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『眠りの地(The Burial)』感想(ネタバレ)…私とあなたでは埋葬の意味が違う

眠りの地

私とあなたでは埋葬の意味が違う…映画『眠りの地』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Burial
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にAmazonで配信
監督:マギー・ベッツ
人種差別描写

眠りの地

ねむりのち
眠りの地

『眠りの地』あらすじ

アメリカのミシシッピ州で地域に密着した葬儀社を営むオーナーであるジェレマイア・オキーフは超巨大企業のローウェン・グループに狙われてしまい、家業存続の危機に立たされるが、訴訟を起こすことを決意。そこで、黒人コミュニティの支持を得るのが抜群に上手い敏腕弁護士ウィリー・ゲイリーを雇い、共に一世一代の裁判に挑む。対照的な性格の2人だが、この強敵を前にどんな戦い方で勝負するのか…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『眠りの地』の感想です。

『眠りの地』感想(ネタバレなし)

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2023年の最高の法廷映画のひとつ

人種への偏見というのは何気ない言葉遣いにでるのかもしれません。

例えば、主に年上の白人が黒人の成人に対して「boy」などの言葉を用いて、あからさまに年下の子どものような扱いで接することは典型的な人種差別の態度だと言われています。それこそアメリカのバイデン大統領もこうした言葉遣いで批判を受けたりしていますCNN

このアフリカ系の人々に「boy」などと言葉を向けることがなぜ問題なのかと言えば、その原点を辿れば奴隷制度に紐づく歴史があるからです。

やっているマジョリティ側(白人)にとってみれば、些細な振る舞いにすぎないつもりでも、やられているマイノリティ側(黒人)にしてみれば、じわじわと嫌な思いを蓄積させることになります。これはいわゆる「マイクロアグレッション」と呼ばれるものですが、人種に限らず、いろいろなトピックに存在するでしょう。

「気にしなければいいんだ」なんて言う人もいますが、この一見すると小さな振る舞いが、とても大きな結果を左右する…そんなこともあるのです。

今回紹介する映画は、そんな人種に関するちょっとしたこと(でも大きなことでもある)、それがなんと数億ドルの結末をもたらしうる…びっくりするような実在の出来事を主題にした作品となります。

それが本作『眠りの地』です。

原題は「The Burial」。「burial」は「埋葬」という意味ですが、なんかこれだけだとホラー映画みたいな雰囲気になっちゃいますけど、そんなホラー要素は微塵もありません。

本作はまさにその原題どおり、埋葬も行う葬儀社を営む人物が主人公です。この主人公の高齢男性は家業の葬儀社を堅実な手腕で発展させてきましたが、経営的に厳しくなり、とある大企業に一部を売却することを検討します。ところがその契約が望んだとおりには実行されず、裁判をすることに…。

主人公は白人、大企業のトップも白人…裁判で争う双方ともに白人です。この状況だけ見れば、本作は全く人種など絡んでこない出来事のように思えます。

ところがこれは想像していた以上に人種問題を貫く案件であることが明るみになっていく…そんな法廷ドラマです。

人種…とくにアフリカ系を焦点にした法廷映画と言えば、『アラバマ物語』(1962年)から最近でも『黒い司法 0%からの奇跡』(2020年)など、このジャンルの伝統です。

本作『眠りの地』はそのジャンルに加わる最新作として、とても現代的でフレッシュな存在感を放ってくれるものです。

『眠りの地』を監督したのは、2017年に『クローズド・ガーデン』で長編映画監督デビューした“マギー・ベッツ”。その父親は、“ジョージ・W・ブッシュ”元大統領と個人的に親密な関係にあった投資家の”ローランド・W・ベッツ”で、“マギー・ベッツ”本人も国連機関との活動をよく行っていたそうで、その経験を基にして南アフリカでのエイズ撲滅をテーマにしたドキュメンタリー『The Carrier』を2010年に作ったりもしています。

俳優陣は、まず何と言ってもこの題材となる裁判に挑むことになったやり手の黒人弁護士を演じる“ジェイミー・フォックス”。今作でも素晴らしい魅力たっぷりのキャラクターを熱演しており、その饒舌なエネルギーにメロメロになります。2023年は“ジェイミー・フォックス”は健康面で心配になる報道がありましたが、現時点で回復傾向にあるようで本当に良かったです。まだまだこの才能を満喫したいですからね。

共演するのは、大ベテランの“トミー・リー・ジョーンズ”『依頼人』(1994年)など裁判絡みの映画は以前から出演経験がありますが、今回は依頼する側です。

他には、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』“ジャーニー・スモレット=ベル”がこちらも実力のある女性弁護士を熱演し、またドラマ『メディア王 華麗なる一族』でいかにも人種差別などの認識に疎そうなダメ白人男を演じていた“アラン・ラック”が今作でも似たようなキャラクターをノリよく演じてくれています。

