tickled
Netflixドキュメンタリー映画『くすぐり/Tickled』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Tickled 
製作国:ニュージーランド
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信 
監督:デイビット・ファリア、ディラン・リーヴ

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

あらすじ

ニュージーランドの記者のデイビット・ファリアは、ネットでネタ探しをしていたある時、くすぐりに耐える行為を競技として撮影した動画を発見する。興味を持ったデイビットは、くすぐり我慢競技の開催者に取材を申し込むが、そこから意外な闇が浮かび上がる。

笑っている場合じゃない

皆さんは“くすぐられる”のは平気ですか? 私は苦手です。

それにしてもあのくすぐったいあの感じは何なのでしょうか。一応、メカニズム的な話をするなら、自律神経が集中する体の部位は敏感で刺激に弱く、とくに他人にくすぐられると予測ができないので脳が混乱状態に陥り、この不快な感覚が「くすぐったい」となるらしい。だから自分でくすぐるぶんには問題ないということだそうです。でも、なんで笑ってしまうのですかね。笑っている場合じゃない気がするのですが。

それどころか「くすぐり」が愛情のコミュニケーションとして使われたりしています。あらためてよく考えてみると、さっぱり理解できません。ときには異性をくすぐることも平然で行われたりしますが、あれだって性的な接触と何か違うのでしょうか。

とにかく「くすぐり」は“軽く”扱われがちです。

そんな「くすぐり」を題材にしたドキュメンタリー映画が本作『Tickled』、邦題はズバリ『くすぐり』です。

「なんだ、人体の不思議みたいなサイエンス・ドキュメンタリーでしょ?」と思った人、それは大間違いです。“軽く”扱われがちな「くすぐり」に対して、この映画は全く“軽く”はありません。

ニュージーランドの記者がくすぐり我慢競技とかいう「人がくすぐられている姿」をただただ映した動画をネット上で発見したことから始まるドキュメンタリーですが、これが想像以上に衝撃的な展開に発展します。衝撃度でいえば、メキシコ麻薬戦争を題材にした『カルテル・ランド』より上かもしれないと個人的には思うほど。題材が「くすぐり」なだけについ油断してしまいますが、そこが実は…あとはネタバレになるので、ぜひ観てください。“くすぐられる”のが平気かどうかなんて関係なく、インターネットを利用している人なら無関係ではいられない話題です。とにかく怖いという感想しか出てこないと思います。

映画批評サイト「ロッテントマト(RottenTomatoes)」では批評家の95%がポジティブな支持をしています。最近の数あるドキュメンタリー映画のなかでもなかなか見ごたえがあるほうです。

この映画を観たら「くすぐり」を軽くは扱えなくなりますよ。






↓ここからネタバレが含まれます↓





「くすぐり」で人は支配できる

本作の話が進めば進むほど衝撃的な事実が次々と浮かび上がっていく過程がとにかくスリリング。

ざっと全体のあらすじを書いておくと…

くすぐり我慢競技(Tickling)の動画を発見したニュージーランドの記者のデイビット・ファリアは、主催者のジェーン・オブライエンに取材を申し込むと、「同性愛者とは関わりたくない。異性愛者だけの競技だ」「同性愛は障がい」と異様に攻撃的な返答をされる。それでも記事にしてドキュメンタリーの制作を決めると、今度はメールやら電話やらでしつこく責められ、訴訟を起こすとまで言われてしまう。くすぐり我慢競技の参加者の多くに取材しても話すのを嫌がったが、元参加者TJと話す機会を得る。彼いわく“くすぐり”の動画を勝手にアップされ、執拗な嫌がらせを受けていた。さらに取材を続けると、90年代にテリという女性がくすぐり動画をあげていたという。そのテリの指示でくすぐり参加者のスカウトをしていた男にインタビューすると、彼もテリから執拗な攻撃を受けたらしい。テリとジェーン・オブライエンの手口は似ていた。当時、テリを取材した記者に話を聞くと、テリの名前はデイビット・ダマートという男で、故人の社会保障番号を不正に利用していた罪で逮捕されたが、刑は軽く出所したらしいことがわかる。時期的な考察をすれば、テリは2006年頃に消え、ジェーン・オブライエンが登場したことになる。つまり、テリはジェーン・オブライエンであり、その二人の女性の正体はデイビット・ダマートである可能性が高い。彼の自宅に張り込み、追跡して突撃取材するも、訴えるといって立ち去ってしまう。ダマートの継母に電話すると、彼は子ども時代は虐められていたという。

これで映画は終わりです。もやっとした気持ちの残る嫌な終わりでした。それもそのはず、現時点でも論争の真っ只中で、この映画が訴えられています。どうなるのでしょうか…。というかアメリカの司法・警察は何やってるんだ…。コイツだってテロリストなみに危うい存在だろうに…。

tickled

身近な恐怖が浮かび上がり、「なんだコイツ、何者なんだ…」という感情が巻き起こるこの感じ、『スポットライト 世紀のスクープ』でも味わいました。でも本作はドキュメンタリーなのでそれがリアルタイムで映されるので衝撃度が数段増します。『シチズンフォー スノーデンの暴露』でも思いましたが、これこそリアルタイムなドキュメンタリー映画の強みですね。よく撮ったなと尊敬します。

私が本作をメキシコ麻薬戦争を題材にした『カルテル・ランド』より衝撃的に感じた理由は、それこそ事の発端が「くすぐり」だからでしょう。麻薬や銃が怖いのは当たり前だし、それで人を支配するのは想定の範囲内。でも、本作の黒幕であるデイビット・ダマートが利用したのは誰でも道具も金もなくできてしまう「くすぐり」なんです。先述した「くすぐり」が世間では軽く扱われがちというのを巧みに悪用しています。これが裸の撮影だったら当然のように警戒されるでしょうが、「くすぐり」なら油断してしまう。「くすぐり」で人は支配できるということは、つまり誰でも模倣できるということです。

くすぐりフェチが悪だとか、気持ち悪いと言いたい映画ではなく、あくまで安易に悪用出来てしまう「くすぐり」の気軽さへの警鐘だと思います。他にも代用できるものは日常にたくさんあるはずです。

不謹慎ですけど、デイビット・ダマートは明らかにイカれているのですが、でも冴えてもいますよね。いや、狙ってやっているのかさえわからないのだけど。そこがまた怖い。金欲しさにやっているわけでもないし、しかも諸悪の根源はコイツひとりっぽいですし。たまたま大金を持った男ひとりが「くすぐり」だけで、金を動かし、人は支配し、街さえも乗っとろうとしている…こんな身近な恐怖があるとは…。

はっきり言って他人事じゃない。日本だって起こりうる、というかすでに起こっていることかもしれないのですから。あらためて思いますが、インターネットでは油断してはいけないし、警戒心が強すぎるくらいがちょうどいいのでしょう。

人に簡単にくすぐられてたら、騙されているのかもしれない。笑えるのはその時だけです。

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