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ドラマ『戦慄の絆』感想(ネタバレ)…女性の革新の恐怖を描くフェムテック・スリラー

戦慄の絆

女性に革新を起こす。それは恐怖も産むか?…ドラマシリーズ『戦慄の絆』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Dead Ringers
製作国:アメリカ(2023年)
シーズン1:2023年にAmazonで配信
原案:アリス・バーチ
性描写 恋愛描写

戦慄の絆

せんりつのきずな
戦慄の絆

『戦慄の絆』あらすじ

一卵性双生児の姉妹であるエリオットとビヴァリーは産婦人科医として、毎日のように妊婦の分娩に立ち会い、多くの生と死を目にしてきた。女性の出産を取り巻く現状は悲惨なもので、このシステムを改革したいと野心を燃やし、自分のセンターを設立するのが夢だった。しかし、その野望の前に多くの困難が立ち塞がる。しだいに瓜二つの姉妹の心はすれ違い、極めて危うい生命倫理の一線を越えていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『戦慄の絆』の感想です。

『戦慄の絆』感想(ネタバレなし)

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今度の双子はもっと鋭く戦慄させる

赤ちゃんを妊娠した時、それが双子であるのはどれくらいの確率なのでしょうか。

自然妊娠で一卵性双胎の双子を妊娠する確率は約0.4%、二卵性の双子を妊娠する確率は約0.2~0.3%とのこと。これはあくまで自然妊娠した場合で、不妊治療を選択した際に排卵誘発剤を使用することで卵子が複数排卵し双子を妊娠する人も増えており、それも含めると双子である確率は全体で約1%くらいなのだそうです。

双子は「可愛さも2倍だね」と周囲からは呑気に言われがちですが、産む側・育てる側にしてみれば苦しさも2倍、いやそれ以上で、何かと大変です。

一方、映画やドラマなどの表象では、双子はホラーのアイコンとしてもよく用いられます。とくに一卵性双胎の双子です。例えば、『シャイニング』はとても有名。やはり顔が瓜二つの人間が並ぶのは、生理的な恐怖感情を煽るのでしょうか。人は「認識できないもの」に怖さを感じるのだとしたら、双子はどれがどっちなのか慣れない人には区別できないし…。

今回紹介するドラマシリーズもそんな双子ホラーの直球です。

それが本作『戦慄の絆』

原題は「Dead Ringers」(“生き写し”の意)で、これは1988年の“デヴィッド・クローネンバーグ”監督の名作である同名の映画『戦慄の絆』をドラマ化したものです。

“デヴィッド・クローネンバーグ”監督の『戦慄の絆』は、一卵性双生児の産婦人科医の兄弟が1人の女優に出会ったことで、その双子の関係性が崩壊していくという、心理スリラーでした。クローネンバーグらしい演出も盛沢山で、私も結構好きな映画です。双子を一人二役で熱演した“ジェレミー・アイアンズ”も良かったですね。

今回のドラマ版『戦慄の絆』は、1話約1時間のボリュームの全6話のエピソードとなり、さらに主人公が双子兄弟ではなく双子姉妹となりました。

これは単に主人公が「女性」になっただけの話ではありません。作品全体が「医療における女性」の問題、つまり「妊娠」「出産」に焦点をあてたものとして研ぎ澄まされ、より尖っています。言うなれば今作は「フェムテック・スリラー」です。フェムテックの功罪を抉り出すような…。

ドラマ版『戦慄の絆』を手がけたのは「Annapurna Pictures」『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)、『ハスラーズ』(2019年)、『スキャンダル』(2019年)、『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』(2022年)など、女性を主体にした作品を意欲的に製作してきた信頼できるスタジオです。

企画・脚本は『レディ・マクベス』『聖なる証』のシナリオを担った“アリス・バーチ”

ストーリーもオリジナル映画とは変わっています。そうは言っても、大胆なアレンジもありつつ、クローネンバーグらしいボディ・ホラーは健在ですのでオリジナル映画も安心してください。むしろオリジナル映画よりも視覚的にエグいボディ・ホラーになっているかも…。

