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アニメ『ぷにるはかわいいスライム』感想(ネタバレ)…フェムフォビアは卒業できる?

3.5
ぷにるはかわいいスライム

フェムフォビアは卒業できる?…アニメシリーズ『ぷにるはかわいいスライム』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Puniru Is a Cute Slime
製作国:日本(2024年)
シーズン1:2024年に各サービスで放送・配信
監督:伊部勇志
イジメ描写 恋愛描写
ぷにるはかわいいスライム

ぷにるはかわいいすらいむ
ぷにるはかわいいスライム

『ぷにるはかわいいスライム』物語 簡単紹介

河合井コタローという現在は中学2年生の少年は7年前にスライムを作るという遊びを何気なく家で試したところ、スライムはなぜか自我を持ち、生命のように動き出した。そして、一緒に過ごすようになったものの、いつの間にかそのスライムは少女の姿になっていた。思春期を迎えたコタローにとってこの少女の見た目のスライムは困りの種となり、日々巻き起こる大騒ぎに振り回される。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ぷにるはかわいいスライム』の感想です。

『ぷにるはかわいいスライム』感想(ネタバレなし)

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ただのスライム遊びで終わらない

はい、今日は「スライム」を作りましょう。

まず市販の洗濯のりを用意し、少量の洗濯のりに同量の水を混ぜます。この際、色をつけたいときは、お好みの色の水性絵具などを加えて着色します。

今度はホウ砂水を用意します。聞きなれないかもしれませんが、普通にドラッグストアやホームセンターに売っており、思いっきり「スライム用」みたいな名目がパッケージに書いてあるものもあります。ほんの少量でいいので多くは必要ありません。

このホウ砂をお湯に混ぜて馴染ませ、先ほどの洗濯のり水と加え、しっかりぐるぐると混ぜ合わせていけば、もうスライムの完成です。簡単ですね。

次に「かわいいスライム」を作りましょう。

まずスライムを作ります。そしてあなたの思いつく「かわいいもの」をイメージします。そのままスライムにあなたの可愛いパワーを送り込みます。するとあら不思議、目の前のスライムが10%増しで可愛くみえてきます。

さらにごく稀にスライムが動いて喋りだすときがあります。モンスターではありません。討伐しないでください。

今回紹介するアニメシリーズはそんなスライムと出会った少年の物語です。

それが本作『ぷにるはかわいいスライム』

本作はウェブコミック配信サイト『週刊コロコロコミック』にて2022年から連載されている“まえだくん”による漫画を原作としたものです。かなり早くからアニメ化に着手していたようで、2024年10月から「TOHO animation STUDIO」の制作でアニメシリーズがスタートしました。アニメ向きな作品ではありますね。

『ぷにるはかわいいスライム』はジャンルとしてはスクリューボール・ロマンティック・コメディで、多感な少年(もしくは若い青年)の前に「常識にとらわれないような独特な不思議さを身にまといながら、鬱屈を抱えた男子の心を解きほぐしていく女の子」…いわゆる「マニック・ピクシー・ドリーム・ガール」が登場する…という定番のパターンです。

マニック・ピクシー・ドリーム・ガールの中でも地球外生命や非人間の少女が登場するタイプは、日本の漫画やアニメではわりとよくあります。例えば、『うる星やつら』『To LOVEる -とらぶる-』のようなラブコメです。こういう作品は異性愛の男女のロマンスの成熟を軸にドタバタ劇がメインで、ちょっとエッチな内容も交えたエンタメになっていることが多いもの。

一方、この『ぷにるはかわいいスライム』はそれらとは毛色が違っていて、そのジャンルのお約束を風刺する立ち位置になっていて、「性的になりそうで全然ならない」という外しギャグがよくみられます。

そのうえ、表面上はコメディですが、ジェンダーを批評する射程を持ち合わせており、結構意外に練られているように思えてくる作品です。「思春期の男子を風刺する」、または「男らしさを風刺する」…そんな視点で観るのも面白いです。

それも主人公の少年の前に現れるのが「自我を持った“少女”風のスライム」であるがゆえなのですけど、このキャラクターの扱い方もベタになりそうなところをあえてそうさせない、ユニークな存在感になっていると思います。

本作はそういう視点で読み解けるものを、表向きはそんなことを感じさせず、毎度のくだらないギャグの中で包んでいるスタイルです。実際、アニメもすんなり観れますし…。

後半の感想ではそのジェンダーの観点から、私なりの本作に思ったことをだらだら書いています。

ちなみに作中ではスライムが盛大に体にまとわりついている描写とかがギャグとして普通に描かれていますが、実際のスライムが目や口に入ったときは必ず洗い流してくださいね。

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『ぷにるはかわいいスライム』を観る前のQ&A

✔『ぷにるはかわいいスライム』の見どころ
★思春期や男らしさをジェンダー視点で風刺する。
✔『ぷにるはかわいいスライム』の欠点
☆単純な異性愛で回収・納得させられる面は否めない。
日本語声優
篠原侑(ぷにる)/ 梅田修一朗(河合井コタロー)/ 清水理沙(雲母麻美)/ 榎木淳弥(南波遊助)/ 花守ゆみり(御金賀アリス) ほか
参照:本編クレジット

