう意味で…」などと論点をずらす。この繰り返しです。周囲がうんざりするのも無理ありません。

本音がついに見えかけるのが最終話のカメラの前での吐露のシーン。自分の幼き頃の性的指向の自覚、そして明かせなかったことを「勇気は無かった」と振り返り、嘘でやりすごす手癖を身に着けてしまったことを語る…。

これはクィアなら身に覚えがあることは多いと思いますけど、とくにある一定の高い年齢の当事者にありがちな心境じゃないかなと思います。カミングアウトとかプライドとか、そんなものが自分の選択肢になかった時代を過ごした当事者の苦悩です。偶然にも末娘マーサも同性愛者で最後は父に寄り添ってくれるのですけど、その連帯の誘いもつい遠ざけてしまうマイケルの習慣化した反応。家父長的になれなかったことを後ろめたいと思っているのもその態度をこじらせる原因かもしれません。

最後はソフィとも縁を切る発言をし、怒鳴って追い出してしまったマイケル。これは衝動的なものなのか、主体的な選択に基づく行為なのか、そしてこれは初めてなのか、過去に他の女性にもみせた態度なのか…。

最後の事件当日シーンは再現映像ではなく回想か。そこに真相は映りません。2017年のマイケルの表情をじっと映してドラマは閉幕します。

もちろん実際に真偽不明なのでドラマではこうせざるを得ないでしょうけど、本作はクィアな容疑者というコントラバーシャルな題材に対して、過度にショッキングさを煽ることもなく、かといって馴れ馴れしく同情的でもない、絶妙な立ち位置をキープして、あのマイケルというひとりの人間を観察していたのではないでしょうか。

私も「階段から落ちる恐怖心」の真意は家族の誰にも話していません。家族だからって何でも話せるわけじゃない。隠していることは普通にある。家族ってそういうものですよね。

『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 57%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)HBO ザステアケース

以上、『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』の感想でした。

The Staircase (2022) [Japanese Review] 『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』考察・評価レビュー