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韓国映画『ハント Hunt』感想(ネタバレ)…新人のイ・ジョンジェ監督です

ハント

よろしくお願いします…映画『ハント』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Hunt
製作国:韓国(2022年)
日本公開日:2023年9月29日
監督:イ・ジョンジェ

ハント

はんと
ハント

『ハント』あらすじ

1980年代、韓国は揺れていた。安全企画部(旧KCIA)の海外班長パクと国内班長キムは、機密情報が「北」に漏れたことから、組織内にスパイがいることを告げられる。組織内の人間全員が容疑者という状況の中、パクとキムはそれぞれ部下とともに捜査を開始する。二重スパイを見つけなければ戦争の可能性もありという緊迫した状況下で、スパイを見つけ出すことができないパクとキムは互いまで疑って監視するようになるが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ハント』の感想です。

『ハント』感想(ネタバレなし)

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新人…なんですか?

映画業界には毎年たくさんの「新人」が現れ、新しい才能を輝かせています。初々しい「新人」を見られるのは楽しいです。「新人」が盛況ということは業界の未来にも光が差し込んでいる証ですから。

でも今回の「新人」はなんかどこかで…。あれ…? あなた、新人でしたっけ?

その人とは、映画『ハント』で監督デビューした“イ・ジョンジェ”です。

イ・ジョンジェ…イ、ジョンジェ…あの“イ・ジョンジェ”? そうです。あの“イ・ジョンジェ”です。

もともとファッションモデルだったのですが、1993年に俳優として活動を始め、1994年の『若い男』で高い評価を受けて、新人賞を獲得。1999年には『太陽はない』での演技が称賛され、青龍映画賞の主演男優賞を史上最年少で受賞して、俳優キャリアの勢いが増します。

『タイフーン/TYPHOON』(2005年)、『ハウスメイド』(2010年)、『新しき世界』(2013年)、『暗殺』(2015年)、『サバハ』(2019年)、『ただ悪より救いたまえ』(2020年)と、出演作を重ねていく中、キャリアの特大級の躍進となったのが、言うまでもなく2021年のドラマ『イカゲーム』。このムーブメントを巻き起こした大ヒットによって、“イ・ジョンジェ”の名は世界に知れ渡り…。

今や世界からも声がかけられまくりな“イ・ジョンジェ”ですが、なんと2022年に監督デビューまで果たしました。一体どこまで飛び立っていくんだ…。

この監督デビュー作となった『ハント』ですが、そもそも主演作として予定されていた映画で、でも製作が停滞してしまい、「じゃあ自分が製作も脚本も監督もします!」ということで完成したのだとか。なんか…放っておけなかったのかな…お人好しというか…。

そんな成り行きゆえに、たぶん“イ・ジョンジェ”自身は「今後は監督業もやっていきます!」みたいな方針はないと思うのですけど、なにせ『イカゲーム』で世界的ブレイクしてのタイミングのいい監督デビューだったので注目度が抜群でした。

『ハント』はカンヌ国際映画祭でも招待され、韓国国内でも「新人監督賞」を受賞するなど評価は上々。それにしても「イ・ジョンジェが新人監督賞」っていうフレーズは違和感がすごいですね…。

その『ハント』ですが、映画自体の内容はポリティカル・サスペンス・アクションです。「国家安全企画部」…これは昔の中央情報部(KCIA)、今の大韓民国国家情報院…つまり韓国の大統領直属の情報機関・秘密警察ですね…その組織に属する2人の男が主人公。

この2人の男が組織内部に潜むとされるスパイを探す過程で、互いを疑って異なるイデオロギーがぶつかり合う、男と男が疑心と信頼の狭間で複雑に絡み合うような『インファナル・アフェア』的なストーリーです。

しかし、本作『ハント』は韓国の実際の歴史をバックグラウンドにしており、結構この歴史のリテラシーを求められます(1980年代の韓国が舞台だというだけで、わかる人は察しがつきますが、かなり史実の出来事が絡み合った物語です)。“イ・ジョンジェ”監督もそこを気にしていたようで、韓国の歴史に詳しくない海外の人は理解してくれるのか、あれこれ考えたとか。

もちろんこの歴史要素が本作の面白さでもあって「え? 史実とそんなふうに絡んでいくの!?」という驚きを与えてくれます。一応、後半の感想ではこの史実を整理しているので、わからないときは参考にしてみてください。

本作『ハント』はアクション面もかなりド派手で、銃撃戦と爆発がガンガン盛り込まれているので、単純にエンタメとしても見ごたえはあると思いますが…。

“イ・ジョンジェ”と対峙して渡り合う俳優は、『アシュラ』『無垢なる証人』“チョン・ウソン”。共演は、『白頭山大噴火』“チョン・ヘジン”『ヒットマン エージェント:ジュン』“ホ・ソンテ”、ドラマ『Sweet Home 俺と世界の絶望』“コ・ユンジョン”など。

それに加えてびっくりするような豪華なサプライズゲスト俳優が参加していて、これは“イ・ジョンジェ”の人望のなせる技でしょうかね。どんな人がいるのかは鑑賞してのお楽しみ。めっちゃ目立つので韓国映画界隈が好きな人ならすぐにわかります。