本作は冒頭で注意文が表示され、「グラフィカルな医療手術や出産のシーンが含まれます」と警告されます(日本語で翻訳されていない)。妊娠・出産にまつわるトラウマを煽るショッキングな描写も多々あるので、関連経験のある視聴者の人もいると思いますし、フラッシュバック等には留意してください。

ドラマ版『戦慄の絆』で怪しげな双子姉妹を一人二役で演じるのは、『女王陛下のお気に入り』など今やベテランの“レイチェル・ワイズ”。“レイチェル・ワイズ”が凄い俳優なのはこれまでのフィルモグラフィーで重々承知でしたけど、あらためてその凄さが伝わる鮮烈な演技がドラマ版『戦慄の絆』では見られます。

なお、“レイチェル・ワイズ”演じる主役の双子姉妹は当然顔も一緒。オリジナル映画と同じでエリオットとビヴァリーという名前で、エリオットが髪を肩あたりまで下ろしており、ビヴァリーは髪を後ろで結んでいるので見た目で見分けはつきます。

共演は、ドラマ『アンブレラ・アカデミー』“ブリトニー・オールドフォード”『iCarly』“ポピー・リュー”『セイント・モード/狂信』“ジェニファー・イーリー”、ドラマ『セヴェランス』“マイケル・チェルナス”など。

ドラマ版『戦慄の絆』は「Amazonプライムビデオ」で独占配信中です。非常にインモラルな内容なので人を選ぶドラマですが、強烈に切り刻まれる後味をぜひ。

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『戦慄の絆』を観る前のQ&A

✔『戦慄の絆』の見どころ
★妊娠・出産にまつわる女性の現実をえぐる。
★先の読めないスリリングなストーリー。
✔『戦慄の絆』の欠点
☆倫理の一線を越える過激な展開は人を選ぶ。
日本語吹き替え あり
渋谷はるか(ビヴァリー/エリオット)/ 小島幸子(ジェネヴィーヴ)/ 三上哲(ジョゼフ)/ きそひろこ(レベッカ)/ 東内マリ子(スーザン) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:衝撃作を堪能
友人 3.5:俳優ファン同士で
恋人 3.0:癖が強いけど
キッズ 1.5:R18+です
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『戦慄の絆』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『戦慄の絆』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):双子姉妹はいつも一緒…のはず

エリオットビヴァリーのマントル姉妹はダイナーで食事しながら、産婦人科医としての今のキャリアから飛躍して自分たちの出産センターを築く夢を語っていました。すると近くにいた男に「同じ顔をしているな。同じ男と一緒にヤっているのか」と卑猥な言葉を投げかけてきます。それに対して強気に言い返す2人。男はたじたじになりながら弁解しますが「双子を見れば性的なことを考えるのが普通」と言い放ってくる始末でした。

ウエストコット記念病院で働くエリオットとビヴァリーは大忙しです。大勢の妊婦がひっきりなしに現れ、毎日が出産の連続。

夜はクラブで息抜きし、エリオットはドラッグに、男とトイレでセックスにと自由奔放。一方、ビヴァリーは出産を考えていましたが不妊に悩んでいました。

出産センターを設立するには資金が必要です。そこでレベッカスーザンという資産家として有名なパーカー家の支援を引き出すために会食を上司のジョゼフが用意することになっていました。

ある日の病院での出来事。ニッキーという代理母の女性は逆子で苦しんでいました。ビヴァリーはお腹をさすって回転させようと懸命に試行錯誤。もう5度目の妊娠らしく、横には子どもを欲しがる女性のララがいます。「すぐに6度目の妊娠をさせるのは無理」とエリオットは言いますが、寄付したと苛立ちを露わにするララ。ビヴァリーは「おカネに物言わせて妊婦を好き勝手に扱うなんて認めない」と激怒し、隣で吹き出してしまうエリオット。

