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『オーメン ザ・ファースト』感想(ネタバレ)…女性の身体の自己決定権を悪魔は奪う

オーメン ザ・ファースト

そして悪魔はいつも権力の道具…映画『オーメン:ザ・ファースト』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The First Omen
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年4月5日
監督:アルカシャ・スティーブンソン
性暴力描写 自死・自傷描写
オーメン ザ・ファースト

おーめん ざふぁーすと
『オーメン ザ・ファースト』のポスター2枚。赤い背景に黒い女性の影が十字架になるデザインと、逆さまの女性の髪が垂れ下がる恐ろしいデザイン。

『オーメン ザ・ファースト』物語 簡単紹介

マーガレットは新たな人生の場としてイタリア・ローマの教会を選んだ。アメリカからやってきたばかりの身でも、教会は温かく迎えてくれ、さっそくここで奉仕生活を始める。この場所は多くの身寄りのない子どもたちを支援しており、助けを求めに来る女性たちも受け入れている。マーガレットはとくに孤立していたカルリータという若い女性を気にかけるが、やがて得体のしれない恐怖を感じるようになっていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『オーメン ザ・ファースト』の感想です。

『オーメン ザ・ファースト』感想(ネタバレなし)

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666の前の数字も…666!

はい、いきなりですが、1976年の映画『オーメン』のネタバレをします。

もう50年近く前の映画だし、このジャンルの草分け的な代表作だし…。

『オーメン』(1976年)は“リチャード・ドナー”監督作。あるアメリカ人外交官の男性がローマの病院で我が子が死産してしまった事実を受け入れられず、同時刻に誕生した全く別の孤児である男子を妻に内緒で、妻の産んだ赤ん坊として偽り、ダミアンと名付けて、家に連れ帰って育てていくという、倫理に違反する出だしで始まります。ところがこのダミアン…実は悪魔の子だった! ということで惨劇が次々と怒ってしまう…そんなホラー映画です。

3つの「6」という数字が不吉な象徴であり、悪魔っ子ジャンル(「悪魔っ子」はなんか意味違うけど)の王道として今も愛されています。

『オーメン』はすぐにフランチャイズ化し、1978年に『オーメン2/ダミアン』、1981年に『オーメン/最後の闘争』、1991年に『オーメン4』と続編シリーズが続き、2006年にはリメイク映画『オーメン』が作られ、2016年には『Damien』というドラマシリーズも製作されました。「オーメン」という名を勝手に使った無関係映画もあるので注意だけど…。

そして近年のホラーIPの再始動映画化の流れがこの悪魔にも舞い込み、このたび1976年の第1作『オーメン』の前日譚となる映画が2024年に公開となりました。

それが本作『オーメン ザ・ファースト』です。

正直、私はあまり期待してませんでした…。ええ、そうです。冷めてました。『エクソシスト 信じる者』のせいなのも半分はある…。いや、それは言いすぎか…。でもそうかもしれない…。

しかし、私の反省タイム。『オーメン ザ・ファースト』、想像以上に良くできていた…。ここ近年の有名IPホラー映画のリバイバル・ブームの中では、かなり頑張っているほうだと思います。挑戦の意気込みがありました。

『オーメン ザ・ファースト』の何が良いのかって、ネタバレはできないので物語の詳細には触れませんが、初期原点のレガシーを維持しつつ、上手い具合にテーマ性をアップデートしている点がまずひとつ。早い話が、女性の身体の自己決定権(身体的インテグリティ)を主軸にしています。これだけでも事前に紹介しておけば興味持つ人もでてくるのでは?

そして、レガシーはありつつも、旧キャストや旧キャラクターに依存せず、しっかり今作のオリジナリティを確立している点。前日譚は初期作に縛られやすいので一番アレンジが難しいと思うのですが、『オーメン ザ・ファースト』はなかなか凄いことをさらっとやってのけたのではないでしょうか。

なので『エスター ファースト・キル』みたいに、明確な接続点ありきで展開せず、新しいフランチャイズの方向性も見せてくれます。

そんな『オーメン ザ・ファースト』を監督したのは、これが長編映画監督デビュー作となった”アルカシャ・スティーブンソン”。ドラマ『レギオン』やドラマ『ブランニュー・チェリーフレーバー』などでエピソード監督を務めた程度のキャリアなのですが、今回の成功で大きな足掛かりになりそうです。

主演を務めるのは、ドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』でも強烈な存在感を放っていた”ネル・タイガー・フリー”。今回もホラーの雰囲気に合いまくってます。主演映画として確固たる地盤になるのはやっぱりホラー映画なんだな…。

共演は、『バクラウ 地図から消された村』“ソニア・ブラガ”『生きる LIVING』“ビル・ナイ”『グリーン・ナイト』“ラルフ・アイネソン”、本作が映画デビュー作となった“ニコール・ソラス”など。

