JRは大満足です…Netflix映画『新幹線大爆破(2025年)』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にNetflixで配信
監督:樋口真嗣
児童虐待描写
しんかんせんだいばくは
『新幹線大爆破』物語 簡単紹介
『新幹線大爆破』感想(ネタバレなし)
2025年も新幹線、大爆破します
たぶん北海道在住の人以外はたいして興味ないと思いますが、北海道新幹線の拡大事業が停車状態になっています。2016年に新青森駅(青森県青森市)から新函館北斗駅(北海道北斗市)間が開業して、次は札幌駅まで延伸する計画を進めていました。2030年度末の完了を目途とすることを発表していたのですが、2025年に開業時期が2038年度末以降に大幅に遅れる見通しが示されました(北海道新聞)。
もう2030年度末までに札幌駅に新幹線が来るという前提で大規模な都市開発を始めてしまっており、完全に計画倒れです。約15年後とか、社会の交通の在り方も激変してそうだけど…。
ということで北海道は蚊帳の外ですが、日本列島を横断する新幹線を舞台にした特大スケールのパニックサスペンス映画が、2025年になって再発進しました。
それが本作『新幹線大爆破』。
1975年に東映が『新幹線大爆破』という映画を公開しました。日本の新幹線にて「一定の走行速度を下回ると爆発する」というテロ行為が仕掛けられ、爆破を回避するべくさまざまな関係者が奔走するという乗り物パニック大作です。
当時は「JR」じゃなくて「日本国有鉄道」の時代であり、1964年に世界初の高速鉄道車両として日本の新幹線が初めて開発され、運行を開始したばかり。まさに新幹線は高度経済成長期の日本の顔でした。
そんな新幹線が爆破される!?というセンセーショナルなインパクト、政治まで巻き込んだ手に汗握るサスペンスは、多くのファンの心を掴み、カルト映画として愛されるようになりました。オマージュ的な作品もたくさん生み出されています。近年だと『新感染 ファイナル・エクスプレス』が一番そのエッセンスを受け継いでいる気がする…。
その1975年の『新幹線大爆破』が、2025年に「Netflix」でリブートされることになるとは…。50年も経てば新幹線を取り巻く状況も変わり、それがこの新作に反映されています。
例えば、1975年版は舞台が東京発博多行きの新幹線「ひかり109号」でしたが、2025年版は新青森発東京行きの新幹線「はやぶさ60号」と東北新幹線になっているのが一番の大きな変化です。
とは言え、2025年版『新幹線大爆破』もオリジナルと変わらない爆発の緊張感が味わえます。
この2025年版『新幹線大爆破』を監督したのは、『日本沈没』(2006年)から、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(2015年)、そして近年の『シン・ゴジラ』(2016年)と『シン・ウルトラマン』(2022年)を手がけてきて勢いに乗っている、特撮を愛してやまない“樋口真嗣”。今回の『新幹線大爆破』リブートも楽しかったでしょうね。
2025年版『新幹線大爆破』もJRの全面協力のもと、実物を使いながら、特撮を上手く織り交ぜて映像を作り上げており、培った経験が活かされているのがわかります。
俳優陣も豪華に勢揃い。主演の車掌役には“草彅剛”、運転士役には“のん”、解決策を練るJR東日本新幹線総合指令所の総括指令長役には“斎藤工”。
他にも、若手車掌役に『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の“細田佳央太”、乗客のYouTuber役に『シサㇺ』の“要潤”、乗客の政治家役に『こちらあみ子』の“尾野真千子”、その政治家の秘書役に『怪物』の“黒田大輔”、乗客の教師役に『”隠れビッチ”やってました。』の“大後寿々花”、乗客の生徒役に『ちひろさん』の“豊嶋花”、アテンダント役に『劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ』の“大原優乃”、運輸車両部技術者役にドラマ『作りたい女と食べたい女』の“西野恵未”、警部補役に『ラストマイル』の“岩谷健司”、総理補佐官役に『おいしくて泣くとき』の“田村健太郎”。まだまだ多数です。
絶対に劇場で観たほうが迫力が桁違いなのですが、「Netflix」独占配信なのでね…。この2025年版『新幹線大爆破』で大きく心残りなのは映画館で観れないことですよ。
『新幹線大爆破』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2025年4月23日から配信中です。
鑑賞の案内チェック
基本 | 親から子への児童虐待を示唆する描写があります。 |
キッズ | 電車好きの子どもにオススメ。 |