また、ビヴァリーは女優のジェネヴィーヴ・コタールに子宮卵管造影検査をすることになりました。しかし、子どもが欲しいという彼女の言葉を聞いて、動揺したように器具を落とすビヴァリー。処置台に放置して一旦立ち去ります。

入れ替わってと姉のエリオットにテキストを送り、エリオットと慣れた手つきで姿を交換、ビヴァリーになりすましたエリオットが対応し、ジェネヴィーヴはハート形の双角子宮という珍しい子宮の持ち主だったことがわかります。妊娠は可能ですが、早産や流産の可能性はあがる…そう説明すると、本人はショックだったのか素っ気ない反応で帰ってしまいます。

妹のビヴァリーがジェネヴィーヴに気があると理解したエリオットは、またもビヴァリーになりすまし、バーでコタールに接近してキスしてアプローチします

重要な会食の日となり、投資家のレベッカとスーザンを前にしますが、出資に興味ない様子。ビヴァリーは「女性たちの真の変化は目に見えるものではない。でもこれは本物の変化なの」と熱弁。とりあえず興味を持ってくれますが、相手も底が見えません。

エリオットの密かなアシストが功を奏したのか、ビヴァリーはジェネヴィーヴと交際することができました。ジェネヴィーヴはビヴァリーにエリオットという一卵性双生児の姉がいると知りますが、「入れ替わってないよね?」と聞かれ、ビヴァリーは「ずっと私だった」と嘘をつきます。

こうしてマントル・パーカー出産センターが軌道に乗り出しますが、それは双子姉妹の人生を狂わすことにもなり…。

この『戦慄の絆』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/05に更新されています。
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出産システムに挑戦する

ここから『戦慄の絆』のネタバレありの感想本文です。

ドラマ版『戦慄の絆』、まず第1話の冒頭がちょっと遊び心があって、双子姉妹ならではのありがちなセクハラ被害の日常が描写されるのですが、これがオリジナル映画の内容への目配せにも少しなっていて、そういう男性目線を一蹴してみせる切れ味があります。今回のドラマはお前みたいな奴はお呼びじゃないよ…という先制攻撃ですね。

本作は「医療における女性」の問題、「妊娠」や「出産」に焦点をあてています。第1話の矢継ぎ早な病院の忙しい風景は、現在の女性の現実を如実に突きつけます。

妊婦が死ぬことも、新生児が死ぬこともある。代理母の扱いも酷い。人種差別で適切な医療を受けられない人もいる。何より出産はあまりに懲罰的で苦痛。かたや妊娠したくても不妊で苦しむ人もいる。産後鬱に陥る女性もいる。女性が背負わされてきた重荷がそこかしこにあります。

そして医学というものはおびただしい女性の犠牲のうえに成り立ってきたものであり、そこには動物実験も加わりますが、とにかく女性の医療というのは現状でも完璧とは言い難く、血塗れなんだという現実。それは家政婦として働きつつ、タンポンなどの品を密かに収集し、それをインスタレーション・アートとして表現し、出産で亡くなった母の無念を表明しているグレタの姿でも示されます。

それに対して、とくにビヴァリーは“正しさ”を持って改革しようと真面目です。第1話でこれだけ見せられたらやはりビヴァリーの革新を求める感情には同意してしまいます。

しかし、カネがいるジレンマ。そのカネを提供してくれるあのパーカー家の女たちがまた別ベクトルで曲者で…。パーカー家はオピオイド危機にも関与していたみたいですが、第2話のあの金持ちたちの道楽の光景は呆れるしかありませんし、医療界と超富裕層の癒着を見せつけられます。でもビジョンを叶えるためにはこの毒沼に体を浸さないといけない。これもまた現実。

本作は一種の「女性の起業モノ」でもあり、男性優位の象徴とも言える最悪の宿敵「出産システム」に対する果敢な挑戦を、逃げることなく直視させてスリリングに描いていました。

