ルーム
映画『ルーム』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Room
製作国:アイルランド・カナダ
製作年:2015年
日本公開日:2016年4月8日
監督:レニー・アブラハムソン

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

Plot Summary

7年前から施錠された部屋に監禁されているジョイ。彼女はその部屋で出産して外の世界を知らずに育った息子ジャックととも暮らしていた。ジャックが5歳になり、部屋のなかだけが世界だと思っている息子のためにも、ジョイは脱出を試みる…。

ネタバレなし感想

普遍的な母と子の物語

監禁と聞くと、ジャンルとしてのスリラー映画を連想します。極悪な犯人によって外界から隔離されてしまった被害者が、どのような酷い目を受け、そしてどうやってそこから脱出するかというカタルシスとサスペンス。それが一般的な連想される内容です。

しかし、本作『ルーム』は、監禁事件を題材にした話ではありますが、血なまぐさい残酷な描写はあえて避けたつくりになっています。監禁されている部屋からの脱出というサスペンス要素も一応はあるものの、 実は話のメインは部屋から逃げたあとの生活だったりします。

この映画では、親と子の関係や子育てがテーマとなっており、ゆえに共感しやすい作品です。子を持つ親の立場であれば、この物語が心に突き刺さることは間違いないでしょう。ある意味、育児というのは監禁です。経験がある人ならわかると思いますが、子を産む前と産んだ後では生活の自由度に歴然とした差があります。全て子ども中心に考えないといけません。何をするにしても、子どもが最優先。親の自由など最も一番最初に犠牲になるモノ。

ということで今作の監禁もそうした普遍的な子育てのメタファーとして捉えると、より作品の世界に入っていきやすいのではないでしょうか。

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「母」であるジョイを演じる“ブリー・ラーソン”は、本作で第88回アカデミー賞で主演女優賞を受賞しており、演技は文句なしです。ブリー・ラーソンは、日本では2014年に公開された『ショート・ターム』でも心の傷を抱えた子どもと向き合う保護者という難しい役どころを見事に演じており、もはや子どもを相手にする役柄であれば右に出る者はいない女優という感じでしょうか。『ルーム』を気に入った人は『ショート・ターム』もおすすめです。そんなブリー・ラーソンが『ルーム』でさらに才能を開花させ、母としての内面的な葛藤を演技で見事に表現してみせたことは、間違いなくキャリアの閾値をさらに超えたのではないでしょうか。もとはコメディ女優だったのに…『21ジャンプストリート』なんかに出ているときは、まさかここまで高みに到達すると思いませんでしたよ。

しかし、本作一番の名演は「息子」であるジャックを演じる“ジェイコブ・トレンブレイ”君でしょう。本作は息子ジャックの視点で物語が進むため、このキャラクターが魅力的でなければ成り立ちません。映画を引っ張る力のある演技でした。なんというか、ずっと見ていたくなります。それは危なっかしいからというよりは、子どもの持つ発想力や突破力に思わず大人さえも驚かせてくれるからなのかなと。どこまでが演技で、どこまでがアドリブなのかわからないのですが、とにかく自然体で素晴らしいです。なかなか子役が大人までずっと俳優キャリアを成功させるのは難しいのが映画界の厳しさですが、ぜひとも彼には頑張ってほしいものです。

この2人の演技を見るだけでも十分価値ある作品です。子どもや育児に関わる仕事をしている人、まさしく子育て奮闘中の人に、とくに見てほしい映画ですね。

予告動画





↓ここからネタバレが含まれます↓




ネタバレあり感想

子育て映画として

「部屋」にいる2人の生活は監禁されていることを除けば、普通の母子となんら変わりありません。遊び、食事し、風呂に入り、歯を磨き、歌を歌って寝かしつける。母親はときに子どもの栄養を気にしてビタミンを与えたり、体力をつけるために運動させたり、子どもの健康に気を遣います。そして、言うことを聞かない子どもにイライラすることもあります。何がリアルでリアルじゃないかを息子に教えるシーンは印象的ですが、子育てでは必ず経験することでしょう。この映画はどこにでもある子育ての話を描いている側面を強調しますね。

いわゆるサスペンスであれば、もっと監禁という特殊性を活かして、恐怖を増長させるつくりにもできるのに、あえてそれをしないあたりに、作り手の狙いが見えます。そもそも監禁される最初のシーンから映画を初めてもいいわけですから。

つまり、今作のテーマはあくまで子育てなんだということ。くどいようですが、でも映画自体、そこをしつこいほど全面に出していると思います。だから犯人にもっとギャフンを言わせるような展開が欲しいという要望もわかりますが、そこじゃないと。それをどうしても見たい場合は、脳内で犯人はバットマンにボコボコにされたと思ってください。

この監禁パートでの重要な部分は、子どもが実に元気そうに生きていることです。いや、もちろん、通常と比べれば明らかに不健康なのでしょうが、それでも決して精神的にも体力的にも危険な雰囲気は感じさせません。これは当然、母親の努力なわけで、ここで観客は自然と「ああ、この母親は絶対的に良い親なんだ」と刷り込まれていきます。それは後半の監禁解放後パートの仕掛けになるわけですね。

“おはよう”で始まり、“さよなら”で終わる

「部屋」から出た後は、監禁という異常事態から解放されたにもかかわらず、2人の母子の関係が崩れかかってしまいます。母ジョイはむしろ葛藤や困難が増えます。対人関係に苦しみ、子どもにも辛くあたってしまいます。対して息子ジャックは、最初は戸惑うものの、同年代の友達もでき、どんどん外の世界に順応していきます。

そんな何もかも変わってしまったように見える新しい世界のなかでも、変わらないものが本作では示されています。それが「母と子の助け合い」です。「部屋」にいるときは当たり前に助け合っていた2人ですが、「部屋」脱出後には助け合うことの大切さを再確認します。息子に渡した母の歯と母親にあげた息子の髪は象徴的なアイテムです。「良いママではない」と弱音を吐く母に対して「でもママだよ」と返す息子…母と子にとってそれだけで充分なのでした。

今作は「母と子」がテーマになっているのもよく考えると重要かもしれませんね。これが「父と子」だと、どうしても父親というのは現状から打破するという「引っ張っていこう」というアプローチで親心を示そうとする傾向があるじゃないですか。それだとやっぱり監禁状態からの脱出が本筋になってしまう。でも、本作は「母」という常に受け手であり、子どもにとっての生物学的にも社会的にも出発点となる存在との関係性の変化、もっといえば関係性の再構築を描く。「母と子」でしか成し得ないストーリーだと思います。

ラストシーンでカメラが上空にふっと上がっていく演出で、初めてこの映画のドラマが「Room」から脱する瞬間を描いているようで、また感慨が深まりました。

最後に「部屋」の品々に“さよなら”と言う息子ジャックを見ると「部屋」で過ごした時間や記憶はジャックにとっては、ごく普通に通過していく出来事に過ぎないのかもしれません。ジョイもきっと難しく考えすぎたのでしょう。子どもは親の想像以上に成長していくものだなと改めて実感できる映画でした。

子育て映画は好きな作品が多いのですが、とりあえずオススメを紹介しておきます。
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