十回聞くより一度見よ。いたるところで“イ・ジョンジェ”尽くし。“イ・ジョンジェ”のサービス満載な『ハント』で、身も心も狩られちゃってください。

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『ハント』を観る前のQ&A

✔『ハント』の見どころ
★息もつかせぬサスペンスと急展開。
★歴史を揺るがす驚きの物語。
✔『ハント』の欠点
☆韓国の歴史の知識がある程度求められる。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:俳優ファンは必見
友人 3.5:スリルを共有
恋人 3.5:恋愛要素なし
キッズ 3.0:残酷描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ハント』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):スパイは誰だ

1983年、アメリカのワシントンD.C.にて韓国の全斗煥大統領が外交で重要な政治会談を行っていました。しかし、穏やかな空気ではありません。

軍事独裁政権へと変貌させた全斗煥大統領に反発する在米韓国人の人たちが、韓国の民主化を求める抗議運動を建物前で実施。大統領を模した人形を燃やし、勢いが増しています。

韓国の情報機関である国家安全企画部に属する海外班長パク・ピョンホのチームはその抗議運動を前に対処を求められていました。同じ組織所属の国内本部長のキム・ジョンドも一緒です。

そこにCIAから建物の上階で危険人物を捉えたという報告が入ります。急いでパクとキムも現場へ直行。劇場で銃声がして、周囲がパニックになる中、銃撃戦になります。

階段を駆け上がり、逃げるターゲットを追うパク。相手は躊躇なく銃を乱射し、爆発物まで使って追っ手を振り払おうとしてきます。

パクは相棒のパン・ジュギョンと共に爆発で分断されますが、なんとか逃走者に追いつきます。人質にされるパクでしたが、隙を見て振りほどき、キムは相手を撃ち殺しました。躊躇ないキムの行動にパクは少しピリピリしますが、その場はとりあえず収まりました。

ところかわって韓国では、現政権への不支持を主張するデモ行動をする大衆が警察部隊と衝突。催涙弾を使いながら、誰かれ構わず殴りつけていく警察側に怯えていました。

それに巻き込まれるようにチョ・ユジョンという若い女性も一時勾留されてしまうのですが、そのチョを解放させたのはパクでした。仲間からは親子だと思われますが、チョは「私の父なんかじゃない」と言い、パクも夕食も食べずにカネだけ置いてでていきます。

本部に戻ったパクは組織内に「トンニム(Donglim)」として知られる北朝鮮のスパイがいることを知ります。韓国大統領の暗殺を企てているらしく、機密情報が北朝鮮に漏れた以上、上司は激怒を隠しません。

組織内の人間全員が容疑者であり、パクとキムはそれぞれ部下とともに捜査を開始します。

キムのやりかたは拷問のような尋問です。パクはその行為を眺めるしかできません。

パクはキムの家で食事をごちそうになりますが、妻の前であまり口にするべきではないことを言ってしまい、少しここでも空気が悪くなります。

パクは他にもやることがありました。亡命を求めて日本にいる北朝鮮の核物理学者の逃亡にも取り組まないといけません。日本で活動する専用のチームを作り、北朝鮮に先を越されるとマズいので急ぎます。エージェントのヤンはタクシー運転手を装い、パクに制止も無視して大胆にターゲットに接近。なんとか回収し、車を走らせるも追ってきた男たちに撃たれまくり、激しいクラッシュ。失敗に終わったことを把握したパクは、ターゲットの妻と娘を置き去りにして、銃撃戦の現場に直行し、収拾にあたります。

この失態をトップに叱責されますが、パクは言い返し、上司の顔を殴りさえして堂々とした態度を崩しません。

そんな中、韓国を騒然とさせるような事件がいきなり勃発し、またしても国家安全企画部は騒然となり…。

この『ハント』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/02/05に更新されています。
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朝鮮半島の政治情勢の背景

『ハント』は前述したとおり、韓国の実際の歴史をバックグラウンドにしているため、ある程度のリテラシーがないと「どういうこと?」と混乱する部分も否めません。

舞台となっているのは1980年代の韓国。政治の中枢にいる“全斗煥”大統領が重要な影のキーパーソンです。

“全斗煥”(チョン・ドゥファン)は、もともと軍人でしたが、1979年10月26日に韓国で当時の大統領であった”朴正煕”が”金載圭”大韓民国中央情報部部長によって暗殺される事件が発生。この捜査を指揮する中で、クーデターを実行し、政権を掌握し、大統領の座につきました。

こうして事実上の軍事独裁政権状態となり、“全斗煥”大統領は戒厳令を使って労働争議や学生デモを粛清し、強硬な手段にでました。有名なのが、光州で起きていた民主化要求デモを鎮圧するために陸軍部隊を送って多数の市民が虐殺された「光州事件」『タクシー運転手 約束は海を越えて』でも題材になっている)。

