最高に素晴らしいこと
Netflix映画『最高に素晴らしいこと』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:All the Bright Places
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:ブレット・ヘイリー

最高に素晴らしいこと

あらすじ

心にそれぞれ痛みを抱える2人の高校生。互いのポッカリ空いてしまった穴を埋めることは簡単ではないけど、少しずつその欠落は補われていく。インディアナ州の名所をめぐる学校の課題に取り組む中で、温かい癒やしに満ちた時間をともに過ごし、深いきずなで結ばれていき…。

『最高に素晴らしいこと』感想(ネタバレなし)

自殺をめぐる表現について考える

世界保健機関(WHO)が映画やテレビ番組の制作者向けに「自殺予防の指針」を策定したことが話題となりました(以下にリンクを掲載)。
自殺対策を推進するために 映画制作者と舞台・映像関係者に知ってもらいたい基礎知識
この背景には昨今、自殺を題材にした作品が大きな世界的議論になったことがあります。そのひとつがNetflixで配信されている『13の理由』というドラマシリーズです。この作品ではティーンたちの苦悩を描き、とあるキャラが自殺するシーンがあるのですが、若者視聴者の人気も高いせいか、かなり注目されました。そして自殺を助長しているのではと批判も受けました。事実、米児童青年精神医学会のレポートによればドラマ公開後に自殺数の増加が確認されたと報告されています(このような影響を「ウェルテル効果」と呼びます)。この指摘を受け、Netflix側はドラマの自殺シーンの削除編集を行いました。

創作物が社会に負の影響を与えることの責任について考えさせる一件でしたが、このことに関して「表現の自由」を脅かすと恐れる意見もあります。

しかし、WHOの「自殺予防の指針」を熟読してほしいのですが、この指針はしっかり表現の自由に配慮していますし、自殺シーンの絶対禁止のような安直な対応を促しているわけでもありません

要点として以下のようにまとめられています。
  • 困難な状況に屈しないことやそうした状況から立ち直る力(レジリエンス)、また効果的な問題対処の方法を示している人物や物語を取り入れること
  • 支援サービスから援助を受ける方法の概要を示すこと
  • 友人や家族などからの支援は重要な価値があることを示すこと
  • 自殺の行為や手段に関する描写を避けること
  • 現実に基づいてストーリーを展開させること
  • 自殺の兆候となり得るものと、兆候にいかに対処すべきかを含めること
  • 自殺の背景にある複雑な要因と広範な問題を示すこと
  • 適切な言葉を用いること
  • 自殺対策とコミュニケーションの専門家、精神保健の専門家、自殺関連の実体験者の助言を受けること
  • 映画、テレビ番組、ストリーミング動画、演劇の開始前に注意喚起・警告のメッセージを挿入する必要性があるかよく考えること
  • 自殺の描写が舞台や映画制作に関わる者に与える影響を考慮すること
  • 18歳未満の鑑賞者を対象とする作品では、保護者向けガイダンスを提供すること
つまり、「自殺」というものに真剣に向き合って描写してね…という話。自殺を描写するなというお達しではないです。なので自殺が描写できなくなるわけでもないし、ましてや時代劇から切腹シーンがなくなるわけでもありません。条件反射的に「表現の自由が…」と言葉を発する前にやっぱり読むことは大事ですね。

これから映画でもドラマシリーズでも何でも、より「自殺」というものを正確に認識する必要性がクリエイターには課せられるんですね。でもそれは作品がつまらなくなる足枷ではなく、むしろ作品に深みが増すものであり、誠実な創作を信念にするクリエイターなら歓迎したい指針だと思います。

そんな中、問題の当事者になっていたNetflixも「自殺問題に向き合った作品も作れますよ」と言わんばかりにこんな映画を世に送り出してきました。それが本作『最高に素晴らしいこと』です。事実上の汚名返上作と言ってもいいのではないでしょうか。

原作はジェニファー・ニーヴンという人が2015年に書いたヤングアダルト小説「All the Bright Places」。非常に内向的な作品で、ティーンの葛藤が淡々と、でも切実に生々しく綴られており、その映画化である本作もその作品性を継承しています。

ちゃんと例の「自殺予防の指針」を網羅的に満たすような作りにもなっており、その観点からもとても誠実な作品です。

監督は“ブレット・ヘイリー”という人で、これまでにサム・エリオット主演の『ザ・ヒーロー』(2017年)、『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』(2018年)などを手がけ、批評家のウケもいい監督です。登場人物の心理を真摯に扱った作品が多い印象。

出演陣は、まずメインのひとりが“エル・ファニング”。もう彼女については言わずもがな。こういう葛藤を抱えるティーン役は抜群に上手く、最近も『ティーンスピリット』でふぁんふぁんしてました。今回の『最高に素晴らしいこと』では姉がいるという役柄で、そこもリアルとシンクロしています。


