この世界に適応できるかは知りません!…ドラマシリーズ『フォールアウト』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にAmazonで配信
原案:グラハム・ワグナー、ジェニーヴァ・ロバートソン=ドウォレット
ゴア描写 性描写 恋愛描写
ふぉーるあうと
『フォールアウト』物語 簡単紹介
『フォールアウト』感想(ネタバレなし)
あなたも「Vault」の仲間です!
2023年は『THE LAST OF US』によってゲームを基にした実写ドラマの傑作の幕開けとなり、ゲーム原作映像化には幸先のよい1年となりました。
2024年のゲーム出身の大作ドラマはこの作品がデカい一発を放てるでしょうか。
それが本作『フォールアウト』です。
原作となったのは、現在は「ベセスダ・ソフトワークス(Bethesda Softworks)」によって開発されている「Fallout」というゲーム・シリーズ。1997年に1作目が発売され、2015年に「Fallout 4」、2018年にはオンライン特化の「Fallout 76」と、フランチャイズは継続し、多くのファンに愛されています。
内容は、タイトルの「fallout(放射性降下物)」のとおり、核戦争が起こって文明が崩壊した世界を舞台にしており、どことなく冷戦下の名残を感じさせつつ、そんなヤバイ大地で生きる人たちのひとりとなってサバイバルするRPGです。
「なんだよ、ポストアポカリプスか…。そういうのもう飽きるくらいにいっぱい観てるよ…」と思ったあなた。この「Fallout」の魅力をまだわかっていませんね。この作品の特徴は終末世界で明らかに絶望的で殺伐としているにもかかわらず、そこで暮らしている人たちの妙にシュールなユーモアだったり、変な生活感だったりします。これが癖になり、この世界にハマる人が続出しました。
原作ゲームのその特徴はしっかり今回の実写ドラマにも引き継がれており、映像化してド派手になった中で、ちゃんと不謹慎に残虐な描写が連発したり、笑っていいのかわからない絶妙な展開が起きたり、「Fallout」っぽさが随所にあります。
ということで本作『フォールアウト』は、ほぼコメディなノリで気軽に楽しめます。要所要所でシリアスです。
なお、とくに特定のゲーム作品を実写化しているわけではなく、今回のドラマ版は世界観は共有しつつもオリジナル作品となっています。なのでゲームプレイ済みの人でも新鮮に物語展開にワクワクできるはず。
このドラマ『フォールアウト』のショーランナーは、ドラマ『Portlandia』の“グラハム・ワグナー”、そして『キャプテン・マーベル』の脚本家の“ジェニーヴァ・ロバートソン=ドウォレット”。
製作総指揮には、“ジョナサン・ノーラン”や“リサ・ジョイ”といったドラマ『ウエストワールド』やドラマ『ペリフェラル 接続された未来』などを手がけてきた“クリストファー・ノーラン“ファミリーのクリエイティブ・チームが主導しているのですが、シリアスさよりもコメディに寄って見やすくなっているのはやっぱりショーランナーの作風センスなのかな。
俳優陣は、主人公のひとりを演じるのは、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』やドラマ『イエロージャケッツ』の“エラ・パーネル”。新たな代表作になりました。
そしてもうひとりの主人公を演じるのが、『自由への道』やドラマ『Next』の“アーロン・モーテン”。こちらもこの世界をエンジョイしていきます。
さらに、『ジャンゴ 繋がれざる者』の“ウォルトン・ゴギンズ”、ドラマ『ツイン・ピークス』でおなじみの“カイル・マクラクラン”、『サマリタン』の“モイセス・アリアス”、ドラマ『ホイール・オブ・タイム』にでていてノンバイナリー俳優の”シェリア・メンデス・ジョーンズ”、『アメリカン・フィクション』の“レスリー・アガムズ”、ドラマ『セヴェランス』の“ザック・チェリー”など。
ドラマ『フォールアウト』は「Amazonプライムビデオ」で独占配信中。シーズン1は全8話で、1話あたりは約50~70分ほど。一気に観るも良し、こつこつ観るも良し。ドラマは攻略スキルも必要なく、ただ眺めているだけでもクリアできますから…たぶん…。
ドラマ『フォールアウト』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ゲーム未プレイでも |
友人 | :ゲーム好き同士で |
恋人 | :気楽に満喫 |
キッズ | :残酷描写が多め |