『オーメン ザ・ファースト』はタイトルどおり、これが初「オーメン」という人でも大丈夫。現在妊娠中の人は気分が悪くなるかもだけど…。

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『オーメン ザ・ファースト』を観る前のQ&A

Q:『オーメン ザ・ファースト』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:特にありません。1作目『オーメン』を観ておくと、エンディングの繋がりを実感できます。
✔『オーメン ザ・ファースト』の見どころ
★女性の身体の自己決定権を主題にしたホラー風刺。
★インパクトのあるボディ・ホラー映像。
✔『オーメン ザ・ファースト』の欠点
☆出産を素材にしているので注意。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:テーマに関心あれば
友人 3.5:ホラー好き同士で
恋人 3.5:怖さを共有して
キッズ 3.0:残酷描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『オーメン ザ・ファースト』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

黒い帽子のブレナン神父はある教会を訪れます。そこで赤ちゃんの写真を見せてハリス神父に問いますが、陰に隠れたままハリス神父は詳細を話そうとしません。

ハリス神父は教会の外へ出るも、一旦またブレナン神父に向き合います。しかし、そのとき、足場を組んで作業をしていた上部からパイプが落下。ハリス神父の頭部を致命的に直撃し、それでもハリス神父は歩き、微笑むのでした。

1971年のローマ。アメリカ人のマーガレットはヴィッツァデリ孤児院に従事するためにこの異国の地に立ちました。慣れない風景に少し困惑しながら、迎えに来てくれたローレンス枢機卿に温かく歓迎されます。

移動の車の中、急に窓を叩かれて何事かと思いましたが、左翼の抗議運動が起きているようです。

孤児院に到着です。シスター・シルヴィア修道院長がハグで迎えます。中を案内され、多くの修道女が、子どもたちや赤ん坊の面倒をみるために献身的に働いている姿がありました。

そのとき、階段で風変わりな修道女アンジェリカと遭遇。なぜか見つめるだけで何も喋りません。

また、カルリータと書かれた絵が飾ってある部屋に入ると、暗がりに人物がひとり。長髪の若い女子で、この子がカルリータのようです。イタリア語で自己紹介して話しかけてみるも、急に掴まれてびっくりします。ちょうどシルヴィアが戻ってきたので、とりあえず今はそっとしておくことにします。

こうして新生活が始まりました。夜、真っ暗な部屋で祈りを捧げていると、急な物音で驚きます。ルームメイトのルスが戻ってきただけでした。随分と外で楽しんでいるようで、気さくな人柄です。

この日以降、マーガレットは子どもたちと打ち解けます。カルリータが気がかりです。

ルスはマーガレットをディスコに行こうと誘います。用意してくれたラフな格好はセクシーでさすがに躊躇。でもルスに促され、出かけます。音楽が賑やかに流れるディスコに若い女性が2人いれば、当然のように男たちが話しかけてきます。ルスは楽しそうに男と踊るも、マーガレットはあまりノリについていけません。

それでも相手のパオロという男とたどたどしい会話ながらもリラックスした時間を過ごします。踊ろうと誘われ、マーガレットは上着を脱ぎ、場に混ざっていきます。いつしか気分も高揚していき…。

気づくと部屋で朝を迎えていました。記憶はあまりありません。

別の日、ブレナン神父が近づいてきて、「カルリータに気を付けろ」と警告されます。しかし、カルリータと関係を深めるマーガレット。実は似たような孤立の経験があったのです。

そんな中、衝撃的な出来事が起きます。カルリータが外の中庭で、妊婦の絵をアンジェリカに見せていました。すると、急にアンジェリカはマーガレットに口づけし、やけに陽気にその場を去ります。

そのすぐ後、アンジェリカは上階に立ち、みんなが見守る中、自らマッチをすって焼身自殺して首を吊ったのです。騒然とする現場。

けれどもこれは真の恐怖の予兆でしかなく…。

この『オーメン ザ・ファースト』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/04/12に更新されています。
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現在進行形の反中絶・反トランスの世相が…

ここから『オーメン ザ・ファースト』のネタバレありの感想本文です。

『オーメン ザ・ファースト』は1976年の『オーメン』よりも少し前を描くので、やはり絵作りから意識的で、クラシカルな肌触りの映像になっていました。これが雰囲気あり、旧作を観ている気分にさせてくれます。

主人公のマーガレットがローマに降り立った最初のシーンはまるで異世界へのタイムスリップのようで、『ローマの休日』みたいな理想化されたローマの街並みがステキに映し出されます。

無論、それはこの冒頭のほんの一瞬だけ。次に映るのは、左翼支持者の若者たちが抗議デモをしている別の一面。これは史実で、いわゆる「鉛の時代」と呼ばれるイタリア国内で社会主義勢力・新左翼運動が活発化した時期が本当にありました。抗議者が反発しているのは既存の保守的なイタリア社会権力に対してです。

当初のマーガレットはこの抗議運動を他者化しながら「なんかちょっと荒っぽい迷惑な秩序を乱す者」として見つめています。しかし、この後、マーガレットは保守的なイタリア社会権力の恐ろしさを身をもって味わうことになるのですが…