裁判劇というと小難しそうに思えますが、この『眠りの地』はとてもわかりやすく構成されていますし、「え、これって勝てるの?」という絶体絶命の状況からの展開など、単純に起承転結がハラハラして面白いので、ぜひ時間があるときに鑑賞してみてください。

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『眠りの地』を観る前のQ&A

Q:『眠りの地』はいつどこで配信されていますか?
A:Amazonプライムビデオでオリジナル映画として2023年10月13日から配信中です。
✔『眠りの地』の見どころ
★わかりやすくハラハラさせてくれる物語の面白さ。
★人種に対する意識の差がいかに重要なのか。
✔『眠りの地』の欠点
☆劇場公開されていないので目立たない。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:隠れた良作
友人 3.5:裁判劇に関心あれば
恋人 3.5:夫婦愛要素はある
キッズ 3.5:子どもでもわかりやすく
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『眠りの地』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『眠りの地』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):負けるつもりはない

1995年、フロリダ州インディアンタウン。教会でウィリー・ゲイリーは熱くスピーチし、我が家の価値を高らかに語ります。「我々にとっての家は黒人教会です!」…黒人ばかりの聴衆は大盛り上がりで拍手喝采でした。

ところかわってミシシッピ州ビロクシ。白人のジェレマイア・オキーフは大勢の孫に囲まれて誕生日を祝われていました。妻のアネットと睦まじく語り合い、自分の家業である葬儀社をいつかこの孫たちに受け継がせたいと考えていました。

フロリダ州キシミーの裁判所では「C・タブス対フードサービス社」の裁判の真最中。弁護士のウィリーは単純な言葉で簡潔に力説。見事に陪審員の心を掴みます。その聴衆にジェレマイアがいました。

それが終わり、ジェレマイアはウィリーに会います。若い黒人の顧問弁護士ハル・ドッキンズも同行しています。さっそく「要件は?」とウィリーは質問しますが、契約で揉めているそうで、「契約法は専門じゃない」とウィリーは即座に断ります。でもハルは話を聞けば興味を持つと言ってきます。

ジェレマイアは100年以上代々続いている葬儀社を経営していましたが、負債がかさんでいたこともあって、保険監督官が来てしまい、窮地でした。30年近くも馴染みのマイケル(マイク)・オルレッド弁護士からローウェン・グループが買ってくれると紹介され、あまり乗り気ではなかったですが、他に手もないので一応面会することにします。

成りたての弁護士ハルを連れてカナダのバンクーバーへ。ローウェン・グループのCEOのレイは高級クルーザーで待っていました。彼いわく全米のベビーブーマーたちが一斉に高齢化して最期を迎えれば葬儀業界の黄金時代となるというのが考えのようです。

ジェレマイアは「顧客を忘れていないか」と言いますが、「顧客は死人だよ」とレイは冗談をこぼします。「葬儀場を3軒適正価格で売る代わりに埋葬保険を販売しないでほしい」とジェレマイアは条件を付け、その場で取引成立となりました。

ところがその後、契約書が届きません。破産となれば全ての葬儀場を格安で買われてしまうとハルは警告。まだローウェン側は埋葬保険だってここで展開していました。そこでジェレマイアは訴えるしかないと決めます。

そのとき、ハルは夜中にウィリーを取り上げた番組を見せ、12年以上敗訴したことがない実力と、今回の自分たちのやろうとしている裁判のハインズ郡では陪審員も黒人が多いことを指摘し、ウィリーを採用すべきだと進言。あの無自覚な白人の典型であるマイクを黒人の前に立たせるのは無理だと言いきります。

そのいきさつを聞いたウィリーはなおも「私の訴訟じゃない、優位に立てない。勝てるとわかってる訴訟じゃないと」と苦言を口にし、「白人を弁護したことがない」と正直に話します。

ハルは再度お願いし、「もっと大金がとれるとしたらどうです? スター弁護士になりたいと思いませんか? サーグッド・マーシャルやジョニー・コクランになれますよ」と誘います。

こうしてウィリーは参加することになりました。主任弁護士となったウィリーは和解提示金額を思い切って1億ドルへと吊り上げます。

対する無謀な挑戦者を余裕の体制で迎え撃つローウェン側はどうでるのか…。

この『眠りの地』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/02/05に更新されています。
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人種は争点ではないけれど

ここから『眠りの地』のネタバレありの感想本文です。

『眠りの地』は人種が題材になる法廷劇ですが、裁判の対象は人種とは直接関係ありません。黒人が不当に逮捕されたとか、そういう事件ではなく、白人同士の契約のいざこざですから。にもかかわらずいつの間にか人種が重要になってくる。この構図が面白いですね。