『新幹線大爆破』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
東日本旅客鉄道株式会社の盛岡新幹線車両センター青森派出所。ここは東北新幹線の車両を一時的に留め置くための施設です。
車掌の高市和也は見学の修学旅行の子どもたちにE5系新幹線などについて丁寧に説明していました。E5系新幹線は最高速度320kmで運行し、東京・新函館北斗間を約4時間で結ぶ最新型です。
生徒のひとりに「なぜ運転士ではなく車掌になろうと思ったのか」と聞かれ、目的も違うが同車した他人同士を見送るのが好きだと高市和也は真面目に語ります。
新青森駅。高市和也は今日も仕事です。同じ車掌でまた経験が浅い藤井慶次と連れ立って、独特のグリーン色の新幹線「はやぶさ60号」に乗り込みます。大勢の乗客で溢れるいつもの車内が広がっていました。
車内には、修学旅行生のほか、スキャンダルで追い詰められていた衆議院議員の加賀美裕子とその秘書の林広大、また、素性がバレないようにこっそり佇んでいた「ニートで大富豪」が売りの起業家YouTuberの等々力満が乗っていました。
JR東日本新幹線総合指令所では、輸送指令員(大宮台担当)の向井、東京台担当の奈良、仙台台担当の五木、盛岡台担当の永野といった職員が総括指令長の笠置雄一の指示のもと、全体の運行をモニタリングしています。運行上で起きるさまざまなトラブルにも対応するのも業務で、急病人の報告などをスムーズに処理します。
高市和也の東京行きの新幹線も発車しました。運転士の松本千花が先頭で責任を持ちます。
一方、東日本旅客鉄道株式会社本社ビルのJR東日本ご意見承りセンターにて、ある一本の電話がかかってきました。加工したような声で「今日の新青森発東京行き“はやぶさ60号”に爆弾を仕掛けました。爆弾は時速100km以下になると爆発します」と、そう淡々と語り、さらにイタズラではないと示すために青ヱ森鉄道線のある貨物に同型の爆弾を仕掛けたと説明してきます。
実際に青ヱ森鉄道線で爆発が起き、関係者は本物の脅迫だと理解します。
すぐさま新幹線統括本部長の吉村に情報が集まり、1975年の109号事案のようだと思い出します。以前にも似たような事件があったのです。
JR東日本新幹線総合指令所にも伝えられ、全列車を退避させることになりました。今は指定されたあのはやぶさ60号を走り続けさせるしかありません。
運転士の松本千花にも告げられ、ATC(自動列車制御装置)を開放して自動でブレーキが作動しないようにします。乗客に爆弾の件は伏せられるとのことでした。
警察の川越吉晴のチームがJR東日本新幹線総合指令所に到着し、対応を議論します。
ところが犯人からさらに要求があり…。
贅沢な鉄道業界裏側モノ

ここから『新幹線大爆破』のネタバレありの感想本文です。
2025年版『新幹線大爆破』は「JR全面協力」というカードを最大級に活かしきっており、業界裏側モノとしてこれ以上ないほどに面白い映像が見られました。こんな贅沢な乗り物パニックが作れるなんて!とびっくりです。
鉄道オタクが大歓喜なのはもちろん、そんなに鉄道を知らない人でも普通にワクワクする裏側が見れて楽しいですね。
JR東日本新幹線総合指令所が普段からどうやって鉄道の運行をモニタリングしているかが最初に映し出され、この鉄道の管理の複雑さがひとめで視覚化されると同時に、一本だけの新幹線を走り続けさせるという、一見するとシンプルなようで実は非常に難しいことがよくわかる…良い導入です。
そして盛岡での「3027B」との衝突回避のためにポイントでギリギリで入れ替える展開が最初のサスペンスとなり、ここから鉄道サスペンスの本領発揮。
とくにピカイチでハラハラドキドキするのが、乗客救出作戦です。
まず「9012B」が並走で荷物を渡す展開が、非常にアツいと同時にスリルありますし(一歩間違えれば脱線ですから)、その後に乗客の電気工事士の篠原圭造の協力で配線変更をし、後部の連結を切り離す作業が続きます。
他の映画だとやけにあっさり連結が切れるものですけど、今作では実際にその作業がリアルに描かれ、そのテクニカルな大変さが身に沁みます。
そこからの「9014B」の救出号が追いかけてくるくだり。ここが私の中では新幹線の最大のカッコいいシーンでした。列車が後ろから前の列車にギリギリまで全力で追うなんて本来はあり得ませんが、それをフィクションならではの勢いで見せてくれる。最高のサービス・シーンだった…。
後半は急遽の路線延長工事も描かれ、現場作業員の雄姿が映されることで、末端の労働者まで隅々にリスペクトが行き渡る映画でした。
JR宣伝映画であり、JR接待映画であり、JRありがとう映画だったな…。
きっとこの映画なら新幹線車内で上映しても許されるに違いない…(そういうイベントをやらないのかな?)。
JRは映画のように善良ですか?