『フォールアウト』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
アメリカと敵国との和平交渉は決裂したと報じるテレビを消し、カリフォルニアの街並みが見える小高い丘の邸宅で、子どもの誕生日パーティする裕福そうな家庭。ハリウッドの有名俳優であるクーパー・ハワードがカウボーイ・スタイルで参加者を楽しませていました。同席していたクーパーの幼い娘ジェイニーは父がグーサインしない理由を質問します。それはクーパーが軍兵時代に爆弾の規模を判断するサインとして使っていたもので、あまり良い印象がないと言います。
そのとき、ジェイニーは街の空が光ったのを目にします。親指では測れないほどの巨大なキノコ雲。爆風が一瞬でこちらまで届き、阿鼻叫喚。シェルターに避難する人たちもいる中、クーパーは娘を抱えて馬で逃げます。さらにあちこちで核爆発が起きており…。
219年後。「Vault33」では、ルーシー・マクレーンという若い女性が自分の技能、家族との良好さ、そして健全な生殖機能をアピールし、面談していました。朗らかに「3年に1度のVault32とのトレードに応募します」と宣言。結果は腕の端末「ピップボーイ」にすぐ届き、結婚申請承認と通知されました。
ルーシーはこの「Vault33」の監督官であるハンクの娘。家族は他にはビビリで皮肉屋の弟ノーマン(ノーム)だけ。母は亡くなっています。
「Vault」は地下シェルター居住区です。ずっとこのコミュニティで生活してきました。隣の「Vault32」とは隔離されており、普段は一切交流がありません。
ついに結婚してここを旅立つときなのです。ウェディングドレスを着て興奮を抑えきれない様子で式場へ。それはスタジオに投影された田園風景でした。
父のハンクは娘の花嫁姿に満足そうです。みんな通路を歩き、扉へ。会ったことがない相手との対面は緊張します。扉担当のいとこのチェットは名残惜しそうです。
「32」と書かれた重い回転扉が開き、「Vault32」の監督官リー・モルデイヴァーが感謝を述べて現れました。ルーシーの結婚相手はモンティという男です。
両者揃って「Vault33」で食事会が催されます。ハンクは「地上の放射線レベルは急速に低下しており、この2人の子どもたちは地上に出られるはずです。文明を再開する再生の日に、私たちは地上の生存者に模範を示さねば」と決意を述べます。
ルーシーは食事を抜け出し、モンティを部屋に案内し、2人はさっそく交わります。
一方、ノーマンは「Vault32」のエリアに行き、そこが壊滅状態だと知ります。まるで相当昔に廃墟になったようです。
その頃、ルーシーは叫びを耳にします。端末は放射線を検出し、モンティは地上から来たレイダーだと気づきます。急に襲ってくるモンティ。ルーシーは腹部を刺されてしまいますが反撃し、モンティに致命傷を与えます。
会場は血祭りでした。ルーシーと父は扉破損の通知を受け取り、急いで現場へ。武装集団が待機しており、襲撃者のリーダーであるモルデイヴァーは「母親そっくりね」とルーシーを見つめ、父を誘拐してしまいました。
ところかわって、「BOS(鋼鉄の同志)」と呼ばれるウェイストランドの警備を自称する組織に属するマキシマス(マックス)は、同期の訓練生に殴られていじめられていました。しかし、昇進したデインが足を負傷したことで、自分が憧れの重装備兵ナイト・タイタスの補佐役であるスクワイアになれることになります。任務の標的はエンクレイヴから逃げたある眼鏡の男と犬だそうです。
同時期、ルーシーは父を探すべく、ベティやウッディたちの反対を押し切って、単身で外の扉へ行き、地上に出ます。
まだ何も真実を知らずに…。
シーズン1:みんな愛嬌がある
ここからドラマ『フォールアウト』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『フォールアウト』は、終末世界だけど絶妙にシュールなユーモアとバイオレンスに満ち溢れてて、不謹慎ながら楽しいです。ある意味で、こんな世界だからこそ開き直りでもしないとやってられないよ!という魂の叫びが行動にでているとも言えるような…。
この作品はモブキャラだって魅力的で好きになってきます。
秘密結社エンクレイヴの研究施設から逃走した眼鏡研究者のヴィルツィヒはあっけなく片足を吹っ飛ばされ、自分の頭部だけ持っていってくれと随分と潔く首チョンパされるし…。一方で、ドーベルマンのあの犬はやけに生存能力が高く、いろいろな人についていきながらちゃっかり生き残っていくし…。