ジェレマイア(ジェリー)だって「人種なんて関係ないだろう」と最初は言い放っています。でも若い黒人弁護士のハルがハインズ郡は住民の7割が黒人だということに注目し、ウィリーをピックアップしてくる…。このハルの先見の明が本作は際立ちます。

ただ、相手のローウェン側もやはり強くて、ウィリーの起用の理由を早々に見抜いて、メイム・ダウンズを始め、優秀な黒人弁護士をカネの力で揃えて対抗。

これで人種の争点化は相殺されてチャラになったかと思ったら、あちらこちらで人種の争点が二次的に湧いてきて、結果、この双方が黒人弁護士揃いであることがこの議論を盛り上げ、ついには勝敗まで左右する…。

『眠りの地』は最近の映画だと『AIR エア』に手触りが似ている部分もあるのですけど、それよりも一層深く人種のテーマを煮詰めていて、丁寧に掬い取っていました。

要するに軽視されがちな「人種」の価値です。対象となる専門分野さえ向き合っていればいいということではない、ときに一見すると関係性が見えない「人種」のような社会的要素が、その主題分野を上回る影響力を持ちうるのだということ。

これって本当に今の世の中、いろいろな物事にも通じる話だと思います。

人種なんかを「ポリコレ」という言葉を使って「行儀良さ(多様性へのアピール)を示す要素」だとしか思っていない人には一生わからない話でしょうけど、現実における人種は欠かせない社会の構成要素であり、それが何かの結果を左右することっていっぱいあるんですよね。そこに気づけているかどうかです。

この本作で描かれる裁判は契約を問うのが表向きでありながら、裏では人種の認識を問う裁判となっていったのでした。

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同じようで違う、違うようで同じ

『眠りの地』は、さまざまな立場の人が混ざり合って登場するのですが、表面的には同じ立場でも内面は違うということ、もしくはその逆で、表面的には違っても内面は同じものを持っている…そういう構造を明らかにするシチュエーションが目立っていたように思います。

例えば、ジェレマイアとレイ・ローウェンは同じ葬儀に関するビジネスを営んでいる白人という共通点があります。でもビジネスに対するスタンスが全然違います。それは初対面時のレイの何気ない振る舞いでも明らかです。同じ埋葬でも、レイはそれを金儲けの素材としかみていません。

また、ジェレマイアとマイクは旧友で白人同士ですが、黒人、というか人種への日常的な意識が全然違うということが、冒頭のハルへの振舞い方で如実にハッキリ現れてしまいます。マイクはKKKの祖父の件で裁判を降りますが、それ以前からもう墓穴を掘っていました。

それに、ウィリーとレイ・ローウェンは同じ富裕層でありつつ、その違いが終盤で決定的に白日の下に晒されます。低所得地域では棺を何倍にも値上げする…それをこともあろうか全国バプテスト連盟を悪用して黒人を弱みにつけ込み、搾取する…レイのやっていることはまさに奴隷制度を現代において商業的に組み込んだようなものであり、到底許せない。「良心が痛んだことは?」の問いに「ない」と言い切るレイに更生の余地はありません。

一方、ジェレマイアとウィリーは人種は異なりますし、仕事も違いますが、不正は許せないという一点で通じ合い、互いの信頼性を構築できます。一時はウィリーの失態で2人の関係にヒビが入るもしっかり修復できるのは、この社会的正義を持ち合わせているからです。

あと忘れてはいけない、ウィリーとメイム・ダウンズの関係性も良かったですね。2人は裁判上は激しく対立し合いますが、それは仕事だからというだけ。最後は互いの健闘を称え、後腐れなく別れていきます。このメイムのキャラクターは“マギー・ベッツ”監督が用意したオリジナルの存在なのですが、こうやって女性キャラがロマンス要員や敵などではなく、純粋にそのスキルを評価される仕事人として描かれるのってやっぱりいいものです。

最終弁論でもその才能をいかんなく発揮したウィリーは見事勝利を獲得し、1億ドルのみならず、加えて4億ドルの懲罰的損害賠償という結果に。図に乗っていたローウェン・グループは破産し、オキーフ夫妻は慈善団体で黒人コミュニティに寄付し、「The Giant Killer」の異名を持つことになったウィリーはその後はディズニーなんかにも裁判で勝ったようです。

日本にもジャイアント・キラーな有能な弁護士、たくさんいてほしいなぁ…。

『眠りの地』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 86%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

ジェイミー・フォックスが出演する映画の感想記事です。

・『ゼイ・クローン・タイローン 俺たちクローン』

・『デイ・シフト』

・『プロジェクト・パワー』

作品ポスター・画像 (C)Amazon

以上、『眠りの地』の感想でした。

The Burial (2023) [Japanese Review] 『眠りの地』考察・評価レビュー