マーガレットが身を置く世界、それはカトリックという宗教的保守勢力の本拠地。ブレナン神父はその中で蠢く陰謀を説明します。世俗主義の台頭によって権力を失うことを恐れた教会内の急進派が「反キリスト」を生み出して世に送り込むことで、恐怖をばらまき、宗教の支持を増やそうとしている…と。

これ、本当にそのまんま、今の現代社会で起こっていることですね。例えば、2020年代は「ジェンダー・イデオロギー」なるものが世界の秩序を脅かしていると不安を煽り、トランスジェンダーへの敵意をばらまいて、恐怖で宗教の権力を拡大しようとしていますし…。

そして『オーメン ザ・ファースト』では、具体的には女性の身体の自己決定権が奪われています。あのマーガレットが身を置く孤児院では、未婚で妊娠した若い女性のための出産支援クリニックもやっているのですが、その実態は悪魔の子を宿して産ませる場でした。

作中では実際に悪魔の子が産まれるシーンが生々しく映り、出産ボディホラーとして強烈なショットがあり、あそこだけでも見ごたえがあります。

マーガレットも妊娠させられ(シチュエーションとしてはレイプも同然)、2人の子を受胎することになり、うちひとりがあのダミアンとなって…。

”アルカシャ・スティーブンソン”監督は、2015年の短編映画『Vessels』で、適切な医療ケアを受けられず、危険な手術にしか頼らざるを得なくなってしまったトランスジェンダー当事者を追いかけたドキュメンタリーを制作しています。この『オーメン ザ・ファースト』もまさにその現実問題をフィクショナルなオカルトに置き換えたものと言っていいでしょう。

女性の身体の自己決定権が保守的な勢力によって剥奪され、都合よく身体を利用され、女性らしく「産む」ことを強要される。『オーメン ザ・ファースト』は現在進行形の反中絶・反トランスの世相を色濃く反映したホラー映画です。

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反キリストを悪用する存在にこそ注意せよ

『オーメン ザ・ファースト』は、古い物語にいくつかの新しいひねりをちょっと加えた程度では終わらず、テーマを根本的にひっくり返すようなことすらも躊躇しない、非常に大胆な前日譚でした。

初期作はそもそもが「反キリスト」の恐ろしさを描くという、ある意味ではとても宗教的に警告となるような模範的な「怖い話」なわけです。社会には反キリストが潜んでいるから気を付けましょうねという信仰者としての正しい認識を強めるような…。

対する本作は、それを逆転させ、むしろ「反キリスト」なるものを利用しているのは宗教権力そのものなのだというかなり直球の宗教批判です。保守的な宗教の偽善を暴く話です。

この『オーメン ザ・ファースト』の物語を踏まえると、『オーメン』シリーズのその後の展開も意味合いが変わってきます。シリーズにてダミアンはどんどん権力に近づき、一応は1作目では大統領に最も近いポジションに到達します。国の権力が反キリストに乗っ取られる!という恐怖ですね。

しかし、『オーメン ザ・ファースト』の前提で見直すと、保守的宗教勢力はわざと反キリストを国家の中枢に忍ばせたことになり、これは意図的な策略…つまり、反キリスト的な悪意のある人物が国のトップになることで、世界はより宗教に依存するようになるという壮大な作戦となります。

アメリカ大統領を目指す”ドナルド・トランプ”の聖書を販売し始めたというニュースをつい最近目にしたばかりだったのでThe Guardian、こんな映画とかっちりシンクロするとはね…。

しかも、ローマ教皇フランシスコによるトランスジェンダーの性別適合手術を含むジェンダー・アファーミング・ケアや代理出産を否定する文書が報じられたばかりでもありますPinkNews

いずれもキリスト教ナショナリズムってやつです。

なんだろう、みんな『オーメン ザ・ファースト』を宣伝したいのかな?

もちろん、アメリカで人工妊娠中絶権は合憲だとしてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆す判断が2022年に最高裁で示された一件も無視できません(『コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話』も参照)。

『ローズマリーの赤ちゃん』などを原初とする悪魔の子を宿してしまう系のホラー映画の系譜。それらが、この2020年代に「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)」の危機を描く映画へと役割を明確に変化させています。『オーメン ザ・ファースト』と同質の宗教施設によって恐ろしい出産を強いられる人々を描いたホラー映画『Immaculate』がアメリカでは同時期に公開されたのも偶然とは言えません。そういう時代なのです、今は。

その意趣返しでドラマ『グッド・オーメンズ』みたいな作品も生まれているし…。

『オーメン ザ・ファースト』は、ラストはマーガレットとカルリータ、そして新たに生まれた女の子、このメンバーがあの計略が順調に進行中であることを知って終わりです。この後の物語をマーガレット視点で描くことで政治的視点が全く異なる『オーメン』ワールドが拡張できるでしょう。

悪魔を利用する輩はうじゃうじゃいますかね。闘いはこれからです。

『オーメン ザ・ファースト』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 68%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved. オーメン ザファースト

以上、『オーメン ザ・ファースト』の感想でした。

The First Omen (2024) [Japanese Review] 『オーメン ザ・ファースト』考察・評価レビュー