もうひとりのメインキャラを演じるのが、『ジュラシック・ワールド 炎の王国』『名探偵ピカチュウ』と、最近は大作で大活躍していた“ジャスティス・スミス”。今回は恐竜とも黄色いネズミとも戯れません。


他にも『X-MEN』シリーズでストームを演じた“アレクサンドラ・シップ”、すっかり名脇役になっている“キーガン=マイケル・キー”、『ゾンビランド ダブルタップ』の“ルーク・ウィルソン”、ブロードウェイで絶大な評価を受けている“ケリー・オハラ”など。

人生に悩んでいる人が何気なく動画配信サービスで作品を観たとき、ふと勇気がもらえる。明日だけでももう少し生きてみようかなと思える。そんな作品があってもいいですよね。
  
Netflixオリジナル作品として2020年2月28日より配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◯(静かに気持ちと向き合える)
友人△(賑やかな作品ではない)
恋人◯(切ないドラマを見たいなら)
キッズ◯(ティーン向けだけど)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『最高に素晴らしいこと』感想(ネタバレあり)

ショボい人生かもしれないけれど

朝早くヘットフォンをつけて住宅街をランニングする少年。彼の名前はセオドア・フィンチ。なんてことはない普通の風景ですが、彼の目の前に少し違和感のある光景が映ります。

川にかかる高さのある橋のふちで少女が立っているのです。眼下に広がる真下の川を見ながら…。

「何しているの?」と声をかけると、その少女は意表を突かれたようにハッと驚き、大慌て。「バイオレット?」と名前を呼ぶと、「ほっといて」と怒鳴られ、今度はセオドアの方がオロオロ。

ふとセオドアは一緒に並んで橋のふちに立ち、さらには片足で立ってみせます。今度は「やめて」と叫ばれ、素直に従う…そんな一瞬の時間。セオドアはゆっくりバイオレットに手を差し出すのでした。

学校。バイオレット・マーキーはいつものようにロッカーへ。廊下を通るセオドアを見かけ、若干の気まずい空気。一方のセオドアはロバート・エンブリー先生に怒られていました。どうやら問題行動を起こしたために謹慎中らしく、条件は週一のカウンセリング&クラブ活動であるにも関わらず、ちゃんとやっていないようです。しかし、のらりくらりと先生の言葉を交わすセオドア。

バイオレットは食堂でも視線を送ってくるようなセオドアが気になりますが、なるべく無視。友達のアマンダからパーティに誘われるも、あまり気乗りしません。

家に帰ったバイオレットは両親と夕食。しかし、その空気はとても悪く、沈黙のままに引っ込んでしまうバイオレットでした。

セオドアはネットでバイオレットの名を検索します。するといくつか記事が出てきました。彼女の姉は交通事故で最近死亡していることがわかります。

夜の道路を歩き、事故現場に行くセオドア。そこは以前に彼女が立っていたあの橋で…。

次の日の授業。インディアナ州の名所を知るために最低2か所を回ってレポートを書くという課題が出されます(ちなみに私は全然名所が思い浮かばない。インディアナ州って何があるんだっけ?)。モノを落として笑い者になるバイオレットをかばうセオドアは、彼女を課題のパートナーにすべく、アプローチしていきます。最初は明らかに嫌そうにしていたバイオレットでしたが、セオドアのマイペースに押されるかたちで承諾。事故のトラウマがある車以外の移動方法を考えてと言われ、自転車で二人で向かうことにします。

そうやって一緒に時間を過ごし、2か所の課題をクリアした後、セオドアはまだ行きたい場所がある提案。そこはかなり遠い場所で、車での移動が必須。抵抗を示すバイオレットは、両親の後押しもあり、勇気を振り絞って車に乗り込むことに。

彼女の中に少しずつ生きる活力が沸いていきます。

一方、セオドアの中にも語っていない、ある暗闇があるのでした。学校では変人(フリーク)とバカにされて噂がたつ彼の知られざる苦悩。

今度はバイオレットがセオドアの心の扉を開けようとチャレンジし…。

最高に素晴らしいこと

自殺への誤解を解く

『最高に素晴らしいこと』は非常にセンシティブなテーマを扱っており、無神経なストーリーテリングをしてしまえば、それこそあまりにも粗雑で、当事者意識を無視した、誰のためにもならない作品が粗造されてしまいかねません

しかし、本作はそのリスクを製作陣が真剣に意識し、落とし穴に落ちないようにしっかりドライビングテクニックでコースを選び、事故なく目的地に到着している…そんな映画だと感じました。

監督の力量もありますが、脚本を原作者のジェニファー・ニーヴンが担当していること。さらには共同脚本に、『ペンタゴン・ペーパー 最高機密文書』や『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』で素晴らしいライターとして称賛を受けている“リズ・ハンナ”が参加していることも大きいかもしれません。とにかく丁寧です。