鑑賞の案内チェック

基本 ジェンダーロールに関する幼少期の否定的な描写が一部にあります。
キッズ 4.0
子どもにも見せやすいです。
セクシュアライゼーション:わずかにあり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ぷにるはかわいいスライム』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

河合井コタローという男の子は、ある日、家で子ども向け番組をお手本にしながら、スライムを作ってみることにしました。ホウ砂水と洗濯のりを手で混ぜ合わせるとネバネバしてきます。ビーズも加えようと探していると、自分が以前に書いた可愛いペンギンの絵にスライムが飛び散ってしまいます

すると不思議なことにスライムに命が宿り、絵そっくりの小さなペンギンが実体化しました。頭にはピンクのスライムの髪っぽいものが乗っかっています。

「じゃーん、かわいいぼくで~す」

そのスライムは喋りました。「か、かわいい!」とコタローも思わず喜びます。「ぷにる」と名づけると向こうも嬉しがり、コタローとぷにるは仲良く一緒に暮らすことに…。

しかし、平穏は長くは続きませんでした。なんとなぜかぷにるはいつ頃からか人間の少女の姿になってしまったのです。マスコットキャラクターのような見た目だったら良かったものの、同じ人間、それも異性の見た目になってしまったことでコタローは困り果てます。

7年後の現在、ライム中学校の中学2年生となったコタローですが、やはり隣には遠慮なく少女姿のぷにるがいます。今日も朝に起きればいつの間にかぷにるが同じベッドに潜り込んで寝ていて、コタローは赤面しながら大声で文句を言います。

散々な日々に疲れていると、学校で3年生の雲母麻美という先輩が話しかけてくれます。コタローは片想いをしていました。

そのとき、蛇口から伸縮自在のぷにるが出現。進路希望がないコタローに対し、ぷにるは「ぷにるランドを設立し、kawaiiの代名詞になって世界中から可愛いと言われること」という願望を自信満々に語ります。

「もうスライム遊びする小学生じゃない」とコタローは意地を張りますが、ぷにるは自由奔放。ぷにるはコタローに「かわいい」と言ってもらうためにいろいろな姿に変身します。

これはそんな2人が友達じゃなくなるまでのお話…。

この『ぷにるはかわいいスライム』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/03/05に更新されています。
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エフェミフォビアの具現化

ここから『ぷにるはかわいいスライム』のネタバレありの感想本文です。

『ぷにるはかわいいスライム』は、表面上のパっと目につくメインストーリーは、思春期真っ只中の男子である河合井コタローが「ぷにる」という存在にドギマギしていく、純情なラブコメです。

しかし、コタローのキャラクター背景と、ぷにるの存在設定を踏まえてみると、また違った一面も見えてきます。

コタローというキャラは「可愛いもの」が好きなようで、幼稚園の年齢時にクリスマスに女の子用のプレゼント(可愛いぬいぐるみ)を手にしたことで他の子たちに「男の子らしくない」と責められ、それでトラウマを抱えるようになったことが説明されます。

『先輩はおとこのこ』の感想でも紹介しましたが、こういう男性の女らしさを「エフェミナシー(effeminacy)」と呼びます。

男子のコタローは「可愛い人形を好むことは女の子らしさだ」というジェンダー規範の抑圧を受けており、結果、女らしさへの恐怖である「フェムフォビア」を内面化してしまっています。もっと言えば、フェムフォビアの中でも“男性の女らしさ”への恐怖である「エフェミフォビア」ですね。

中学生になったコタローはそんなトラウマのせいか、あまり友達がいないようで、それでも密かに「可愛いものが好き」という想いを封じ込め(ときにこっそり楽しみつつ)、世間では「カッコいい男らしさで振る舞おう」と逆のことをしています(全然上手くいっていませんが…)。

ぷにるはそんなコタローが自分で作り出した存在で、コタローの考える「可愛い」の概念を取り込んで生まれています。

そのぷにるが少女姿でコタローに迫っていく状況は、ある一面においては「コタローが異性にドキドキしている」という恋愛感情と捉えられますが、別の一面では「コタローが自身の内面化した“女らしさ”というアイデンティティに狼狽えている」とも捉えることもできるでしょう。

つまり、ぷにるはエフェミフォビアそのものを具現化(擬人化)したようなキャラクターとも言えます。

ぷにるはコタローに「遠慮なく可愛いと言っていいんですよ」と散々つきまとって要求してきます。

表面的に異性愛カップルの成立ですが、コタローがぷにるを「可愛い」と認めることは、自身のエフェミナシーを自己受容するという物語上のゴールでもあります。

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ぷにるのジェンダー・アイデンティティ

『ぷにるはかわいいスライム』にて、ぷにるはエフェミフォビアそのものを具現化したようなキャラクターだと上記で述べましたけども、その際に「自我を持った“少女”風のスライム」というキャラづけが非常に上手く活きています。