『1987、ある闘いの真実』で描かれるように1987年に民主化を勝ち取るまで、韓国国内は非常に弾圧的な政権の恐怖に怯えることになりました。

『ハント』で描かれる国家安全企画部のパクとキムはこの“全斗煥”大統領に忠誠を誓う職業的立場です。しかし、どうやらこの2人は大統領に単純に従っているだけの奴ではないっぽいぞ…ってところが本作のサスペンスになってくるわけですが…。

『ハント』は歴史的なバックグラウンドがあるのは確かですが、歴史どおりではなく、史実に沿った部分が半分、もう残りはフィクション…みたいな感じのバランスになっています。

まず序盤のワシントンでの盛大な暗殺未遂ドンパチですが、これはまるっきりのフィクションで、実際は“全斗煥”大統領の初訪米は1985年なので、こんなことは起きていません。

他にも作中で何度も派手なドンパチが起きますが、大半はフィクションです。でもこれらは最後の展開への言わば緊張感の溜めなんですよね。

そんな中、北朝鮮空軍のひとりのパイロットが突然戦闘機で亡命してくるという大胆不敵な事件が起きますが、これは史実どおり。でも本作ではそのパイロットをまさかの“ファン・ジョンミン”がノリノリで演じていて、「あれ、なんか別の映画が始まったのか?」ってくらいにふざけていて面白いです。

そして終盤のついにあれが起きます。大統領暗殺未遂の最大の事件が…。これは大まかに言えば本当に起きた出来事(アウンサン廟爆破事件)なので、ここまでのフィクションを重ねてきて一気に実際の事件を見せて度肝を抜かせてきます。

とは言え、この終盤も脚色だらけで、まず映画では舞台はバンコクですが、実際はミャンマーで、しかも大統領は間一髪で直接狙われることはありませんでした(ただ閣僚の死亡者は多数でた)。

映画では歴史を知っている人ほど「史実とは違う空気があるぞ…これ、もしかして大統領が本当に殺されるのでは?」という未知の歴史を目撃するかのような緊張感がでてきます。史実を知っているからオチが読める…とは言い切れない…あの終盤の張りつめたサスペンスは本作ならではでしたね。

「もし1983年に大統領が殺されていたら、韓国は平和になっていたのだろうか?」…という、難しい問いかけをしているわけですし、それはあのパクの心理的な葛藤そのものでもあります。

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2人は同じ未来を見ているのか

そんな史実とフィクションが交差し合う『ハント』の物語を引っ張る主人公は、国家安全企画部のパクとキム。この物語の概要だけ目にすれば、すぐに「この2人のどちらかがスパイなんだろうな」というのは察しがつきます。ただ、実際の真実はもっと複雑でした。

パクは反政府デモとも関わっている若い女性チョ・ユジョンと謎の関わりがありましたが、実はチョの父と共に北朝鮮のスパイでした。しかし、パク本人はこれ以上の戦争を望んでおらず、北朝鮮側の企みが「オペレーション・フレア」というさらなる戦争の悪化を招くことを知ると、北朝鮮側にさえも反旗を翻します。

一方、淡々と残虐な尋問を指揮していたかのように見えたキムですが、実は彼は韓国の現政権に不信感を持っており、大統領の暗殺というクーデターを首謀していることが発覚。パクは北朝鮮側とは通じておらず、完全に韓国の民主化を願う自国民の代表のひとりです。

互いの素性を知ったうえで、キムはパクを引き込み、あのバンコクでの運命の瞬間を迎えるのですが…。

この終盤は、史実では大統領暗殺は北朝鮮側の策略でしたが、映画では北朝鮮側のスナイパーとキム側の暗殺チームの双方が入り乱れており、非常に状況が混線しています。結果、大統領暗殺はさらなる自体の悪化を起こすとの考えに至ったパクは、北朝鮮側もキム側も食い止めてしまうのですが、それは本当に良いことだったのかは本人もわからず…。

でもラストでは裏切り者として北朝鮮側に殺されてしまうパクですが、チョ・ユジョンにはスパイではない道を残してあげます。未来のために暴力を止める…その一歩を信じる姿がそこにありました。

ということで“イ・ジョンジェ”監督、史実をエンターテインメントに部分的に変えながらも政治的に切り込むという真面目なメッセージを崩さない、見事な手腕を発揮したのではないでしょうか。

日本も公安とか自衛隊とかをかっこよく描くんじゃなくて、こういう複雑な政治的葛藤を描く作品が吹てほしいところです。

“イ・ジョンジェ”は監督はこれで終わりなのかはわかりません。すでに『イカゲーム』のシーズン2が動き出し、『スター・ウォーズ』の新作ドラマ『The Acolyte』でも主演が決まって撮影済みだったり、これからもいろいろ見られそうです。本人いわく次回作では廃棄物などのゴミを題材にした国際的な格差を描く作品も考えているらしく、まだまだ“イ・ジョンジェ”に振り回される嬉しい時間が続きますね。

『ハント』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 67% Audience 79%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

“イ・ジョンジェ”出演の映画の感想記事です。

・『ただ悪より救いたまえ』

・『サバハ』

作品ポスター・画像 (C)2022 MEGABOXJOONGANG PLUS M, ARTIST STUDIO & SANAI PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『ハント』の感想でした。

Hunt (2022) [Japanese Review] 『ハント』考察・評価レビュー