話題にも出しましたし、せっかくなので世界保健機関(WHO)の「自殺予防の指針」をベースに、本作を読み解いていきたいと思います。

その指針では、自殺の背景にある複雑な要因と広範な問題を示し、自殺の兆候となり得るものを描くことを推奨しています。

自殺者に対してありがちな迷信で「自殺するのは○○みたいな人だ」というものがあります。例えば、“性格が暗い人だ”とか“精神疾患を抱えている人が自殺しやすいんだ”とか。それは間違いで、基本的に誰でも自殺をする可能性があります。本作でもバイオレットとセオドア、二人とも自ら死を考える行動をとる瀬戸際にいましたが、どちらも明るい感情だって見せますし、特段の異常者ではありません。

終盤のグループ・カウンセリングの場面では、クラスメイトのアマンダというキャラが参加しており、過食症で自殺未遂をした経験があると告白。意外な人も自殺の問題と身近に接していることを示してくれます。

また、「自殺は突発的に起こる」という認識も誤りで、実施はその予兆があるものです。本作ではバイオレットの予兆はそれこそ最初に橋に立っているシーンでわかりますが、セオドアに関してもあの冒頭のランニングからして実は違和感があるという、後から気づける仕掛けがありました。

さらに、なぜ自殺しようと思ったのか、その原因も本作では慎重に扱われています。とくにセオドアは背景が見えてきません。親の問題を抱えていたようですが、それがどれほど彼の今の心に影響を与えているのか。ただ、ひとつ言えるのは単純な過去が直結するものではなく、総合的な今に至る全てが蓄積されて、自殺という選択肢が浮き上がってきてしまうんだということ。それが伝わってくる映画だったと思います。

本作を観て、自殺に至るセオドアの心情がわかりにくいと思う人もいるかもしれませんが、それが事実なのです。わかりやすい自殺なんて幻想です。それを知ってほしくて作られている作品なのですから。

『最高に素晴らしいこと』は自殺に関するこれら誤解を解き、複雑な現実の人物と同様のキャラクターをフィクションの中に落とし込んでいました。

あなたを心配してくれる人は必ずいる

自殺予防の側面からも静かな見ごたえがある『最高に素晴らしいこと』。

WHOの「自殺予防の指針」では、支援の重要性を描くことが明記されていますが、本作でもその支援の力強さは各所で描かれています。

友人、家族、支援サービス…そのいずれもひとつだけでは力不足かもしれませんが、多くの支援が結びついて編み込まれることで大きな網としてセーフティーネットになる。

印象的なのは、それぞれがバイオレットやセオドアを心配するシーンが、何度も挿入されることです。冒頭の橋での場面は、バイオレットにセオドアが心配してあげていますが、そこでふざけたセオドアをバイオレットが逆に心配することで、双方向の思いやりを描く。これぞ本作の肝。

以降も、自分を見せないセオドアを控えめながらも見守る先生や、帰りの遅いバイオレットを叱る両親、水に潜ってなかなか上がってこないセオドアを本気で叱るバイオレットなど、同様の場面が繰り返されます。人間はひとりで生きているのではない、必ず心配してくれている人がいる…そう言い聞かせてくれているように。

そんなマニュアル的にも見えるストーリーですが、しっかり創作的な語り口もあるのが本作の良いところ。

交通事故でのショックを受けたバイオレットの心理的な立ち直りを描く要素として、自転車でのプチ旅、車での長距離旅行、そして最後はミニ・ジェットコースターと、だんだんステップアップしていくあたりはミニマムながら演出が丁寧です。それにしてもジェットコースターに乗る“エル・ファニング”がなんとも楽しそうだこと…。

一方でセオドアは死を選んでしまったわけですが、それも単なる悲劇の主人公で終わらせない着地にしているのも良い部分。そのカギとなる、あの水辺が人生の正と負の両側面を象徴しているようで、また良いロケーションでした。

しっかり自殺の詳細な手段を描写しないというルールにも従いつつ(突然いなくなってしまった恐怖感を表現できており、映画としても見ごたえのある場面でした)、大切な人の自殺によって残された者の喪失感を真正面から描き、救おうとした努力は無駄ではないことも示す。

『最高に素晴らしいこと』は自殺をネタにしない、真面目な創作のお手本になる一作でした。

指針では、こうも書かれています。
自殺について語り合うことは、自殺関連行動を助長するのではなく、その人に自殺以外の選択肢や考え直す時間を与えることができる。その結果、自殺の防止につながる。
自殺の話題はタブーになりがちですし、なかなか口に出しづらいですけど、本作のような映画をきっかけにするのでもいいので、ちょっとでも触れてみるのも良いと思います。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 71% Audience --%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Mazur/Kaplan Company