これがコタローとは無関係の出自を持つ人間(もしくは非人間)の少女だったら、コタローに付き構ってくれることがただただご都合的にしかなりませんが、ぷにるはコタローの作ったスライムです。「フランケンシュタインの怪物」と同じように、これは創造主の願望の投影です。「カノジョが欲しい」ではなく「可愛いものへの自己アイデンティティ」が動機にあるのが肝です。

このぷにるは作中で何度も言及されるように「スライムなので性別がない」です。この性別というのは身体的な性別のことだと思いますが、厳密には変幻自在なので性別すらもどうとでもなれます。

そんなぷにるはコタロー含めて大多数の周囲からは「女の子」と認識されています(南波遊助だけが「スライム」と認識している)。それは容姿(体型や服装)が「女らしさ」に該当するからです。一人称は「男らしさ」に紐づきやすい「ぼく」ですが、その程度は世間のジェンダー認識には些細なことのようです。

ではぷにる自身はどうなのかと言えば、とくに性別の意識はないようで、可愛ければ何でもいいようです。性別を理解していないところすらあります。

作中ではぷにるは男子のチャンバラ部には混ざりたがらないというシーンもありましたが、それも一般的な規範で「男子の世界=可愛くない」と認識しているだけなのでしょう。温泉では普通に男の湯に入ろうとし、止められていました。

そのため、ぷにるのジェンダー・アイデンティティは無いと推察できます。あえて言うならフェミニンなAジェンダーとして存在している感じですね。「Aジェンダー(アジェンダー)」というのは、自分にとって性同一性がない、もしくは自分にとってのジェンダーの概念を否定するか、意味がないとする人が用いるラベルです。

このぷにるのジェンダー・ダイバースなキャラクター性からも、本作の「社会において身体的な性別よりもジェンダーにこそ個人のアイデンティティは表現される(逆もしかりで、抑圧されることもある)」というテーマが浮き上がってくるようでした。

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男子の思春期をユーモアで風刺する

『ぷにるはかわいいスライム』で読み解ける「社会において身体的な性別よりもジェンダーにこそ個人のアイデンティティは表現される(逆もしかりで、抑圧されることもある)」というテーマは、いわばジェンダー本質主義からの脱却です。ジェンダー本質主義というのは、人は生まれながらに男か女であり、そのときに決定された性別でその存在全てが説明される…という考え方のことです。要するに「男はどうあろうとも本質的には常に男の性質を持っているのだ」という発想ですね。

本作はコタロー以外でも、男子の思春期をユーモアで風刺する中で、そうしたジェンダー本質主義的な考えをくすぐってひっくり返すシーンもいくつかありました。

例えば、第1話でぷにるが女子生徒スタイルで登場したとき、コタローとわりと話してくれるホネちゃんと剛やんという男子同級生が、ぷにるの比較的豊満な胸に性的な関心を持ち、ぷにるが触らせてくれるという素振りをみせたかと思ったら、スライムなので乳房ごと分離して与える…というギャグの場面。

これも男子は女性そのものじゃなくて「女性っぽいもの」に性的に惹かれているだけにすぎないという、男性視点の異性愛的な性欲への揶揄いになっています。ホネちゃんにいたっては「機械でも男でも可愛ければ女の子」という指向を一部のエピソードで表明しており、より明白です。少し引いた立ち位置でギャグにしているのが特徴なのかな。

『ぷにるはかわいいスライム』の懸念点としては、表面上だけみてしまうと単純な異性愛で回収・納得させられる感じは否めないところでしょうか。あとは、コタローの「可愛いもの」への好みはあくまでキュティちゃんのぬいぐるみといった趣味でしか表現されておらず、そのため、男子オタク的な劣等感の個人問題にすり替わりやすい点ですかね。トラウマの原因が意地悪な女子という設定からして安直な二項対立に陥るのは勘弁したいところです。

この作品性であれば、男子だけでなく、女子の思春期や女らしさの葛藤にもテーマを広げれば、もっと包括的でかつネタも増えて楽しいのになとは思います。母性が暴走する雲母麻美や典型的なお嬢様キャラの御金賀アリスなど既存の女子キャラクターはやや単純すぎるので、女子キャラたちにももうちょっと巧みなジェンダーの掘り下げが欲しいですね。

ともあれスライムのようにまだまだ変化の可能性に満ちている作品だと思いました。

『ぷにるはかわいいスライム』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『わんだふるぷりきゅあ!』

・『SHY』

・『響け!ユーフォニアム』

作品ポスター・画像 (C)まえだくん/小学館/ぷにる製作委員会 ぷにるは可愛いスライム

以上、『ぷにるはかわいいスライム』の感想でした。

Puniru Is a Cute Slime (2024) [Japanese Review]ぷにるはかわいいスライム』考察・評価レビュー
#男子中学生 #エフェミナシー