マキシマスが最初に補佐するBOSのナイト・タイタスも4コマ漫画のオチ並みで残念醜態を晒し、きっちりこちらの憧れを打ち砕いてくれます。そのマキシマスがナイト・タイタスのふりをする中、後からやってきたサディアスのへこへこっぷりも…。アイツはアイツでナイト・タイタスの羨望を最悪な形で粉々にされただろうな…。グールになっても元気にやってくれそうです。
ルーシーのいとこのチェットは妊娠した「Vault32」の暫定監督官となったステフ(ステファニー)の家政夫みたいなポジションに流されるままに収まっているし…。「Vault4」の監督官であるひとつ目のベンジャミンも愛嬌があります。
ロボ勢もいいですよね。指の接着から臓器摘出までどんな家事もこなせるお茶目なロボット「Snip Snip」(クーパーの友人のセバスチャン・レスリーの声)。「Vault31」の監督官で脳だけであとはこじんまりした掃除機並みの移動能力しかない「Brain-on-a-Roomba」(バド・アスキンス、あれだけ大口叩いていた理想の成れの果てはこれなのかよ!というツッコミ待ち)。
カオスな世界なのに、好きになっちゃうじゃないか…。
シーズン1:共産主義、資本主義、そして…
そんなドラマ『フォールアウト』ですが、ただふざけまくっているだけじゃない、SFとしてしっかり社会構造を批評してくれるのも頼もしいです。
世界崩壊の事件が起きる前、情勢としては冷戦状態にあり、アメリカは「アカ狩り」が行われるほどに共産主義者への敵対心が日常化しています。しかし、この「共産主義」という言葉は自分が気に入らない相手を排除するためのレッテルにすぎません。
この時点で、アメリカ、そして世界では着々とある計画が進行していました。その全貌が明らかになるのは「Vault-Tec」で行われる世界のテクノロジー企業を集めた会議。そこで「Vault」という隔離居住区を使えばどんな非人道的な実験でもやりたい放題ですよという「世界の終わりは稼げる!」ビジネス提案がなされます。共産主義を危険視する裏で資本主義のヤバさが暴走していました。
今作ではその世界の真相を見つめていた存在として、クーパー・ハワードというキャラクターを見事に活かしていました。彼は典型的な保守的アメリカ思想を体現していたのですが、ハリウッド・フォーエバーでモルデイヴァーに諭され、あろうことか自身の妻であるバーブが「自ら爆弾を落として世界を滅ぼそう」とプレゼンする声を盗聴で把握。愛国心や家族愛などというアメリカが象徴とする概念に失望した古き英雄の残滓としてこのグールの行く末が気になります。
そして共産主義と資本主義の悪いところを凝縮したような存在が最後の最後に正体を現します。ルーシーの父であるハンクは「派閥の争いならそれごと消せばいい、独占するしかない」と“優しく”語り、ルーシーの母ローズや新カリフォルニア共和国のシェイディ・サンズの街を吹き飛ばしたことも「Vault」の非倫理的管理実験も正当化します。まさに独裁主義(またの名を家父長制)です。「良い独裁もあるんだよ」なんて趣旨のことを言われてルーシーは納得…するわけもありません。
その中、この物語の若き主人公であるルーシーとマキシマスの2人。この2名に共通するのは良心があるということ。しかし、完璧な善人はいないとおり、この2人だって後ろめたさや罪悪感を抱えています。自分の愚かさも思い知っています。体制に流されず、信念を貫けるか…正念場はこれからです。
フェラルになった母を撃って苦しみを終わらせ、支配者がいると語るクーパーについていったルーシー。ルーシーとの共同生活を誓い合うも彼女に置いていかれ、またも誤解の中でナイト・タイタスとして崇められることになったマキシマス。真実を知るも「Vault31」に閉じ込められたポッドで休眠する選択肢を突きつけられたノーマン。
ドラマ『フォールアウト』は魅力が爆発した素晴らしい出だしとなりました。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 93% Audience 84%
IMDb
8.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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ゲームを映像化した実写ドラマシリーズの感想記事です。
・『HALO』
作品ポスター・画像 (C)Amazon 実写フォールアウト
以上、『フォールアウト』の感想でした。
Fallout (2024) [Japanese Review] 『フォールアウト』考察・評価レビュー