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ベイビー・シスター

ではあのエリオット&ビヴァリーは、醜悪な「出産システム」に苦しむ現代の女性たちを救うリーダーとなりうるのかと言うと、本作『戦慄の絆』はそんなお気楽主義でもなくて…。

出産の苦痛を無くします! 更年期をこなくさせます! 受精も思いのままにできます!…そんな夢のようなビジョンは確かに魅力的。でもそれでいいのかという疑念も拭えない…。この姉妹はこの社会に何をもたらす気なんだ…という狂気がしだいに増していく。フェムテック・スリラーの本領発揮です。

あの出産センターも妙に近未来感があり、ユートピアなのか、ディストピアなのかわからないデザインがまた嫌ですね…。オリジナル映画でおなじみの赤い手術衣もでてくるし…。

そして、とくにエリオットですね。エリオットは妹のビヴァリーの正義の野心を見守ってあげているのかなと思ったら、自分は自分で極めて生命倫理を逸脱した実験に着手しており、しかもビヴァリーの卵子と同僚のトムの精子を使って、研究室でいくつも胎芽を成長させています。

加えてジェネヴィーヴという恋人も手に入れ、キャリアも順調に進んでいるビヴァリーに対して、自分の手を離れてしまう寂しさと嫉妬を溜め込んでいるのか、エリオットの精神状態も不安定に(あのホームレス老人女性を突き落として殺したのは事実なのかは曖昧なまま。死体は見つかったけど)。マッドサイエンティストかつサイコ・シスコンって感じではありますが…。

エリオットのキャラクターはやはりドラマ『ドロップアウト シリコンバレーを騙した女』でも描かれたエリザベス・ホームズなんかを参考にしたのかな。

ちなみにジェネヴィーヴの名前はオリジナル映画のヒロインを演じた“ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド”からとっているのだと思いますが、ジェネヴィーヴのファミリーネームの「コタール」はおそらく「コタール症候群」が由来なのでしょう。「コタール妄想」とも言われるこれは、自分がすでに死亡しているというような妄想的信念を抱く精神障害のことです。

また、作中では「カプグラ」の名も見られ、これは「カプグラ症候群(カプグラ妄想)」と言って、家族・恋人・親友などが瓜二つの替え玉に入れ替わっているという妄想を抱いてしまう精神疾患のことです。

これらは本作の顛末を暗示しており、双子姉妹の決裂の後、双子を妊娠したビヴァリーはエリオットを捨てきれなかったのか意味深に合流。エリオットはビヴァリーを帝王切開して赤ん坊を取り出し、次に自分の腹をメスで切り裂いてすぐに縫合。ビヴァリーは放置して殺害し、自分がビヴァリーとして生きる道を選びます

これがどこまでビヴァリーの意思なのかは曖昧ですが(髪留めを自分では渡している)、ジェネヴィーヴも今度は正体のエリオットに気づいていないので、なりすまし(スワッピング)は完全成功。非常に歪んだ裏技で、女性の革新事業は危うさを増して継続するのでした。

ところがこれで終わらないのが本作の嫌らしさ。

最後に公園のベンチで、ビヴァリーがグループセッションに参加していた事実を知り、しかもそこで「姉が死んだ」という設定で会話していたことを認知するエリオット(偽ビヴァリー)。これはビヴァリーは姉を殺す気だったのか、それとも錯乱していたのか、いやまさかこのオチを予期していたなんてことは…。

何もわからぬままにエリオット(偽ビヴァリー)は生きるしかなく…。ビヴァリーの人生を乗っ取ったと思ったら、エリオットの方こそビヴァリーに意のままに初めから乗っ取られていたのでは…。そんな不安を残してこのドラマは閉幕します。

心理スリラーとしても極上の戦慄を刻みつつ、現代のフェムテックの期待と不安を錯綜させる、とても巧みで挑戦的な手際のドラマでした。

『戦慄の絆』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 84% Audience 75%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios デッド・リンガーズ

以上、『戦慄の絆』の感想でした。

Dead Ringers (2023) [Japanese Review] 『戦慄の絆』考察・評価レビュー