しかし、2025年版『新幹線大爆破』、この全てにおいて完璧すぎるほどにJRに忖度しまくっている姿勢が、映画としては致命的な弱点にもなっているとも感じました。
とにかく「JRの良きにしよう」という方針があるゆえに、一部のキャラクターが本当に単調になってしまっているんですね。とくに主人公の車掌の高市和也。彼なんて完全にJRの企業コンプライアンスを体現化する存在でしかないです。そのままJRの広報になりそうな…。
だからこの高市というキャラ、ちょっとある意味一番不気味です。変な話、犯人の小野寺柚月より怖いかもしれない…。JRに作られたAIロボットなのかよってくらいに人間味ゼロです。JRのマニュアルどおりに動くというのはそれはひとつの企業倫理としては良いかもですけど、それ以外の倫理としては危険ですからね…。
一応、終盤の「小野寺柚月を殺すか?」という葛藤で彼女の首に手をかける展開を用意することで、高市の危うさを示してはいますけど、そういう机上の空論のトロッコ問題の話じゃなくて、もっと現実的な人間として変なキャラづけになっているので…。
また、JR云々とは別に他のキャラクターも軒並み単調で、これは作り手がキャラづくりが得意じゃないのだと思います。
等々力満もいかにも「YouTuberだしとけば現代っぽい」という発想で作られた感じが滲み出ているし、議員の加賀美裕子のキャラも言動が噛み合ってなくて意味不明です(後藤正義にかける言葉なんてチンプンカンプンだったぞ…)。
本作の政治社会批判も薄っぺらいものです。これは一部の日本映画に本当によくあるタイプで毎度うんざりさせられますが、現場で働く者たちの罵声と男気で「労働賛歌」と「政治社会批判」が両立できるという発想はダサい…。
本作のJR東日本新幹線総合指令所での総理補佐官の佐々木健太郎も交えたやりとりは寒かった…。良いことっぽい空気感はセリフでだすけど、言葉があらゆる点で薄すぎて何を批判しているのかさっぱりで…。
そのうえ、今作の犯人である小野寺柚月の存在もダメ押しになっていました。もう…なんだろう…黒髪ロング、持病持ちの虚弱さ、虐待被害者、猟奇的な豹変などなど属性をてんこ盛りにしていて、作り手の女子高生フェティシズムが溢れまくっているものですから…。
1975年のオリジナルの『新幹線大爆破』は単に乗り物パニックのエンターテインメントとしてだけでなく、当時の政治社会批評としても極めて研ぎ澄まされた一作だったと私は思います。
1975年版の犯人は、高度経済成長から落ちた中小企業、日米双方に蹂躙されてきた沖縄出身者、新左翼学生運動で絞り出された者らで成り立ち、その裏が浮き上がる仕掛けでした。いわば「大国主義や技術賞賛ではなく、社会に取りこぼされた人たちの声を聴くべきでは?」というメッセージが突き刺さり、それを映す苦いエンディングがありました。
エンタメでありながらアンチ・カタルシスというか、きっと当時のオリジナルの製作者たちは「(政治社会批判に躊躇しない姿勢こそ)これぞエンタメなんだ」という矜持があったのでしょう。1975年版『新幹線大爆破』は日本批判にブレーキをかけませんでした。
一方の2025年版『新幹線大爆破』は、続編であり、過去から生まれた新たなトラウマを描く捻りを用意しているものの、それは今の時代に蓋をしてしまっている問題を投影してはおらず、道徳の教科書くらいのフワっとした善良さしか語っていません。
あげくにオチはよくある「日本、スゴイ」系です。政治社会批評が苦手なクリエイターが一番にやりがちな片づけかたです。
ご丁寧にラストでは1000億円の寄付が集まったと示されますけど、ああいう「社会も捨てたもんじゃない」みたいないかにも“良さげ”な話というのは、1975年のオリジナルの『新幹線大爆破』が徹底的に批判していた日本のダメなところのはず。
1000億円なんて大金だとか作中でJR幹部が口走っていますけど、JRグループ全体の資産は30兆円を超えます。この記事の冒頭で紹介した、北海道新幹線の新函館北斗と札幌間の建設事業費は2兆3000億円以上です(現時点で)。映画のテロ金銭要求を23回繰り返せるぐらいの資金を投じているんですよ。
地方の沿線を続々と廃止し、一般運賃をじりじり値上げし、不動産業で儲けつつ、新幹線事業のような目玉で覆い隠している今のJR。おそらく今はJRを批判すべきタイミングの時代なんだと思います。2025年版の『新幹線大爆破』はつく側を間違えました。
この本作が配信された2日後の4月25日。その日、20年前に乗客106人と運転士が死亡し、乗客562人が負傷したJR宝塚線(福知山線)脱線事故が起きました(朝日新聞)。被害者や遺族はJRの補償などの対応にすべて満足したわけではありません。事故後もJRに傷つけられた人もいます。
JRは本当に映画のように善良なのか。それこそ点検しないといけないです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『新幹線大爆破』の感想でした。
Bullet Train Explosion (2025) [Japanese Review] 『新幹線大爆破』考察・評価レビュー
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