Divines
Netflix映画『ディヴァイン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Divines
製作国:フランス・カタール(2016年)
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信
監督:ウーダ・ベニャミナ 

ディヴァイン

あらすじ

パリ郊外のスラムで自堕落な母親と暮らす10代の少女ドゥニア。彼女は不満を周囲にぶちまけながら、親友のマイムナと一緒に盗んだ商品を売りさばいて日銭を稼いでいた。やがて2人は地元のドラッグディーラー、レベッカの仲間となり、売人として荒稼ぎするようになっていく。

ネタバレなし感想

知られざるパリの裏側

フランスのパリ。観光情報サイトをのぞけば、なんとも魅惑的な紹介のされ方をしています。誰もが魅了される、美しい街並みに包まれる、エレガントな生活に飛び込める…そんな言葉。

「花の都・パリ」なんて言いますが、フランスの首都であるパリにはスラム街があることを知っている日本人はあまりいないのではないでしょうか。

パリには中心部から離れたところに移民街が昔からあります。アフリカ系、ユダヤ系、アラブ系、インド系、パキスタン系、アジア系といった感じで人種ごとに別れた移民街は独自の文化や社会を形成し、中心部の富裕層とは異なる世界に生きていました。もちろん、観光ではこんな場所はあまり訪れることもないでしょうが、でもこれもひとつのパリの姿です。

しかし、近年はこうした移民の住む地域がスラム化する傾向がみられ、治安悪化の温床となっていることが問題視され始めました。これはパリだけでなく、他のヨーロッパの多くの都心部でも同様な状況です。つい先日も起きていましたが、ヨーロッパの都会で発生するテロ事件も、こうした社会的背景があるのです。

そんなパリの底辺で暮らす人々の切実な現状を、美しく儚い映像とエネルギッシュな役者陣で描いた映画が本作『ディヴァイン』です。

本作はすでに高い評価を獲得しています。『淵に立つ』が“ある視点部門”の審査員賞 、『レッドタートル ある島の物語』が“ある視点部門”の特別賞を受賞した第69回カンヌ国際映画祭で、本作は新人監督に与えられるカメラ・ドールを受賞しました。フランス映画なのでどうしたって日本国内での知名度は低いですが、見逃しているのはあまりにももったいない名作です。こういうのを“隠れた名作”と呼ぶのでしょうね。

え、でも劇場でこんな映画、やっていたかな…。はい、上映していません。『ディヴァイン』はNetflixオリジナル作品。Netflixオリジナルといえば『最後の追跡』を先日、感想をアップしましたが、『最後の追跡』がアメリカの「持たざる者」を描く映画なら、本作『ディヴァイン』はパリの「持たざる者」を描く映画といえます
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正直、パリに夢を見ているような人であればあるほど、本作のインパクトは相当に衝撃的で、ハッキリ言えば幻滅するレベルの影響力があるかもしれません。でも事実なのですからしょうがない。いや、描かれる登場人物のエピソードはフィクションであるのはそうなのですが、でもその土台や背景はリアルそのもの。

私は「架空のパリ」よりも本作の「本物のパリ」を見る方が価値のあることだと思います。変な話ですよね。観光で現地に行くよりも、映画を観る方が“本物”を知れるというのは。でもこういうことってあるものです。考えてもみてください。日本に来ているたくさんの外国人観光客が日本で起きている社会問題を理解していると思いますか。そういうものじゃないでしょうか。その国の表面上を楽しむのと、内部までしっかり理解しようすること…この2つは別物であり、当然、そうしたいときのアプローチも変わってくる。

要するに言いたいのは、映画というのはときに「現地に行く」以上の価値をもたらすこともあるということです。

今の社会情勢を見ていると、こういう「持たざる者」を描く作品が特別に響いてくる気がします。彼ら彼女らの見えない叫びを、せめて映画の中だけでも聞いてあげてください。

予告動画







↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

彼女は一部でしかなかった

本作の原題「Divines」は「聖職者」といった神や宗教的な意味のある単語です。実際、本作の冒頭は、祈りを捧げるイスラム教の人々のカットから始まります。

貧困など辛い環境下で人の心を救えるもの…それはある人にとっては宗教であり、ある人にとっては教育であり、ある人にとっては親や友人など人とのつながりです。教育の力で貧困から希望を見い出す映画だったら、私は『プレシャス』(2009年)が好きです。


しかし、そんな全てに背を向けているのが、本作の主人公ドゥニアでした。彼女が見据えていたものはドラッグの売人、要するに金です。劇中ではドゥニアは普段は普通の子どもという感じですが、ひとたび金が絡むとは恐ろしいほど金に執着していました。

金への執着をむき出しにするドゥニアは確かに醜いし、ましてやダンサーの青年ジギの招待を無下にするのは酷いです。夢を追いかけるジギをみて、彼女も夢に憧れるのかなと思ったら、夢より金をとる…彼女の選択は今の底辺に生きる人々の現実なのかもしれません。「大事なのは金ばかりじゃない」と上から目線で彼ら彼女らを責められるのは、底辺じゃない豊かな人間だけなのでしょう。

私なんかはそんな超裕福な家庭でもないので、子どもの時に手に入るお金はお小遣いのわずかな金額のみ。お金に執着するどころか、どこか畏れ多いような感じでおっかなびっくりで取り扱っていたかもしれません。でもそれもよく考えれば恵まれていたことなんだなと今は思います。

「お金なんて“普通に”働けば手に入る」…そう言えてしまう人はすでに裕福なんですね。

ドゥニアは違う。その“普通”が手に入らない。その現実が重くのしかかる一作でした。

Divines

ただ、本作は決して底辺のキツイ暮らしばかりを描く作品ではありません。むしろどん底的な描写は少なめで、華やかでエネルギッシュなシーンが印象に残ります。それを中心で支えるのは、主人公のドゥニアになりきったウラヤ・アマムラの熱演。幼稚、妖艶、希望、絶望…さまざまな顔を七変化でみせる彼女は間違いなく本作の一番の魅力です。

そういう意味ではこの映画のフォーマットはシンプルで、底辺から這い上がろうとする若者の奮闘の物語です。そこには腐りきった社会でも生きる希望をなんとかがむしゃらにたぐりよせて前進する若者のエネルギーがありました。これだけでも見ていて少し勇気がもらえます。私たち観客も同調して一緒に頑張るような…

彼女ならこのどん底でも希望を見つけて生きられる…そんな感じを漂わせつつ、でも本作はそんな甘いお話しじゃありませんでした。

ドゥニアにも観客にも、最後にドーンと現実を突きつけられるラストはショックです。消火活動しない消防士、警官隊と衝突する移民たち…ドゥニアだけの人生を描いてきたこの映画の世界がグワッと拡大する瞬間です。不満を抱えているのはドゥニアだけではないんだと実感させられると同時に、この問題の解決が容易ではないことが嫌と言うほど刻まれます。ここまで救いのない終わり方にするのかと正直驚きましたが、これが現実なんですよね。

『ディヴァイン』は、金だけが自分を救ってくれると信じて疑わない無邪気な個人への天罰の物語と思わせて、実は金も社会も救ってくれない人々の絶望の物語でした。じゃあ、一体だれがこの者たちを救ってくれるのですかと突きつけるようなラストの展開。ドゥニアと観客を一体化させるようなそれまでの映画の流れが一転、やっぱり観客のあなたたちもドゥニアとは違うでしょう?と突き放すエンディング。

本当に天罰を受けるべきは誰なのでしょうか。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 72%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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作品ポスター・画像 ©Netflix